第二話 ⅩⅥ
今回も結構長いです。はい。
ⅩⅤとⅩⅥは切らずに投稿したかったんですよね。
でもストックがああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
でも投稿したいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。
なんて、ジ・レ・ン・マ。
お楽しみいただければ幸いです。
「じゃあ、俺はこっちだから」
闘技場の門を潜り通路に足を踏み入れた所で、観客席に続く通路の反対側にキリルが立っている事に気付き、エルはロウェン達に別れを告げる。
「あぁ、分かった」
「頑張ってね」
ロウェンには特に何も思っていない顔で、マリアには笑顔で声を返される。
「「怪我しない様にね」」
「気を付けて」
双子とユウキにはちょっと不安げな顔で心配される。
「ありがとう」
感謝の意を示して、エルはキリルの居る方へ足を向けた。
キリルの傍まで歩いて行くと、やはり彼はエルを迎えに来ていた。
彼が言うには、自分の仕事は書記と言うより生徒会の使い、らしい。
確かに見た目や性格からして、キリルが初対面の相手に嫌悪感を抱かれる事はあまり無いだろうし、反発される事も無いだろうから、交渉事には向いているかもしれない。
「やぁ。選手の控室はこっちだよ」
ほんわか笑顔で控室まで案内してくれる。
やや前を歩くキリルにエルは質問を投げかける。
「キリ先輩、会長達は何処にいるんですか?」
「控室でエル君を待ってるよ」
キリルから返ってきた答えは少し意外だった。
オレスト達はもう観客席にいるとばかりエルは思っていた。
「そうなんですか? 待たせてしまって済みません」
「いやいや。僕達が無理矢理巻き込んでしまったし、皆気が急いてるだけだから、気にしなくて良いよ」
でも……、と続けるのは気を遣ってくれる先輩に対して失礼な気がしたので、エルはお礼を言う事にする。
「ありがとうございます」
控室に入ると、生徒会の面々だけでなくグウィードとミズホ、ホメロスとオルティアまでいた。
「俺達も、君をこういう状況に陥らせてしまった一端を担っているからな」
疑問が表情に出ていたらしく、エルが質問をする前にグウィードに答えられた。
「俺達がいるのも同じ理由だ」
ホメロスが教えてくれる。
「はあ……」
そこまで気を揉まなければならない事なのだろうか? と更なる疑問が浮上してくるが、先輩方の気遣いを無下には出来ないのでエルは口に出さない。
答えは、死ぬまでは無いけれども死ぬ一歩手前までになる可能性がとても高いから、だ。しかも、その後に一生寝たきりの生活になるかもしれない、となれば気を揉むのは当然である。
しかしエルはそんな事になるとは欠片も思っていない。エルと彼等とでは問題の重要度が全く違うのであった。
その後、
「駄目だと思ったら、態とやられた振りをして負けるんだぞ!」
と、生徒会長として言ってはいけない事をオレストに言われたり。
一個人としてもそれはちょっと、いや、ちょっとどころではなく頂けないです。はい。
「負けたら承知しないからね♪」
満面の笑顔でクラリスに脅しの様な声援を受けたり。
追い詰めて開き直させようとでもしてるんでしょうか? それとも本当に脅しでしょうか?
