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白く凍りついて湖はまるで時間すら凍りついていてしまったかのように見えたが、時は確実に動いている。
「懐かしいな。」
そう呟いたのはマシューだ。
「ええ、本当に。」
祖父の作ったトロッコで爆走した時の、トロッコに乗る選択した事をとても後悔したあのスリルは、今となっては良い思い出だ。
「でもさ、マシューがクリスタで、あのクリスタがマシューだったなんてさ!今でもびっくりだ!」
まぁ、それは確かに……とクリスタは思うが、ベンヴェヌードを睨むマシューの冷たい目線が恐ろしくて口には出せない。
「兄貴なんて、未だに立ち直れてないし!あの時のマシューがクリスタだって事にも気付いてないんだぜ!」
マシューの凍りついた湖並に冷え冷えとした目線に気付く事なく笑うベンヴェヌードに感心する。
「そうなの?」
あの時のクリスタがマシューなら、あの時のマシューは誰なのかとは思わないのだろうか。
「そんな事より!湖をどうにかする事を考えようか?」
にっこり微笑むマシューの絶対零度の怒りにようやく気付いたベンヴェヌードは、顔色を悪くして頷いた。
「その事だが、クリスタの周りにいる精霊達が助言をしている。力を分け与えてあげると良い。」
クリスタは祖父に言われるまま、周りにいるだろう精霊達に力を注ぐように魔力を放出すると、まず風に属する自然精霊達の姿が現れる。
次いで草花や木々の妖精が現れ、地に属する自然精霊達も現れた。
「あのね、クリスタ。あのね!」
風の自然精霊がクリスタの肩に座ると、口をクリスタの耳元に寄せてくる。
「この湖を元通りにするには、火の四大精霊サラマンダー様の力が必要なんだけどね。創造神様がね、対価をくれれば元通りにしてくれるって。」
「対価?」
創造神の申し出はありがたいし、創造神ならすぐに元通りにするのも可能だろうが、クリスタが払える対価など思い当たらない。
「クリスタの魂は宝物庫だって、創造神様がね、言ってたの。」
クリスタの魂は宝物庫。
その言葉に、ふとクリスタに転生する前に、創造神に渡した本の事を思い出した。
あの時、確か創造神はあの本を所有者の魂から取り出したと言っていた覚えがある。
もし、詩織の持ち物が魂から取り出せるのなら……クリスタの魂と言うより、宝物庫なのは詩織の魂なのだろう。
「対価……ね。」
コアな『オレ攻め』ファンだった詩織には秘蔵のコレクションがたくさんあった。
その中で創造神の欲しがりそうな物はあるだろうか。
「神絵師による騎士の腐向け10冊限定の…幻の薄い本…とか?」
詩織のコレクションの中でもレアなその本は、コミケで前日から並んで抽選券をもらい、また抽選する際にも長々と炎天下な並んで、ようやく手に入れたファンの中でも幻の薄い本だ。
その限定の10冊にだけ、神絵師が渾身の力で書いたフルカラーの絵が特典として付いていて、クリスタがその1冊を手に入れたのはまさに奇跡だった。
《ぬっほぉぉぉお!》
どこからともなく聞こえた創造神の声が、プリティうさぎを想うヒューを思い出させる。
《この神ですら手に入れる事の出来なかったあの幻の本だと!!》
同性でジャンルが合えば創造神とヒューは良き友人になれるだろうな……と考えていると、クリスタの中から光り輝く何かが飛び出した。
光の球体なのに、これが幻の薄い本だとわかる。
「クリスタ?」
クリスタを呼ぶマシューの憂いを帯びた顔も麗しいが、マシューにはもっと笑顔でいてもらいたい。
「受け取って!」
クリスタを……幻の薄い本を目掛けて光の柱が落ちてくる。
《しかと対価は受け取った。》
光の柱が膨れ上がり辺り一面を包み込むと、視界が一気に真っ白になった。




