第三十話 酒場プランクアイス
徐々にブクマが増えてる模様。ブクマをしてくれた方々、ありがとうございます。
二十六話のエリク本体に【『回復霧』生命活性化と霧噴出の複合スキル】を追加しました。
今後の話に矛盾点が見つかったので、エリク本体に【『原液の共鳴』近くにいるとステータス上昇】を追加しました。
神様の話から修正して、『回復霧』『原液の共鳴』を入れましたので、ご了承ください。
周りから情報を集めた結果。ビザディンさんは「プランクアイス」と言う名の酒場にいると情報を得る。
入り組んだ地形で迷いそうになるが、無事「プランクアイス」に到着した。
西部劇で頻繁に出てくるウェスタンドアを開け入店して見る。
どうやらビザディンさんは、いないようだ。
お店の方は、結構繁盛している様子。
所狭しと、グループ客用のテーブルが十以上置いてあり、既に満員で空きが無いように見える。
仲間内で話し合っていて賑やかだ。
祝祭なのか、皆、果実酒を浴びる様に飲み干している。
酔っ払い共の視線が、入店して来た俺に注がれるが、すぐに四散した。
俺は今一人なので、酒場のマスターの手前あるカウンター席に腰を下ろす。
「あんちゃん、注文は何にする?」
「この店にあるオススメのワインをお願いします」
「オススメか……あんちゃん、アルコールは強い方か?」
「たぶん強い方かと」
「おし、少し待ってな。この店のとっておきをプレゼントするぜ」
マスターは、後ろにあるワイン棚からワインの入った瓶を取り出し、グラスに三分の二、注いだ。
ここまでは普通だった。
そこから、横に置いてあった樽から赤みの液体を、先が四角形のお玉で救い上げ、その赤い液体を瞬時に凍らせ、ブロックアイスにした。
それを、ワインが入ったグラスに一つ入れる。
徐々に赤い氷が解けて行き、ワインが「ボコボコ」と音立て、煙を噴き出していた。
あ、コレ、飲んだらアカン奴じゃない? いかにもヤバそう。
周りの酔っ払いの中には俺を見て笑っている奴もいる。
えぇっ……これ飲まなきゃ駄目? 駄目だよね~、マスターがどうぞ、どうぞしてるし……ええい、ままよ!
俺は覚悟を決めて、一口毒見した。
フム、結構アルコール度が高いな…………ウッ!? 舌がヒリヒリする。
いや、舌が痛い。
あ、あ、あ、あ、あ、きた! 来た来た来た! 辛い! ちょっとばかりじゃなくて、辛すぎる! これは、げ・き・か・ら・だ!! 本場のインドカレー並みに辛い。決して飲み物じゃないぞ、これ。
「マスタァァ―――! 水をください! 死んでしまう!」
「もう用意してあるぞ。ほら」
「ぐっ、あぁぁ―――!」
コレ、後から来る奴だ、余計に性質が悪い。
急いで水を飲み干すが、舌と喉がまだヒリヒリする。
他の客はゲラゲラ笑っていい気なもんだよ。全く。
俺の目から涙が滲んできたよ……俺、何も悪い事してないのに、何の罰ゲームなのコレ。
「あんちゃん。この店の洗礼を見事に受けきったな。ようこそ、プランクアイスへ。あんちゃんを心から歓迎するぜ!」
どうやら、俺はマスターに認められたらしい。
氷の悪戯か、そのまんまだな。
「マスター。これ注文する人いるんですか? 俺、これ以上飲めないんですが……」
「ああ、物好きな奴は少なからずともいるぜ? まあ大半は、あんちゃんと一緒の反応をするがな。そいつの氷無しワインでいいか?」
「はい。それで結構です」
マスターは「ワハハハハ」と豪快に笑いながら、先程のワインを他のグラスに注いでくれた。
俺はごく普通に、注いでくれたワインを勢い良く飲み干す。
「おう、あんちゃん。いい飲みっぷりだな。ますます気に入った! そんな恰好をしてるし、ただ飲みに来たんじゃないんだろ?」
「ええ、実は人を探してまして」
「ほぉう。で、誰なんだ? 探し人ってのは?」
「ビザディンさんと言うのですが、ここに来たと情報が」
次の言葉を吐こうとした時、マスターが俺の耳元で静かに囁いた。
「あんちゃん。つけられてるぜ? 人数は三人。後ろは振り向かないで、よく聞け」
