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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第36章 第1話:隣の教室の授業――同じカードでは動かない


 五年一組の教室は、五年二組より少しだけにぎやかだった。


 廊下から入る前から、声の波が聞こえてくる。


「それ、昨日も言ってたじゃん」


「でも今日のは違うって」


「先生、黒板の横に置くやつ、どれ?」


「待って、まだ始まってないから」


 遥は、カード箱を両手で抱えながら、教室の入口で足を止めた。


 木の箱の中には、五年二組で使っている学級会カードが入っている。


『話す』


『書く』


『まだ考え中』


『質問』


『心配』


 それから、待機カード。


『反対』


『保留』


『もう少し聞く』


『係に戻す』


『余白』


『次に試す』


 カード箱の上には、前に美咲たちと作った使い方帳を載せていた。


『学級会カード箱の使い方と、直した理由』


 その表紙を見ると、遥は少し背筋が伸びる。


 以前の遥なら、この箱を「間違えずに使わなければならないもの」として受け取っていた。


 でも今は、少し違う。


 見ながら使う。


 使いにくければ変えてよい。


 変えた理由を一行残す。


 そう学んだ。


 だから今日は、隣の五年一組へカード箱を紹介する役を引き受けた。


 美咲も一緒だった。


「大丈夫?」


 美咲が小さく聞く。


「うん」


 遥は頷いた。


「説明はできると思う」


 そう言ったものの、胸の奥には少し緊張があった。


 五年二組では、自分たちで使いながら少しずつ直してきた。けれど、隣のクラスに説明するのは初めてだ。


 自分たちの教室でうまくいったことが、隣の教室でもうまくいくのか。


 その不安を、遥はまだはっきり言葉にできていなかった。


 五年一組の担任、相川先生が二人を招き入れた。


「今日は五年二組から、学級会カードの使い方を教えてもらいます」


 教室の声が少しだけ静まった。


 でも、完全には静かにならない。


「カードって、発言するやつ?」


「書くカードもあるんだよな」


「反対カードある?」


「あるなら使いたい」


「まだ始まってないって」


 遥は、美咲と顔を見合わせた。


 五年二組とは、空気が違う。


 二組では、カード箱を置いた時、最初に出てきたのは「声に出せない考えも置きたい」という困りごとだった。


 話す子ばかりが目立つのではなく、書く子、考え中の子、まだ言葉にならない子も参加できるようにしたかった。


 でも、五年一組は、そもそも声が多い。


 話したい子が多い。


 椅子を少し動かす音や、誰かの小さなつぶやきが、学級会が始まる前から重なっている。


 遥は、それでも使い方帳を開いた。


「五年二組では、最初にこの三枚を机に置いています」


 黒板の前の机に、カードを並べる。


『話す』


『書く』


『まだ考え中』


「話したい人は『話す』、書いて出したい人は『書く』、まだ考えている人は『まだ考え中』を使います」


 五年一組の子たちは、興味深そうに前を見ている。


「黒板の横には、『質問』と『心配』を置きます。話し合いの途中で使います」


 遥は、黒板横に二枚を貼った。


「そのほかのカードは、待機カードです。必要になったら戻します」


 使い方帳を掲げる。


「大事なのは、ただ同じように使うことじゃなくて、使いながら見直すことです」


 美咲が、少し安心したように頷いた。


 遥は、きちんと言えた。


 形だけではなく、見直すことも伝えた。


 相川先生が言った。


「では、今日は試しにこのカードを使って学級会をしてみましょう。議題は、休み時間の校庭の使い方です」


