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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第65章 第1話:二組が水たまりと影をもう一度見る黒板前――端の小さな印を試す日


 五年一組と二組の合同教室には、朝から少し湿った紙の匂いがあった。


 黒板の前には、二つの絵が並んでいる。


 二組の『雨上がりの校庭』。


 一組の『夕立のあと』。


 二組の絵には、水たまりの付箋が残っていた。


『水たまり:端の小さな印・薄い線・別の合図を次に見る』


 一組の絵には、影の付箋が残っている。


『影の端:薄い線を見る』


 そして、一組の雨粒のところには、小さな印がいくつか試されていた。


 点ではない。


 切れ目でもない。


 雨粒の端に、ほんの少しだけ置かれた小さな印。


 それは、前に一組が二組へ返した声から生まれたものだった。


 今日は、第64章で二組が使い方帳へ付箋として置いた声を、実際にもう一度試す日だった。


『点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る』


 その付箋を開き、水たまりと影で確かめる。


 正しいか間違っているかを決めるためではない。


 どこで働くのか。


 どこでは合わないのか。


 付箋として置いたことが助かったのか。


 次にどんな声として返せるのか。


 それを見るための時間だった。


 蒼は、二組の使い方帳を持って黒板の前に立っていた。


 春斗は、端の小さな印を描いた試し札を何枚も持っている。


 真央は記録ノートを開いていた。


 一組からは、美咲と数人の児童が来ている。


 相川先生は、黒板の横でチョークを持っていた。


 白瀬灯理は、窓際に立っている。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 灯理は、使い方帳の付箋と、水たまりの端を静かに見比べていた。


