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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第20章 第4話:未来技術の授業――便利すぎる町


 律は、顔認証ゲートの前で足を止めた。


 駅前広場の新しいゲートは、朝の光を受けて銀色に光っている。


 細い柱の上に小さなカメラがあり、通る人の顔を一瞬で読み取る。登録している住民は、カードを出さなくても公共施設の利用記録や市内交通の割引が自動でつながる仕組みになっていた。


 便利な町。


 市のポスターには、そう書かれている。


『安全で快適な未来都市へ』

『AIとデータで、暮らしをもっとやさしく』

『見守り、防災、交通、健康をひとつにつなぐ』


 駅前には、混雑予測を表示する大きな画面がある。


 バスの到着時間。


 商店街の人出。


 公園の混雑状況。


 熱中症危険度。


 ごみ収集車の現在地。


 高齢者の見守りサービス。


 健康アプリの歩数ランキング。


 律の町では、スマートシティの実証実験が始まっていた。


 最初は、律も面白いと思った。


 バスの遅れがスマートフォンでわかる。


 図書館の混雑状況が見える。


 ごみ箱がいっぱいになると自動で回収の予定が組まれる。


 通学路の見守りカメラは、事故や不審者対策になると言われている。


 祖母は、健康アプリで歩数を記録し、毎日「今日は五千歩」と嬉しそうに話すようになった。


 便利だ。


 たぶん、いいことなのだ。


 けれど、律は顔認証ゲートを通るたび、胸の奥が少しざわついた。


 画面に小さく表示される。


『認証しました』


 その一秒にも満たない表示を見ると、自分が町に確認されたような気がする。


 ここを通った。


 この時間にいた。


 この施設を使った。


 この道を歩いた。


 誰かが全部知っているのではないか。


 そんなことを言うと、友人たちは笑う。


「便利じゃん」


「悪いことしてないならよくない?」


「安全になるなら別に」


 律も、うまく説明できない。


 悪いことをしているわけではない。


 便利なのもわかる。


 危険から守られるなら、その方がいいとも思う。


 でも、何となく嫌だ。


 その「何となく」が、言葉にならなかった。


 ゲートの向こうから、友人の蒼太が手を振った。


「律、早く」


 律は、少し遅れてゲートを通った。


 カメラの前を通る。


 小さな電子音。


『認証しました』


 律は、画面を見ないようにして歩いた。


 その日の総合学習は、市のスマートシティ実証実験について学ぶ授業だった。


 中学校の多目的室には、市の担当者が来ていた。


 榎本さん。


 未来都市推進課の職員で、実証実験の説明担当をしている。


 前方のスクリーンには、町の地図とデータの流れが映されていた。


 見守りカメラ。


 顔認証ゲート。


 交通データ。


 健康アプリ。


 AIごみ収集。


 混雑予測。


 災害時避難支援。


 榎本さんは、明るい声で説明した。


「この町では、データを活用して、より安全で便利な暮らしを目指しています。例えば、混雑を予測することでバスの運行を調整できます。見守りカメラによって、子どもや高齢者の安全にも役立ちます。ごみ収集も、AIが効率的なルートを提案します」


 生徒たちはスクリーンを見ていた。


「すげえ」


「未来っぽい」


「ごみ収集までAIなんだ」


 蒼太は小さく言った。


「全部やってくれるなら楽でいいじゃん」


 律は黙っていた。


 スクリーンの端には、小さな文字で「データは適切に管理されます」と書かれている。


 適切に。


 誰が。


 どこで。


 いつまで。


 律は、そこが気になった。


 榎本さんは説明を続ける。


「この仕組みによって、町はもっと暮らしやすくなります。便利さを実感してもらうことが大切だと思っています」


 その時、教室の後ろに一人の先生が立っているのに、律は気づいた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 白瀬灯理。


