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「少し外に出ようか。」
父に連れ出されたクリスタは、風がゴゥゴゥと吹き荒れる谷の上空にいた。
「ここは風の谷と言われる場所だ。」
「風の……谷。」
名前と目の前の風景が一致しない、とクリスタよ中の詩織が言っている。
白い鳥のような機械で飛んだら、一瞬にして風に巻き上げられて羽がもげてしまいそうな位渦巻く風がいくつもあって恐ろしい。
「精霊達がクリスタを見て喜んでいる。いつもより風が強く吹いているな。」
いつもよりも多く回していますと言わんばかりに自己主張をする竜巻とニコニコしている父を見比べていると、頭が痛くなりそうだ。
「私は先に入って挨拶をしてくるとしよう。クリスタは後からおいで。」
爽やかに笑って竜巻に身を投じる父の背中を見送るが、クリスタは動かない。
「後からおいでって言われても。」
この荒れ狂って渦巻く風の中に入るのはかなり勇気がいる。
父は精霊の姿が見えているから恐怖を感じないのかもしれないが、クリスタには精霊の姿は見えないのだ。
「ファンタジーな世界で生きていくのって思ってたより大変なのね。」
ファンタジーだからだけではなく、才能豊かな当て馬令嬢に転生したから大変なのだろうか。
父が優秀な魔術師は極端から極端に走ると言っていたが、父も大概だ。
もしまた転生する機会があれば、次は剣も魔法もない世界でモブの中のモブに転生したい。
「クリスタ!風は私達を傷付けない。精霊達が守ってくれるから安心しなさい!」
父の姿は見えないが声だけは聞こえる。
「安心しろって言われたって……。」
目の前で唸る風。
風は気圧の差によって生じる、と詩織の記憶にある。
科学的に考えるから精霊が見えないのかもしれない。
そう思いつつも詩織の記憶もクリスタの一部だ。
「クリスタ!」
とりあえずは精霊云々よりも、今はどうやってこの暴風に入るかを考えなくてはならないらしい。
「そうか、精霊が見えれば良いんだ!」
風の中に入るのを躊躇うあまり随分うだうだ考えてしまったが、父のように精霊の姿が見えれば怖くないと考えたクリスタは、魔力を分け与える為、暴風に向かって魔力を放出し始めた。
キラキラと輝くクリスタの魔力が暴風の中に吸い込まれると、暴風の勢いが更に増していく。
「どうして?」
暴風を通り越してもはや烈風だ。
叫ぶような風の音に呆然もするクリスタだったが、烈風の中からクリスタを呼ぶ精霊達の声に気がついた。




