第二話 ⅩⅢ
鈍足です。
気長にお待ちいただけると嬉しいです。
お楽しみいただけると幸いです。
「済まない!!」
ガンッッ!!
誰もがビクッ?! と反応してしまう様な大きな音が鳴る。
集会が終わり、一同は大講堂から生徒会棟へ移動した。
風紀委員会、神官部は既に解散し、グウィードとミズホ、ホメロスとオルティアが生徒会室に来ている。
生徒会はまだ解散していない。
エルの前では、オレストが目の前で机に額を付けている。
さっきの大きな音は、オレストが謝ると同時に勢い良く頭を下げて机に額を打ち付けた音だ。……痛そう。
謝られているのは勿論エル。
理由は当然、バルドとの試合の事。
「済まない。俺が不甲斐無い所為でこんな事に……」
机から頭を上げたオレストは額を赤くし、苦渋に満ちた顔で言った。
その姿にエルは苦笑する。
「先輩の所為じゃありません。まさかこんな事になるなんて誰も予想できませんよ」
慰めるが、気休め以上の物にはならない。分かっているが、言わないよりはマシだ。
その証拠に、オレストの顔から苦渋は消えないが少し和らいだ。
「君の言う通りなんだが……、バルドとの勝負は危険過ぎる。今からでも彼を説得した方が」
提案を言い出したオレストだが、エイレーネがそれを止める。
「そんな事をすればエルはおろか、生徒会の今後にも良くない。止めた方が良い」
試合相手を変えさせようと生徒会が動けば、エルが弱いと生徒達に公言している様な物だ。生徒達の生徒会への信頼が無くなってしまう。この選択肢は選べない。
代理を立てても同じ。
これ以上、何を考えても話しても無意味なのだ。結局、エルがバルドと戦うという答えしか出てこない。
「しかし…………」
頭で理解していても感情はそうはいかない。オレストは悔しそうに視線を下げる。
そして、エイレーネがエルの方を向いた。
男らしい彼女には似合わない、申し訳なさそうな顔をしている。
「正直に言えば、バートには生徒会に入って欲しくないんだ。実力は問題無いんだが、性格に問題があってな……」
エルは言われた言葉の意味を察する。
「それはつまり、バルド=オークランス先輩に勝て、という事ですか?」
普通、こう言われれば視線を外してしまう物だが、エイレーネは視線を外さなかった。寧ろ、目に力が込められている。
「ああ。私達は君に、勝って欲しい。無理矢理ここに入れてしまった手前、図々しいと思うがこれが私達の望んでいる事だ」
一息入れ、エイレーネは続ける。
「だが、勝つ心積もりで試合をして負ける事になれば、冗談じゃなく掠り傷程度では済まない。負けるつもりであっても掠り傷は負うかもしれないが、勝とうとするよりも怪我をしなくて済む」
思っているよりも、バルド=オークランスという生徒は酷い人物なのかもしれない。
実際にバートがそうであるか無いかとは別に、そう思わせる程、エイレーネの声には切羽詰まった様な焦りの様な物が含まれていた。
「強制はしないし、出来ない。君が決めてくれ」
こういうのが一番困る。
勝つ積もりで試合をするという選択肢を取る場合。
勝てば、聞いた話からしてバルドがエルを目の敵にするのは確実。面倒な事が起こる確率100%と言って良いだろう。
負ければ最悪の場合、魔術師になる道が閉ざされるかもしれない。
負ける積もりで試合をするという選択肢を取る場合。
勝つ積もりで試合をする場合に挙げた事は回避できる。しかし、生徒会の人達に罪悪感を覚えるのは必至だ。エルは自分が言う程に優しい人間だと思っていないが、言う程に冷徹な人間だとも思っていない。内容によるけれど、頼まれた事を断る事に申し訳無さは感じる。
簡潔に言うと、生活の平和を取るか心の平和を取るか。この二つの選択肢になる。
まぁ、勝つ積もりで負けた場合、どちらの平和も得られなくなるが。
合理的に考えるなら、負ける積もりでバルドと戦うのが最善である。
であるのであるのだが、少なからず知っている相手をあっさり切り捨てるのは中々出来ないのが人である。
「…………」
正しく葛藤。
勝て、と命令された方が気楽なのに。
「……分かりました。勝つ積もりで試合に臨みたいと思います」
相手の実力が不明なので、期待をさせない為に断言はしない。
エルの返答に、エイレーネは勿論、その場にいる全員の表情と空気が緩む。
「そうか。ありがとう」
申し訳なさそうにしながら礼を言うオレスト。
「なら、絶対に勝ってねっ♪」
にっこり笑ってクラリスに首を縦に振れないお願いをされる。
エルの気遣いは遥か彼方へ旅立ってしまった。
「クラリス、そんなプレッシャーを掛けたら駄目だ」
エイレーネが苦笑して注意する。
クラリスはああ言ったが、彼女を含め誰も期待なんてしていないだろうとエルは考える。
それでもバートを生徒会に入れたくないという思いから、途轍もなく運が良ければあるいは、位は思っているかもしれない。
どちらにしろ、本気でエルに勝って貰おうと考えは無いに違いない。
「頑張ります」
エルは笑ってこう答えるしかない。
「頑張ってね」
左からキリルがエールを送ってくれた。
これには素直に返事をする。
「はい」
お読みいただき、ありがとうございます。