 未来技術と市民参加の授業づくりを支援するために来ている先生だった。


 灯理は、スクリーンではなく、律の表情を見ていた。


 質疑応答の時間になった。


 何人かの生徒が手を挙げる。


「顔認証って、どれくらい速いんですか」


「AIごみ収集で、回収の回数は減りますか」


「アプリを使うとポイントはもらえますか」


 榎本さんは、一つひとつ丁寧に答えた。


 律は、手を挙げるか迷った。


 聞きたいことはある。


 でも、うまく言えない。


 便利なのに嫌。


 そんな言い方をしたら、子どもっぽいと思われるかもしれない。


 未来に反対しているみたいに聞こえるかもしれない。


 授業が終わりかけた時、灯理が言った。


「律さん」


 律は驚いた。


「何か、聞きたいことがありそうでした」


 教室の視線が律に集まる。


 律は、机の角を指で押さえた。


「先生」


「はい」


「便利なのに嫌だと思うのは、わがままなんでしょうか」


 教室が静かになった。


 蒼太が少し首を傾げる。


 榎本さんも、答えを探すように律を見た。


 律は続けた。


「バスの時間がわかるのは便利です。見守りカメラも、危ない時に役立つならいいと思います。でも、顔認証ゲートを通る時、自分がどこにいるかずっと記録されているみたいで、何か嫌です」


 言葉が少しずつ出てきた。


「悪いことしてないならいいって言われるけど、そういう問題なのかよくわかりません」


 灯理は、静かに頷いた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、便利さに不安を感じることは、未来を邪魔することなのでしょうか」


