81
それからクリスタはシルフと『オレ攻め』の話でしばらく盛り上がっていた。
「詩織の時はメイン攻略対象キャラのアルトゥール皇子推しだったけど、今はマシューお兄様一択!」
「今の貴女はクリスタなんだから、マシューシスコンエンドになっちゃうじゃない。でもマシューは素敵だからクリスタの気持ちもわかるけど。」
「妹としてお兄様の幸せを誰よりも願っているの。」
クリスタとシルフの会話は平民の女友達のようなノリで弾んでいる。
親友のカーラとの会話も楽しいが、やはりカーラも貴族。カーラは恋愛感情が芽生えるよりも前から婚約者がいる事もあり、恋愛事情について話すには多少なりとも体裁は気にしなければならない。
「シルフは誰推しなの?」
推しの事とは言え、自由に好きな男性について語れる相手は、クリスタに転生してシルフが初めてだった。
「私はクーデレ眼鏡のチェイサー様推しよ。創造神様はヴァレリーだし、推し被りはいないわね。」
クーデレとは普段は口数が少なく、感情を表に出すことが少ないクールなキャラがデレデレする事の略で、推し被りとは好きなキャラ=推しが他の人と被る事である。
まさか四大精霊がオタク用語を普通に使いこなしているのに驚きだ。
「創造神と言えば……神様はあの本でハピエンに辿り着いたのかな?」
詩織から受け取った本で創造神はハピエンに辿り着いたのだろうか。
「一度だけハピエンに辿り着いたって言ってたわ。」
………一度だけ。
詩織は姉からもらった本の封を解いてすらいないからどのような内容だったかはわからないが、攻略本らしき本があっても一度だけとは。
やはり難易度高過ぎるゲームだ。
「私はまだファン歴が浅いから尊い本を読ませてもらえないの。」
シルフが『オレ攻め』を初めてプレイしたのはクリスタの洗礼後らしい。
「50回は初期化しないと見せてくれないって仰っていたわ。」
50回の最初からやり直し……それは相当やり込まねばならないだろう。
「私頑張る。」
小さな握り拳を作るシルフの瞳に本気が見える。
『オレ攻め』をプレイする事の出来る環境にないクリスタがあの本を読む為には、やはり天寿を全うして、創造神から返してもらうしか方法はない。
「じゃあ……神様ももう一回ハピエン見る為に頑張ってるのかな?」
こたつで蜜柑を食べながらぐふぐふ笑ってやり込んでいる創造神の姿を想像して笑ってしまう。
「創造神様は今ハピエンを目差しているのではなく、裏ルートを攻略中よ。それがまたすごく良いらしいの!!」
裏・ル・ー・ト?
「何それ?」
「詩織が持っていた本の中に追加データのメモリーディスクが入っていたらしいの。『オレ攻め』を別角度からプレイ出来るようになる裏ルートがプレイ出来るんですって。」
「何それ!?」
姉からもらった本に追加データが入ったディスクが同梱されていたなんて……それは詩織にとって衝撃の事実だった。




