第一話 Ⅹ
お久しぶりです。
何とか、月に更新三回という目標を達成できました。
今回は、ちょっと短いです。
もう少し書こうかな、と思ったのですが、長くなるので一旦区切りました。
一限目と違い、スハイツは十分遅れで教室にやって来た。
その歩みはキビキビしておらず、表情も緩んでいてだらしがない。
スハイツの一限目の様子は、本当にチョークを投げる生徒を見定める為の演技だったことがよく分かった。
まあ、呆れるが。
そんなエルの心情を余所に、スハイツは講義を始める。
「今回は、午後の実習でやる魔方陣について説明するぞー」
起立、礼、よろしくお願いします、という定番の挨拶がないのは同じ。
「魔術は魔方陣がないと使えない。んで、魔方陣は魔力を使って描く。そんくらい知ってるな?」
言いながら教室を見渡す彼に、生徒全員が無言で首を縦に振る。
頷かなければチョークを投げられると思っているのだろうか、その動きは普通の頷きより振りが大きく、速い。
その様子と生徒の心情に気付いていないのか、スハイツはそのまま説明を続ける。
「魔方陣の構造はベースと術式の二つで成り立っている。例えば、魔方陣を家と仮定すると、ベースは柱や土台、術式は壁や窓にあたる」
前言撤回、スハイツは気付いていた。
彼は普通に説明しながら生徒が分かりやすいように黒板に図を描いているように見えるが、その肩は細かく震えている。
完全に面白がっている。
そんな中、現在自分の腹筋を最大限に活用しているであろうスハイツの話は続く。
「ベースは魔術師が生まれつき持ってるもんで、他人のもんを使ったり、真似したりは出来ない。勿論、任意でベースの模様を変えるのも不可能。つまり、弄れないってことだ。
まあ、弄れないが様々な要因で多少変化することはあるけどな。で、諸説あるがベースはそいつの心や潜在能力を表してるって説が今は一番有力だ」
やっと笑いが収まったらしく、ずっと背を向けていたスハイツが振り返る。
「術式は、発動する魔術の効果や威力を設定するもんで、魔術っていう答えを出す為の計算式みたいなもんだ。簡単に言えば、そんな術式を魔方陣に書き込むかでそんな魔術になるかが決まる。術式は文字だけじゃなく、記号や絵柄を組み合わせることも出来る。こっちも研究されてるが、自分で術式を作ってオリジナルの魔術を持ってる術師は多い。それなりに構成を考えたり、実験を重ねる必要がある」
と、一度話を区切って彼は言った。
「別に頷かなかったくらいで俺はチョークを投げたりしないぞ。それに投げるのは余程のことがない限りロウェンとマリアの二人だけだから安心しろ」
彼は呆れたように苦笑し、最後にロウェンとマリアを見てニヤリと笑った。
「ま、ビビッてない奴もいたようだが」
ニヤリと笑った表情を崩さず、チラッとスハイツの目が一瞬エルに向けられた。
皆が頻りに頷いていた時、エルは一度しか頷かなかった。
あの短い間の出来事に気付いていたらしい。
さすが二級魔術師。
その後も講義は続き、2限目の終わりを告げる鐘の音が鳴る15分前に終了した。
「因みに構えているとこ悪いが、この時間はチョーク投げないぞ。ロウェン、マリア」
最後にスハイツがこの言葉を残してさっさと教室を出て行った。
フッと鼻で笑って去って行くその姿はロウェンとマリアにはさぞ憎らしく見えたに違いない。
彼が出て行った後、講義の間ずっと気を張っていたらしい二人は大いに悔しがった。
そして、午前中の講義が終わり、昼休みが過ぎて、皆さんお待ちかねの実習の時間がやって来た。
お読みいただき、ありがとうございます。