 五年一組の司会、春斗が黒板の前に立った。


 春斗は活発な子で、声がよく通る。けれど、少し困った顔をしていた。


「えっと、校庭の使い方について、意見がある人はカードを取ってください」


 言い終わる前に、数人が立った。


「俺、話す」


「私も話す」


「それなら俺も」


「先に言いたい」


 『話す』カードの前に、すぐ列ができた。


 遥は目を瞬いた。


 五年二組では、『話す』カードを取る人は、最初は多くなかった。むしろ、書くカードやまだ考え中カードがあることで、ようやく参加できる人が増えた。


 でも、五年一組では違う。


 『話す』カードが、発言の入口として一気に使われた。


 春斗が慌てる。


「えっと、順番に。まず、健太」


 健太が話し始める。


「サッカーしてる人たちが広く使いすぎだと思います」


 すぐに別の子が言う。


「でも、ドッジボールも広く使ってるじゃん」


「ドッジは人数多いから仕方ない」


「それ言ったらサッカーも人数多い時ある」


「昨日は三年生が入ってきたから狭くなったんだよ」


「三年生の話は今違うんじゃない?」


「でも関係あるでしょ」


 春斗が黒板に書こうとする前に、声が重なっていく。


 『書く』カードは、机の上に残ったままだ。


 『まだ考え中』カードも、誰も取らない。


 『質問』と『心配』カードも、黒板横でじっとしている。


 話す声ばかりが増えていく。


 遥は、胸の中がざわざわした。


 カードを置いた。


 説明もした。


 使いながら見直すことも言った。


 でも、五年一組では、カードが別の働き方をしている。


 『話す』カードは、声のない子を参加させる入口ではなく、話したい人をさらに前に出す入口になっていた。


 春斗は、黒板の前で困っていた。


「ちょっと待って。今、サッカーの話? ドッジボールの話? 三年生の話?」


 誰かが言う。


「全部関係ある」


「でも、全部話すと終わらない」


「じゃあ先に場所の話」


「いや、曜日で分ける話が先」


「それより、遊具の周り危ないって話もしなきゃ」


 春斗は、黒板の前でチョークを持ったまま固まった。


 美咲が、小さく遥にささやいた。


「二組と違うね」


「うん」


 遥は頷いた。


 同じカードなのに、同じように動かない。


 それどころか、話す人が増えすぎて、話が広がりすぎている。


 しばらくして、春斗が手を上げた。


「相川先生、ちょっと止めてもいいですか」


 相川先生が頷く。


「いいですよ」


 春斗は、遥たちの方を見た。


「二組ではうまくいったって聞いたのに、うちは余計に話す人が増えました」


 その言葉に、教室が少し静かになった。


 責める声ではなかった。


 でも、困っていることは確かだった。


 遥は、カード箱を見た。


 自分が持ってきた箱。


 自分が説明したカード。


 五年二組で使ってきたもの。


 それが、この教室ではうまく働いていない。


 遥の喉が少し詰まった。


「先生」


 遥は、教室の後ろにいる白瀬灯理を見た。


 灯理は、今日も黒い上着に使い込まれた革の鞄を持ち、静かに見守っていた。


 五年一組の声の多さ。


 春斗の困った顔。


 美咲の戸惑い。


 遥の手の中の使い方帳。


 それらを、ずっと見ていた。


 遥は言った。


「先生、同じカードを持ってきたのに、隣の教室では同じように働きませんでした」


 言葉にしてみると、胸の中のざわざわが少し形を持った。


「二組では、話す、書く、まだ考え中が入口になりました。でも、一組では『話す』ばかり増えて、話が散らばっています」


 灯理は、遥の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、学びを受け取ることは、渡された形をそのまま並べることなのでしょうか」


