小説の中だけでいい。
俺は田辺恵一という名で、特に何の変哲もない人生を過ごしていた。
田舎暮らしだったけど、どこで生活をしていようが、さほど大きく変わりはない国で。
勿論、大きく変わりがないとは言っても、治安や基本的な生活面での話し。
環境や利便性といった面では田舎と都会で大きく異なる為、都に憧れる一少年だった事は否定出来無い。
厳しくも優しい父、常に愛情を注いでくれる母、そして気の合った多くの友人達に囲まれた生活は、むしろ幸せ者と言えるかも。
だけど、それはそう長く続かなかったんだよ。
15歳に成った日、学校からの帰り道で、俺は、車に引かれそうな6歳ぐらいの子供を見かけ、咄嗟に飛び出した。
その直後、視界は真っ白。
体は何もいう事をきいてくれない。
自分の身に何が起こったのかさえ解らなかった。
しばらく呆然としてたら、直接脳に語りかけてくる声に気付く。
それにより、自分の状況を知る事に成った。
車にひかれそうだった子は、軽い怪我程度で命に別状は無く、無事に助かったらしい。
逆に俺は、その車にはねられ、頭を地面に強く打ち付けて即死。
だけど、その俺の死は想定外。
死した後が定まっていないんだとよ。
・・・知らんがね。
因みに、声の主の姿は確認出来てない。
とはいえ、嘘を言っているとも思えない。
俺は声を出してみる。
会話になるか解らないけど、どうしてもふに落ちない点が有ったから。
「想定外の死っていうのは?死んだ俺の後が決まっていないってのは?」
声はすんなりと出て、自分のその声も聞き取る事が出来た。
ただ、会話は成立してい無い。
返答が無いんだもん。
もんもんとした気分でいると、再び脳内に語る声と目の前に2つの選択項目が現れた。
「どちらかをお選び下さい」
1、現世未来へ。・・この場合「転生」となります。
新たな人生の為、周りの状況や環境により能力は変わります。
2、他の世界へ。・・この場合「転移」となります。
今迄の人生の延長なので、そのままの能力での場所移りです。
「・・・質問していい?」
一応は聞いてみたけど、やはり返答はなく、いくら待とうが延々と2項目が目の前に表示されているだけ。
どうしよう?
1だと人生のやり直し、2だとそのまま・・ってことは、未知な世界へこのまま放り出されるってこと?
それはダメ。
なんせ俺は何の取り柄も無い。
2の方が興味はあるが自分の人生がかかっているから、危険は侵せん。
ここは堅実にいくべき。
異世界譚は小説の中だけでいい。