「二人の言う事は気にするな。精一杯やって来い」
と、エイレーネに一番真面な言葉を贈られたりした。
いや、生徒会長と副会長に言われた事を無視するのは、荷が重いです。
アドバイスしてくれているのだろうが、全くアドバイスになっていないアドバイスをエルは暫く貰い続けた。
試合開始時刻が近付き、教師が迎えに来たのでオレスト達と別れる。
そして、フィールドへ向かう途中で、
「良いかい? 少しでも危ないと思ったら態と気絶した振りをするか、戦えない振りをするんだ。絶対だよ?」
エルは教師にまで八百長を勧められた。というより、約束させられた。
それで良いのかっ!? と大声で突っ込みたかったが、理性で抑え付けた。
だが、ここまで来ると、彼等の助言を無視してバルドに勝ちたい、という反抗心にも近い考えがむくむくと育ってくる。
(うん。やろう、全力で)
ロウェン達が予想した通り、エルは厄介なスイッチをOFFからONに切り替えた。
念の為に言っておこう。彼に自覚は無い。
エルがフィールドの入口に着くと、そこには既にバルドが立っていた。
彼の隣にも案内役であろう教師がいる。
「こっちだ。二人共、付いて来てくれ」
エルを案内した教師が言い、バルドを案内した教師が去る。
去って行く教師がエルの事をチラチラと落ち着きなく見てくるのが妙に気になった。
恐らく心配してくれているのだろう。男としてはちょっと傷付くけれど。
フィールドへ歩き出す教師の後ろをバルドと並んで付いて行く。
今日の天気は晴れなので、屋根が無いフィールドは屋根のある闘技場の中より明るい。
エルが目線を動かして周りを見ると、思っていたより人が多かった。
教師や生徒会の人達は来るだろうと思っていたが、エル自身があまりバルドとの試合への興味関心が薄かったので、観客なんて殆ど来ないだろうと予想していたのだ。
前を歩く教師が立ち止まり、二人を振り返って告げる。
「これより、バルド=オークランス対エル=フェルトゥナの試合を始める! どちらかが戦闘不能、或いは審判の教師の内一人でも戦闘の続行が不可能と判断すれば試合終了とする!」
エルを案内した教師は主審だったらしい。それに気付くとますます生徒に八百長を勧めるのは大丈夫なのか、と心配してくれているのを分かっているが故に複雑な心境になる。
「尚、不正を働いた場合は問答無用で敗北とする! 以上、何か質問は?」
主審の問いにエルは小さく首を振り、バルドは、無い、とエルでも偉そうだなと思う口調で答えた。
「では、両者離れて!」
指示された通り、二人は後ろに下がる。
「試合開始!」
最初はほんの少し様子を見ようと、エルは武器を手にせず動かない。
相手の考えは知らないが、バルドも動かなかった。
そのままエルが動かず黙っていると、彼が話しかけてきた。
「先手はお前にやっていいぜ? 後輩?」
自分が動かなければ彼も動きそうに無いので、エルは誘いに乗る。
「……」
無言で右手首に着けている銀のブレスレットを銃に変え、バルドに照準を合わせて撃つ。
ただ誘いに乗って一発撃つだけでは面白くないので、銃を撃つと同時に魔術を使う。
それも、一つでは無く、二つ。
<失現>
<存在否定>
どちらも幻想魔術で最もオーソドックスな物だ。
<失現>は無い物を在る様に見せる魔術。反対に、<存在否定>は在る物を無い様に見せる魔術。
エルは前者で自分を創り出し、後者で自分の姿を隠す。
銃を持っていない、ダラけているだけの方の手に、掌サイズの魔方陣が一瞬だけ現れる。
これに気付かせない為に、銃を持つ右手はカモフラージュとして利用する。
エルが撃つと同時にバルドの右手が振り上がり、剣から火の玉が放たれて撃った銃弾を相殺される。
誘ってきたのだから、相手が傷を負うとは露程もエルは思わない。
しかし、個人的には避けるか受け止めるか剣で弾くかして欲しかった。だって、こういうのがセオリーでしょ?
戦っている最中としては場違いな、のんびりした足取りで移動しながらエルは少ぉしだけ残念がる。
魔術で創られた幻のエルの下へ、連続で火の玉が飛んで行く。
それを幻のエルは大きく飛び退く事で回避する。
幻術は使っている事がバレていない事が前提条件で、ほんのちょっと動きがブレたりぎこちなかったりすれば即アウト。また、激しく動きながら幻術を操るのはとても集中力が要るし、相当難しい。エルがゆっくり歩いて移動しているのはその為だ。
因みに、幻のエルを大きく後退させたのは、銃を素早く連発出来ないと思わせたいから。これとは別に、他にも勘違いしてくれたら万々歳。
「ビビッて声も出せないってか?」
既に幻影となったエルをバルドがせせら笑う。