 渡された形をそのまま並べること。


 遥は、黒板前の机に並んだ三枚を見た。


『話す』


『書く』


『まだ考え中』


 二組では、この三枚が必要だった。


 声に出せない考えも置けるように。


 話す人だけでなく、書く人や考え中の人も参加できるように。


 でも、五年一組で今起きている困りごとは違う。


 声がないのではない。


 声が多すぎて、重なっている。


 意見が出ないのではない。


 意見が広がりすぎて、戻れなくなっている。


 同じ形を並べるだけでは、この教室の困りごとには合わない。


 灯理は、黒板に大きく書いた。


『五年二組と五年一組の困りごと』


 相川先生がチョークを受け取り、左側に書く。


『五年二組』


 美咲が言った。


「声に出せない考えも置きたい」


 相川先生が書く。


『声に出せない考えも置きたい』


 遥が続ける。


「話す以外の参加も見えるようにしたい」


『話す以外の参加も見えるようにしたい』


 次に、右側。


『五年一組』


 春斗が、少し考えてから言った。


「意見は出るけど、広がりすぎる」


『意見は出るが、広がりすぎる』


 別の子が言う。


「同じ人が何回も話す」


『同じ人が何回も話す』


 また別の子が言った。


「今の話が何だったか、途中でわからなくなる」


『今の議題からずれる』


 春斗が苦笑する。


「司会が追いつかない」


『司会が追いつかない』


 黒板の左右に、違いが並んだ。


 美咲は、それを見て小さく呟いた。


「困りごとが違う」


 遥は頷いた。


「二組のカードは、二組の困りごとからできたんだ」


 灯理は言った。


「では、五年一組で守りたいことは何でしょう」


 春斗が言った。


「意見は出したい。でも、話が散らばらないようにしたい」


 健太が続ける。


「関係ある話でも、今じゃない時がある」


 別の子が言った。


「同じ意見なら、長く話さなくてもわかるようにしたい」


 相川先生が、黒板に書いていく。


『意見は出す』

『話を広げすぎない』

『今の議題へ戻れる』

『同じ意見を短く置ける』

『司会が整理できる』


 遥は、カード箱の中を見た。


 今あるカードで足りるものもある。


『話す』


『書く』


『まだ考え中』


『質問』


『心配』


 でも、この教室には別のカードが必要だ。


 話す入口だけでなく、話を整える入口。


 広げるだけでなく、戻るためのカード。


 司会が一人で頑張りすぎないためのカード。


 相川先生が白いカードを配った。


「では、五年一組用のカードを考えてみましょう」


 春斗が最初に書いた。


『今の議題に戻す』


「これ、欲しいです」


 教室の何人かが頷いた。


「さっき三年生の話になりかけた時、これあったらよかった」


 次に、健太が書く。


『まだ広げない』


「関係あるけど、今は広げないって言いたい時がある」


 別の子が書いた。


『同じ意見』


「同じこと言いたい時、もう一回長く話すんじゃなくて、これを出せばいい」


 真央のように静かに考える子が一組にもいた。


 その子は、少し迷いながら書いた。


『別の視点』


「反対じゃないけど、違う見方を出したい時」


 春斗が、それを見て頷いた。


「いい。反対って言うと強いけど、別の視点なら出しやすい」


 相川先生が書いた。


『一回まとめる』


「これは司会が使うカードにしましょうか」


 春斗が、少しほっとした顔をした。


「ほしいです」


 遥は、二組の使い方帳を開いた。


 そこには、前に作った欄がある。


『最初の形』


『困ったこと』


『直した理由』


『今の形』


『変えてよいこと』


『迷った時の相談先』


『次に見る日』


『余白』


 遥は、その余白を見つめた。


 五年一組には、最初に書くべき欄がある。


 この教室の困りごと。


 自分たちの場で、何に困っているのか。


 それを書かないまま、二組の形を並べてしまった。


 だから、カードが浮いていた。


 遥は、新しい紙に大きく書いた。


『この教室の困りごと』


 春斗が、その下に書く。


『意見は出るが、話が広がりすぎる』


 さらに、


『同じ人が何回も話す』

『司会が整理しきれない』

『今の議題に戻る合図がほしい』


 それから、五年一組用のカードを並べ直した。


### いつも置くカード


『話す』

『書く』

『まだ考え中』


 これは残す。


 五年一組でも、話す以外の入口は必要だから。


 でも、机の中央ではなく、少し端に置く。


 話すカードだけが目立ちすぎないように。


### 五年一組で追加するカード


『今の議題に戻す』

『まだ広げない』

『同じ意見』

『別の視点』

『一回まとめる』


### 司会カード


『順番を待つ』

『ここまでを確認』

『次に試す』


 春斗は、司会カードを見て、少し目を輝かせた。


「これ、司会が持っていていいですか」


 相川先生が頷く。


「もちろん」


 春斗は、『ここまでを確認』カードを手に取った。


「これ、さっきほしかった」


 もう一度、学級会を再開することになった。


 議題は同じ。


 休み時間の校庭の使い方。


 今度は、春斗が最初に言った。


「今日は、話すカードだけじゃなくて、話を戻すカードやまとめるカードも使います。意見を出すだけじゃなくて、今の話がどこにあるかも見ます」


 教室が少しだけ落ち着いた。


 健太が『話す』カードを取る。


「サッカーで使う場所が広すぎると思います」


 春斗が黒板に書く。


『サッカーの場所』


 別の子が『同じ意見』カードを出す。


「同じ。特に水曜日」


 長く話さず、春斗が黒板に足す。


『水曜日』


 また別の子が『別の視点』カードを取った。


「でも、サッカーだけじゃなくて、ドッジボールも広いです」


 春斗が書く。


『ドッジボールも』


 すぐに誰かが三年生の話を出そうとした。


「三年生が――」


 その時、別の子が『まだ広げない』カードを出した。


「三年生の話は関係あるけど、先に五年の使い方を決めたい」


 教室が少し静かになった。


 言われた子も、むっとしなかった。


「じゃあ、あとで」


 春斗が『ここまでを確認』カードを出した。


