第三十二話 二度目のレベルアップ
狙い目は、ステータスが低いアクビの方だ。
力を抜いて自然体で歩き、手の届く範囲の三倍程の距離になった所で、アクビにボディチャージする。
そのままアクビは受け止めるが、俺は体当たりの勢いを利用し、体を捻って両腕をハンマーの様に使い、アクビの耳元に目掛けて思いっきり振り切った。
アクビはヨロヨロと二歩下がり、俯けに倒れるが、片割れのボッゴラが俺の隙を見逃さなかった。
横に回り込んだボッゴラが、俺の横腹に右ストレートをお見舞いし、その痛みが全体に広がり、脳まで浸透した。
痛みを振り払うが、ボッゴラが腰に飛びついた反動で地面に倒れてしまい、簡単にマウントポジションを取られてしまった。
「へへっ、ボコボコにしてやるぜ」
「やってみろ! 屑が!」
売り言葉に買い言葉で、ボッゴラに唾を吐きかけ挑発した瞬間、怒涛のラッシュが俺に向け、開始された。
「エリクお兄ちゃんに乱暴しないでぇ――――――!」
アリスの悲痛な叫びが洞窟内に木霊するが、虚しく響くだけだった。
周りの捕らわれた人達も揃って声を上げるが、モヒカンが脅しをかけ、瞬時に静まらせていく。
ボッゴラが調子に乗って俺を幾度なく殴っているが、後ろから忍び寄ったリナの渾身の一撃を貰い、ボッゴラに隙が出来る。
だが、俺の体は重りが巻きついたように、身動きが取れない。
ボッゴラの睨み殺す視線が、リナに向けられ、俺へのマウントポジションを解除し、ボッゴラがリナを殴りつけた時だった!
「おい! 誰がその女を殴っていいと言った! 商品に傷をつけるんじゃねえよ! 他の奴なら構わねえが、その女には手を出すな! お頭がブチ切れるぞ!」
「ス、スイマセン、アニキ……」
モヒカンの罵声に、ボッゴラが委縮していた。
どうやら、こいつ等にとってリナは特別な存在の様だ。
「ボッゴラ! そこのダウンしてるアクビを連れて、とっとと牢屋から出ろ!」
モヒカンの命令で二人が牢屋から退出したのを見計らい、モヒカンが牢屋の鍵を閉めた所で倒れている俺と目が合った。
「お前、その状態で手下の一人を倒すなんてやるな。どうだ? 俺達の仲間にならないか? 仲間になるんだったら歓迎するぜ?」
無精ひげを擦りながら、薄気味悪い顔をして、語り掛けてくるモヒカン。
正直、ボコられた後だから胸糞悪い。
「女性に乱暴を働く様な奴らの仲間になんて、死んでもなりたくないね」
「カアァー。いい、いいなお前。気に入ったぞ! 他の奴同様、明日から調教してやるから覚悟しろ!」
モヒカンが捨て台詞を吐き捨て、アリスを連れながら牢屋から離れて行った。
上半身と頭に激痛が走って、息をするのも辛く、しばらく動けそうも無い。
フゥー、とりあえずEPを使う場面を見られずにすむ。
もし使用して傷を癒す場面を見られたら不振に思うからな。
絶対に俺の事を利用するに決まってる。
取りあえず、リナを助けないと。
ボッゴラに殴られてから、今まで反応が無い。
リナの治療するついでに、強さも確認してみよう。
名前:リィナベル・V・ウィンディー♀
種族:人間
職業:不明
レベル:45
ランク:Fクラス
HP:51/80↓
MP:240/240↓
STR:36↓
VIT:30↓
INT:95↓
MND:90↓
状態異常:気絶
状態異常がある時は表示されるのか。
矢印は、ステータス低下中なんだろうな。
あれ? 職業不明? 今の状態があやふやだから、元の職業が表示されないのかも知れない。
俺のステも確認して見よう。
名前:エリクシール♂
種族:液体人間
職業:不明
レベル:99
ランク:Eクラス
HP:42/265
MP:70200/70200
EP:174/200
STR:48
VIT:47
INT:95
MND:100098
スキルポイント:70
おうふ、無名の王様が不明になってる。
これは、あれか! 状況次第では奴隷にもなるって事か! ヤバイ、マジヤバイ! 多分、今が瀬戸際だ。
このまま助けが来なければ、奴隷に落ち、救援が来てくれれば王様になる。
すげぇ……極端すぎる……神様絶対楽しんでるだろ、コレ。
いや、そんな事より、この場所を知る事が最優先事項だ。
スキルの中に現在位置が分かるスキルがあるはずだ。
頼むぞ! スキル検索。MAP! するとスキル名が脳内にぞろぞろと検出された。
結構あるな……これがそうかな?
