59(また別のお話)
「あぁ…、尊い。神が尊ぶ本などけしからんが尊い。」
本開く事なく頬ずりしたり抱き締めたりしている神が気持ち悪い。
「生まれ変わる為の世界もなく、ただ消滅を待つ魂だけのお前にはもう不要な物だろう?これは大ファンである私がもらう。」
「嫌よ。私の物をあげるわけないでしょ。」
私が譲る事を拒否した直後、神の手にあった本が消え、私の手の中に表れた。
「私、この本の絵好きなの。これは私の本よ。人に渡す位なら一緒に消えるわ。」
「クッ……大ファンとして、その心意気は認めねばなるまい。同じ大ファンからの尊い本の奪略行為は万死に値する。しかし、所有者の魂から取り出した物は所有者の物。魂が消滅してしまえば本も………神とは言え消滅したモノは蘇らせられん。」
ふぅん、奪った物でも私の物なのね。
神って言ってもあの情けない顔…、良い気分だわ。
「ならば、私にその本を預けると言うのはどうだ?私が新しい世界を作り、消滅してしまう魂らを尊き本と共に救おうではないか。」
「預ける?」
「うむ。新しい世界への初回転生サービスとして、今の記憶を残したまま転生させてやろう。新しき世界はこの尊きゲームに似せた世界にし、神に選ばれし者特権として、各能力の底上げに加え、好きなポジションを選ばせてやる。ヒロインはもちろん、イケメン攻略対象でも構わぬ。」
つまり『オレ攻め』の世界に転生出来るって事ね。
しかも男女問わず好きな役で。
「あの豪華なドレスが着れるのね?」
ヒロインのデビュタントのドレス……素敵だった。
しかもヒロインになればイケメンが選り取り見取り。
心が大きく揺れた私を見て、神はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「もちろん声もそのままだ。」
「!」
『オレ攻め』では登場人物の声はどのキャラクターもわずかしか聞く事は出来ないが、全ての攻略対象も恐ろしく声が良い。
「声がそのまま…?」
「さて、どの役柄を選ぶ?そこの…しおりはヒロインなんてどうだ?」
ヒロインって言ったら主人公じゃない!
主人公が1番良いに決まってる!!
しおり……それは私の名前だけど、神の視線からそれは私ではないようね。
「ヒロインは私よ!主人公の座は誰にも渡さないわ!!」
私の叫びに神の目が丸くなった。
「そ、そうか?魂の色が柔らかいしおりの方がヒロインのイメージに相応しいと思うが。」
魂の色?
何それ?
全てを兼ね備えて、みんなに愛される私こそがヒロインに相応しいのよ!
フンと鼻を鳴らすと神は多分もう1人でいるしおりの方を冷めた目で見た。
「クリスタか……。まぁ良かろう。」
クリスタ?
確か……ヒロインのライバルキャラだっけ?
当て馬令嬢ってやつ。
あんまり覚えてないけど、私じゃないしおりはクリスタを選んだのね。。
神もふんと鼻を鳴らすと神は何かを取る為に手を伸ばした。
「涼し気な顔で成績上位をキープするような当て馬の女が良いのか。」
当て馬女…私はそんな物にはならない!
「私がヒロインよ!!」
私が本を神の足元に投げると、その瞬間辺りが白く包まれた。
「イメージと違うが…まぁ良かろう。これから転生する世界は神である私の私的感情から、多少?干渉するが、ゲームではなく現実の世界だ。」
そう言う神の視線は本へと向いている。
少々惜しいが、新しく出来る世界はヒロインである私の為の世界。
ふふふ!私こそがヒロインよ!!
「尊き本よ。私をハピエンに導いてくれ。」
不意に神の姿が遠ざかる。
「……?……!!」
何かに吸い込まれる!
落下している?
神が何かを言っていたが、私にはもう届かなかった。




