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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第33章 第4話:商店街の授業――一枚だけの協力札


 商店街の朝は、店先のシャッターが上がる音から始まった。


 がらがら、と鉄の音が細い通りに響く。


 八百屋の前には、まだ水のついた青菜が木箱に並び、花屋の軒先では、薄い桃色の花が風に小さく揺れていた。文具店のガラス戸には、新学期用のノートと鉛筆のポスターが貼られている。少し先の喫茶店からは、コーヒー豆を挽く香ばしい匂いが流れてきた。


 地域学習センターから歩いて七分ほどの商店街。


 静子にとっては、長く暮らしてきた場所だった。


 買い物をする場所。


 立ち話をする場所。


 子どもが雨宿りする場所。


 顔見知りが、「今日は寒いね」と声をかける場所。


 よりみち縁側の成果共有会のあと、この商店街にも何か小さな関わり方を作れないかという話になった。


 掲示板の付箋に、地域の人が書いてくれた。


『静かな席の見守りなら、月一回できます』


 その一枚が、青柳さんの背中を少し押した。


 地域の人たちは、関わりたくないわけではない。


 けれど、大きな役割を頼まれると、忙しさや責任の重さで手を引っ込めてしまう。


 ならば、もっと小さく頼めばいいのではないか。


 そう考えて、青柳さんは商店街向けの協力依頼チラシを作った。


 静子と前田さんは、そのチラシを持って商店街へ来ていた。


 チラシの見出しは、こうだった。


『よりみち縁側 地域協力者募集』


 その下に、説明文が続く。


『地域の子どもたちや参加者が安心して過ごせる場づくりのため、見守り、準備、片づけ、相談対応、広報、物品提供などにご協力いただける方を募集しています。継続的なご参加が難しい方もご相談ください。』


