第一話 ⅩⅠ 下
三日ぶりです。
前書きが長いです。ご了承ください。
まず最初に金~月曜日に予定が入ってしまい、今週は投稿できそうにないので、今回は三日で投稿しました。
次にこの小説に評価して下さった方、ありがとうございます。
評価して下さったこと、また高い点数をつけていただけて、とても感激いたしました。
第一話 ⅩⅠ 下、楽しんでいただけたらと思います。
二人が振り返った先にいたのは、横に並んで立っている三人の男子生徒。
見た覚えがないので、恐らくH組の生徒だろう。
二人に声を掛けたのは、真ん中に立っている生徒のようだ。
後の二人はその生徒より一歩後ろの両脇に立っている。
その見た目は身分の高い人物とその従者と言った感じだ。
声を掛けた生徒は、エルとユウキが返事をする間も与えず言葉を続ける。
「うるさい、静かにしろ」
妙に上から目線で周りが自分の言うことを聞くのが当たり前、といったような言い方だった。
というか、別にエルとユウキは騒いでいない。
なのに何故、此方に文句を言ってくるのか。
それに一見、男子生徒はエルとユウキの二人に話しているように感じるが、目はエルしか見ていない。
つまり、ユウキを無視しているということだ。
真ん中に立っている男子生徒は平均より少し高い身長に、ワインレッドの髪に桑の実のような濃い紫色の瞳をしている。
右側に立っている生徒は朱色の髪に鼠色のような銀色の瞳で、男子の平均より大きく福与かな体をしている。
左側に立っている生徒は、からし色の髪に吊り上った苔色の瞳で、背が低い。
三人とも、ランクC,D,Eの色つきだった。
さっきの言動からして、色つき以外は話すに値しないと思っているのだろう。
厄介なものに絡まれたな、と思いながらエルは言葉を返す。
こういう時は無駄に反抗しない方が良い。
「騒がしくしてすまない。ナディアとソフィアには俺が言っておくよ」
エルは下手に出たつもりだったが、相手はそうは思わなかったようだ。
「格下の癖に随分な口の利き方だな?」
ワザとらしいものだったが、相手は明らかに機嫌を損ね、蔑んだ眼を此方に向けてくる。
「無礼な奴だな、礼儀ってもんを知らねえのか?」
「アマンシオさんには敬語を使え、敬語!」
右と左に控えている男子生徒がエルの物言いに食って掛かる。
彼らの台詞で真ん中にいる男子の名前が分かった。
「あぁ、悪い。次からは気を付ける」
早く終わらないかなぁ、と思いながらエルは会話を続ける。
脇に立っている男子二人に返したので、敬語は必要ないと思ったのだが、気に入らなかったらしい。
説明が面倒なので、右にいる男子を瞳の色からネズミ君、左にいる男子を髪の色を取ってからし君と呼ぼう。
「聞いてなかったのか、お前? 敬語を使えって言っただろ!」
「髪と瞳の色見て分かんねぇのか? アマンシオさんはお前より格が上なんだよ!」
彼らはそう言いながら、エルに迫ってきた。
「分かった。彼に敬語を使うのも、ランクが上なのも分かったよ」
ただ理解しただけで、承知してはいないが。
(俺は君らよりランクが上なんだけどなぁ)
彼らのルールに従うなら、ネズミ君とからし君はエルに敬語を使わないといけないはずだ。
だが、彼らに敬語を使うという気は欠片も感じられない。
エルよりランクが上であるアマンシオがいる為だろう。
正に、虎の威を借る狐、というわけだ。
恐縮する様子も怯える気配も全く見せないエルの態度に、舐められていると思ったのか、彼らのイライラが頂点に達した。
「お前、舐めてんのか?!」
右に控えていたネズミ君がエルの胸ぐらを掴みあげる。
次の瞬間。
「ぐあっっ!?」
驚きと痛みが混ざった声と共にエルの胸ぐらを掴んでいた手が離れる。
そしてエルの両脇には、もう幼馴染や親友という言葉では足りないほど近い存在である人物が二人立っている。
「おいっ! 離せっ!!」
からし君が、突然現れてネズミ君の腕を掴んだロウェンを睨みつける。
言われたロウェンがパッと手を離す。
解放されて、慌てて腕を引っ込めるネズミ君の目には涙が滲んでいる。
胸ぐらを掴んでいた手が離れたのは、ロウェンが掴んだ上に力を入れて握り締めたからだ。