エッ!? つけられてる? 俺、ここから外出たらヤバイって事!? いつの間に尾行されてたんだ。全然気が付かなかった。
俺が思った以上に、この世界は危険で満ち溢れているのかも知れない。
俺の持ってる、お金が目当てなのか? それとも、やっぱりビザディンさん絡みか? 考え出しても思い当たる節がありすぎて、見当がつかない。
「あんちゃん。いい身なりしてるし、金はそれなりに持っているんだろう?」
「ええ、まあ」
「なら、そうだな。大金貨一枚で、この場にいる客を飲み放題にして、味方につければいい。そうすりゃあ、多勢に無勢だ。客に命令して三人を拘束すればいい」
「客に命令ですか?」
「そうだ。こいつ等のんべぇは、ワインを奢って貰えるなら、何でも言う事を聞くだろうよ。それ位好きなんだよ、ワインがな」
なるほど、アルコール中毒ですか。
それなら効果バッチリだな。
俺は袋から、大金貨一枚取り出し、マスターに手渡した。
マスターは満面の笑みをして、大金貨を受け取り、酒場の外まで聞こえる様な声を張り上げた。
「野郎ども! 良く聞け! ここにいるあんちゃんが、ストーカー三人に後をつけられて、非常に困っている! そこに固まってる三人を捕まえたら、客全員、なんと飲み放題にしてくれるそうだ! 野郎ども! とッ捕まえろ! さすれば今日一日、ワイン飲み放題だ! いけえぇぇぇ!!」
「うっしゃぁぁぁぁ―――――!!」
「ワインが飲めるなら。ウヘヘヘェェ!!」
「哀れな獲物ちゃん。ワインために死んでくれ!」
マスター。ノリノリなとこ悪いけどさ……これは引くわぁ……五十人以上が一斉に椅子から立ち上がって、哀れな子羊に突撃する姿勢を取ってる。
マスターの説明を聞いた客達の目が、完全に獲物を刈る眼になってる。
俺の後をつけた奴らは「えっ? えっ?」見たいな顔して、状況を読み取れていない。
酒場の一番奥の席に座っていたので、無慈悲にも逃げ場は無く、少しずつ包囲網が縮まり、ストーカー三人の抵抗も虚しく、酔っ払い共に捕縛された。
そのまま、俺が座るバーカウンダ―席まで酔っ払いに連行され、俺の目の前に転がる様に投げ捨てられた。
「旦那! 終わりました!」
「ああ……」
「よし! 野郎ども! 今日一日飲み放題にしてやる! 思う存分、気が済むまで飲みまくれ!」
マスターの、飲み放題宣言が出た為、客達の宴が始まり、賑やかな時間が戻っていく。
俺と目の前の三人を覗いて。
「俺達がなにしたってんだ、何もしてないだろ!」
「そうよ、そうよ。ワインを飲んでただけでしょ! 折角の休みだったのにぃ!」
「俺らナーヤさんに頼まれて、エリク様を見守っていただけですよ!」
「ファイィ!?」
これって、もしかしなくてもナーヤの指示に従って、俺の事を陰ながら護衛していたって事だよな。
フフフッ……お客さん使って、袋叩きにしちゃったよ。
気まずい雰囲気だ。
マスターも察して、俺に目を合わせようとしない。
「マスター。これ完全に貴方の勘違いじゃないですか。俺、目の敵にされてるんですけど!」
「いやー、良く見たら、この地区を担当してる兵士だったな。見回り時の服装で無いから分からなかった。わはははは」
確かに眼前の三人は、兵士達が装備している厳つい防具を装備をしてない。
いかにも私服と判断できる姿をしている。
女性の兵士さんが話した通り、休日出勤をしてるんだろう。
それにしても、超適当だな、ここの店主は。
俺の中で、マスターの評価が急速下降してるぞ。
それはもう、坂を下る様に。
三人の両手を縛っている縄を、腰にあるナイフで切り開放した。
所々、傷ついてる兵士の三人を治してあげないと。
けど、ここでEP消費して緑色の発光を出すのは不味い気がする。
もしキルベルトもどきが、この場にいたら洒落にならない。
そうだ! スキルポイントを使って回復魔法を覚えれるか見て見よう。
俺は脳内ウィンドゥにあるスキル検索機能を使い、回復魔法を検索して見る。
あった。回復魔法! 覚えるのに必要なポイントは……0ポイント!? ハァッ? なら最初から覚えさせておいてよ! 神様のケチ!
