088 艦隊戦5
1日半後、第13ドックにてザーラシアとレオパルド、ラーケンの修理が完了した。
俺は直ぐに第13ドックへと転移し、3隻をインベントリに引き取ると直ぐにルドヴェガース要塞に引き返し配備した。
これでこちらの陸上戦艦は5隻となり、現時点での北の帝国との戦力差は5:5になった。
ただし、こちらの魔導砲は5門――エルシークが2門搭載なので――、北の帝国は1門で砲撃能力は圧倒的に有利になった。
ラーケンの魔導砲はダミーだが、敵にそれがわかるわけがないので抑止力としては有効だろう。
その代わりラーケンの前甲板――魔導砲塔の前方――には大型重力加速砲を装備して攻撃力アップをはかっている。
ラーケンの魔導砲は明後日になれば完成するので、また第13ドックに取りに行ってここで換装する予定だ。
北の峡谷には相変わらず5隻の陸上戦艦が留まっており、俺たちが北の帝国領へと侵入するのを阻んでいる。
陸上戦艦の運用に一日の長のある北の帝国は、さすがに陸上戦艦の戦闘力が自らに向いた時の恐怖を知っているようだ。
これは時間稼ぎだ。北の帝国に増援がやって来る前になんとかしたいところだ。
光魔法の魔導砲は直線的にしか撃てないので、地平線の先の敵艦を撃つことは出来ない。
この世界は、亀の上に乗った平坦な円形の地面で、地の果てでは海が滝となって落ちている、なんてことはなく、普通に球体の惑星だ。
球体であるがために、地平線の先は球体のカーブの先となり、直接見ることも直線的な射線の魔導砲を当てることも出来ない。
陸上戦艦が地面から20m浮上していて、艦底から上面の魔導砲までの高さが10mあるとする。
単純計算だが、この魔導砲の最大射程距離は地球で19.5kmということになる。
だが、この惑星の大きさがピッタリ地球と同じわけがないだろう。
なので実測してみた。必殺武器の最大射程を知るのは陸上戦艦の運用上必須だからね。
すると驚くことに最大射程距離の誤差は0.1km未満、ほぼ地球と同じだと判明した。
そういや、ここは神様が選んだ俺が指定した条件に都合の良い世界だった。
長さの単位も地球のメートル法と同等――これは惑星の大きさから単位を決めているからあれだが、自分を基準に考えても同じような長さだった――と都合が良かったし、時間も1日24時間とか重力も1Gだとか、この惑星が地球と同等であるための条件が整い過ぎていた。
今までも艦の長さとかをmで表現していて何ら問題がなかったのもこのせいだ。
この世界の人が自分たちの単位で1なんとかと言ったものが、言語の極で自動翻訳されて1.164mなんて聞こえても迷惑だからね。
お互いそんな細かい数字を言い合っていたらストレスが溜まるし、俺が変人だと思われる。
つまり、相手が標準的な高さ――20m――に浮上している陸上戦艦であれば、魔導砲の最大射程距離は20kmぐらいということになる。
戦艦大和の主砲が射程距離42kmと言われているからおかしいと思うかもしれないが、これは砲弾が放物線の弾道を描いて水平線の彼方に届くからだ。
ちなみに魔導砲や重力加速砲を200km先の敵に向けて撃ったとすると、手前の地面に穴をあけることになる。
そのエネルギーが地面を掘り進めるほどなら、200km先の地面まで穴を開けて敵に当たるという絵面になる。
海上なら海の中からという絵面だ。
ちなみに重力加速砲はその弾速が破壊力の決め手なので、弾道弾で当てるには速度を殺して調節するしかない。
それでは威力が期待できないので蒸気砲と同じ爆裂弾を撃ち出すことになる。