 青柳さんは、丁寧に書いたつもりだった。


 協力の種類も幅広くした。


 継続が難しい人にも配慮した。


 けれど、静子はチラシを手にした時から、少しだけ気になっていた。


『地域協力者募集』


 見守り。


 準備。


 片づけ。


 相談対応。


 広報。


 物品提供。


 言葉は正しい。


 でも、並ぶと少し重い。


 長く地域行事を手伝ってきた前田さんは、チラシを一目見て言った。


「これはね、悪くないけど、手が伸びにくいわ」


 静子は、商店街の入口でチラシを見直した。


「手が伸びにくい?」


「ええ。協力者募集って言われると、何か役員にされそうでしょう」


 前田さんは、はっきり言った。


「見守り、準備、片づけ、相談対応、広報、物品提供。これを読んだ店主さんたちは、全部できないといけないのかしらって思うかもしれないわね」


「全部ではないと書いてあるけれど」


「書いてあっても、最初に見える言葉が大きいのよ」


 静子は、チラシを持つ手に少し力を入れた。


 自分自身も、成果共有会で「月一回、座る人」を選んだ。


 もしあの時、「お茶席運営協力者」として登録してくださいと言われたら、少し構えたかもしれない。


 でも、「お茶席に座る」「月一回」というカードだったから選べた。


 地域の人にも、同じ小ささが必要なのかもしれない。


 最初に入ったのは、八百屋だった。


 店主の田島さんは、朝から野菜を並べていた。白い前掛けに、水の跡がついている。


「おはようございます」


 静子が声をかけると、田島さんは顔を上げた。


「おお、静子さん。前田さんも。今日は何だい」


 静子はチラシを差し出した。


「地域学習センターのよりみち縁側で、商店街の方にも少しご協力いただけないかと思って」


 田島さんはチラシを受け取り、目を細めて読んだ。


「地域協力者募集……見守り、準備、片づけ、相談対応……」


 読む声が、途中から少し小さくなる。


「いやあ、気持ちはあるけどね。店があるから、見守りとか相談対応とかは無理だなあ」


「毎回ではなくても大丈夫なんです」


 静子が言うと、田島さんは首を振った。


「でも、協力者ってなると、名前が載るんだろう? 何かあった時に責任があると困るしな。道を聞かれたら教えるくらいならできるけど」


 道を聞かれたら教えるくらい。


 静子は、その言葉を心に留めた。


 次に、花屋へ行った。


 花屋の店主、香苗さんは、花束を作りながらチラシを読んだ。


「よりみち縁側、掲示板で見ました。いい活動ですよね」


「ありがとうございます」


「ただ、うちは一人で店を見ている日が多いので、センターまで行くのは難しいです」


「チラシを貼っていただくだけでも」


「それならできます。でも、協力者として登録するほどのことではないかも」


 チラシを一枚貼るならできる。


 でも、協力者という言葉は少し大きい。


 次は文具店だった。


 店主の堀さんは、眼鏡を直しながらチラシを読んだ。


「子どもたちの学習サポートなら、鉛筆や消しゴムを少し分けることはできます。でも、継続的な物品提供となると、毎月どれくらい必要なのかが気になりますね」


 静子は頷いた。


「少し、でいいんです」


「少しなら。でも、こう書かれると、たくさん必要なのかなと思ってしまう」


 喫茶店では、店主の由紀さんが、コーヒーを淹れながら話を聞いてくれた。


「静かに休める椅子を一つ、店の外に置くくらいならできる日があります」


「それはありがたいです」


「でも、毎日ではないです。雨の日は出せないし、混んでいる日は無理。だから協力者募集と書かれると、ちょっと申し訳なくなる」


 どの店も、協力したくないわけではなかった。


 でも、チラシの言葉が大きすぎる。


 それぞれの店にある「できること」は、小さく、具体的で、日によって変わる。


 道を聞かれたら教える。


 チラシを一枚貼る。


 鉛筆を少し分ける。


 椅子を一つ置く。


 水を一杯出す。


 今日はできない。


 次ならできる。


 しばらく休む。


 それくらいなら、手が伸びる。


 でも、「地域協力者募集」という見出しの前では、その小さな手が引っ込んでしまう。


 商店街のベンチに戻り、静子はチラシを膝に置いた。


 前田さんは、持ってきた知恵カードの箱を開けていた。


「ほらね」


「ええ」


 静子は小さく息を吐いた。


「手伝いたい気持ちは、あるのね」


「あるわよ。商店街の人たちは、子どもたちが通るのをいつも見ているもの」


「でも、お願いの形が大きい」


「そういうこと」


 その時、白瀬灯理が商店街の入り口から歩いてきた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 今日は、青柳さんに頼まれ、商店街での協力依頼の様子を見に来ていた。


 青柳さんも、少し遅れてやって来た。


 手には、同じチラシの束がある。


「すみません、遅くなりました」


 青柳さんは、静子と前田さんの表情を見て、少し不安そうにした。


「どうでしたか」


 静子は、チラシを見つめながら言った。


「青柳さん、皆さん、協力したくないわけではないみたいです」


「そうですか」


「でも、このお願いだと、少し重いようです」


 青柳さんの表情が曇った。


「重い」


 前田さんが、知恵カードに大きく書いた。


『お願いが大きいと、小さな手が引っ込む』


 青柳さんは、そのカードを読んだ。


 静子は、灯理を見た。


「先生」


「はい」


「手伝いたい人はいるのに、お願いの形が大きすぎて手を引っ込めてしまうんです」


 商店街の店先を見ながら、静子は続けた。


「道を聞かれたら案内できる人、チラシを一枚貼れる人、水を一杯なら出せる人、椅子を一つなら置ける人。そういう人はいます。でも、『協力者』とか『見守り』とか『相談対応』とか言われると、自分には無理だと思ってしまう」


 青柳さんは、静かに聞いていた。


 静子は、チラシを折り目に沿ってたたんだ。


「地域に協力を広げるって、どう頼めばいいのでしょうか」


 灯理は、静子の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、地域に協力を広げることは、大きな役割をまとめてお願いすることなのでしょうか」


