#1 隣人来たる
入学式の前日に引っ越してくる奴がいるのか、と思った。
壁越しに聞こえるドタドタと重い音は、引っ越し業者が荷物を運ぶ音だ。
つい1ヶ月くらい前、俺も同じようにここに引っ越してきた。
続いて反対側の隣からも同じような音がする。
両隣とも今日が入居らしい。
ギリギリで大丈夫か、とは思ったが気にしない。隣に住んでいるだけの、ただの他人のことだ。
アイロンをかけた制服をハンガーにかけて眺めた。
運動部はジャージ登校が許可されているから、明日の入学式に着たらしばらく出番はないだろう。
明日から入学する桜城学院高校。
そしてここは学院と提携している学生寮のマンション。
学校から徒歩十分。片田舎で周囲にはコンビニがぽつんと立っているくらいだ。
でも、不満はない。あの家を出れただけで十分だ。
しばらく左右から引っ越しの音が響いていて、それが静かになった頃にドアをノックされた。
いまどき珍しい、引っ越しの挨拶かと思ってドアを開けると、女の子が立っていた。
すらりと細身の体に、大きな瞳が印象的な子。ただそれよりも目を引くのが、その長い髪の色だった。
一糸乱れのないピンク。どピンク。
俺はピンクは色として好きでも嫌いでもないが、髪色に採用しようとは考えたことがない色だ。
「こんにちは!隣に引っ越してきたセリカちゃんでーす!」
彼女は元気よく言った。
その背後から、小柄な女子がそっと顔を出した。日本人形のような黒髪で、常識的な髪色に少し安堵してしまう。
「……九十九、輪廻」
黒髪は警戒心を露わにして、そう短く言った。
「同じ一年生だよね?これからよろしく!それでね、嫌だったら全然断ってもらっていいんだけど、あのー、実は、部屋を交換してもらえないかなって……」
言いながらセリカは俺を上から下まで眺めた。それから玄関横の表札に目をやった。
「えっと、雨宮、ちゃん?」
セリカが言いたいことが理解できて、俺は首を横に振る。
「もしかして、雨宮、くん?」
俺が頷くと、二人同時に動きが止まった。
「「……男子だーー!!」」
一人分の歓声と一人分の悲鳴が、静かな住宅街に響き渡った。
読んでいただきありがとうございます。
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