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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第38章 第1話:司会が休んだ日の授業――カードを知る人がいない


 五年一組の教室には、春斗の声がなかった。


 朝の会が終わっても、黒板の前はいつもより少し静かだった。窓の外では、校庭の端に植えられた木の葉が風に揺れている。廊下を走る低学年の足音が遠くから聞こえ、教室の時計だけが、かち、かち、と規則正しく針を進めていた。


 春斗の席には、欠席の印がついている。


 体調不良だった。


 春斗は、五年一組の学級会で司会をすることが多かった。


 声が大きいからではない。


 話をまとめるのが最初から上手だったからでもない。


 むしろ、最初はよく困っていた。


 五年一組は、意見がよく出る教室だった。誰かが話すと、別の誰かが「それなら」と続ける。関係ある話が次々に広がり、気がつけば最初の議題からずれていることも多かった。


 そのために、五年一組は学級会カードを持ち替えた。


 五年二組から受け取ったカードを、そのまま使うのではなく、自分たちの教室に合わせて作り直した。


『今の議題に戻す』


『まだ広げない』


『同じ意見』


『別の視点』


『一回まとめる』


 さらに、使い続けるうちに増えすぎたカードを、春斗たちは整理した。


 みんなが使うカード。


 司会が持つカード。


 あとで見るカード。


 今はしまうカード。


 置き場所を整えたことで、五年一組の話し合いは少しずつ動きやすくなっていた。


 けれど、その整理をいちばんよく知っているのは、春斗だった。


 そのことに、春斗が休むまで、誰もはっきり気づいていなかった。


 四時間目の学級会の時間。


 相川先生が黒板の前に立った。


「今日の議題は、来週の校内清掃の分担です。春斗さんはお休みなので、今日は代理で司会をお願いしたいと思います」


 教室の空気が、少し動いた。


 誰かが小さく言う。


「春斗いないのか」


「司会どうする?」


「カードはあるよね」


 相川先生は、教室を見渡した。


「陽菜さん、お願いできますか」


 名前を呼ばれた陽菜は、机の上で手を止めた。


 陽菜は、真面目で慎重な子だった。


 発言する時は、よく考えてから手を挙げる。ノートの字は整っていて、係の仕事も丁寧にする。


 ただ、急に前へ立つことは得意ではない。


「私ですか」


「はい。無理に春斗さんと同じようにしなくて大丈夫です。カードを見ながら進めてみましょう」


 陽菜は少し迷った。


 けれど、相川先生の顔を見て、ゆっくり頷いた。


「やってみます」


 黒板の前に立つと、いつもの席から見る教室とは違って見えた。


 机の列。


 みんなの顔。


 黒板横のカード。


 司会席の小さな机。


 そこには、春斗がいつも使っていた司会カードが置かれていた。


『今の議題に戻す』


『一回まとめる』


『順番を待つ』


『ここまでを確認』


 黒板横には、みんなが使うカードが並んでいる。


『話す』


『書く』


『まだ考え中』


『同じ意見』


『別の視点』


 黒板の端には、封筒が貼ってある。


『あとで見る』


 使い方帳も、教卓の横に置かれていた。


 道具はある。


 カードもある。


 前に整えた置き場所も、そのまま残っている。


 陽菜は、少し安心しようとした。


 けれど、議題を書こうとした時、すぐに手が止まった。


