ただの殺人者でしかなかった。
これは、避けられば鞘を投げるようにして、胴を捉えれば押しあてて、今回のように受け止められれば刃を渡りながら剣身を抜き、弐の太刀へ繋ぐ師匠オリジナル抜刀術の基礎。
この動作事態は鞘から剣身を抜く、ただそれだけなので基本的に攻撃的な威力は無いが、弐の太刀で殺傷能力の高い技を放てる我が師は、対人戦で好んで使っていた。
良く言えば、効率を考えた奇襲攻撃だ。しかしその実は剣身を抜くのを面倒ぐさがった師匠の横柄さが、この一連の動作を生み出す結果に繋がっただけなのだが、彼を取り巻く環境は、それを“達人の技”と称し絶賛した。
もちろん俺が使った理由は効率重視の為で、けっして手抜きの為でないことをここに誓う。
ちなみに師匠の錬成により精製された長剣は、今回の奇襲に十分過ぎる追加の効果をあたえてくれていたのは言うまでもない。
この好機、逃すわけにはいかず、刃渡で上に振り上げられ、鞘から完全に抜き出した剣身を半円を描く様にして一気に振り下ろす。
実は俺は弐の太刀に繋げれる技が習得出来ず、師匠のような抜刀術とはいかないのだ。
とは言え、以前までの身体能力とは雲泥の差が有る俺が振り下ろした長剣は、真空波を生みだし、空気を切り裂く斬波となって奴の後方に居た男達に襲い、半数以上の者を再起不能に落とし込んだ。
目に見えない刃は、直接被害を受けなかった者にも激しい恐怖を植え付ける事となり、1人また1人と武装を解除させ、戦線を離脱させる事になっていた。
だが、斬波の発進点に近接しているあの男には、剣筋の影響を直接受ける事はないので、大きな影響を与えられなかったが、余波による軽微な裂傷は刻む事は出来た。
ただ軽微とは言え余りにも多数の余波の波は、致命傷になり得るほどの傷をおわせていた。
「な!なんだ貴様は!!」
「はぁん・・き・さ・まだと?てめぇに名乗る名はねぇは!!!」
普段の俺で有れば、ここまで我を忘れた怒りを表に出すことは無いが、奴の声はその境地へといざなった。
既に俺の視界には奴しか捉えておらず、振り下ろした長剣を体の中心にもどし、切っ先を相手に向けた正自然体の構えから幾度となく剣を振り抜く。
「・・・お兄ちゃんダメ~!!」
必死に掴み叫ぶ声に、悪鬼修羅と化していた俺は我を取り戻す。ミーナが俺の足に必死にしがみつき、声を張り上げていたのだ。
この時初めて自分が仕出かした事の大きさと、己の能力が他に与える影響を知ることとなる。
目の前に居たあいつは既に絶命していて、俺が放ち続けた太刀筋で原形すら解らない程朽ち果てていた。
ミーナの止めがなければまだまだやり続けていただろう。怒りに身を任せ、我を失った俺はただの殺人者でしかなかった。




