089 艦隊戦6
北の峡谷までラーケンとレオパルドを見せつける示威行動をとった翌日、俺は第13ドックで魔導砲塔1を受領してルドヴェガース要塞に帰って来た。
さっそくラーケンの前甲板にあるダミー砲塔と魔導砲塔を換装する。
魔導砲塔は基部の魔力エネルギー伝送管部分も含めてユニット化されている。
そのため、ダミーをインベントリに入れ、インベントリ内の魔導砲塔をその場に出すという、重さを一切感じることのない作業で換装が終了した。
エネルギー伝送管の接続は機関室のゴーレムが行う。
これでラーケンの魔導砲も使用可能になった。
ラーケンとレオパルドにはキルト族から乗組員を抜擢して乗せた。
彼女たちは元キルトの軍人であり、大けがをして四肢のいずれかを欠損していたため、殺されることなく奴隷として売られていた。
北の帝国にとって四肢を失い役に立たない兵は殺すか奴隷にするかの二択であり、彼女たちが女性であったために女の部分が役に立つと判断され性奴隷として売られたのだ。
彼女たちは、俺がリーンワース王国に蒸気砲の対価として要求した奴隷解放に引っかかり、ズイオウ租借地へと連れて来られたのだ。
彼女たちの部位欠損は俺が『リカバー』の魔法で治した。
そのため、彼女たちは俺に対する忠誠度が高く、リーンワース王国のバカ貴族のような真似は決してしない信用のおける部下となっていた。
「アルタンがラーケンの艦長、ムンフがレオパルドの艦長だ。
一層の忠誠に励んでくれ。
艦の名前も君たちでつけていい」
「「はい。光栄の至りです」」
アルタンとムンフは悩んだ末、ラーケンとレオパルドを、そのままの名前で使うことに決めた。
敵の陸上戦艦をぶん捕ったということを名前を残すことで誇示する目的があるらしい。
彼女たちの下には運用要員として各艦キルトの女性兵10人と200番代ゴーレムを5台配備した。
今後は艦長1人に兵10人、200番代ゴーレム5台が陸上戦艦運用の基本パックということになる。
運用は音声認識。艦長に管理者権限の一部を委譲し艦を指揮してもらう。
先行して艦を預かったザーラシア艦長ミーナとルナワルド艦長ウェイデン伯爵の指導の下、慣熟訓練と艦隊行動の演習をしてもらう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
3日後、オライオンとパンテルの修理が終わった。
早速第13ドックに転移で引き取りに行き、2隻をルドヴェガース要塞に持って来た。
この2隻の艦長はウェイデン伯爵の推薦による騎士シルヴィスと、アルタンの副長を務めていて才能を示したドルマ―に任せることにした。
乗組員は慣熟度に差がついてしまうためルナワルドとラーケンから半分ずつを移籍させ新人を補充した。
シルヴィスがオライオン、ドルマ―がパンテルの艦長だ。
つまりこういった配置だ。
エルシーク艦長クランド 以下ルナトーク騎士10名
ルナワルド艦長ウェイデン 以下ルナトーク騎士5名+新人騎士5名
ザーラシア艦長ミーナ 以下ザール兵10名
ラーケン 艦長アルタン 以下キルト兵5名+新人キルト兵5名
レオパルド艦長ムンフ 以下キルト兵10名
オライオン艦長シルヴィス 以下ルナトーク騎士5名+新人騎士5名
パンテル 艦長ドルマ― 以下キルト兵4名+新人キルト兵6名
これがキルト=ルナトーク=ザール王国の艦隊人員の配置となる。
11人で艦が運用出来るのかという疑問を持つだろうが、ほとんどシステムが代行してくれるのだ。
運用に必要なのは艦長の音声指示と見張り程度であり、残りはいざという時の護衛兼危機管理要員だ。
ザール人の担当艦が少ないが、彼らは傭兵として働いているのであまり気にしていない。