 律は、すぐには答えられなかった。


 榎本さんは、スクリーンの前で少し背筋を伸ばした。


 便利さを説明すれば理解してもらえると思っていた。


 不安には、丁寧に説明すればよいと思っていた。


 だが、律の言葉は、説明不足だけの問題ではないように聞こえた。


 便利であることと、不安があることは同時に存在する。


 その不安を、ただ「誤解」として片づけてよいのだろうか。


 灯理は、ホワイトボードに書いた。


『便利さの条件を決める授業』


 教室の空気が変わった。


 榎本さんの説明を聞く時間から、自分たちで条件を考える時間へ。


 灯理は言った。


「今日は、技術を使うか使わないかを単純に決めるのではありません。何が便利なのか、何が不安なのか、どんな条件なら安心して使えるのかを考えます」


 ホワイトボードに項目が並ぶ。


『便利だと思う機能』

『不安に感じる記録』

『誰がデータを見るのか』

『いつまで保存するのか』

『使わない選択はできるのか』

『子どもにもわかる説明はあるか』

『技術に任せたいこと』

『人間が決めたいこと』

『見守りと監視の違い』

『町のルール案』


 生徒たちはグループに分かれた。


 机の上には、町のスマートシティ機能を示したカードが置かれた。


『顔認証ゲート』

『見守りカメラ』

『交通混雑予測』

『健康アプリ』

『AIごみ収集』

『防災避難通知』

『公共施設利用データ』

『高齢者見守りセンサー』

『学習支援アプリ』

『商店街人流データ』


 まず、便利だと思う機能に青い付箋を貼る。


 次に、不安を感じる機能に黄色い付箋を貼る。


 律のグループでは、蒼太がすぐに青い付箋を貼った。


「交通混雑予測は便利」


「うん」


「防災通知も必要」


「高齢者見守りも、うちのばあちゃんには助かるかも」


 律も頷いた。


 防災や見守りは大切だと思う。


 でも、顔認証ゲートには黄色い付箋を貼った。


 公共施設利用データにも黄色。


 見守りカメラにも、青と黄色の両方。


 蒼太が言った。


「律、カメラ嫌いすぎ」


「嫌いっていうか」


「でも、危ない時に役立つならいいじゃん」


「うん。でも、ずっと見られてるのは嫌じゃない?」


「別に。悪いことしてないし」


 律は、またその言葉にひっかかった。


 悪いことしてない。


 それは本当だ。


 でも、自分の行動が全部記録されることと、悪いことをしていないことは、同じ話なのだろうか。


 灯理がグループの横に来た。


「律さん、その違和感をもう少し分けてみましょう」


「分ける?」


「はい。何が見られるのが嫌なのか。誰に見られるのが嫌なのか。いつまで残るのが嫌なのか。自分で選べないことが嫌なのか」


 律は、付箋を見つめた。


 何が嫌なのか。


 顔。


 場所。


 時間。


 誰といたか。


 何回通ったか。


 どの施設を使ったか。


 それを、誰が見るのか。


 市の人。


 システム会社。


 警察。


 学校。


 店。


 知らない人。


 いつまで残るのか。


 一日。


 一か月。


 一年。


 ずっと。


 律は、黄色い付箋に書き始めた。


『どこに行ったかがずっと残るのは嫌』

『誰が見られるのかわからない』

『使わない選択があるのかわからない』

『子どもが本当に同意できるのか』

『見守りと監視の違いがわからない』


 蒼太は、それを読んで少し黙った。


「使わない選択って、いる?」


「いると思う」


「でも、みんなが使わないと便利にならないんじゃない?」


「そうかもしれない。でも、使わない人が困る町になるのも嫌だ」


 蒼太は、顔認証ゲートのカードを見た。


「たしかに、登録してない人だけ手続きが面倒とかになったら嫌かも」


 別の生徒が言った。


「うちのおばあちゃん、アプリ使えないから、ポイントもらえないって怒ってた」


「便利って、使える人には便利だけど、使えない人には不便になることあるよね」


 青い付箋と黄色い付箋が、同じカードに並んでいく。


 便利。


 不安。


 助かる。


 怖い。


 簡単。


 わからない。


 その両方を同じ机の上に置くと、町の技術が少し立体的に見えてきた。


 次に、生徒たちは「誰にとっての便利か」を考えた。