「えっと」


 陽菜は、司会カードを見た。


『今の議題に戻す』


 このカードは、司会が勝手に出してよいものなのか。


 それとも、みんなに聞いてから出すものなのか。


 春斗は、いつも自然に出していた。


 話が広がった時、すっとカードを見せて、


「今はこの議題に戻します」


 と言っていた。


 でも、それは春斗だからできていたように見える。


 陽菜が同じことを言ったら、強く止めすぎることにならないだろうか。


 健太が手を挙げた。


「校内清掃って、去年は体育館の倉庫もやったよね」


 別の子がすぐに言う。


「でも今年は外もやるんじゃない?」


「外なら校庭の落ち葉もある」


「校庭は環境委員がやるんじゃない?」


「じゃあ、教室の窓は?」


「窓は危ないから先生じゃない?」


 話が少しずつ広がっていく。


 陽菜は、チョークを持ったまま黒板の前で迷った。


 どこまでが今の議題なのか。


 どこからが広げすぎなのか。


『今の議題に戻す』を出していいのか。


 手元のカードが、急に重く感じた。


「えっと、今は……」


 声が小さくなった。


 相川先生は、口を出さずに見守っている。


 教室の後ろには、五年二組の遥と美咲も来ていた。春斗たちのカード整理の後、一組でどう続いているかを見るために、今日も少しだけ見学することになっていたのだ。


 遥は、陽菜の手元を見ていた。


 美咲は、黒板横と教卓横の使い方帳を交互に見ている。


 陽菜は、思い切って言った。


「すみません。『今の議題に戻す』は、司会が勝手に出していいんですか?」


 教室が少し静かになった。


 健太が首をかしげる。


「春斗は出してるよ」


「でも、春斗くんは使い方をわかってるから」


 陽菜は続けた。


「私は、どのくらい広がったら戻すのか、よくわからないです」


 別の子が黒板の端を指した。


「あとで見る封筒に入れれば?」


 陽菜は封筒を見る。


『あとで見る』


「それも、誰が入れるの?」


「司会?」


「でも、勝手に入れられたら嫌じゃない?」


「春斗は、どうしてたっけ」


 みんなが少し考え込む。


 春斗がいた時には、流れていたことが、春斗がいないだけで止まり始めた。


 陽菜は、使い方帳を開こうとした。


 でも、ページが多い。


 カードを持ち替えた時の記録。


 増えすぎたカードを整理した時の記録。


 使われ方を見た欄。


 置き場所を変えたカード。


 どこを読めば、今日の司会に必要なことがわかるのか、すぐには見つけられなかった。


 陽菜は、小さく息を吐いた。


「先生、カードは残っているのに、春斗くんがいないと、どう動かしていいのかわかりませんでした」


 言葉にすると、少し悔しかった。


 カードがないわけではない。


 使い方帳もある。


 でも、動かし方が見えない。


 春斗がいつもしていた判断が、春斗の中にあったのだ。


 その時、白瀬灯理が教室の後ろから静かに前へ歩いてきた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 灯理は、司会席のカード、黒板横のカード、あとで見る封筒、開かれた使い方帳、そして陽菜の少し不安そうな表情を順に見た。


 陽菜は、灯理を見た。


「先生、カードも使い方帳もあるのに、春斗くんがいないと止まりました」


 灯理は、陽菜の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、学びが続くことは、道具が教室に残っていることだけなのでしょうか」


