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住めば都で隣は君が 〜1DK両隣女子につき〜  作者: 甘酢ニノ


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3/3

#3 ピンク髪、初日から捕まる

 翌朝、目覚ましより少し早く目が覚めた。

 入学式には早いけれど、朝練がある日に比べるとずっと遅い時間だ。

 準備をして玄関を出ると、隣の304号室と306号室はどちらも静かだった。昨日の騒ぎが嘘のようだ。

 引っ越した翌日に入学式というのは大変じゃないか、とふと思う。俺は荷物が少なかったが、それでも生活が整うまで一週間はかかった。

 しかし、俺には関係ないことだ。他人の事情にいちいち首を突っ込まないでおこうと、静かなセリカの部屋を通り過ぎてマンションの階段を下りる。

 そこでポケットの中のスマホが鳴った。画面を見ると、小林からの電話だ。

 部活もない日、朝早くに。嫌な予感がする。


「何?」

『雨宮ー……!!』


 電話口からべそべそと泣く声が聞こえてくる。


「どうした?」

『あんな、よくわからんくて電車降りたら、学校の駅じゃなくて……改札も無くて……』

「どこの駅?」


 小林が言った駅の名前を調べると、学校の最寄りから数駅手前だ。

 小林とは同じ学校ではないが、部活の大会や合宿で顔を合わせる間柄だ。そこそこ付き合いは長い。

 そして、駅を確認しないで電車を降りたり、地図を見ないで勘で道を進んでいく所があるのはよく知っている。


「次に来る電車に乗って、走れば間に合う」

『でも、俺、駅から学校までの道、覚えとらん……』


 入学前の練習で、もう何回か登校しただろ。と言いたくなるが、その時も近くの駅で待ち合わせて俺が手を引いて連れて行ったんだった。

 腕時計を見て計算する。

 自宅から学校を通り過ぎて駅に向かって、小林を引っ張ってまた学校に向かう。

 俺も走れば間に合う時間だ。


「迎えに行くから。駅で待ってろ」

『ありがとぉ!』


 俺が答えると、小林は電話越しでもわかるくらい元気になった。



 桜城駅の改札前で、小林は目を赤くして立っていた。制服姿で鞄を胸に抱えて、明らかに泣いた跡がある。

 高校生にもなってよく人前で泣けるものだと思うが、小林は可愛い顔をしているから昔から泣いても許されていた。


「雨宮ぁ……ありがとぉ、神様みたいやわ」

「学校まで走るぞ」

「うえぇ……走んの?」

「遅刻したいのか」

「したくないけどぉ……えー……部活やないのに……」


 小林は不満そうに呟きながら走り出す。さっきまで泣いていたのに、図太い奴だ。


「電車が20分に1本なんよ?信じられん」

「小林、親戚の家から通学だろ?」

「でも、電車通学は面倒やし、雨宮みたいに寮にしようかなぁ……」

「その方がいいかもな」


 小林のことだから、週末を挟むたびに通学路を忘れる。週明けの度に泣きながら呼び出されるのも面倒だ。


「雨宮、なんでこの学校にしたん?こんな田舎じゃなくてもっといい学校行けたのに」

「……小林こそ、なんでここにしたんだよ」

「俺はどこでもよかったんやけど、雨宮と同じとこにしようかなって言うたら、親が絶対その方がいいって」

「……」

「なんかめっちゃ背中押してくれてたわ。うちの親、雨宮が大好きなんやね」


 小林の親とは、何回か会ったことがある。

 放っておくとうちの子は死ぬから、面倒を看てくれて本当にありがとうと、拝まんばかりに感謝される。


「あー、そや。雨宮に入学祝い送りたいって。住所教えてな」

「後で送る」

「やった」


 小林が呑気に返事をする。走りながら息は全く乱れていない。朝から泣いて、これだけ喋って、それでも平然と俺に付いて来ている。こういうところは、素直に大したものだと思う。

 学校の門が見えてきた頃には、俺の方が息が上がっていた。門の前に立つ教師が腕時計を確認してカウントダウンを始めている。


「あーあ、朝から疲れたわぁ」


 小林が足を止めて一仕事終えたように呟いた。

 誰のせいだ、と思うけれど、小林に逐一突っ込んでいるときりがないから言わない事にしている。


「雨宮、おはよー」


 声をかけてきたのは、西園だ。入学前の部活の練習でよく俺と小林に話しかけて来ていた。

 地元がこの辺りで実家から通学なのに、他の生徒よりも余所者の俺と小林に構ってくる変わり者だ。


「ギリじゃね?雨宮、新入生代表のやつやるんだろ?大丈夫?」

「まぁ、読むだけだし」

「余裕じゃん。まあ、雨宮ならそれくらいやらないとな」


 最後の一言が何を含んでいるのか、俺はあえて聞かなかった。

 そこに後ろから足音が聞こえてきた。


「あーりっくんだ!おはよー!」


 振り返ると、セリカと輪廻が走ってくるところだった。

 セリカの髪はピンクのままだ。

 自由な校風の桜城学院でも、学年初日からそんな派手な色の髪をした生徒はいない。

 二人は俺たちの横をすり抜けて、校門に駆けていく。


「えへへ、りっくんもギリギリだね!」

「お前、髪は?」

「えー?何ー?」


 セリカが聞き返した瞬間、門の脇に立っていた教師がすっと動いた。セリカの肩にがっちりと手が置かれ、セリカはそのまま引きずられていく。

 輪廻はその場で立ち尽くして、呆然とセリカの背中を見送っていた。

 校舎の影に消えていくセリカを眺めて、西園は手を叩いた。


「すげぇ、生活指導RTAだ。初日の1歩で捕まった」

「雨宮の知り合い?」


 一瞬迷った。隣の部屋に住んでいるというのは、知り合いと呼んでいいのか。


「いや」


 結局、首を横に振った。

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