「今出ているのは、サッカーとドッジボールが場所を広く使っていること。特に水曜日。三年生の話はあとで見る」


 相川先生が、黒板の端に『あとで見る』と書いた。


 遥は、その様子を見ていた。


 同じ学級会カードなのに、今度は別の動き方をしている。


 五年一組では、発言を増やすカードより、話を整えるカードが働いている。


 声を止めるためではない。


 声を散らばらせず、次へ進めるために。


 春斗の顔にも、少し余裕が戻っていた。


 途中で、司会カードの『順番を待つ』も使われた。


 健太が二回目の発言をしようとした時、春斗がカードを見せた。


「健太はさっき話したから、次はまだ話してない人にします」


 健太は口を尖らせたが、カードを見ると頷いた。


「じゃああとで」


 『順番を待つ』は、春斗が直接注意するよりやわらかかった。


 カードがあることで、司会一人の言葉ではなく、場の約束として受け取れた。


 話し合いの終わりには、五年一組の仮の案ができた。


・水曜日は、サッカーとドッジボールの場所を線で分ける

・遊具の近くではボールを強く蹴らない

・三年生の使い方については、次の学級会で扱う

・一週間試して、また見る


 春斗は、黒板の最後に書いた。


『一週間試して、また見る』


 遥は、その文字を見て少し笑った。


 二組の言葉が、一組の形になっている。


 同じではない。


 でも、少し似ている。


 放課後、五年一組の教室で、遥と美咲、春斗は使い方帳を囲んでいた。


 春斗は、新しい欄に今日の記録を書いた。


『この教室の困りごと:意見は出るが、話が広がりすぎる』


『持ち替えたこと:話す入口だけでなく、話を整えるカードを作った』


『追加したカード:今の議題に戻す、まだ広げない、同じ意見、別の視点、一回まとめる』


『次に見る日:一週間後』


 美咲が言った。


「二組では、まだ考え中カードが大事だったけど、一組ではまとめるカードが大事なんだね」


 春斗が頷く。


「うちは、みんな考える前に話すから」


 遥が少し笑った。


「でも、話す人が多いのは悪いことじゃないよね」


「うん。でも、広がりすぎる」


「だから、広がりすぎないためのカード」


 春斗は、カードを見ながら言った。


「二組のカードをそのまま使うんじゃなくて、二組の考え方を借りた感じがする」


 その言葉に、遥は顔を上げた。


 二組の考え方。


 形ではなく、考え方。


 声を置けるようにすること。


 場を見ながら直すこと。


 必要な入口を作ること。


 それを、五年一組では別の形にした。


 遥は、五年二組の使い方帳の余白に追記した。


『隣の教室では、同じカードでも働き方が変わった。受け取る時は、まず自分の教室の困りごとを書く』


 少し考えて、もう一文足した。


『受け取る時は、同じ形を並べる前に、自分たちの場で何に困っているのかを見つけることだった』


 美咲がそれを読んで、静かに頷いた。


「これ、二組にも持って帰ろう」


「うん」


 春斗が言った。


「一組の使い方帳にも写していい?」


「もちろん」


 遥は答えた。


 五年一組の教室には、まだ少しざわめきが残っていた。


 でも、朝のように声が散らばっている感じではなかった。


 黒板には、今日使ったカードの跡が残っている。


『今の議題に戻す』


『まだ広げない』


『同じ意見』


『別の視点』


『一回まとめる』


 どれも、五年二組にはなかったカードだ。


 でも、守りたい意味はつながっている。


 話し合いに参加すること。


 声を置くこと。


 その場に合った形を使うこと。


 夜、白瀬灯理は学校を出た。


 校庭の向こうには、夕闇がゆっくり降りていた。五年一組の窓には、まだ黒板の文字が薄く見える。五年二組の教室では、美咲と遥がカード箱を戻しながら、使い方帳の新しいページを開いていた。


 相川先生と春斗、美咲、遥が玄関まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 相川先生が言った。


「こちらこそ、カード箱が隣の教室で持ち替えられていく時間を一緒に見せていただきました」


 灯理は静かに答えた。


 遥は、使い方帳を抱えていた。


「先生、最初は二組のカードをちゃんと説明できれば、一組でも使えると思っていました」


「はい」


「でも、一組では困りごとが違いました。二組は、声に出せない考えを置きたかった。一組は、声が多すぎて話が広がっていました」


 春斗が頷いた。


「うちは、話すカードだけだと大変でした」


 美咲が言った。


「同じカードでも、教室が違うと働き方が変わるんですね」


 灯理は頷いた。


 学びを受け取ることは、形をそのまま並べることではない。


 もちろん、形は助けになる。


 カードがあることで、言葉にしにくいものが置ける。


 使い方帳があることで、前の人の迷いや直した理由を知ることができる。


 けれど、受け取る場所には、その場所の困りごとがある。


 声が少ない教室。


 声が多すぎる教室。


 考える時間が必要な教室。


 話を戻す合図が必要な教室。


 同じ『話す』カードでも、ある場所では入口になり、別の場所では声を増やしすぎることがある。


 同じ『心配』カードでも、ある場所では優しい反対になり、別の場所では話を止める印に見えることがある。


 だから、受け取る側はまず自分の場を見る。


 ここでは何に困っているのか。


 誰の声が出にくいのか。


 誰の声が重なりすぎているのか。


 何が広がりすぎるのか。


 どこに戻る合図が必要なのか。


 守りたい意味は何か。


 そのうえで、言葉を変える。


 置き場所を変える。


 使う人を変える。


 カードを足す。


 カードを減らす。


 形は変わってよい。


 意味を見失わなければ、学びは別の教室でも生きられる。


 灯理は、夜の校門を振り返った。


 遥の使い方帳には、一文が残っている。


 受け取る時は、同じ形を並べる前に、自分たちの場で何に困っているのかを見つけることだった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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