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22話 玄関に飴を撒いたのは誰か。

「だろうな」

 頬杖をつきながら、古賀が溜め息をつく。


 視線が外れたので、私はホッとしてしまう。それに、古賀はもう怒っていなかった。どこか諦めたような顔をしている。さらりと、前髪を掻き上げながら彼女は言った。「まぁ、起きなかった私が悪いな」


「夜から用事があったのか」何気なく私が聞くと、「コレだよ」と絶世の美女が左手の小指を立てた。すらっとした細い指に似つかわしくないハンドサインだが、恋人と会う予定だったということらしい。


「そもそも恋人がいるなんて話は聞いていないぞ」

「最近になって、付き合い始めたばかりだからな」


 再び、古賀が深い溜め息をつく。「毎日、会いたいらしい」「最初だけじゃないのか」「そうだといいが」


 基本的に面倒くさがりの古賀は、SNSをやっていない。メールの返信も遅い。電話には出るが、用件が済むと早々に切りたがる。


 古賀の恋人は、しばしば寂しがるのが常だった。古賀は恋人を作るのには向いていない性格をしているように思うのだが。なぜだろう。恋人の方から、次々に古賀の元へ来るのだ。


「振るには、もったいないんだよね」と、サイテーなことを古賀は言う。見ていて可哀想になってくるから、周りに不幸な女の子を増やさないでほしいのだが。


「まぁ、今のところ私は恋人がいる状況を超面倒くさいと思っているようだ」

「いつものことじゃないか」


 今度は、私の方が溜め息をつきたいような気分になった。裏腹に、いたずらっぽい笑みを古賀は浮かべる。


「それがな、恋人が嫌いな味の飴を玄関に撒くほどらしい」

「えっ、そんなことしたのか」


「酒に酔っていて、覚えはないが」と古賀が苦笑する。「恋人曰く、インターホンを押しても出ないし携帯も繋がらないから、玄関ポストを覗いてみたら飴が散らばっていたらしい」


 講義室に教授が入ってきたので、ここで話が途切れた。1列目の席に並べられた複数の講義資料を上から順番に1枚ずつ取っていく。全部で20枚ほどあり、束ねたら小冊子のようになった。


 ページ番号を見ながら、資料が抜けていないかを確認する。単純な作業をしている間。よくよく考えてみたら、玄関に飴を撒いたのは私だという事実を思い出す。


 もしかしなくても、古賀が恋人とこじれているのは私のせいかもしれない。来週の月曜日には、お詫びの菓子折りを持参しようと思う。お酒に合うお菓子が思い浮かんでしまい、私も懲りないなと少し反省した。

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