第一話 ⅩⅢ 壱
お久しぶりです。
ⅩⅢは長いので、上中下ではなく、壱弐参四と分けました。
では、第一話 ⅩⅢ 壱 お楽しみください。
ベースの構築練習に入って、エルとロウェン、マリアの三人は手持無沙汰になった。
理由は簡単、ベースを構築できるからだ。
今三人は、ベースを構築しようと奮闘しているユウキとナディアとソフィアを並んで眺めている。
ユウキは何をするでもなく、突っ立ったまま、難しい顔をしている。
最初に5,6回挑戦して成功せず、そのまま次を試みることなく難しい顔を作った。
恐らく、魔力って何なんだろう、とか、何処にあるんだろう、とか、根本的なことに悩んでいるに違いない。
何故分かるのかと聞かれると、答えは昔ベースを構築しようとしていたロウェンが、今のユウキと同じ顔をして悩んでいたからだ。
そんなに難しい顔をして考え込まなくても、と思いながらエルは視線を動かす。
視線を向けた先には、ナディアとソフィアの双子がいる。
此方はユウキとは対照的に、顔を羞恥とは別の意味で赤くしながら必死に人差し指をぐるぐると動かしている。
まあ、見れば誰でも分かると思うが、気合と力を籠めれば出来る、という考えが丸見えだ。
因みに、これはマリアにそっくり。
そんなに力を籠めなくても出来るのに、と思いながらエルは外に目を向ける。
皆、似たり寄ったりだった。
苦戦しているユウキと双子を見かねて、ロウェンとマリアが手伝おうと歩いて行った。
ロウェンはユウキの方へ、マリアは双子の方へ。
昔の自分を見ているようで、焦れったかったらしい。
だが、魔術を論理的に頭でではなく、非論理的に自分の感覚やセンスで使っている上、他人に教えることが苦手な二人は果たして教えることが出来るだろうか。
エルは何もせず、ただ黙って二組を眺める。
頭の中に響いてきた、じゃあお前はどうなんだ? という問いを聞こえなかったことにして。
初めは二人とも眉間に浅い皺を寄せ、ボキャブラリーの少ない脳から言葉を捻り出しながら説明していた。
だが暫く経つと、ジェスチャーが増え、体で表すようになってきた。
何と言っているのかは聞こえないが、多分口の動きからして、擬態語や擬声語を駆使して、言葉で伝わらないことをもっと伝わらない表現で伝えようとしているのだろう。
あれで理解できる人もいるだろうが、それは稀だ。
そしてその稀に、ユウキ達三人は入っていなかった。
「………………」
困っている五人を眺めているエルは心の中で大笑いしていた。
笑っているが、反対に虚しいような、呆れたようなものを感じてもいた。
前者は、教えに行って言葉で説明していたのに、結局は身振り手振りで表現して全く伝わっていないことが二人らしくて面白い。
後者は、二人とも魔術学び始めて何年経つよ、ということ。
もう8年位経つと思うのだが。
なんて考えていると、いつの間にか集まって話し合っていた五人がエルの方に近付いてきた。
理由は分かっているが、敢えて聞く。
「どうしたんだ?」
ユウキが答える。
「どうしてもベースの構築が出来ないから、エルにアドバイスを貰おうと思って」
「俺よりスハイツ先生に聞いた方が良いんじゃないか?」
この勧めを双子が速攻で却下する。
「聞いても真面な答えが返って来そうにないから、ヤダ」
「出てきたとしても、それが出てくるまでに気力と体力を凄く消費しそうだし」
遠まわしに言うことも、オブラートに包むこともせず、直球で言ってくる。
ナディアとソフィアの横ではユウキが苦笑いしている。
双子の言い分を否定しないところを見ると、ユウキも同じ考えのようだ。
「かもな」
三人の気持ちが理解できるので反論できない。
基本、スハイツは生徒が質問をしても真面に答えない。
返ってくるのは。メンドい、他に聞けか、ふざけた答えばかり。
しかし、G組の生徒の殆ど、若しくは全員がこの考えに辿り着いていたとしたら、スハイツはとても楽だよな、と思うのだ。
これが狙いだとしたら、どれだけ面倒臭がりなんだろう、うちの担任は。
そして、ふと思い出して、ロウェンとマリアを見て言う。
「お前等教えに行ったよな?」
「「……はい」」
「駄目だった?」
「「…………はい」」
非常に気まずそうな答えが返ってくる。
「そうか」
二人をからかって、少し考える。
「……ところで、二人にベースの構築見せてもらったのか?」
そういえば、とエルは確認する。
「まだ見せてもらってない」
ナディアもそういえば、という様に返してくる。
「じゃあ、もう一度見て見たらどうだ? 何かヒントが得られるかも」
見れば出来るものではないが、価値はゼロではないだろう。
「そうだね。ロウェン、マリア、見せてー」
ソフィアが強請る。
「OK」
「いいわよ」
「ゆっくりな」
一言注意する。
「あぁ。んじゃ、やるぜ」
ロウェンがユウキと双子の前でゆっくりと円を描く。
三人はそれを凝視している。
そして、構築されたものには二つの絵があった。
一つは、右から左に斜めに描かれた木製の剣。
もう一つは、剣の後ろに立つ鳥頭で鳥の爪と翼を持った人間で、頭は白、翼は赤で、体は金色だ。
剣にはErivagil、鳥人間にはGaruda、と書かれている。
「これは何?」
ソフィアがロウェンに聞く。
「この剣はエヴァリギルっていって、名前の意味は『秀でた剣』。木製の魔法の剣だ。んで、鳥人間はガルダっていう名前で、『速く飛ぶもの』と称されてる聖鳥だ」
ロウェンはユウキに教えていた時とは反対にすらすらと質問に答える。
「ロウェンのには二つ絵が描かれているんだね」
物珍しそうにユウキが言う。
確かに、多くの人は絵や図が一つあるのみで、ロウェンのように二つあるのは結構珍しい。
「ねぇねぇ、マリアも見せて!」
ユウキが不思議そうにベースを覗き込んでいる中、ナディアがマリアを促す。
「えぇ」
短く答え、マリアも構築する。
マリアのものに描かれているのは、燃え盛る車輪だ。
Throneという文字が書かれている。
「何て読むの?」
ナディアが尋ねる。
「これはソロネって読むの。意味は『玉座』、『車輪』。ソロネは火の力を持ってて、唯一神である主の玉座を運ぶ、尊厳と正義の天使なの」
ロウェンと同様にすらすらとマリアも答える。
「天使なのに車輪なの?」
ソフィアが頭の上に疑問符を浮かべる。
「そうね。ソロネは大体、どの本にもこの燃えている車輪で表されてるわ。多分、名前の意味と力を表現してるんだと思う」
「ふ~ん」
ソフィアが感心して、フムフムと頷く。
お読みいただき、ありがとうございます。