それとついでに『脳内時計』も習得しよう。
色々とエルキア王国を巡ったけど、時計が存在しないんだよね。
パラチの城にも無かったからもしかしたらと思ったけど、案の定、この世界には時計は無いのかも知れない。
『脳内時計』は3ポイントか。問題ないな。
俺はスキルポイントを3使用しと『脳内時計』と『回復魔法』を習得する。
名前:エリクシール♂
種族:液体人間
職業:無名の王様
レベル:99
ランク:Eクラス
HP:227/265
MP:70200/70200
EP:200/200
STR:48
VIT:47
INT:95
MND:100098
スキルポイント:70
称号
『神子』
オリジナルスキル
『劣化寄生』『生命活性化』『霧噴出』『神の観察眼』『回復霧』
バシップスキル
『劣化版不老不死』『五感制御』『上限突破』『原液の共鳴』
NEW『脳内時計』
アクティブスキル
NEW『回復魔法』
よし、習得完了! 今回は金銭を要求されなかったけど、法則性があるのだろうか? それとも、俺がケチって言ったからタダにしてくれたのか?
アナさん返答を! 聞こえていますか?
(……特定のスキルのみ、お金をいただきます……眠いのでまた次の機会に……)
左様ですか、眠いなら無理に聞かない方が良さそうだ。
気を取り直して、目の前の兵士達を治療する事にした。
弱めの回復魔法を使用しようと思考すると、脳内に自然と言霊が浮かび上がった。
俺は、なぞる様に浮かび上がった文字を読み上げる。
癒しの神ロノよ、この者に癒しの雫を! 初級回復魔法。
一人ずつ、抵抗の際に付いた傷を治していく。
一人五秒ほどで治療が終わり、瞬く間に三人の治療が終わった。
俺を見守ってくれた三人は、それぞれ傷のお礼を述べた後、この惨状を作ったマスターに食ってかかる。
だが、ワインが飲み放題になった事により溜飲が下がった為、素直に引き下がった。
「マスター。先ほども尋ねましたが、ビザディンさんはここに来ましたか?」
「いや、見ちゃいねえな」
「そうですか……では、お会計をお願いします」
「ん? あんちゃんは大金を支払ったんだ、今日だけタダにしておいてやるよ。昼飯も食べるんだったら、それもタダにしてやる」
この反応は金をやりすぎたか。
抜け目ないな、このマスターは。
まあいいさ、昼の時間になったらナーヤと一緒にここで食事をしよう。
今の時間は「十月二十四日十一時二分」か、月が判るとは予想外だ。
後一時間で昼か、それまで情報収集だな。
「じゃあマスター。お昼になったら連れを連れて、また訪ねますので、美味しい料理を期待してますよ」
「連れはコレか? あんちゃんも隅に置けないな。腕によりをかけて作ってやるから楽しみにしてろ!」
マスターに別れを告げ、俺がプランクアイスを立ち去ろうとすると、背後から三人の気配がした。
後ろを振り返って見ると、先程の三人が少し残念そうな顔をしている。
お前達、そんなにワインを飲みたいのか。
しょうがない奴らだな。
「君達。俺が昼を食べに戻ってくるまで、ここで休憩してていいよ」
「えっ!? ですが!」
「ナーヤからの頼みなんだろ? その上司である俺が命令するんだから、何も気にすることは無いぞ?」
「しかしですね……こちらも仕事でして……」
仕事に忠実だなぁ、いい事だ。
だけど、あと一押しで折れそうだな。
ソワソワしていて落ち着きがないし、横目で「チラチラ」ワインを見ているのは分かってるんだよ。
「いいから、いいから。ちゃんとナーヤには説得しておくから大丈夫だ。折角の祝祭なんだ、楽しまないと損だろ? まあ、昼を食べ終わったら護衛して貰うから、それまで羽伸ばしていればいいさ」
「ふぅー、分かりました。エリク様が戻ってくるまで休憩していることにします」
俺からの許しを得て三人共、表情が明るくなる。
「その代わり、ほどほどにな」
「その辺は弁えておりますから、大丈夫です」
三人は喜び勇みながら、元いた奥の席に戻っていく。
一応、クギは刺したけど、大丈夫かな……戻ってきたら、酔いつぶれてました! に、なってない事を祈ろう。
その後、俺はプランクアイスから外に出て聞き込みを再開した。
昼時に一旦、中央広場に戻る事をナーヤと約束しているので、それまでの間、可能な限り情報を得る事にする。
迷路の様に入り組んだ地形の中で聞き込みをしていると、途中で男に呼び止められた。
「あんたビザディンさんを探してるんだろ?」
「ええ、もしかして何か知ってるんですか?」
「ああ、こっちだ。ついて来てくれ」
身なりが痩せている、小柄な男の後を追いかけ、入り組んだ宿場街を移動する。
少しの時間が経ち、曲がり角を曲がると目の前に行き止まりの壁が目に映った。
「おい! これはどういうっ!?」
急に俺の後頭部から激痛が伝わってくる。
体は前のめりに倒れ、目の前が真っ暗になった。