 春斗が、少し弾んだ声で言った。


「じゃあ、まず水たまりに端の小さな印を置いてみよう」


 蒼が頷く。


「うん。でも、今日は決まりにする日じゃない」


「わかってる。試す日」


 春斗は、水たまりの細い端に、小さな印を置いた。


 水たまりの輪郭が少し薄くなっているところ。


 そこに、ほんの小さな印を置く。


 点ほど目立たず、切れ目ほど線を切らない。


 春斗は、少し離れて見た。


「あ」


 声が小さく跳ねる。


「ここは、助かる」


 蒼も隣に立って見た。


 水たまりの細い端では、小さな印が続きを渡していた。


 どこから水たまりが始まるのか、どこへつながるのかが、少しだけ見えやすくなっている。


 絵を邪魔しすぎない。


 でも、何もないよりは、次に描く人が迷いにくい。


 真央が書く。


『水たまりの細い端:端の小さな印が助かった』


 春斗は、今度は水たまりの広い面に印を置いた。


 水たまりの真ん中に近いところ。


 輪郭が大きく広がっている場所。


 同じ小さな印を置いて、少し離れて見る。


 春斗の顔が、さっきと少し変わった。


「ここは……なんか、浮く」


 蒼も見た。


 たしかに、広い面に置かれた小さな印は、少し目立っていた。


 水たまりの自然な広がりの中で、その印だけが小さく硬く立っている。


 続きを渡すというより、汚れのようにも見えた。


 美咲が一組の雨粒の記録を見ながら言った。


「一組の雨粒では、端の小さな印は助かりました。でも、水たまりの広いところとは違う感じがします」


 春斗は、少し肩を落とした。


「端の小さな印、全部では助からないんだ」


 その声には、残念さが混じっていた。


 せっかく返ってきた声。


 せっかく付箋にして置いた手入れ。


 それが、広い面ではうまく働かない。


 けれど、蒼は水たまりの細い端を見た。


「全部ではないけど、ここでは助かった」


 春斗が顔を上げる。


 蒼は続けた。


「だから、付箋で置いてよかった。決まりにしていたら、全部に使っていたかもしれない」


 春斗は、使い方帳の付箋を見た。


『点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る』


 もしこれを本文の決まりとして、


『雨粒や水たまりは端の小さな印』


 と書いていたら、今日、水たまりの広い面にも使っていただろう。


 合わないところまで、同じ形で進めてしまったかもしれない。


 付箋だから、開いて試せた。


 付箋だから、直せる。


 次は、一組の影だった。


 美咲が、一組の『夕立のあと』を黒板の中央へ少し寄せた。


 影は、木の下に広がっている。


 濃いところと薄いところがある。


 端は、はっきりした線ではなく、空気のようにぼんやりしていた。


 春斗が端の小さな印を一つ置いてみる。


 影の端に、小さな印。


 全員で少し離れて見る。


 美咲が首をかしげた。


「影だと、印が少し目立ちます」


 蒼も頷いた。


「影の中に、小さな物が落ちているみたいに見える」


 春斗は、印を外した。


 次に、美咲が薄い鉛筆で、影の端にやわらかい線を引いた。


 ほんの少しだけ。


 端をなぞるのではなく、影が消える手前に薄く置く。


 少し離れて見ると、影の広がりが保たれたまま、次に見る場所がわかる。


 真央が書いた。


『一組の影:端の小さな印より薄い線の方がなじむ』


 春斗は、さっきより静かな声で言った。


「水たまりの細い端は端印。影は薄い線」


 蒼が頷く。


「水たまりの広い面も、薄い線の方がいいかもしれない。まだ見る」


 美咲は、一組の雨粒の記録を見た。


「雨粒では、前と同じように端の小さな印が助かりました。雨粒が多い場所でも、全部に点を置くより目立ちすぎません」


 真央が書く。


『一組の雨粒:端の小さな印が前回と同じように助かった』


 黒板には、少しずつ分かれた記録が増えていった。


 水たまりの細い端。


 水たまりの広い面。


 一組の影。


 一組の雨粒。


 同じ「端の小さな印」でも、場面によって働き方が違う。


 蒼は、しばらく黒板を見ていた。


 そして、白瀬灯理を見た。


「先生、前回『端の小さな印も次に見る』と付箋で置いたので、今日開いて試せました。でも、試してみると、水たまりの細い端では助かり、広い面では少し浮きました。影では薄い線の方が合いました。置いた声は、開いてみて初めて、どこで働くかが見えました」


 灯理は、蒼の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、次の手入れへ移した声をもう一度試すことは、記録に置いた付箋が正しかったかを判定することなのでしょうか」


 付箋が正しかったかを判定することなのか。


 蒼は、使い方帳の付箋を見た。


 正しいか間違っているかだけなら、今日の結果は少し複雑だった。


 水たまりの細い端では助かった。


 広い面では浮いた。


 影では薄い線の方が合った。


 雨粒では助かった。


 では、この付箋は正しかったのか。


 間違っていたのか。


 そのどちらかではない気がした。


 付箋は、今日開くための入口だった。


 全部に合う決まりではない。


 働く場所と、合わない場所を見つけるための小さな印だった。


 蒼は頷いた。


「判定じゃなくて、分けることだと思います」


 相川先生が、新しい紙を黒板に貼った。


『次の手入れへ移した声をもう一度試す』


 真央がペンを持つ。


 灯理は静かに言った。


「では、今日試して見えたことを分けてみましょう」


 まず、移した声。


 蒼が、二組の使い方帳を開いた。


「点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る」


 春斗が続ける。


「水たまりは、端の小さな印・薄い線・別の合図を次に見る」


 美咲が言った。


「今すぐ決まりにしない」


 真央が書く。


『移した声:点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る。水たまりは、端の小さな印・薄い線・別の合図を次に見る。今すぐ決まりにしない』


