エピローグ:静寂の欠片
事件から数日が経過した。
国はあらゆる証拠を封じ込め、α系列計画の存在は再び闇の中へと葬られた。
霧島冬馬と青井恭介は、本庁への報告を終え、ようやく短い休息に入った。
春を告げる風が東京の空を渡る中、霧島は河川敷のベンチに腰を下ろしていた。
白く柔らかな毛並みの猫が、彼の足元に丸くなっている。
「お前、結局……何だったんだろうな」
霧島がぽつりとつぶやく。
そのとき、後ろから「霧島さん!」という明るい声が響いた。
振り向くと、制服姿の少女――早乙女莉央が走ってくる。
「やっぱり、いた! 」
莉央は息を弾ませながら猫を見下ろすと、嬉しそうに目を細めた。
「この子、ずっと探してたの。あの時、逃げちゃって……でも、なんとなくまた会える気がしてた」
霧島は少しだけ笑った。「不思議な縁だな」
「うん。……あの、もし誰にも飼い主がいないなら、この子、私が……」
霧島は無言でうなずいた。白猫は、まるでその会話を理解していたかのように、莉央の腕にすっと収まった。
莉央は頬を緩めながら言う。「ありがとう、霧島さん。私、この子、大事にするね」
「頼んだぞ。……そいつ、ちょっとばかり特別だからな」
「うん。知ってる気がする」
風が吹き抜け、桜の花びらが舞い始めた。
白猫は莉央の腕の中で目を細め、満ち足りたように小さく鳴いた。
「名前は……“ミソラ”、うん。“ミソラ”にする」
霧島は最後にもう一度、猫を見た。
まるで、何かを託すように。
「――じゃあな、“ミソラ”。もう迷うなよ」
莉央と猫が歩き出す。
彼女の背中が遠ざかる中、霧島はゆっくりと立ち上がった。
「青井。次の現場、どこだ?」
「まだ決まってない。けど、お前と同じ現場でないことを願うよ」
霧島は小さく笑い、空を見上げた。
青く高い空に、もう不穏な気配はなかった。
静かに、しかし確かに、物語は終わりを迎えていた。
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