 大きな役割をまとめてお願いする。


 青柳さんは、自分のチラシを見た。


 見守り。


 準備。


 片づけ。


 相談対応。


 広報。


 物品提供。


 幅広く書いたつもりだった。


 でも、受け取る人には、大きな束に見えていた。


 協力者募集。


 その言葉は、責任のある名札のように見える。


 地域の人が本当に出せるのは、もっと小さな一枚なのかもしれない。


 灯理は、ベンチの上に白い紙を置いた。


『商店街でできる小さなこと』


 青柳さんがペンを持つ。


 静子は、さっき聞いた言葉を思い出しながら言った。


「道を聞かれたら案内できます」


 青柳さんが書く。


『道を聞かれたら案内できる』


 前田さんが言う。


「チラシを一枚貼れます」


『チラシを一枚貼れる』


「鉛筆を少し分けられます」


『鉛筆を少し分けられる』


「水を一杯出せます」


『水を一杯出せる』


「静かに休める椅子を一つ置けます」


『椅子を一つ置ける』


 青柳さんは、そこまで書いて顔を上げた。


「こうして書くと、協力という言葉よりずっと小さいですね」


「小さいから、できるのよ」


 前田さんが言った。


 灯理は頷いた。


「小さいことは、価値が小さいという意味ではありません。入口が小さいということです」


 静子は、その言葉をゆっくり噛みしめた。


 入口が小さい。


 だから入れる。


 お茶席に座る人。


 月一回。


 それと同じだった。


 青柳さんは、チラシの裏に新しい案を書き始めた。


『一枚だけの協力札』


 前田さんが、すぐに頷いた。


「それよ」


「一枚だけ」


「ええ。一枚だけなら選べるわ」


 静子も微笑んだ。


「商店街の方には、札の方がいいかもしれませんね。店先に置けるから」


 札の種類を考える。


『チラシを一枚貼れます』


『道を聞かれたら案内できます』


『水を一杯出せます』


『静かに休める椅子を一つ置けます』


『月一回だけ見守れます』


『文具を少し分けられます』


『今日はできません』


『次ならできます』


『しばらく休みます』


 青柳さんは、最後の三つを見て少し驚いた。


「できません、も札に入れるんですか」


 前田さんが即答した。


「入れるのよ」


「でも、協力札なのに」


「できない日を言えるから、できる日も言いやすいの」


 静子も頷いた。


「喫茶店の由紀さんも、雨の日や混んでいる日は無理だと言っていました。その日の状態を出せる方が続きます」


 灯理が言った。


「協力は、できることだけを並べると、できない日が見えなくなります。できない札もあることで、無理のない協力になりますね」


 青柳さんは、大きく頷いた。


 支援者封筒で学んだことと同じだった。


 感謝だけではなく、負担と次の選択肢。


 商店街にも、できるだけでなく、できない、次なら、休む、が必要だった。


 ベンチの上で、協力札の試作品を作ることになった。


 葵はいなかったが、青柳さんは彼女に見せるための下書きを丁寧に作った。


 札は、名刺より少し大きい。


 店先に置いても邪魔にならない。


 文字は短く、大きく。


 アイコンをつける。


 チラシ。


 道案内の矢印。


 水のコップ。


 椅子。


 鉛筆。


 休みの月。


 静子は、喫茶店で借りたペンを使って、椅子の札に小さな湯気のような線を描いた。


「休める椅子、という感じにしたくて」


 前田さんが覗き込む。


「それ、椅子が熱そうじゃない?」


「そうかしら」


「まあ、いいわ。後で莉子ちゃんに描いてもらいましょう」


 静子は笑った。


 青柳さんは、商店街ノートを開いた。


 新しい依頼文を書く。


『よりみち縁側 一枚だけの協力札』


『毎回でなくてかまいません。』

『大きな役割でなくてかまいません。』

『お店で無理なくできることを、一枚だけ選んでください。』

『できない日には「今日はできません」の札を出せます。』

『休むことも、協力を続けるための大切な選択です。』