 次に、試した場面。


 春斗が言った。


「二組の水たまりの細い端」


 蒼が続ける。


「二組の水たまりの広い面」


 美咲が言った。


「一組の影の端」


 真央が続ける。


「一組の雨粒が多い場所」


 書く。


『試した場面:二組の水たまりの細い端。二組の水たまりの広い面。一組の影の端。一組の雨粒が多い場所』


 次に、働いたところ。


 春斗は、水たまりの細い端を指差した。


「二組の水たまりの細い端では、端の小さな印が続きを渡す助けになった」


 美咲が一組の雨粒を指差す。


「一組の雨粒では、端の小さな印が前回と同じように助かった」


 蒼が使い方帳の付箋を見て言った。


「付箋で置いていたので、決まりにせず試せた」


 真央が書く。


『働いたところ:二組の水たまりの細い端では、端の小さな印が続きを渡す助けになった。一組の雨粒では、端の小さな印が前回と同じように助かった。付箋で置いていたので、決まりにせず試せた』


 次に、合わなかったところ。


 春斗が、広い水たまりを見た。


「二組の水たまりの広い面では、端の小さな印が少し浮いた」


 美咲が影を見ながら言った。


「一組の影では、端の小さな印より薄い線の方がなじんだ」


 真央が書く。


『合わなかったところ:二組の水たまりの広い面では、端の小さな印が少し浮いた。一組の影では、端の小さな印より薄い線の方がなじんだ』


 次に、置き場所が助かったところ。


 相川先生が尋ねた。


「今日は、どこに置いていたから助かりましたか」


 蒼が言った。


「使い方帳の本文ではなく付箋だったので、すぐ変えられた」


 春斗が続ける。


「一組と二組で一緒に見られた」


 美咲が頷く。


「一組の記録も、二組の使い方帳も並べて見られました」


 真央が書く。


『置き場所が助かったところ:使い方帳の本文ではなく付箋だったので、すぐ変えられた。一組と二組で一緒に見られた』


 次に、小さく直すところ。


 蒼は、前の付箋を見た。


『点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る』


 その言葉は残したい。


 でも、今日の試しから見えたことを足す必要がある。


 蒼は、新しい付箋を取った。


「『点や切れ目が合わない時は、細い端なら小さな印、広い面や影なら薄い線も見る』に直します」


 春斗が頷いた。


「『端の小さな印』だけじゃなくて、『薄い線も見る』が入るんだね」


 美咲が言った。


「影は薄い線が助かったので、それも返したいです」


 真央が書く。


『小さく直すところ:「点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る」を「点や切れ目が合わない時は、細い端なら小さな印、広い面や影なら薄い線も見る」へ直す』


 次に、まだ見るところ。


 春斗が言った。


「水たまりの広い面」


 美咲が続ける。


「影の濃い場所」


 真央が言った。


「雨粒がもっと多い場面」


 蒼が続ける。


「点・切れ目・端印・薄い線以外の合図」


 書く。


『まだ見るところ:水たまりの広い面。影の濃い場所。雨粒がもっと多い場面。点・切れ目・端印・薄い線以外の合図』


 最後に、次に返す声。


 美咲が言った。


「一組へ、影では薄い線が助かったことを返す」


 春斗が続ける。


「二組へ、水たまりの細い端では端印が助かったが、広い面では浮いたことを残す」


 蒼が言った。


「次に、薄い線が水たまりの広い面で助かるか見る」


 真央が書く。


『次に返す声:一組へ、影では薄い線が助かったことを返す。二組へ、水たまりの細い端では端印が助かったが、広い面では浮いたことを残す。次に、薄い線が水たまりの広い面で助かるか見る』


 相川先生は、新しいカードの形を整えた。


### 次の手入れへ移した声をもう一度試すカード


#### 試す時


* 返ってきた声を次の手入れへ移した

* 付箋や記録に置いた

* 実際の場で開いて試す

* 働いたところがある

* 合わなかったところがある

* 小さく直したい


#### 一緒に見ること


* 移した声

* 試した場面

* 働いたところ

* 合わなかったところ

* 置き場所が助かったところ

* 小さく直すところ

* まだ見るところ

* 次に返す声


#### もう一度試す欄


* 移した声:

