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盆地と屋敷の往復に使うトロッコは、祖父が若かりし時に祖母を湖デートに誘うために作られた物で、今は誰も使ってはいないと言う。
トロッコの動力源は当時の祖父が魔力を惜しみなく使って作った魔石だ。魔石がトロッコの後ろに貼り付いている。
魔石とは魔力の結晶。
この世界で魔力は、呪文を唱えれば魔法に、魔石として道具に組み込めば電池のようにさまざまなエネルギーとして活用されているが、それは一般貴族の事だ。
祖父やクリスタのように上位精霊の洗礼を受けている者が作る魔石には、洗礼を施した上位精霊の強い力を込める事が出来る。
祖父やクリスタの精霊の力は風で、トロッコの動力源として付加した魔石から風が出てトロッコを風力で押し動かす使用になっている。
ただ、若かりし頃の脳筋真っ只中な時期の祖父が全力で作った魔石故に制御をするのは作った本人でさえもかなり困難らしく、力加減を間違えてしまうとトロッコが空を物理的に飛んでしまうらしい。
トロッコの初乗員であった祖母は魔石から出た竜巻でトロッコ毎吹っ飛んでしまい、数日後に馬で丸2日は走らないと帰って来れない距離で発見されたと言う。
脳筋祖父と結婚出来る頑丈な祖母でなく、か弱い令嬢だったらどんな惨状になっていた事か。しかし、その2人を怯ませるガドリン夫人の押しの強さは恐ろしい。
話は逸れたが………脳筋祖父の作った制御の困難な魔石ではあるが、同じ洗礼を受けたクリスタには別。
祖父とクリスタの風の魔法は共に風の精霊シルフの力で、それに加えてクリスタの母は魔法の才能豊かな女性であり、その才能をもクリスタは受け継いでいる。ゲームの中のクリスタは風の力だけでなく、一般貴族の使う魔法も使っていた。
「よしっ!行くぞっ!!」
意気揚々とトロッコに乗り込んだベンヴェヌードに引き摺られるようにトロッコに乗り込んだクリスタは、祖父の作った魔石を良い意味で力の弱い魔石に組み換える。
それを見ていたブルーノとマシューも恐る恐るトロッコに乗り込むと、トロッコは緩やかに動き出した。
湖までは下り坂。
加速していくスピードの中、風が気持ち良いとはしゃいで歓声を4人だったが、このトロッコにはアクセルはあってもブレーキがないと言う事に気付いて歓声がパニックに変わるのにそう時間はかからなかった。
「!!?!?」
更に加速するトロッコに声にならない悲鳴を上げるブルーノ、トロッコの後方にしがみつくベンヴェヌード。
クリスタを守るように抱きしめて前を見据えるマシューに、マシューにしがみつく半泣き状態のクリスタ。
何故誰もこのトロッコを使わないのか、その理由がよくわかる。
「そうだ!」
ベンヴェヌードが閃いた。
「マシュー!向かい風吹かせてトロッコを停めてくれよ!!!」
風をブレーキにしようと言うアイデアのようだ。
「出来る?」
マシューの問いに、クリスタが頷いて応えた。
「リヴァース・ヴァン!!」
クリスタの魔法でトロッコを押し返す逆風が激しく、そして強く吹く。
「頑張れ!マシュー!!もうすぐ湖だ!!」
ベンヴェヌードの言葉に前方を確認すると確かにある湖。このままのスピードでトロッコが進んでしまうと……池にボチャンは免れない。
それは嫌だ。
トロッコを押し返す風が強まり、徐々にスピードが落ちていく。
「停まった。」
湖の直前で無事に停まったトロッコの中でブルーノは静かに崩れ落ちていた。