 道具が教室に残っていること。


 陽菜は、カードを見た。


 残っている。


 たしかに、カードは残っている。


 分類も残っている。


 使い方帳も残っている。


 でも、今日の自分は動かせなかった。


 春斗がいつもどのタイミングでカードを出していたのか。


 封筒をいつ開けていたのか。


 記録をどこに書いていたのか。


 次に見る日をどう決めていたのか。


 その判断は、カードの上には書かれていなかった。


 灯理は、黒板に大きく書いた。


『春斗さんが普段していたこと』


 相川先生がチョークを受け取り、みんなの言葉を書き込む準備をした。


「春斗くんが司会の時、何をしていましたか」


 灯理が尋ねる。


 健太が手を挙げた。


「司会カードを持っていました」


『司会カードを持つ』


 別の子が言う。


「話が広がった時に戻していました」


『話が広がった時に戻す』


 遥が言った。


「迷った時、使い方帳を見ていました」


『迷った時に使い方帳を見る』


 美咲が続ける。


「あとで見る封筒に入れるかどうかを決めていました」


『あとで見る封筒を使う判断』


 真央が、少し小さな声で言った。


「終わった後、一行記録を書いていました」


『一行記録を書く』


 相川先生が続ける。


「次に見る日を書いていましたね」


『次に見る日を書く』


 陽菜は、黒板に並んだ言葉を見た。


 春斗がしていたことは、思ったより多かった。


 司会だけではない。


 カードを選ぶ。


 戻す。


 封筒に入れる。


 記録する。


 次に見る日を残す。


 春斗は、それを全部一人でしていたのだ。


 春斗本人は、そうとは思っていなかったかもしれない。


 でも、周りから見ると、春斗の中にたくさんの判断が集まっていた。


 灯理が言った。


「では、これを一人で全部持つ必要はあるでしょうか」


 陽菜は、黒板を見た。


 司会をするだけでも緊張する。


 そこにカードの判断、封筒、記録、次に見る日まで全部入ると、重い。


「分けられると思います」


 陽菜は、少しずつ言った。


「司会は私がやるとしても、カードを確認する人がいてくれたら助かります」


 健太が手を挙げた。


「じゃあ、俺、カード確認係やる」


 相川先生が書く。


『カード確認係:健太』


 真央が、小さく手を挙げた。


「記録ならできます」


『記録係:真央』


 別の子が言う。


「時間を見る係もいる?」


『時間係』


 美咲が、黒板の端の封筒を見た。


「封筒係もあるといいかも。あとで見る話を入れる人」


 陽菜が、美咲を見る。


「封筒って、勝手に入れていいの?」


 美咲は少し考えてから言った。


「勝手にじゃなくて、司会が『これはあとで見る封筒に入れます』って言って、封筒係が入れるとか」


 遥が続ける。


「その時、『今は戻るけど、消さない』って言うといいかも」


 陽菜は、その言葉に少し安心した。


 話を止めるのではない。


 消すのでもない。


 あとで見る場所へ移す。


 それなら言えそうだった。


 相川先生が黒板に書く。


『封筒係:あとで見る話を入れる』

『言葉:今は戻るけど、消さずに封筒へ入れます』


 灯理は、教卓の横に白い紙を置いた。


「代理の人が最初に見るものを作ってみましょう」


 陽菜が、少し首を傾げる。


「最初に見るもの?」


「はい。使い方帳が厚くなるほど、どこを見ればよいか迷います。代理の人がまず見るページがあると、戻りやすくなります」


 遥が頷いた。


「二組でも、最初に見るページを付箋で出したことあります」


 美咲が、使い方帳をめくった。


「ここに新しいページを作れる」


 ページの上に、大きく書く。


『代理司会メモ』


 陽菜は、みんなと相談しながら、一つずつ書いた。


1. まず今日の議題を読む

2. みんな用カードは黒板横

3. 司会カードは司会席

4. 話が広がったら『今の議題に戻す』

5. 迷ったら『一回まとめる』

6. あとで見る話は封筒へ

7. 終わったら一行記録を書く

8. わからなければカード確認係に聞く


 その下に、陽菜はさらに一文を足した。


『司会は一人で全部決めなくてよい』


 書いた瞬間、少し肩が軽くなった。


 次に、「司会セット」を作ることになった。


 今までも司会カードは司会席に置かれていた。


 でも、必要なものがばらばらだった。