* 試した場面:

* 働いたところ:

* 合わなかったところ:

* 置き場所が助かったところ:

* 小さく直すところ:

* まだ見るところ:

* 次に返す声:


 真央は、今日の欄を清書した。


### もう一度試す欄


* 移した声:点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る。水たまりは、端の小さな印・薄い線・別の合図を次に見る。今すぐ決まりにしない


* 試した場面:二組の水たまりの細い端。二組の水たまりの広い面。一組の影の端。一組の雨粒が多い場所


* 働いたところ:二組の水たまりの細い端では、端の小さな印が続きを渡す助けになった。一組の雨粒では、端の小さな印が前回と同じように助かった。付箋で置いていたので、決まりにせず試せた


* 合わなかったところ:二組の水たまりの広い面では、端の小さな印が少し浮いた。一組の影では、端の小さな印より薄い線の方がなじんだ


* 置き場所が助かったところ:使い方帳の本文ではなく付箋だったので、すぐ変えられた。一組と二組で一緒に見られた


* 小さく直すところ:「点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る」を「点や切れ目が合わない時は、細い端なら小さな印、広い面や影なら薄い線も見る」へ直す


* まだ見るところ:水たまりの広い面。影の濃い場所。雨粒がもっと多い場面。点・切れ目・端印・薄い線以外の合図


* 次に返す声:一組へ、影では薄い線が助かったことを返す。二組へ、水たまりの細い端では端印が助かったが、広い面では浮いたことを残す。次に、薄い線が水たまりの広い面で助かるか見る


 カードができると、蒼は二組の使い方帳の付箋を貼り替えた。


 前の付箋は剥がさず、下に重ねて残す。


 その上に、新しい付箋を置く。


『点や切れ目が合わない時は、細い端なら小さな印、広い面や影なら薄い線も見る』


 春斗が少し笑った。


「前より長いけど、前よりわかる」


 蒼が頷く。


「まだ本文じゃない。付箋」


 美咲が、一組の影の記録にも付箋を貼った。


『影の端:薄い線がなじむ。端印は少し目立つ』


 真央が、二組の水たまりの記録に書く。


『細い端:端印が助かった』


『広い面:端印が浮いた。薄い線を次に見る』


 相川先生が黒板を見た。


「働いたところと、合わなかったところが、両方残りましたね」


 春斗が言った。


「合わなかったところも、消さないんだ」


 灯理が静かに答えた。


「合わなかったところは、次に見る場所を教えてくれます」


 春斗は、水たまりの広い面を見た。


 そこには、まだ答えはない。


 でも、前よりも少し見える。


 端の小さな印が合わなかった。


 薄い線を次に見る。


 それは、失敗ではなかった。


 次に開く場所だった。


 放課後、真央は記録ノートを開いた。


『今日の困り:第64章で「端の小さな印も次に見る」と付箋に置いたので、今日は水たまりと影で試した。細い端では助かったが、水たまりの広い面では浮き、影では薄い線の方がなじんだ。付箋が正しかったか間違っていたかでは分けきれなかった』


『移した声:点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る。水たまりは、端の小さな印・薄い線・別の合図を次に見る。今すぐ決まりにしない』


『試した場面:二組の水たまりの細い端。二組の水たまりの広い面。一組の影の端。一組の雨粒が多い場所』


『働いたところ:二組の水たまりの細い端では、端の小さな印が続きを渡す助けになった。一組の雨粒では、端の小さな印が前回と同じように助かった。付箋で置いていたので、決まりにせず試せた』


