第十二話・ドスモウ部の死闘!(あるいは許されざる罪…)
お互い張り手はなく、頭っからかちあげ合う。
「っんがぁ!」
「ブフぅ!?」
桐ケ谷琢磨呂、176cm体重109㎏。
カーチン=ラ=ロスコイ、183cm体重120㎏(推定)
見た目では(ファンタジーなんで本当ウェイトに意味がないけど)ほぼ互角に見える二つの巨体がぶつかり合い、よろめいたのはカーチンの方だった。
「「「!!!??!?」」」
カーチンが仰け反る。本来ならこのまま、タクマロは二段ロケットでさらにぶちかましをかますところだが、あえて、待つ。
「ぶ、ブッフゥゥ!!?」
ダン――! と正面から突っ込むカーチンを、タクマロはまるで横綱相撲のように受け止めた。
場内がどよめく。
(やっぱりだ――思っていた以上には強いけど、見た目ほど重くもパワーもない!)
まあ見たまんま朝青龍だったら、今頃ブタ蛙の轢死体が一丁上がりだったんですが。救急車すっ飛ばして霊柩車だ。
「むぐぅ、」
「ブッフぅ――」
膠着。タクマロの裸足の足が、ズズ、と十数cm下がるが、ほぼ中央で完全に受け切った。
そこから始まる差し合い――。
常識で考えれば、いかに謎の美男子編入生とはいえまだ一年。しかもドスモウの経験は皆無。少々四股はできるようだが、ドスモウ部エース男子のカーチンを相手に勝負になる筈がない。
が――状況は完全に拮抗。お互い脇をしめ、頬を寄せ合い胸を突き合わせ、お互いの肉を探るように腕を差し合う。閂など立ち関節に注意し、歯を食いしばる。
汗が滲み垂れ落ち、喘ぐようなお互いの呼息。肉と肉が絡み合う。
「「「きゃあああああ~~~ッッッッ!?!?♥♪」」」
「「「うぉおぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!?」」」
ギャラリーは女子も男子も一気に沸騰した。まるで建物全体が揺れるほどの大喝采。だがタクマロは一人、土俵に独りだ。
そしてそれはカーチンも同じく。彼もまたリングに独りだ。
めまぐるしい差し合い。タクマロのが一枚上手だ。
タクマロは意図的に上に意識を集中させ、一気に左手がカーチンのまわしを掴む。
(っシャ!――後はどうとでも料理できる――――!? ッッッ!???)
そう思った一瞬、カーチンの巨体が沈んだ。
「!?!?」
驚く間もない。カーチンの右手が、タクマロの左足の足首へ“伸びた”のだ。
な――!?
それは――相撲の常識ではありえない光景だった。
相撲では、膝を付いたら負けなのだ。だからどれほど懐が深くても、組み合った状態ではせいぜい膝の裏か脹脛までしか手が届かない。
しかし、今のカーチンは片膝を土俵に付き、より深くタクマロの足に食らいついてきたのだ!
相撲にはない差し、レスリングの技術だ。
「――っぐゥ!!?」
「ブフぅ――ッ!」
掴んだまわしを捨てて、相手の脇を下から押し上げる。左足を大きく引く。カーチンの右腕が踝から離れた。
(~~~ッッッ! こんな攻防があるなんて――ッ!? でも!!)
相手は片膝だ。こちらも四股を踏み、腰を落として一気に押す。
慌ててカーチンが膝を浮かせる。両足で大地を噛んで踏ん張らないと、タクマロの“寄せ”は止められない。
「「「おおおおぉぉおぉぉぉ!?!?!?」」」
一気に端まで寄せた! 土俵際の攻防、否応なしに燃える。
カーチンもまた意地だ。最早どういう余裕も彼にはない。本気で踏ん張り、本気でタクマロに抗う。
「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ――」
「ブフ、ブぅ、ふぅ、フゥ――」
開始からわずか30秒足らずだが、二人はもうスタミナを限界まで振り絞っている。この先は気力だ。
パワーにウェイト、差し合いの技量さえもタクマロが上だが、ドスモウでのテクニックは流石にカーチンが上回る。タクマロも一週間足らずだがブランクがある。
肉と肉が押し合い、汗と汗が、呼息と呼息が混じり合う。
意地と意地とが鬩ぎ合う。
タクマロの、「絶対に負けない!!!」という必勝の信念を、カーチンのプライドと意地が一瞬上回った。
「ブ――――ぶふぅぅうぅうぅぅぅぅうぅぅうぅッッッッッ!!!!」
「!?」
土俵際。一瞬の隙を付かれて立ち位置を入れ替えられた!?