 子ども。


 高齢者。


 障害のある人。


 外国人住民。


 観光客。


 店の人。


 市役所。


 警察。


 システム会社。


 学校。


 律のグループは、見守りカメラについて話し合った。


「子どもが危ない時は役立つ」


「高齢者の迷子にも役立つかも」


「でも、遊んでるところをずっと見られるのは嫌」


「映像って、誰が見るの?」


「保存期間は?」


「録画されてるってわかる表示が必要じゃない?」


「見守りって、何かあった時に助けるためだよね」


「監視は、何かしてないか見る感じ」


 律は、ホワイトボードに書かれた言葉を見た。


『見守りと監視の違い』


 それまで、律の中ではぼんやりした嫌さだった。


 でも、今は少し言葉になってきた。


 助けるために見ること。


 疑うために見ること。


 必要な時だけ見ること。


 いつでも見られること。


 自分に説明があること。


 知らないうちに記録されること。


 その違いを考えずに「安全だから」と言われると、不安になるのだ。


 榎本さんは、各グループの話し合いを聞いていた。


 生徒たちは、技術に反対しているわけではない。


 むしろ、必要な機能をよく見ている。


 防災通知は大切。


 混雑予測は便利。


 高齢者見守りは安心につながる。


 AIごみ収集も環境によい。


 けれど同時に、条件を求めている。


 誰が見るのか。


 保存期間は。


 選択肢は。


 説明は。


 使わない人への配慮は。


 榎本さんは、これまでの住民説明会を思い出した。


 便利さのパネル。


 効果のグラフ。


 実証実験の成果。


 費用対効果。


 そこには、不安をルールに変える場が足りなかった。


 住民に納得してもらうために説明していた。


 だが、本当は一緒に条件を決める必要があったのかもしれない。


 授業の後半、生徒たちは「町のルール案」を作ることになった。


 律のグループは、顔認証ゲートと見守りカメラを選んだ。


 模造紙の上に、大きく書く。


『便利な町のルール案』


 一つ目。


『何のために記録するのか、入口にわかりやすく表示する』


 二つ目。


『データを見る人と保存期間を示す』


 三つ目。


『子ども向けの説明カードを作る』


 四つ目。


『使わない選択肢を残す』


 五つ目。


『見守りカメラの映像は、必要な時だけ確認するルールにする』


 六つ目。


『便利さと不安について、住民が話せる日を作る』


 蒼太が言った。


「これ、細かすぎない?」


 律は首を横に振った。


「細かいところがわからないから不安なんだと思う」


「たしかに」


「あと、便利なら全部入れればいいって思ってたけど、決め方も大事かも」


 蒼太は、自分で言って少し驚いたような顔をした。


「俺、今ちょっと真面目なこと言った」


「うん」


 律は笑った。


 発表の時間になった。


 各グループがルール案を出す。


『健康アプリは、ポイントをもらうために無理な運動をしなくてよい説明をつける』

『高齢者見守りは、本人がわかる言葉で同意できるようにする』

『外国人住民向けに多言語説明を作る』

『AIごみ収集のルート変更で、回収時間が変わる時は事前に知らせる』

『学習支援アプリのデータは、成績だけに使わない』

『防災通知は、スマホを持っていない人にも届く方法を残す』


 榎本さんは、すべてメモした。


 律のグループの番になった。


 蒼太が便利な点を説明し、律が不安とルール案を説明することになった。


 律は、模造紙の前に立った。


 少し緊張する。


 でも、今は「何となく嫌」だけではない。


 言葉がある。


「顔認証ゲートは便利です。カードを出さなくても通れるし、防災の時にも役立つかもしれません」


 律は、一度息を吸った。


「でも、どこに行ったかが記録されるなら、誰が見るのか、いつまで残るのか、使わない選択があるのかを知りたいです。知らないまま便利にされると、不安になります」


 榎本さんが、真剣に聞いている。


「見守りカメラも、安全のためには必要な時があると思います。でも、見守りと監視は違うと思います。助けるために見るのか、いつも見ているのか。その違いを町で話し合いたいです」