『合わなかったところ:二組の水たまりの広い面では、端の小さな印が少し浮いた。一組の影では、端の小さな印より薄い線の方がなじんだ』


『置き場所が助かったところ:使い方帳の本文ではなく付箋だったので、すぐ変えられた。一組と二組で一緒に見られた』


『小さく直すところ:「点や切れ目が合わない時は、端の小さな印も次に見る」を「点や切れ目が合わない時は、細い端なら小さな印、広い面や影なら薄い線も見る」へ直す』


『まだ見るところ:水たまりの広い面。影の濃い場所。雨粒がもっと多い場面。点・切れ目・端印・薄い線以外の合図』


『次に返す声:一組へ、影では薄い線が助かったことを返す。二組へ、水たまりの細い端では端印が助かったが、広い面では浮いたことを残す。次に、薄い線が水たまりの広い面で助かるか見る』


 そして、一文を書く。


『次の手入れへ移した声をもう一度試すことは、「端の小さな印も次に見る」と付箋に置いたことが正しかったかを判定することではなく、水たまりの細い端で働いたところ・広い面や影で合わなかったところ・付箋として置いたから直せたところを分け、次に返せる声へ整えることだった』


 真央は、その一文を読み返した。


「次に返せる声へ整える」


 その言葉が、記録ノートの中で静かに残った。


 付箋に置いた声は、置いた時点で終わりではない。


 開いてみると、働くところが見える。


 合わないところも見える。


 置き場所が助かったことも見える。


 小さく直す場所も見える。


 それは、正解だったかどうかを決める時間ではなかった。


 次に返せる声にするための時間だった。


 夕方、白瀬灯理は合同教室を出た。


 黒板には、二組の水たまりと一組の影がまだ並んでいた。


 水たまりの細い端には、小さな印。


 広い面には、まだ何も決めていない空白。


 影の端には、薄い線。


 使い方帳には、新しい付箋が貼られている。


『点や切れ目が合わない時は、細い端なら小さな印、広い面や影なら薄い線も見る』


 その下に、前の付箋が少しだけ見えていた。


『端の小さな印も次に見る』


 前の声は消えていない。


 開いて試され、小さく直されている。


 蒼、春斗、真央、美咲、一組と二組の児童、相川先生が見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 蒼が言った。


「こちらこそ、付箋に移した声を実際に開き、水たまりと影で働いたところと合わなかったところを分ける時間を見せていただきました」


 灯理は静かに答えた。


 蒼は、使い方帳を手に持っていた。


「先生、付箋に置いた時は、まだ試していませんでした」


「はい」


「でも、今日開いたから、細い端では助かることも、広い面や影では違うことも見えました」


 春斗が続ける。


「決まりにしていたら、全部に使っていたかもしれません」


 美咲が言った。


「影では薄い線が助かりました」


 真央が記録ノートを閉じた。


「次に返す声ができました」


 相川先生は穏やかに言った。


「試すことは、記録を責めることではなく、記録を次に開ける形へ直すことですね」


 灯理は、夕方の校庭を見た。


 乾いた砂の端に、薄い影が伸びている。影の先は、線で切られていない。空気の中へ少しずつほどけていた。


 次の手入れへ移した声をもう一度試すことは、記録に置いた付箋が正しかったかを判定することではない。


 付箋は、大切である。


 そこに置いたから、今日開けた。


 決まりにしなかったから、場面ごとに見られた。


 けれど、開いてみるまで、働き方はわからない。


 水たまりの細い端では、端の小さな印が助かった。


 広い面では、少し浮いた。


 影では、薄い線の方がなじんだ。


 雨粒では、端の小さな印が助かった。


 だから、分ける。


 働いたところ。


 合わなかったところ。


 置き場所が助かったところ。


 小さく直すところ。


 まだ見るところ。


 次に返す声。


 そうして、移した声は、正しさを判定されるものではなくなる。


 次に開ける手入れになる。


 灯理は、校門の前で一度振り返った。


 二組の記録ノートには、一文が残っている。


 次の手入れへ移した声をもう一度試すことは、「端の小さな印も次に見る」と付箋に置いたことが正しかったかを判定することではなく、水たまりの細い端で働いたところ・広い面や影で合わなかったところ・付箋として置いたから直せたところを分け、次に返せる声へ整えることだった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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