バシップスキル『マッパー』必要スキルポイント10
現在位置の特定、通った事のあるMAPの記憶。東西南北が表示されるようになる。
迷子の人の心の友。必須スキル。
あったぜ! 迷うことなく習得!
次に、この場所はどこだ! マッパー様、お願いします。
すると、脳内にマップ画像が表示され、現在位置が判明する。
おお……見える、見えるぞ! ヒベルズ廃坑B2X2Y5。
大きさX1~6、Y1~6。
あ、はい。本当に、どこだろうねココ? だが! 全て予定通りだ。
俺が知りたかった情報も記載されていた。
俺がここへ連れて来られた道筋が、綺麗にMAPに描かれている。
これを辿れば、外に出られるって寸法よ! 手段を増やす事で、逃げれる確率が上がるはずだ。
よし、次に今は傷を治す事にしよう。
リナの方に回復霧を飛ばして、どうやって治療したのか分からない様にしておき、自分自身は細胞を活性化させ、自然治癒力を今可能な極限の状態まで高めて回復に努めた。
観察して見ると、回復霧の方に包まれたリナは緑色の発光を放っているが、俺自身は発光していない。まるで何事も無かったかの様に傷が完治していく。
回復霧が肌に触れた場所から、効能を発生させている間、緑色の発光を発生させているのかも知れない。
俺自身は体内に原液があるから、光が漏れ出さないのかも知れないな。
自分自身に使用しているのが分からないなら、場合によってはドンドン使って行こう。
自分の傷が治った所でEPの消費量を見てみると、たったの三しか減っていなかった。
最初のリナに飛ばした回復霧で二、細胞活性で一。
予想以上に、エコロジー過ぎて泣けてきた。
これなら半分位までなら使用しても、全然大丈夫そうだ。
「う、う~ん。あれ? 痛みが消えてる?」
治療が終わり、数秒したらリナが意識を取り戻し、上半身を起こして頭の痛みが無い事に驚いてる。
そして、もっと驚く場面を見たのか、俺を観察して目を大きくしていた。
「エリク! アナタ、殴られていた箇所の傷跡が見当たらないんだけど!? 魔法も使えないのに、いったい何をしたの!?」
「それはですねって、ちょ、目に毒なのでそれ以上近づかないで下さい」
「今さらでしょ! さっきまで散々見ていたくせに!」
勢いよく近づいて来るリナ。
揺れてる部分があり、本心は眼福なのだが、それは言わないのがお約束。
本当の事を問いただそうとしているリナを、誤魔化せそうにないのでネタ晴らしする事にした。
「にわかに信じられない話だけど……傷や痛みも消えてるし、信じる事にするわ」
「誰にも言わないで下さいよ。死活問題になるので……本当に頼みます」
「エリクの弱みを握った気分ねぇ、少し気分がいいわ。心配しなくても大丈夫、傷を治して貰った事でチャラにするから、他言はしないわ」
俺の感なんだが、リナの事は信用できそうだ。
雰囲気を和ますためにワザと、ああいった言動をしてる気がする。
同じ牢屋に入った仲間だ、隠し事をしても仕方ないな。
全てリナに話そう。
「リナ。俺の考えた作戦があるんだけどさ、何も言わず従って欲しい。もしかしたら、ここから逃げれるかもしれない」
「ふ~ん。面白そうね、あたしに聞かせてくれるかしら?」
「ああ、全部話すよ」
俺はリナに考えている作戦を打ち明けた。
リナは食い入るように聞き、時折、疑問に感じた事を説明してと、催促してくるが「なるほど」と頷き、俺の作戦に理解を示してくれた。
「作戦は分かったわ。今は、何もせず待機してればいいのね?」
「ああ、下手に動くと、どう転ぶか解らない。今日一日は、ジッと耐えよう。途中で変更するかもしれないが、そこは臨機応変に」
作戦をリナに伝え終え、俺は今やれる事を思考する。
EPを使って、鍵穴に水を入れ水を固体化させる事が出来れば、脱出は用意だろう。
問題があるとすれば、盗賊の数、規模の大きさだ。
牢屋の外にある出入口付近には、看守が二人立っている。
その二人は、手錠さえ無くなれば魔法で遠距離から攻撃が可能だ。
リナは俺が睨んだ通り魔法使いで、二人くらいなら大丈夫と言ってくれた。
その間に俺が他の捉えられた人を助けて、戦力を増強する。
けどそれは最終手段であって、まだ決行する時ではない。