 チラシではなく、札の見本を持って、もう一度商店街を回ることにした。


 最初は八百屋。


 田島さんは、さっきと同じように野菜を並べていた。


「また来たのかい」


 笑いながら言う。


 静子は、今度はチラシではなく札を見せた。


「田島さん、こちらならどうでしょう」


 札には、こう書かれている。


『道を聞かれたら案内できます』


 田島さんは、それを見て目を細めた。


「これならできるな」


 青柳さんが聞く。


「お店に置いてもよいですか」


「ああ。センターの場所を聞かれることもあるしな。道案内くらいなら、いつでもとは言わないけど、だいたいできる」


 静子は、もう一枚見せた。


『今日はできません』


 田島さんは、声を出して笑った。


「それもあるのか」


「忙しい時に出せます」


「いいね。朝の仕入れの時は、こっちだな」


 田島さんは、二枚を受け取った。


 次は花屋。


 香苗さんは、『チラシを一枚貼れます』の札を選んだ。


「これなら、店の入口に置けます。季節の花の横に貼ってもいいかしら」


「もちろんです」


「あと、忙しい時はできません札もください」


「はい」


 文具店では、堀さんが『文具を少し分けられます』の札を選んだ。


「少し、というのがいいですね」


 堀さんは言った。


「鉛筆を十本とか、消しゴムを数個とか、その時にできる範囲で」


「ありがとうございます」


「毎月何個、ではないんですよね」


「はい。無理のない範囲です」


「それなら、やってみましょう」


 喫茶店では、由紀さんが『静かに休める椅子を一つ置けます』の札を手に取った。


「これ、好きです」


 静子が微笑む。


「お店の外に置ける日だけで大丈夫です」


「雨の日は出せません。混んでいる日も難しいです」


 青柳さんが、『今日はできません』と『次ならできます』の札を出した。


 由紀さんは笑った。


「それ、両方ください」


 前田さんは、満足そうに頷いた。


「ほらね。断る札があると、引き受けやすいのよ」


 商店街を回るうちに、札は少しずつ減っていった。


 肉屋は『チラシを一枚貼れます』。


 クリーニング店は『道を聞かれたら案内できます』。


 古本屋は『静かに休める椅子を一つ置けます』。


 パン屋は『水を一杯出せます』ではなく、「お水は難しいけど、閉店前のパンの残りを相談したい」と言った。


 青柳さんは、すぐに新しい余白札を作った。


『相談してから決めたい』


 パン屋の店主は、それを見て笑った。


「これが一番いいね」


 店ごとに、できることは違った。


 でも、一枚だけなら選べる。


 全部を引き受けるのではなく、一つだけ。


 できない日も、休む日も、次ならできる日も、札で出せる。


 夕方、商店街の小さな休憩スペースに、選ばれた札の一覧が並んだ。


 田島八百屋。


『道を聞かれたら案内できます』


 花屋 香苗。


『チラシを一枚貼れます』


 堀文具店。


『文具を少し分けられます』


 喫茶ゆき。


『静かに休める椅子を一つ置けます』

『今日はできません』

『次ならできます』


 古本屋。


『静かに休める椅子を一つ置けます』


 パン屋。


『相談してから決めたい』


 前田さんは、一覧を見て言った。


「立派な協力者名簿より、ずっと生きているわね」


 青柳さんは頷いた。


「はい。最初のチラシでは、協力してくれる人を集めようとしていました。でも、今は、それぞれの店にある小さな入口を見つけている感じがします」


 静子は、札を一枚手に取った。


『月一回だけ見守れます』


 これは、まだ誰も選んでいない。


 でも、それでいい。


 今日、全員が見守りを選ばなくてもよい。


 必要になった時、できる人がいるかもしれない。


 今は、道案内、チラシ、鉛筆、椅子。


 そこから始めればいい。


 灯理は言った。


「小さな札は、協力を軽くするためではなく、具体的にするためのものですね」


「具体的にする」


 青柳さんが繰り返す。