(っぐ、むぅぅ!!)
踏ん張る。危なかった。獣は追いつめられた時が一番危険なのだ。土俵際には魔物が住んでいるのだ。
何とかこらえた。が、今度はタクマロが絶体絶命。
ガラスがひび割れんばかりの大絶叫。ギャラリーも大半が津波のように押し寄せ、手が石のように固まらんばかりに握り込んで声を出す。
「タクマロぉッッ!?」
大声援の中で、涙交じりのトーマスの悲痛な声が聞こえた気がした。
負けるか――ッ!
タクマロは足の指で勝負俵を噛み、ここが勝負と腰を落とす。
一瞬隙を見せたが、カーチンは攻めなかった。攻められなかった。あの土俵際での入れ替えで、その体力は底を付いていたのだ。
探り――そして右上手! 爪が食い込むほどスパッツを掴み――、
「うぉおぉぉおおぉぉぉ――――ッッッッっっ!!!!!」
魂が擦り切れるほどの渾身の力を籠めて、カーチンの巨体を引っこ抜く。
上手投げ――それも倒すだけでは意味がない。土俵から出さないと勝ちではないのだ。
タクマロはもう身体ごとカーチンに預け、そのまま縺れ、落ちる――、
二人の巨体がリング下へと落下した。地響きにも似た音が響き、呼吸さえ凍る静寂――。
主審は――副審は、共に左手を上げる。
「――――勝者白虎! タクマロ!」
誰もが一瞬空気を飲み。そして、
「「「「「おおおおおおおおぉぉおおおぉおおおああおおおおああぁおおおおおおッッッッ!!!!!?」」」」」
天井が割れんばかりの歓声が木霊した――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
はあ はあ はぁ はあ、
ぶふぅ ぶふ ぶふぅ ぶふぅ、
もつれ合って倒れたまま、タクマロとカーチンは荒い息を零し合った。
「はあ、はあ、はあ、はぁ……っ」
「ぶふ、ぅ、うぅ……っく、ゆ、油断した……んだ! ちょっと……油断した、だけだ、ブフぅ……ッ!」
タクマロから起き上がった。
手を差し伸べる。
「は、はぁ、はぁ……強かったっス、センパィ、次ぁ……勝てないっス……っ」
「!?」
カーチンはバツが悪そうに眼を反らし、だが……タクマロの手を取った。お互い立ち上がる。
「タクマロ! タクマロぉ!!」
汗だらけの僕の身体に、トーマスが涙を流して抱きつく。
あ? あぁ――――勝った。勝ったのか。
もう一度カーチンに向き合い。再び、
「強かったっス、センパイ……おス! ありぁとう御座いぁしたぁッ!!」
僕は勢いよく頭を下げた。
本心だ。
僕はまだ多少余裕はあったけど、でも――確かに強かった。
そして、久しぶりに“男の意地”を見せてもらった気がした。
この世界に来てからというもの、どうにも男はなよなよと脆弱で、少々肌に合わなかったのだ。お国柄というか世界柄だからしょうがないのだが。
そのわだかまりをぶつけて吐き出したような気がした。このカーチン先輩は、それを真正面から受け止めてくれた気がした。
カーチンは……むすっと頬を赤らめきまりが悪そうに頭を掻き、だがトーマスを一瞬見つめ、
「ぶ、ブフ……その、わ、悪かった、な……」
ぼそりと零すように。
ぶっきらぼう極まりない簡素な――だが決して軽くない、確かに誠意のある謝罪をしてくれた。
「「「「「「きゃあああああぁぁァァァァ~~~ッッッ♥♪!!」」」」」」
もう場内は狂乱。
タクマロは思い出したように鼓膜に痛みを感じた。
あ~もう、なんかやっちまった。
見渡せばドスモウ部屋は、当初の二十倍は人が溢れ返っている。ユニフォームに袴、水着にチアガールの生徒まで押し寄せ囃し立てていた。
この時のタクマロの決まり手は、
「スペース・トルネード琢磨呂・銀河ザ・デストロイ・ファイナルフラッシュ上手投げイケメン」と名付けられ、この王都魔法学園が少子化で吸収合併を繰り返してやがて700年の歴史に幕を閉じるまで、脈々と受け継がれることとなった。
第二章・魔法学園の編入生。入学編 ~終~
二章入学編終了。更新速度落ちると思いますが、続き書いてるんでのんびり待ってやって頂ければ、




