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求め行く者  作者: 祓川雄次


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第4ラウンド

(第四ラウンド)

 久恵は愛する人を見守るだけで、何もすることのできないという、自分に対する無力さを感じていた。勿論試合が始まり、リングの中に入ってしまったボクサーを手助けできる人間など、誰もいなかった。セコンドも指示を出すという手伝いはできるが、それ以外ボクサーたちは自らの力で解決に導くことしかできないのである。

 だが久恵は何もできない自分が情けないとまでは思わなかった。後押しできるかどうかはわからないが、声援を送ることだけはできる。今はそのできる限りの事をしようとしていた。

「松崎さん、頑張って」

 その声が青コーナーの下で椅子に座る国松に聞こえたかどうかはわからなかった。

 福田はダメージを負っていながらも、最後に攻めきった国松に一つの事を確認しようとしていた。

「どうする、今までどおりにアウトボクシングをするのか、それともインファイトをするのか」

「どうしようか、今考え中です」

 パンチを貰い、赤く染まり始めた顔で、国松は答えた。

「とりあえずダメージはどんなものだ」

 源が確認をする。右側からロープの中に顔を入れている源に対して国松は

「大丈夫です。それほどではないですよ」

 とだけ軽く語った。そして思案をするために目を一度閉じた。


「このラウンド、もう一度行きますよ」

 ゴンザレスはカーキに対して、次のラウンドの行動を指し示した。

「ダメージを抜くほうがいいのではないか」

 国松の最後のパンチは効いているはずである。それゆえのカーキの言葉であった。

「いやダメージよりも攻めるチャンスだと思っています。拳にまだしっかりと感触が残っています。まだ松崎は効いているはず」

 その言葉を聞きながらカーキはゴンザレスの目をしっかりと見て、ダメージを再度確認しようとしていた。

「わかった、だがお前もパンチを貰っているんだ、状況を見ながら攻めて行け」

 そんな会話通りに、ゴンザレスはゴングを聞いた後に、すぐに国松との距離を詰めて、ワンツーを繰り出した。多少足にダメージを感じながらも、国松はステップを使い攻撃を側方へとかわして一定の距離を保った。福田に考えると言った結果は、アウトボクシングであった。

 その距離から繰り出す左ジャブは、試合開始の一ラウンド目と比べると威力は落ちていた。ダメージによる足の蹴りが弱くなっている事が要因であった。

「またアウトボクシングか」

 橘はこのままでは試合が一方的になっていくような嫌な予感を覚えた。今までのキャリアを覆すような国松のアウトボクシングは、決してレベルの低いものではない。日本のトップレベルであることは間違いない。だが今対峙しているゴンザレスは、それこそ何人もの挑戦者の夢を打ち砕いてきた実力のあるチャンピオンである。その挑戦者の中にはファイター以外にも、アウトボクサーも数多くいた。そのアウトボクサーたちの中には、今の国松よりもレベルの高い選手もいたはずである。その選手を慌てることなく仕留めてきたゴンザレス相手に、やはりにわか仕込みとしか言えない国松のアウトボクシングは、通用しないと考えられた。

「このままズルズルとは行くなよ」

 記者としてではなく、一ボクシングファンとして橘は思わず言葉を出した。

 ゴンザレスはカーキに言っていたように、前に出て国松を攻め立てた。しかし国松はその追撃をかわしながら、左ジャブのみで、後続打をあまり打たなかった。

 何発かのジャブがクリーンヒットするが、それが有効打とは思えなかった。逆にゴンザレスはコンビネーションパンチの数発を、やはり国松同様、クリーンヒットとは呼べないにせよ当てていた。

 それを考えると、四ラウンドは、どのジャッジもゴンザレスのラウンドにしたと見てよかった。


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