今現在の時間は「十月二十四日十六時五七分」をまわった。
酒場にいた時から五時間以上、時間が経過した事になる。
今頃、ナーヤや兵士達が俺の事を探し回っているだろう。
もしかしたら、探索隊が編成されて国の周辺も探している可能性もある。
パラチやナーヤに連絡したいのだが、遠すぎるのか脳内会話をする事が出来ない。
恐らく、連絡できる範囲が狭いと考えられる。
これも、実験して距離を把握しないといけないな。
さて、今ある時間を使ってスキルを習得する事にしよう。
俺は回復魔法のスキル習得した後に、考えていた事がある。
0ポイントで習得できるスキルがまだあると睨んでいたのだ! というか、絶対ありそう。あの神様なら絶対やる!
0ポイントで検索すると、合計六個のスキルが脳内に表示された。
どんだけ意地悪なの、あの神様は! あ、俺が不機嫌になったのでリナが不思議そうに顔を覗き込んで来る。
貴方は関係ないんです。
全て神様が悪いんですよ。
「どうしたの? お姉さんに言ってみなさい」
「リナ。近くにいる事はいいんだけど、胸が当たってますので……ほんの少しだけ、離れてくれませんか?」
クスクスと艶のある笑みでリナが微笑んでいる。
妙に色っぽいな、だが、俺はこの誘惑に負ける訳には行かない。
俺にはナーヤがいるんだぁぁー! 決して負けないぞぉぉー!
「あれぇ~? 普通なら、このまま押し倒されるはずなのに…………そっか、そっか。エリクには彼女がいるね?」
「ぶっ!? ちょ、直球すぎますよ……まあ、当たってますが……」
「ふふふっ、その様子ならまだ付き合い始めたばかりの様ね。もし、脱出できたら恋人枠に無理矢理入り込ませて貰うことにするわ」
「待ってください。そんな事されたら、俺が殺されてしまいます! 超強そうですから、リナもタダでは済みませんよ?」
「おい! うるさいぞ! 捕まってんだから静かにしやがれ!」
看守二人が怒鳴りながら、牢屋に近づいて来る。
牢屋の前に辿り着き、俺達の様子を見て更にイライラしていた。
それもそのはず、リナが俺の後ろから抱き着き、誘惑しようとしているのだから。
看守の一人が、今にもブチ切れそうになっていたが、もう一人の看守が肩を叩き。
「やめとけ。さっき、モヒカンの兄貴が怒鳴って警告しただろ。下手したら親分が切れるぞ? そうなったらお前、良くて半殺しか下手したら死ぬぞ?」
「うっ! そいつは割に合わねぇ……」
「分かったなら、怒りを抑えて持ち場に戻るぞ」
冷静な看守一人が、怒り狂った看守を落ち着かせ、元の持ち場に帰って行った。
看守二人が短気だったら、ボコられたに違いない。
「ハァ~、冷静な奴がいてよかったよ。盗賊にも、いろんな奴がいるんだな」
「そうねぇ……中には、なりたくてなった訳ではない人もいるから、複雑ねぇ。盗賊に身を落とす直前までに、救えればいいのだけれど世の中は残酷だから、うまくいかないわ」
「まるで、救いたかった人が盗賊になってしまった場面を、見て来た感じの喋り方だな」
「色々あるのよ、乙女の秘密だからエリクでも教える事は出来ないわ」
「そうか。訪ねたら失礼そうだから、聞くのは止めておくよ」
色々と邪魔が入ったが、今の内にスキル習得をする事にする。
0ポイントで習得できたのは次の通り
バシップスキル『水圧上昇LV1』水魔法の威力が微上昇。
バシップスキル『回復力上昇LV1』回復魔法の効果が微上昇。
バシップスキル『水耐性』水の耐性を得る。
バシップスキル『水中呼吸』水中の中でも呼吸可能。
バシップスキル『水圧抵抗』水の中でも速度が落ちない。
アクティブスキル『水魔法』水魔法が使用可能。
見事に水関係ばかりだ。
俺は遠慮する気は無いので、タダで貰える物は全て貰っておく。
後は残りのスキルポイントを使用して、今後に有用そうなスキルを吟味して覚える事にしよう。
習得可能のスキルを見ていると、よさげなスキルが沢山あって目移りする。
どれにしようか迷っている所に、突然アナウンスが鳴り響く。
(パラチ様からの経験値のギフトが届きました。これによりエリク様のレベルが102上昇します。エリクがレベル201にレベルアップ!)
