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10歳になったクリスタが受ける洗礼とは、その身にその土地の精霊や妖精の力を結び付ける儀式の事だ。
非常に無垢である精霊や妖精は、その無垢さ故に己の欲望に忠実で善悪の区別がない。その為、時に子供が積み木を崩す感覚で残酷な事をしてしまう。
何故10歳かと言うと、無垢で強大な精霊や妖精の力を無垢な子供に与える事の恐ろしさを危惧した神が人の子が善悪の判断が出来るまでは力を与えてはいけないと決めたからと言われている。
一般的な金の髪と青い瞳を持つ貴族は下位の名前を持たない精霊の力を宿す事が出来、本人の資質によっては複数の精霊の力が与えられる。そして貴族でも茶色の髪や瞳を持つ者に与えられるのは妖精の力だ。
しかし、クリスタの様に一般的でない珍しい色の髪と瞳を持つ者は上位の名前を持つ精霊の力が与えられると言う。
上位の精霊の力を与えられる家系は国内でも2つしかなく、その内の1つがクリスタの家系だ。
しかし、因子を持っている家系だとしてもその世代に1人……多くても2人しかいない。
1人もいないと言う事もあると言う。逆に、祖父、父、クリスタと続けて生まれる方が稀である。
「では、洗礼を始める。」
クリスタに洗礼を与えるのは祖父。
立会人は家族である父と兄のマシューだけ。
金の髪の因子は教会の司祭が行うが、銀の髪と碧い瞳の洗礼は同じ因子を持つ者しか出来ず、銀の髪と碧い瞳の者は必ず洗礼地の守護者を決め、精霊と契約して洗礼地を護らなければならないと言う決まりがある。
それでも旅行などで1年の内の半分程度は土地を離れても良いらしく、契約者である祖父は祖母と共によくマシューとクリスタの顔を見に来ていた。
祖父の次は父かクリスタがこの土地を護る事になるだろう。
「クリスタ……ここに膝を付きなさい。」
祖父の前で祈るように跪くと、ふわりと優しい風がクリスタを包んだ。
「風の乙女シルフよ。貴女の風に祝福されし子に風の心を届けよう。その風は大地を走り、火を煽り、水を靡かせ人を癒す。時に刃となり、壁となり、嵐となる。」
小さな竜巻がクリスタを中心に巻き起こるが、クリスタには優しく風に抱かれているように感じる。
「風は息吹。風の恩恵なくなりし時、大地は腐り、火は消え、水はその流れを止める。風は自由。自由な風をその心に纏い、その心は空と共に。風の子に祝福の光を授け給え。」
小さな竜巻から碧い光の粒子が舞い、碧から銀、そして銀から碧へと発光幻想的に美しく発光しながらクリスタの体へと吸い込まれるように入っていく。
風の精霊の清涼な力……クリスタはそれをとても気持ちが良いと感じた。
「風の洗礼は成された。これ程の力を授かるとは……私やブライトよりも祝福の光が遥かに多い。」
祖父の感嘆の声に頭を上げると、にこやかに…嬉しそうに微笑む祖父の顔がある。
洗礼は無事に終わった、そう思いホッと息を吐いた時だった。
「?!」
急に先程の碧く、銀色に輝く光がクリスタと祖父の間で発光した。
突然の強い光に狼狽えて目を閉じてしまったが、この光は悪しきものではない……むしろ心地の良いものだと本能で感じる。
「ま、まさか!風の乙女か?!」
祖父の声に眩しくも目を開けると、そこには銀色に輝くナニカ…、姿形こそ見えないが、確かにそこに在る。
『私は四大精霊の1人。人の子がシルフと呼ぶ者。』
そこに在るのは風の精霊シルフのようだ。
四大精霊と地・水・風・火の四大元素の中に住まう精霊で、クリスタがいる世界の精霊の中で最上位の精霊である。
祖父はその場で跪き、遠巻きに見ていたも父やマシューも跪いている。
『クリスタよ。貴女に創造神から伝言と加護を預かっています。受け取りなさい。』
今度は虹色に輝く球体がクリスタの前に現れた。球体をそっと掴むと一層強く輝いた。
「こ、これは!!」
クリスタの手にあるのは『オレ攻め』の中の守護の指輪と呼ばれるアイテムで、これを身につけていると一度だけその身を守ってくれると言うレアアイテムだ。
『創造神が素晴らしくも尊き本の礼として貴女に作った物だ。寿命が尽きたら私の下に来ると良い。きっと驚く。それまで好きに生きよ。とおっしゃっていました。』
この世界を作ったのはあの時の神なのだから、確かに創造神だと納得。きっと効果もゲームのままなのだろう。
「ありがとうございます。」
クリスタの声は創造神に届いたのだろうか。クリスタが守護の指輪をそっと手で包み込むと、風がクリスタの頬を撫でるように揺れ、シルフは消えていった。