雇われれば参加するという立ち位置なのだ。
なので公職についているザール兵しか乗組員としては使っていない。
この後、リーンワース王国所有のリグルドとジーベルドが直されて戦線に復帰するが、こちらは魔導砲を降ろして重力加速砲を主砲として搭載する。
これは特別製で第13ドックにて武器ユニットとして製造されている。
給弾、照準、射撃と全て自動で行い艦橋からの指示で発射できる。
システム中枢と魔導機関、魔力ストレージは完全隔離、絶対に弄らせないブラックボックスとした。
もしブラックボックスに何らかの手を加えようとしたら艦全体のシステムを落として動かないようにする。
そこには味方への発砲阻止など安全に関わる手立てを何重にも張り巡らせた。
味方に対してここまでしないとならないのは苦渋の決断だが、貴族という名のジャイ〇ンがいくらでもいる国なので仕方ないと諦めた。
何か起こった後では挽回不可能なのだから。
乗組員の選択はリーンワース王国に丸投げだ。
くれぐれも足を引っ張らない人選をしてもらいたいところだ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
リグルドとジーベルドの修理が終わり、乗組員も操艦に慣れた頃、北の峡谷に動きがあった。
峡谷を塞いでいた5隻が後退したのだ。
ルドヴェガース要塞の作戦指令室に集まった俺たちは対策会議を開いていた。
出席者は要塞司令のブラハード将軍と俺、各艦の艦長たちだ。
リーンワース王国が選んだ陸上戦艦の乗組員たちは選りすぐりの人選らしく、みんな問題を起こさない良い所の出の貴族のようだ。
貴賓があり、それでいて貴族を鼻に掛けず、傍若無人な態度もとらない貴人たちだった。
まあ戦いに向いているかといったら微妙なんだが……。
「この後退は撤退と見るべきか?」
ブラハード将軍が俺に意見を求めて来る。
陸上戦艦の運用なんて専門外だからだろう。
いや、俺も専門家ではないんだけどな。
この中では陸上戦艦に触れている時間が一番長いのは間違いないが、戦略戦術に関しては素人だぞ。
だが、俺にはこの世界にない地球の知識がある。ゲームの受け売りだがな。
「おそらく誘いだろう。峡谷の出口で大艦隊で待ち構えて各個撃破する戦術かと。
なにしろ峡谷は陸上戦艦1隻が通るので精いっぱいの幅だからな」
「となると北の帝国は援軍が来たということだな」
ブラハード将軍の顔が渋面になる。
「魔導レーダーも峡谷の先は崖が邪魔で探知できない。
山脈を越える高さまで高度を上げれば探知可能でしょうが、それだと敵の魔導砲の的になる」
どうするべきか。
もう一つ手はあるが、それも危険を伴うんだよな。
「もう一つは峡谷の先への強行偵察なんだが、これも的だな」
防御魔法陣を多重にかけて魔導レーダー照射の一瞬だけ耐える。
そして速撤退。出来そうだが、あまりにも危険だ。
「とりあえず北の要塞を奪還して峡谷の出口を塞ぐ。
後は様子見だ」
ブラハード将軍は危険を冒すつもりは無いらしい。
リーンワース王国としては、国土が保全されるのが一番だろう。
陸上戦艦が2隻も手に入ったし、戦争の収支でいえばプラスだろう。
「となると俺たちの撤退時期が面倒だな」
いつまでもここに駐留するわけにはいかないぞ。
「いつかは北の帝国もしびれを切らす。その時が決戦だ」
ブラハード将軍の鼻息が荒い。
俺としては北の帝国が戦力を揃える前に少しずつでも敵の戦力を削りたいところなんだけどな。
とりあえず北の要塞に重力加速砲を配備して峡谷に侵入する敵陸上戦艦を撃破出来るようにしておこうか。
それなら時間稼ぎも出来るから俺たちは帰っていいよね?