これは蒸気砲より射程距離が長くなるという利点しか生み出さない。
他にも魔導砲の射程距離を延ばす方法はある。
陸上戦艦が高度を上げればいい。
例えば高度1000mまで浮上したとする。
すると最大射程距離は113kmにも達する。
まあ光魔法の威力が減衰してそこまで維持されるかは疑問なんだけどね。
だが、これは相手からも見えていて、相手からも魔導砲で撃たれるということだ。
無謀な標的になるのでは意味がない。
まあ、なんでこんなことを考えているかというと、北の帝国の陸上戦艦の見えない所――地平線の彼方――からこちらの攻撃を当てられないかということだ。
敵旗艦の魔導砲が怖いなら、当たらない場所から撃てればいいというわけだ。
有効な結論は重力加速砲による爆裂弾の投射だけ。
艦首をこちらに向けている敵艦に対しては、弱点の側面砲台が狙えないので効果は薄そうだ。
残る手立ては防御力のアップと、光の屈折かな。
防御力をアップした艦を盾にしてその後ろから出つつ魔導砲を撃ち込む。
これは北の帝国がやっている4隻を盾にする方法に近い。
要検討かな。どれだけ防御力がアップできるかは第13ドックで相談だな。
次に光の屈折。水蒸気では拡散して威力が落ちるから、水塊によるレンズ効果で曲げることになるな。
敵艦との間の中継点的な場所に魔法で巨大水レンズを作る。
誰がやるの? 俺? 魔法の制御も難しそうだし、俺が敵の射程圏に入るのでは……。
うーん。ガイアベザル帝国では魔導砲のみで戦っていたみたいだけど、防御や射程の不利はどうしていたんだろうか?
謎だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
SIDE:陸上戦艦 旗艦ローザス 調査兵団 イオリ団長
「ワイバーン通信に返事は!」
「まだです」
鷹の目スキルの見張り員が返答する。
今日はこれで何度目の確認だろうか。
見張り員もうんざりしている。
そもそもワイバーンは今頃やっと帝都に到着した頃合いだろう。
これだけ離れると魔導通信の受信もノイズが酷くて使えなくなる。
(作者注:これは北の帝国側の整備の問題です)
帝都からの返信もワイバーン通信だ。まだ返事が来るわけが無かった。
だが、見張り員もそんなことを態々指摘することは無い。
ここ数日イライラしっぱなしのイオリの不興を自ら買う必要はないからだ。
イライラの原因はリーンワース王国と謎の国の陸上戦艦に調査兵団の艦隊が敗れたからだ。
10隻もの陸上戦艦を出して半数の5隻を撃墜された。
前代未聞の大失態だった。
だが、そこは調査兵団団長のイオリ、自分の恥を晒しながらも勝つために援軍を要請した。
今はこの峡谷の地の利を生かして防衛戦を行っている。
敵の数は2隻にまで減っている。
例え魔導砲が生きている艦だとしても数を揃えて攻撃すればひとたまりもないだろう。
そうイオリは思っていた。
「敵艦隊接近します! 数5! 繰り返します。数5!」
「なんだと! 数が増えているじゃないか!」
イオリが怒鳴る。
せっかく減らした敵陸上戦艦が修理を終えて来たというのならまだわかるが、数が増えるとはどういうことだ?
イオリは嫌な予感がしてならなかった。
「敵艦隊にラーケン、レオパルドを確認!
舷側に不明国の国旗、鹵獲され運用されているもようです」
「バカな! あの艦たちは魔導砲の直撃を受けたはずだ。
いったいどうやって修理したというのだ?」
それにまだ3日しか経っていなかった。
つまり、他の艦も鹵獲され近日中に敵側となって戦線復帰ということだろう。
「元の4隻に5隻も増える?
