第三話 ⅩⅩⅠ
「って事があったんですよ~!」
「すんごいビックリしました!」
身振り手振りを交えてナディアとソフィアが、訪れた託児所の管理者であるカーティスとその妻リズに通り魔事件の経緯を語る。
緊迫である筈の状況がコメディーチックに聞こえるのは、聞き手である2人への語り手の気遣いであり話術なのか、それとも興奮気味に話す語り手の現在の心境がもろに出ているだけなのか。
どちらにしろ、そのお陰でカーティスとリズの表情は始終柔らかいままだった。
「あらまぁ、そんな事があったの」
「大変だったね」
エルには分からない事だが、先週ロウェン達が訪問した時からリズの顔色は元に戻っており、カーティスも完全とは言えないが普通に生活できる程に回復している。
「エル君も、元気になったみたいで良かったわ」
「はい。俺はベッドで寝てるだけだったので、気楽なものでしたよ」
笑顔を向けてくれるリズにまさか噂の通り魔(しかも複数)に襲われたとはとてもではないがエルは言えない。
あれから騎士団や神殿でも今回の事件は調査されている。
しかしエルは、ロウェンとマリアに話した以上の事は分からないだろうと思っている。
「犯人は捕まっては居ないけど、取り敢えずは解決した様で良かったよ」
カーティスが言う様に、エルも結局はここに落ち着いてしまった。
話に区切りがついた所でユウキが言う。
「じゃあ、僕達は子供達と遊んできますね」
「ああ、お願いするよ」
「先週も今週もごめんなさいね」
「いえ、好きでやってる事ですから」
カーティスとリズの言葉にマリアが返し、エル達6人は子供達の居る部屋へと向かった。
「「エル」」
廊下を歩いていると、双子から声を掛けられた。
「ん、何だ?」
「「テオ君の事、お願いね」」
意外な事を言われて、エルは頭の上に? を浮かべる。
「別に構わないが……、何で?」
問えば、ナディアとソフィアは揃って気まずそうな顔をした。
「「いやぁ……、まぁ、ね?」」
答えになっていない。
先週に何かあったのだろうと察しは付くが。
「何かあったのか?」
双子では駄目だと判断し、ロウェンとマリアとユウキに問えば3人にも同じ様な顔で返された。
「「「まぁ、色々と……」」」
揃いも揃って煮え切らない。
「ハァ……。別にどうでも良いけど」
「「「「「アハハハハハ…………」」」」」
エルが呆れてそう言うと、乾いた笑いで返された。
テオよ、お前は何をしたんだ。
託児所はそんなに大きな施設では無いので、微妙な会話をしている内に直ぐ子供達の下へと辿り着く。
部屋の扉を開ければ、
『あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんだ! 遊んで、遊んでー!』
と、自分達の所に子供達は群がってくる。
そんな中、ナディアとソフィアに頼まれたテオを探すエル。
テオは積極的な性格では無いらしく、エル達の下に皆が集まっていても離れた場所で1人ポツンと居る。
そんな訳でとても見つけ易い。
他の子の頭をポンポンと優しく撫でてから、エルはテオの所へ向かう。
「久しぶり、テオ。元気してたか?」
エルは膝を曲げ、目線を合わせて彼の頭を撫でる。
「……うん」
テオは目を細め、嬉しそうにエルの手に擦り寄ってくる。
自己主張が少なく、人によっては扱い難い子ではあるだろうが、こういう甘える仕草はとても可愛い。
「そうか。先週来れなかったから、今日は特別にケーキを持って来たんだ。後で食べような」
「うん!」
ケーキ、と聞いてキラキラと瞳を輝かせ始めたテオを見て、エルは零れそうになる笑いを必死で堪えた。
そして、その光景を見ていたロウェン達は。
「あの扱いというか、接し方の差は何なんだろう……?」
「私達なんて、近寄っただけですすすーっと逃げられちゃったのに……」
呟くナディアとソフィア。
「僕もそうなんですよ……。何か嫌われる様な事したかなぁ?」
「うわっ!? フランツさん! こんにちは」
突然現れ疲れた顔で話すフランツに、ユウキは驚く。
「こんにちは。エル君は凄いね」
「そうですね。人に好かれ易い性質なんだと思いますよ、エルは」
別にフランツが悪い訳では無い、とユウキはフォローした。
「でも対象が子供になるとやっぱ凹むわ」
沈んだ顔で会話に参加するマリア。
そこにロウェンも入り込む。
「そうか? 別に誰が誰に懐こうがどうでも良いじゃねェか」
「「ロウェンはもうちょっと繊細になった方が良いと思うな」」
双子の言葉に、マリアとユウキは大きく頷いた。
お読みいただき、ありがとうございました。