それを尻目にマリアはエルの乱れた胸元を直す。
ここまで二人はずっと無言だ。
そのことが二人の怒りの度合いを如実に表していた。
まずロウェンが静かに口を開く。
「テメェ等に対する礼儀なんざ、欠片も持ち合わせちゃいねェよ」
続いてマリア。
「魔力ランクで格付けされるなんて考え方、500年以上も前に廃止されたわ。そんなことも知らないのかしら?」
「この……」
ダメージを負っていないからし君が言い返そうと口を開く。
「黙れ、サルバ」
発言を遮ったのはアマンシオ。
「は、はい」
言われた通り、サルバと呼ばれたからし君は返事をして口を閉ざす。
そんなサルバを一瞥もせず、もう一人にも命令する。
「下がれ、ガロ」
「…………」
その一言を聞いて、痛みに腕を擦りながらガロは黙って下がる。
逆に今度はアマンシオがエル達の前に出てくる。
最初から思っていたことだが、その姿はタチの悪い不良にしか見えない。
「どっちにしろ俺の魔力ランクがお前等より上なのは変わらない。それに俺はグラオデルタ帝国の貴族だ。魔力なんて関係なく、そこらの平民より格が上なんだよ」
訂正しよう。
タチの悪い不良ではなかった。
周りに甘やかされ過ぎて育った、世間のことを何も知らない我儘で自己中なタチの悪い不良のようなお坊ちゃまだった。
お坊ちゃまの言葉が続く。
「今の内に謝っておいた方が身のためだぞ? 俺に逆らったまま、タダで済むと思うなよ」
「謝れば許すのか?」
それだけではないだろう、という意味でエルは聞く。
「許すぞ? 土下座限定で、これから先ずっと俺に逆らわないって誓ったらな」
つまりはエル達に、下僕になれ、ということだ。
アマンシオ達は勝ち誇ったように嫌な笑みを顔に浮かべている。
流石にこれを受け入れる訳にはいかないので、エルは口を開こうとした。
だが、行動を起こすのが少しばかり遅かった。
「誰がテメェなんぞに地に手足ついて謝るかよ。ふざけんな」
「『タダで済むと思うな』? その言葉、そっくりそのままアンタに返すわ。その天狗より高い鼻っ柱、叩き折ってやる」
既に火の点いていたロウェンとマリアに、アマンシオの台詞は油を注いでいたのだ。
ロウェンとマリアの怒りはもう爆発寸前だ。
掴みかかっていないのが、まだ怒りを抑えている証拠。
普段なら、もう相手をボコボコにしている所だ。
「無礼者が。愚民の分際でこの俺に逆らったこと、後悔させてやる」
吊り上げていた口元を下げ、アマンシオが言った。
三人の間に一触即発の空気が漂う。
膨れ上がった空気が破裂しそうになったその時。
ガラララッ
大きな音を立てて、訓練室のスライド式のドアが開く。
ドアの向こうから現れたのは救世主、ではなくG組の担任スハイツとH組の担任であろう教師。
生徒達の表情と取り巻く空気を見て、スハイツは目を丸くする。
「ん? どうした、お前等? そんな変な顔して」
言いながら、丸くした目をぱちくりさせる。
対照的にH組の担任教師は無表情だ。
瞳は煉瓦のような明るい茶色で、髪は限りなく黒に近い消炭色。
第一印象は周りにも自分にも厳しそうな感じがした。
「あー、いえ。何でもないです」
言い合いはあったが、取っ組み合うことは無かったというのを、何かあったのか無かったのか判別するのはちょっと難しい。
ただの言い合い(今の所は)に教師を巻き込むのはどうかとエルは思い、黙っておくことにする。
「そうか? なら、講義始めるぞー」
ここで丁度、鐘が鳴る。
「G組の生徒はスハイツのいる右側、H組は私がいる左側に集まれ」
H組の担任の指示に従って、生徒が動く。
向かい合っていたエル達もここで離れる。
「……」
離れる寸前、アマンシオが此方をギリッと睨んできた。
エルはそれを無視して傍に居たユウキと双子と一緒に、とっとと右側に移動する。
ロウェンとマリアは睨み返していた。
移動している時に誰にも分からないように小さく息を吐く。
(面倒なことになった……)
これからアマンシオ達と毎回実習の時間に会わなければならない憂鬱と彼らに絡まれることを考えると気が重かった。
お読みいただきありがとうございます。