冗談じゃない!」
イオリは敵の修理能力に背筋が寒くなるのを感じた。
敵艦隊はイオリたちの前を悠々と航行するとルドヴェガース要塞に引き返して行った。
おそらくラーケン、レオパルドを得たことを誇示するためにやってきたのだ。
イオリは腹を立て、紅茶のカップに八つ当たりした。
しかし、報告しないわけにはいかない。
イオリは更なる報告をワイバーン通信で帝都へ送った。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
SIDE:ガイアベザル帝国 御前会議
皇帝ロウガ二世の前に第一宰相ゲッペルと帝国軍最高司令官ダーフラム、その他各省庁の官僚トップと騎士団長クラス多数が勢ぞろいしていた。
「して、調査兵団団長イオリからの報告とは?」
皇帝に代わり、第一宰相ゲッペルが報告を促す。
それに答えるは情報局局長ヒルテマー。
「は、イオリ団長はリーンワース王国にて新たな遺跡の存在を確信、調査のために陸上戦艦10隻を進出させたもようです」
「10隻だと、バカな! 過剰戦力ではないか!」
その報告に周囲から驚きの声があがる。
10隻の大艦隊などどう見ても過剰戦力と言えるほどのものだったからだ。
この時、騎士団長クラスには、まだニムルド撃沈、リグルド大破の報告は行きわたっておらず、敵に陸上戦艦を撃破出来る戦力があるという認識は薄かった。
「イオリ団長は南の蛮族の地に派遣したガルムドが消息不明になったこともあり、万全の体制を取ったのだと思われます」
「ガルムドが! それでは敵には陸上戦艦を撃破しうる戦力があるというのか!」
騎士団長の1人が驚きの声を上げる。
リグルドが敗れていたことを隠蔽していた者たちが顔を逸らしてしらばっくれる。
「はい。その認識を共有していただきたい。
そのために次の報告を聞いてください」
そう言うとヒルテマーは一呼吸おいてから報告を続けた。
「イオリ団長は、リーンワース王国の要塞都市を攻略、そのままルドヴェガース要塞に進出しました。
そこで目にしたのは4隻の敵陸上戦艦でした」
「ちょっと待て、敵が陸上戦艦を持っているだと?」
軍部を中心に大騒ぎになる。
陸上戦艦を持つのは自分たちだけ、その優位で戦争は楽に勝てる。
それが軍部の共通認識だった。
「はい。その敵陸上戦艦は、ニムルド、リグルド、ガルムド、そして不明艦1だったそうです」
「我が方の陸上戦艦が鹵獲運用されているのか!」
「いやそれより不明艦の方が問題だ。
我らの他に陸上戦艦を持つ存在がいたということだ!」
議場は喧々諤々の論争の場となってしまった。
「静粛にしろ! 皇帝陛下の御前であるぞ!」
帝国軍最高司令官ダーフラムの喝に議場が静まり返る。
それによりヒルテマーが報告を続ける。
「イオリ団長は、これと交戦、リグルドを大破、ガルムドを中破させるも、ジーベルドがルドヴェガース要塞の城壁に突っ込み撃破される。
再度反転攻勢を行うも、ニムルド、ガルムド、不明艦の3隻が魔導砲を使用、味方艦4隻を瞬く間に撃墜したそうです」
「魔導砲だと! 我らでも使用できる艦が限られているのに、3隻もが使ったと言うのか!」
「いや、その魔導砲を使った艦は我らから奪った艦だぞ。
つまり敵は魔導砲を修理する技術すら持っているということだ!」
その事実に一同驚愕する。
ヒルテマーはなおも報告を続ける。
「その事実からイオリ団長は撤退を決定、現在二国間を隔てる峡谷にて膠着状態に陥っているとのことです。
イオリ団長からは『敵は2隻に減った、速やかに増援を請う』との要請が来ております」
「勝手に行って勝手に被害を出したことは問題だが、好機ではあるのか」
「たしかに。いくら魔導砲が使えても、たった2隻ならある程度の損害を覚悟すれば撃破可能だ」
「さすれば、リーンワース王国の征服も叶うということですな」
イオリはこの失敗により失脚、軍部はリーンワース王国征服の大手柄、悪い取引ではない。
「陛下、魔導砲使用可能な艦を2隻以上と護衛の艦を揃えれば、たかだか2隻の陸上戦艦など取るにたりません。
ここはリーンワース王国征服に最大戦力を投入いたしましょう」
帝国軍最高司令官ダーフラムは皇帝にそう進言するのだった。
ここにリーンワース王国討伐軍が編成され、魔導砲使用可能艦3隻と護衛艦15隻、計18隻からなる艦隊が出撃する。
陸上戦艦の損耗を憂慮していた皇帝も、ここまで被害が大きくなっては、この戦いで10隻ぐらいやられても誤差の範囲と思えてしまうのだった。
それに敵は陸上戦艦を修理できるだけの技術を持っている。
それを奪えばいくら壊れてもいくらでも直せるのだ。




