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ヒュドール……一緒にいた時間は短いが、あの時芽生えた友情は今でもクリスタとベンヴェヌードの胸に残っている。
「どうか無事でいて。」
彼は今どうしているのだろうか。
クリスタは今でも離す事なく、ヒュドールから預かった指輪を特殊合金で出来た鎖に通して首からかけていた。
この古くて重い指輪は親友の証。
クリスタはマシューとベンヴェヌードと別れて部屋に戻ると、ヒュドールの無事を夜通し祈った。
翌日
眠れぬ夜を過ごしたクリスタは、マシューや朝早くからやってきたベンヴェヌードと共に、セフィロスによるスパルタな軍事訓練を強制的に受けていた。
「クリスタも筋が良いなぁ。」
武器を持たず、体術のみで怒涛の攻撃を繰り返すセフィロスの拳を、クリスタは長い棒を用いた棒術で受け流している。
「伯父様に褒めて頂けるなんて、光栄ですわ。」
さすがはハイスペック当て馬令嬢……と、言いたいところだが、セフィロスの猛攻を受け流すので精一杯でクリスタからは攻撃が出来ない。
何とか攻撃出来ないかとチャンスを伺っているのだが、このままではクリスタの体力が尽きてしまいそうだ。
「筋は良いが…、力が足りない!!」
セフィロスの重い一撃が来る!
セフィロスが攻撃を繰り出す前にクリスタが一歩後退し、持っていた棒をセフィロスに投げ付けてワザと折らせ、攻撃の軌道を逸らして躱した。
そして僅かに体勢を崩したセフィロスの隙を付いて蹴りで攻撃をしようとしたクリスタだったが、クリスタの攻撃等お見通しだったセフィロスに足払いをされ転んでしまう。
「!」
地面に手を付いてなんとか体勢を整えようとしたが、クリスタの目前にセフィロスの拳がビュンと音を立てて迫り、止まった。
「オレの勝ちだ。」
激しい動きに荒い息を吐くクリスタと違い、セフィロスは余裕そのもの。
「そんな眠そうな顔してたら軍人にはなれねぇぞ?」
がっはっはっと笑うセフィロスの言うように、昨晩眠れなかったクリスタは目の下にクマが見える。
ヒュドールの無事を祈りつつ、一晩中ヒュドールの事を考えていたら眠れなくなってしまったのだ。
「さすがテレーゼの娘だ。」
それにしてもセフィロスの妹である祖母でもなく、父でもなく、母テレーゼの名前が出てきたのは何故だろう。
「クリスタって強いな!最後のあの体勢からの蹴り!令嬢じゃないみたいだ!!」
令嬢じゃないみたい……。
ベンヴェヌードの言葉通り軍事訓練を受ける貴族令嬢などなかなかいないだろうが。
「それ、褒めてるの?」
貴族令嬢の身としては少々複雑だ。
「もちろん!」
「ほら、クリスタ。」
ニコニコ笑うベンヴェヌードの横からマシューがクリスタを立たせる為に手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます、お兄様。」
その手に捕まって立ち上がると、マシューがクリスタの汚れた服を払ってくれる。
「クリスタ。お母様は淑やかに見えるが、現役時代鬼神と呼ばれていた程の猛者なのだよ。」
母が鬼神?現役時代?
母は結婚前は帝国立宮廷魔法師団で魔法師として働いていたはず。
首を傾げるクリスタにマシューは自嘲気味に笑った。
「よく考えてごらん?ラフォレーゼのお祖父様お祖母様でさえ扱いに困る、あのガドリン夫人を抑えてお父様と結婚したんだよ。ガドリン夫人もお母様には敵わなかったらしいし。」
「あの母様がっ!!」
ガドリン夫人の実の息子であるベンヴェヌードもびっくりの事実にクリスタも驚愕を隠せない。
「世の中にはな……怒らせちゃならない人間ってのがいるんだ。テレーゼだけは何があっても怒らせるなよ。」
遠い目をするセフィロスに、母だけは絶対に怒らせないようにしようとクリスタは思った。