 司会カードは机。


 使い方帳は教卓横。


 封筒は黒板の端。


 記録は別のノート。


 今日の議題は黒板。


 全部が教室にあるのに、代理司会からは見えにくかった。


 相川先生が、小さな透明ケースを持ってきた。


「これを使いますか」


 中に入れるものを決める。


### 司会セット


* 司会カード四枚

* 今日の議題メモ

* 困った時に見るページ

* あとで見る封筒

* 記録用一行メモ

* 次に見る日を書く欄


 ケースのふたには、葵が書いてくれたような太い字で、陽菜がタイトルを書いた。


『司会セット』


 その下に、小さく、


『司会は一人で全部決めなくてよい』


 と書いた。


 役割も決まった。


* 司会:陽菜

* カード確認係:健太

* 記録係:真央

* 時間係:蒼

* 封筒係:梨花


 美咲は、封筒係の見本を少しだけ示した。


 議題から離れた話が出た時、


「今は戻るけど、消さずに封筒へ入れます」


 と言って、カードに短く書き、封筒へ入れる。


 梨花がそれを受け取る。


「入れるだけならできる」


 陽菜は、少し笑った。


「助かる」


 もう一度、学級会を再開することになった。


 議題は、来週の校内清掃の分担。


 陽菜は、司会セットを開いた。


 最初に見るページ。


『代理司会メモ』


 そこに指を置く。


「まず、今日の議題を読みます。来週の校内清掃の分担について話し合います」


 健太がカード確認係として、黒板横に立つ。


 真央は記録用の一行メモを持つ。


 蒼は時計を見る。


 梨花はあとで見る封筒の前にいる。


 陽菜は続けた。


「意見がある人は、みんな用カードを使ってください」


 健太が、『話す』『書く』『まだ考え中』『同じ意見』『別の視点』を指差して確認する。


 最初に、健太自身が『話す』カードを取った。


「体育館の倉庫は、去年大変だったから人数を多めにした方がいいと思います」


 陽菜は黒板に書く。


『体育館倉庫:人数多め』


 別の子が『別の視点』カードを出す。


「でも、体育館ばかり人数を増やすと、教室の窓が少なくなるかもしれません」


 陽菜は書く。


『教室の窓も必要』


 ここまでは進められた。


 次に、誰かが言った。


「そういえば、去年の掃除道具って足りなかったよね」


 別の子が続ける。


「掃除道具を買う話もした方がいいんじゃない?」


 話が広がりそうになる。


 陽菜は、少し迷った。


 手元の司会カードを見る。


『今の議題に戻す』


 出していいのか。


 でも、代理司会メモには書いてある。


 話が広がったら『今の議題に戻す』。


 陽菜はカードを持ち上げた。


「今は、校内清掃の分担の話に戻します」


 声は少し震えた。


 でも、言えた。


「掃除道具の話は大事なので、あとで見る封筒に入れます。梨花さん、お願いします」


 梨花が白いカードに書く。


『掃除道具が足りるか』


 そして、封筒に入れた。


「入れました」


 健太が言った。


「消えたわけじゃないから、いいと思う」


 教室の何人かが頷いた。


 陽菜は、ほっとした。


 次に、意見が重なった時、陽菜は『一回まとめる』を出した。


「ここまでをまとめます。体育館倉庫は人数多め。教室の窓も必要。外の落ち葉は環境委員と確認。掃除道具はあとで見る封筒です」


 真央が、そのまとめを記録に書く。


 蒼が言った。


「あと十分です」


 陽菜は頷いた。


「では、今日は仮の分担まで決めます」


 学級会は、完璧ではなかった。


 陽菜は何度もメモを見た。


 健太に「これはどのカード?」と聞いた。


 封筒へ入れる時も少し迷った。


 けれど、止まりっぱなしにはならなかった。


 春斗がいなくても、学級会は動いた。


 それは、陽菜が春斗と同じようにできたからではない。


 司会セットがあったから。


 カード確認係がいたから。


 記録係がいたから。


 時間係がいたから。


 封筒係がいたから。


 司会が一人で全部決めなくてよいとわかったから。


 最後に、仮の分担が決まった。


・体育館倉庫:六人

・教室の窓:各班二人ずつ

・廊下:三班

・外の落ち葉:環境委員に確認してから決定

・掃除道具の数:あとで見る封筒から次回確認


 陽菜は、息を吐いた。


「終わったら、一行記録を書く」


 代理司会メモを見ながら言う。