 律は、模造紙の最後を指した。


「便利な町に住むなら、便利の決め方も一緒に持ちたい」


 教室が静かになった。


 それから、ぽつぽつと拍手が起きた。


 榎本さんは、立ち上がった。


「皆さんの意見を、市の実証実験会議に持ち帰ります」


 生徒たちは顔を上げる。


「正直に言うと、私はこれまで、便利さや安全性を説明すれば理解してもらえると思っていました。でも今日、便利さには条件が必要なのだと学びました」


 榎本さんは、律の模造紙を見た。


「特に、子どもにもわかる説明、使わない選択肢、保存期間、見守りと監視の違いについては、次の住民説明会で必ず扱います」


 律は、少し驚いた。


 本当に持ち帰るのだろうか。


 授業の意見で終わらないのだろうか。


 榎本さんは続けた。


「よければ、今日のルール案をもとに、子ども向け説明カードを一緒に作ってもらえませんか」


 蒼太が小声で言った。


「律、採用じゃん」


「まだわかんない」


「でも、すげえ」


 律は、模造紙の一番下に書いた一文を見た。


 便利な町に住むなら、便利の決め方も一緒に持ちたい。


 それは、未来技術に反対する言葉ではなかった。


 未来を誰かに任せきりにしないための言葉だった。


 数週間後、町のスマートシティ説明会が開かれた。


 以前とは少し違っていた。


 会場の入口には、子どもたちが作った説明カードが置かれている。


『このカメラは何のため?』

『誰が見るの?』

『どれくらい保存されるの?』

『使わない方法はある?』

『困った時は誰に聞く?』


 難しい言葉には、ふりがながついている。


 図もある。


 子ども向けだけでなく、高齢者にもわかりやすいと好評だった。


 顔認証ゲートの横には、新しい表示が追加された。


『顔認証を利用しない方は、カードで通行できます』

『利用記録の保存期間:実証期間中三か月』

『目的:公共施設利用確認、防災時支援』

『お問い合わせ:未来都市推進課』


 すべての不安が消えたわけではない。


 まだ議論は続いている。


 利用しない選択が本当に不利益にならないか。


 データを委託先がどう扱うのか。


 カメラの位置は適切か。


 健康アプリの情報が保険や学校に使われないか。


 考えることは多い。


 でも、町は「便利です」と一方的に説明するだけではなくなった。


 不安を言葉にする場ができた。


 ルールを見直す会議に、住民と子どもが参加する枠も作られた。


 律は、駅前の顔認証ゲートの前にもう一度立った。


 以前と同じ銀色の柱。


 同じカメラ。


 同じ電子音。


 けれど、横には説明カードがある。


 カードで通る選択も残されている。


 律は、今日はあえてカードを使った。


 読み取り機にカードをかざす。


 電子音。


『確認しました』


 顔認証ではない。


 それでも通れる。


 後ろから蒼太が来た。


「今日はカードなんだ」


「うん」


「俺は顔認証使う」


「うん」


 二人は、それぞれ違う方法でゲートを通った。


 それでよかった。


 同じ町に、複数の選択肢がある。


 それが、律には少し安心だった。


 放課後、律たちは市役所で行われた「未来技術ルール見直し会議」に参加した。


 大人たちの会議に子どもが入るのは、少し緊張した。


 でも、机の上には自分たちの説明カードが置かれている。


 榎本さんが言った。


「今日の議題は、見守りカメラの映像確認ルールです」


 律は、ノートを開いた。


 見守りと監視の違い。


 その言葉は、まだ完全な答えになっていない。


 でも、問いとして会議の真ん中に置かれている。


 律はノートに書いた。


『不安は、止めるためだけじゃない。決め方を考えるためにある。』


 灯理は、その一文を少し離れた席から見ていた。


 夕方、会議が終わる頃、市役所の窓の外には、スマートシティの街灯が一つずつ点いていた。


 人の動きに合わせて明るさが変わる街灯。


 混雑に応じて表示が変わる案内板。


 見守りカメラ。


 顔認証ゲート。


 交通データ。


 町は確かに便利になっている。


 けれど、その便利さの中に、人が考える余白を残せるかどうか。


 それが、この町の未来を決めるのだと思った。


 榎本さんは、会議後に灯理へ言った。


「白瀬先生、ありがとうございました」


「こちらこそ、便利さの条件を考える時間を一緒に見せていただきました」


 榎本さんは、子どもたちのルール案を見た。


「技術の説明ばかりしていました」


「はい」


「どれだけ便利か、どれだけ安全か、どれだけ効率的か。それを示せば納得してもらえると」


 榎本さんは、少し苦笑した。


「でも、信頼は説明だけで生まれるものではないのですね。条件を一緒に決めること。使わない選択を残すこと。不安を聞くこと。それが必要でした」


 灯理は頷いた。


「不安は、未来を止める声ではなく、未来の形を確かめる声でもありますね」


「はい。律さんの言葉を、次の会議資料の最初に置きたいです」


 夜、灯理はスマートシティの駅前広場を歩いた。


 街灯は、人の足音に反応してやわらかく明るくなる。案内板には、バスの到着時間が表示されている。ごみ箱の上には、回収予定を知らせる小さなランプが点いていた。


 便利な町。


 それは、たしかに暮らしを助ける。


 遅れるバスを知らせる。


 災害時に避難を促す。


 高齢者の異変に気づく。


 ごみの回収を効率よくする。


 暑さや混雑を予測する。


 けれど、便利さは自動的に正しさになるわけではない。


 何を記録するのか。


 誰が見るのか。


 いつまで残すのか。


 使わない選択はあるのか。


 子どもは本当に理解しているのか。


 助けるための見守りが、疑うための監視に変わらないか。


 技術に任せることと、人間が決めることの境目はどこか。


 それを問い続けることも、未来を学ぶことだった。


 灯理は、顔認証ゲートの横に置かれた説明カードを手に取った。


 そこには、子どもたちの字で一文が書かれている。


 便利な町に住むなら、便利の決め方も一緒に持ちたい。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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