良かった、バレて無さそうだ。とエルは息を吐く。
折角、幻術を二つも同時進行しているのだ。簡単に見破られたら自分の努力が報われない。
あぁ、足音はしっかり<存在否定>で消している。消せなきゃ幻術じゃない。
「飛び道具ってのは銃と弓だけのもんじゃねーんだぜ? 銃は優れてるって言われてるが、一発撃つのにそんなに時間掛けてちゃなあ?」
そりゃそうだろう。幾ら銃が優れてるって言っても、付け焼刃で銃を使う奴に剣を極めた人が負けるなんて在り得ない。負けるとすれば、滅茶苦茶運が良いか悪いかのどちらか、または両方だ。
頭の中でエルはバルドに返事をする。
「俺のこの剣には魔方陣が組み込まれてるんだ。剣に魔力を流すだけで火の玉が撃てる。お前の銃なんかよりもよっぽど早くなぁ?」
構造が簡単で剣に組み込まれているなら速いのは当然であり、メリットだ。しかしながら、一回使ってしまったら次からはどんな魔術が飛んでくるのか相手は分かってしまうというデメリットがある。一度に複数放てるのなら話は別だが。(と言っても、せめて5発以上でなければ話にならない)
「しかも、火の玉を撃てるだけじゃなく、この剣は火を纏える。銃よりも優れた剣を持ち実力のある俺と、鉄屑を持った腰抜けなお前。どっちが強いかなんて簡単に分かる」
鉄屑、という単語にエルはカチンと来る。
バルドはエルを貶している積もりなのだろうが、実際は銃を製作してくれた先輩も貶している。これは許せない。魔武器を作った事等無い癖に。
うん。
コイツ潰す。
反撃させる暇なぞ与えず、一瞬で、完膚なきまでに。
だらだらと打ちのめす様な事はしない。
そんな価値すら無い。
「しかも、火の玉を撃てるだけじゃなく、この剣は火を纏える。銃よりも優れた剣を持ち実力のある俺と、鉄屑を持った腰抜けなお前。どっちが強いかなんて簡単に分かる」
剣が火を纏うなんて魔術の世界じゃ常識だ。幼児でも知ってる事を自慢げに話すな。
それより、試合開始から一歩も動かない木偶の坊が良く自分の事を実力があるなんて言えるな。剣は近接武器だ、遠距離武器じゃ無い。
「精々怪我をしない様に気を付けろ。どうあってもお前がボロボロになるのは目に見えてるがな」
ほぉ。今から試合が始まるみたいな事言ってるけどな、残念ながらもう試合は始まってる。
しかも、目に見えてる? 見てない先の事を良くもまあ、断言できるな。見習いたくない。
バルドの右横三メートルをエルは通過する。
「はっ、反撃一発も出来ないのかよ? それで良く俺の上に立とうとしたな?!」
そんだけバカスカ打って一発も当たらないとは。魔力の無駄も甚だしい。
攻撃だけが攻撃じゃ無い。魔術は攻撃だけじゃ無い。教えてやる。だが学ばなくて良い、というか、学ぶな。お前にとってプラスに働く様な事をする積もりは毛頭無い。
「折角の御高説だが、小指の先、髪の毛の先程にも役に立たなかったな」
戦いの中で自分の情報をペラペラと楽しそうに喋るのは、眉毛一本よりも脳味噌が軽い間抜けのする事だ。
その上、吐き出す情報が全く役に立たないと来た。これ程に無駄で損な時間は類を見ない。何故? 聞かずとも一回見れば分かるからだ。
「なに?」
まだ幻の方を見てる。あぁ、幻に喋らせているから当然か。本当、単純で助かる。
「飼い慣らされた犬や猫でさえ、目の前に差し出された餌の匂いを嗅いで安全を確認するのに、欲望の導くまま餌に飛び付くお前は愚かとしか言い様が無い」
エルの幻がフッと鼻で笑う。
その間に、エルはバルドの後ろで立ち止まり、銃を彼に向けて構える。
「テメェ……」
銃口が向けられても気付かないか。
お前の怒りに付き合う気も時間の余裕も俺には無い。寝ろ。
三回連続でエルは引き金を引く。時間にして約一秒。
「っっ?!!」
あー、スッキリした。
ドサ、と前向きにバルドが倒れるのを見届けて、エルは清々しい気分になる。
エルは魔術を解き、ふぅ、と一息吐く。
「「「「「…………」」」」」
しかし、幾ら待っても審判が試合終了の合図をしてくれない。
不安になり、倒れているバルドを確認するが、ちゃんと気絶している。
相手を気絶させれば勝ちの筈。エルは思い切って審判に声を掛ける。
「あの、試合、終わりで良いですか……?」
ハッ、と審判は少し驚いた様な顔をして言った。
「試合終了! 勝者、エル=フェルトゥナ!」
良かった、ぼーっとしていただけらしい。とエルは安堵する。
面倒な事がこれから沢山起こるだろうが、生徒会に所属する以上、それは仕方ない。
これも経験だ、自分なりに精一杯頑張ろう。エルはそう決意した。
お読みいただき、ありがとうございます。