「はい。大きな言葉のままだと、自分にできるかどうかが見えにくい。小さな札になると、自分の店、自分の時間、自分の手の届く範囲で選べます」


 静子は、商店街の通りを見た。


 夕方になり、買い物客が少し増えている。


 ランドセルを背負った子どもが、八百屋の前を走っていく。


 田島さんが「走るなよ」と声をかける。


 花屋の前には、よりみち縁側の小さなチラシが一枚貼られていた。


 文具店のカウンターには、鉛筆の小さな箱が置かれた。


 喫茶店の外には、今日はまだ椅子は出ていない。


 代わりに、『今日はできません』の札が小さく置かれている。


 それも、協力の一部だった。


 できない日を言えること。


 それがあるから、できる日が続く。


 静子は、商店街ノートを開いた。


 今日の記録を書く。


 田島八百屋、道案内。


 花屋、チラシ一枚。


 文具店、鉛筆少し。


 喫茶店、椅子一つ、今日はできません札。


 パン屋、相談してから決めたい。


 そして、最後に一文を書いた。


『地域の協力は、大きな役を頼むより、一枚の札を選べる時に始まりやすかった』


 書き終えると、商店街の灯りが少しずつ点き始めた。


 夜、白瀬灯理は商店街を出た。


 通りには、店先の明かりがぽつぽつと並んでいる。八百屋の軒先には矢印の札。花屋の窓には小さなチラシ。文具店のレジ横には鉛筆の絵の札。喫茶店の扉には、今日はできませんの札が静かに掛かっていた。


 静子と青柳さん、前田さんが、商店街の入口まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 青柳さんが言った。


「こちらこそ、地域の協力が大きな募集から一枚の札へほどけていく時間を一緒に見せていただきました」


 静子は、商店街を振り返った。


「最初は、地域の方に協力してもらうなら、ちゃんとした募集が必要だと思っていました」


「はい」


「でも、ちゃんとしすぎると、皆さんの小さなできることが隠れてしまうんですね」


 前田さんが頷いた。


「役員にされると思ったら、誰でも逃げるわよ」


 青柳さんは、少し苦笑した。


「協力者という言葉を、重く使いすぎていたのかもしれません」


 静子は、商店街ノートを胸に抱いた。


「一枚だけなら、選べる。今日はできませんも、次ならできますも、しばらく休みますも、札にしておく。それなら、関わりが続きやすい気がします」


 灯理は、静かに頷いた。


 地域に協力を広げることは、大きな役割を頼むことではない。


 もちろん、大きな役割が必要な時もある。


 責任を持って運営する人。


 継続的に関わる人。


 安全を確認する人。


 相談を専門的につなぐ人。


 そうした役割は、欠かせない。


 けれど、地域の関わりは、それだけではない。


 道を聞かれたら案内する。


 チラシを一枚貼る。


 鉛筆を少し分ける。


 水を一杯出す。


 椅子を一つ置く。


 今日はできないと出す。


 次ならできると伝える。


 しばらく休むと示す。


 相談してから決める。


 その一枚一枚が、地域と場をつなぐ小さな橋になる。


 協力は、大きな言葉でまとめると立派に見える。


 でも、立派すぎる言葉の前で、人は自分の手の小ささを見て引いてしまうことがある。


 だから、小さく分ける。


 一枚にする。


 選べるようにする。


 断れるようにする。


 休めるようにする。


 その店、その人、その日の暮らしの中で、無理なく持てる大きさにする。


 小さな札は、協力を小さく見せるためではない。


 協力が始まる入口を、手の届くところまで下ろすためのものだった。


 灯理は、夜の商店街を振り返った。


 静子の商店街ノートには、一文が残っている。


 地域の協力は、大きな役を頼むより、一枚の札を選べる時に始まりやすかった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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