 真央が記録メモを差し出した。


 陽菜は、少し考えてから書いた。


『春斗くんがいなくても、司会セットと役割があれば学級会を進められた』


 その下に、もう一文を書く。


『学級会カードを続けることは、カードを残すことだけではなく、春斗くんがしていた判断を小さな役割とメモに分けておくことだった』


 書き終えると、陽菜は少しだけ笑った。


 緊張で手が少し疲れていた。


 でも、胸の中には、できた、という小さな明かりがあった。


 放課後、陽菜、健太、真央、遥、美咲は、使い方帳を囲んでいた。


 相川先生は、黒板横のカードを整えている。


 陽菜は、代理司会メモのページに付箋を貼った。


『まず見る』


 黄色い付箋だった。


 健太が言う。


「春斗が戻ってきたら、これ見せよう」


 真央が頷く。


「春斗くん、全部一人でやってたんだね」


 遥が言った。


「本人は、そこまで思ってなかったかも」


 美咲が続ける。


「でも、休んだ時にわかることってあるよね。誰かがいないと止まるところ」


 陽菜は、司会セットを見た。


「春斗くんがいないと困る、で終わらなくてよかった」


 健太が笑う。


「でも、春斗がいた方が楽」


「それはそう」


 陽菜も笑った。


 春斗がいなくても大丈夫、ということと、春斗がいてくれると助かる、ということは、どちらも本当だった。


 誰かの役割をなくすのではない。


 その人だけに戻さない。


 春斗が戻ってきたら、また春斗が司会をする日もある。


 陽菜がする日もある。


 他の人がする日もある。


 その時、司会セットがあれば、最初の一歩が見える。


 迷ったら戻るページがある。


 わからなければ、カード確認係に聞ける。


 司会は一人で全部決めなくてよい。


 夜、白瀬灯理は学校を出た。


 校庭には、夕方の風が静かに吹いていた。五年一組の教室の窓からは、黒板横のカードと、司会席の透明ケースが見える。ケースのふたには、陽菜の字で『司会セット』と書かれていた。


 陽菜と相川先生、遥、美咲が玄関まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 相川先生が言った。


「こちらこそ、春斗さんがいない日に、学級会カードが一人の記憶からみんなの手元へ移っていく時間を一緒に見せていただきました」


 灯理は静かに答えた。


 陽菜は、少し照れたように司会セットを抱えていた。


「先生、最初はカードがあるからできると思いました」


「はい」


「でも、カードはあるのに、どう動かせばいいかわかりませんでした。春斗くんがいつも何を判断していたのか、私は知らなかったんです」


 遥が頷く。


「道具だけでは、足りないんですね」


 美咲が言う。


「迷った時に戻る場所がいる」


 陽菜は、司会セットのふたを見た。


「あと、役割を分けたら進められました。司会が全部決めなくていいってわかったら、少し楽でした」


 灯理は頷いた。


 学びが続くことは、道具が残っていることだけではない。


 カードがある。


 ノートがある。


 封筒がある。


 それだけでは、場は動かないことがある。


 誰が判断していたのか。


 どのタイミングで戻していたのか。


 迷った時、どのページを見ていたのか。


 あとで見るものをどこへ置いていたのか。


 終わった後、何を記録していたのか。


 その小さな判断が、一人の中に集まりすぎていると、その人がいない日に場は止まる。


 だから、書き出す。


 分ける。


 司会。


 カード確認。


 記録。


 時間。


 封筒。


 最初に見るページ。


 困った時の言葉。


 戻る場所。


 役割を小さく分けることは、中心にいた人を軽くすることでもあり、代わる人を一人にしないことでもある。


 春斗が休んだ日、学級会は一度止まった。


 でも、その止まりかけた時間が、春斗の中にあった判断を教室の中へ出してくれた。


 灯理は、夜の校門を振り返った。


 陽菜の使い方帳には、一文が残っている。


 学級会カードを続けることは、カードを残すことだけではなく、春斗くんがしていた判断を小さな役割とメモに分けておくことだった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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