第二話 ⅩⅡ
こんにちわ。
今回はエルのお爺ちゃん、チャールズ視点です。
短いですが、お楽しみいただければ幸いです。
いやはや、面白い事になった。
集会終了後、エルの祖父チャールズが抱いた感想はこれだった。
当初は孫の顔見たさに、面倒でしなくても良い仕事をスケジュールに組み込んだのだが、予想外に面白い物が見れた。
(ま、孫の顔を見れた事以上の物では無かったがのぅ)
しかし、面白い事になった物の、最後まで見る事が出来ないのは残念でならない。
恐らく、来週の金曜日にある試合は孫の初舞台なので、祖父としては見たくて堪らない。
だが、仕事が邪魔をする。
何と煩わしい。こうなる事が分かっていれば神子の仕事なぞ他の誰かに押し付けていた物を。
いや、そうしていれば孫の顔を見られなかったし、面白い物も見られなかったのだからこれで良かったのか。
(そう考えると、エルは祖父孝行な孫だのぅ)
自分の次の神子がエルでなければ、自分から神子の代わりをしようとは思わなかったのだから。
神子は血によって決まる物ではないが、何の運かエルが継ぐ事になった。
元神子は神子の代理を熟すのにこれ以上ない適役だったので、苦労せず神子の代役の任を手に入れられた。役得である。
(それにしても、面白かったのぅ)
前半、可愛い可愛い孫の驚いた顔を見れた事の方が幸せ度は遥かに高いが、後半、近づきたくない部類の者の蛮行の方は面白度が高い。
ステージ脇で聞いていて、大声を出して笑いそうになった。吹き出しそうになるのを堪える為にあれほど苦労したのは久しぶりだ。
何て言ったって、現神子であるエルに喧嘩を売ったのだから。
その上、負ける事が怖い小物の癖にプライドだけは空より高い大馬鹿者が。
知らないとはいえ、知っている者からしたら相手の馬鹿さ加減に腹を抱えて笑う状況だ。
ああいう手合いは地位、権力、武力、財力、名声等といった力にめっぽう弱い。
バートは生徒会という力を確実に、且つ容易に手に入れたいのだろう。
その為に、二つ年下だから自分より弱いと踏んだ彼はエルに勝負を仕掛けた。
仕掛けたのだが、運悪く彼の求める力より大きな力を相手は持っていた。
これはもう、笑うしか無いだろう。
(いやぁ、良く耐えたものじゃ)
我ながら本当に良く耐えた。称賛物である。
神殿のお飾りに思われそうな神子だが、選ばられるからにはきちんとした基準がある。
魔術師と神官の資格を持っている事だ。
年齢も相俟って、エルは特殊で特例だが二つの資格を持っている。
本人はそれだけの力を持っている自覚が無かったりするのだが、そこは孫の可愛らしい部分だ。祖父のチャールズにとってプラス要素にしかならない。
贔屓目を抜いても、エルは並みの魔術師に危な気なく勝てる実力を持っている。
ジゼルの息子で自分の孫だから当然だ。とチャールズは思っていたりする。
兎にも角にも、チャールズはエルが負ける等という心配は一切していなかった。
「ほっほっほっ」
帰路を行く馬車の中、チャールズは笑い声を出す。
彼の笑い声を聞いた御者や護衛は、あぁまたか……、と思いながら仕事をする。
彼等はチャールズが爺バカである事を知っている。
何故知っているのか? それは必然だと言える。
重要な役職に就くと仕事としての外出が多くなる物だ。そして、国の重役となれば馬車に乗り、護衛が付くのは当たり前。
その御者と護衛は出来る限り同じ人物が選ばれる。
唯でさえ長距離の移動で疲れるのに、御者や護衛が知らない顔の者達だったら尚更疲れる。だから、疲労を最小限にする為に同じ人物が選ばれる。
つまりは親しい者が選ばれるという訳で。
しかも、チャールズは神子を38年間務めている。
それだけ長い時間があれば、欠点や難点を知る事は造作も無いだろう。
以前は、馬車の中で一人は退屈だろう、と護衛が一人か二人は馬車に乗って話し相手になっていた。
しかし最近、いや大分前からチャールズの話し相手になる護衛はいない。
だって馬車に乗れば最後、家族の自慢話や惚気を聞かされるだけだから。それも四六時中。
チャールズではなく、こっちが逆に疲れる。
彼等には他の護衛の騎士達よりも、チャールズとその家族に詳しいという要らない自信がある。
それに馬車の中で一人のチャールズも、一人の筈なのに良く「ほっほっほっ」と笑っているので放置している。
護衛の疲労は軽減され、チャールズは楽しそうにしている。結果良ければ全て良し。
チャールズが神子になってから38年、御者や護衛達のチャールズに対する扱いが雑になっていた。
良いのか、悪いのか。
お読みいただき、ありがとうございます。