ちょ!? パラチ君。君、エミリア姫の為に張り切り過ぎてませんか? S級の討伐に向かわせたけど、どんだけ派手に暴れてるの? 次のカンストまで、すぐだと思うんですが。
アナさんもアナさんで、ひとつずつ報告するのが面倒なのか、端を折って報告したな。
俺もアナさんの立場だったら、同じことをするだろうから、気にしたら負けだ。
タイミング的にもバッチリだったし、狙っていたのかも知れない。
バシップスキル『氷結力上昇LV1』必要スキルポイント1
氷魔法の威力が微上昇。
バシップスキル『詠唱破棄』必要スキルポイント100
詠唱無しで魔法を行使できる。
バシップスキル『生物探知』必要ポイント10
生命の場所を探知できる。範囲はMP依存。
アクティブスキル『氷魔法』必要スキルポイント1
氷魔法が使用可能。
必要なスキルは、これ位かな。
これからも役立ちそうだし、何よりもお金を必要としない所が良い。
他にも欲しいスキルがあったのだが、お金を必要とした為、諦めざるを得なかった。
盗賊共め、覚えてろよ! お金の恨みは恐ろしいぞ。
今頃、酒盛りの準備をしているに違いない。
俺の持ち金、大金貨百四十九枚を手に入れたのだから。
なので、逃げ出すには今夜がチャンスだろう。
救出に来なければ、酔いつぶれた所を逃げる予定だ。
今現在のステの確認もしないといけないな。
名前:エリクシール♂
種族:液体人間
職業:不明
レベル:201
ランク:Eクラス
HP:500/500
MP:70404/70404
EP:188/202
STR:93
VIT:92
INT:158
MND:100161
スキルポイント:50
バシップスキル
『劣化版不老不死』『五感制御』『上限突破』『原液の共鳴』『脳内時計』
『マッパー』『水圧上昇LV1』『回復力上昇LV1』『水耐性』『水中呼吸』
『水圧抵抗』『氷結力上昇LV1』『詠唱破棄』『生物探知』
アクティブスキル
『回復魔法』『水魔法』『氷魔法』
あ! ステータスの増え方は予想通りだけど、ランクがEになってる。
今なら寄生が成功するかもしれないから、ちょっと実験して見るか。
俺はEPを使い霧噴出させて、怒り狂っていた方の看守に寄生し、操れるかを試してみた。
結果は、少し動きを鈍らせる位で、全身支配には程遠かった。
看守が不思議がっていたので、早々に切り上げる事にする。
バレる事は無いと思われるが、警戒されたら都合が悪い。
次に試すのは生物探知だ。
脳内で生物探知をONにすると、脳内マップ上、複数の生物が固まったり、転々と存在していたりと、大まかな位置取りが表示された。
細かく転々と生物が固まったりしている場所があるが、恐らくこれは人では無く、小型の生物だろう。
細かい点と俺自身やリナと比べると小さすぎる。
推測するに蝙蝠あたりか? そうすると人の大きさをした〇マークが五十以上、存在するのが分かった。
牢屋にいる人数は、俺を合わせて二十一人。
その中で戦えそうなのは三人といった所だ。
盗賊がさっき戦った奴らばかりなら、遠距離で魔法を連射すれば行けるかも知れない。
実質、俺一人でどうにかなるかも。
いやいや、油断は禁物だ。
盗賊の頭が、どれ程の力を持っているのか分からないからな。
今は、大人しくして爪を隠しておこう。
手錠は魔法だけ封印しているだけで、EP消費するスキルは使用可能になっています。




