010 偵察
俺は神様に、あまり人の寄らない森の側の土地を要求した。
つまり少なくとも人と接触する可能性がある土地ではあるはずだ。
たぶんそう遠くない場所に人の居住地がある。
俺はそこへ行って経済活動を行おうと計画した。
まず第一は町の所在の確認。第二は移動手段の用意だ。
牧場作業と農作業の一部をゴーレムに丸投げし、暇の出来た俺はまず町の所在を確認することにした。
「プチ、外を探検するぞ」
「ご主人、ご主人。さんぽか? さんぽ?」
「まあ、そうだな」
プチが俺の足元を嬉しそうに走りまわる。
「プチ、俺を乗せられる大きさになって森へGOだ!」
「おー!」
プチが3mの聖獣モードになる。
俺がその背中に乗るとプチが走り出した。
「ちょっと待て、まだ出入口の跳ね橋を降ろして……」
そう言っているうちに、プチは塀と空堀を軽々と飛び越え森へと入っていた。
「いや、いい……」
立ち止まったプチに俺は何も言うことが出来なかった。
「森がどこまで広がっているか確認するぞ。まずは南へ向かう」
「おー!」
プチと俺は風になった。
南へ向かうこと一時間、俺とプチは森の端にたどり着いた。
時間はモバイル端末で知ることが出来るようになっていた。
その先は見渡す限り平原が広がり、所々小さな森が見受けられた。
モバイル端末には自動マッピング機能があり、森の端までの道が記録されていた。
距離はおよそ100km。
つまりプチは時速100km以上で駆け回ったということだ。
そう駆け回ったのだ。
プチは魔物を狩りつつ進んだのだから……。
「お肉いっぱい。ごはん。ごはん」
プチが狩り、俺が自動拾得する。
そんな寄り道を続けつつ、直線距離は100kmも移動したのだ。
「えらいぞ、プチ」
俺は脚をガクガクさせながらプチを褒めた。
食事休憩をはさみ、次の探索へ向かう。
「次は森の外周を把握するぞ。今度はゆっくりな。こっちだ」
「おー!」
俺達は東に向かって移動を始めた。
2時間ほど移動すると川にたどり着いた。
川幅は30mぐらいあるだろうか?
森は川の対岸へも続いている。
橋のような人工物は見当たらない。
「東側はここまでのようだな」
拠点の畑から3時間。今日はここまでだな。
戻る時間を考えるとこの辺で打ち切って帰ろう。
森は暗くなるのが早いのだ。
「プチ、今日はここまでで帰るぞ」
「おー!」
プチはそのまま森に突入した。
畑までショートカットするつもりだ。
危なくはないのだが、ビュンビュンと左右を流れていく大木を横目に、俺はしがみつくのに必死でどっと疲れが出た。
そんな散歩を何日か続けて森の規模がわかった。
畑から南に100kmに平原、東に200kmに川、西は200km以上(時間的に探索打ち切り)森が続き、北は100kmで山地になっている。
川は山地の中央から流れていて、東の川は北から南へ、西の川は北から南西へ向かって流れているようだ。
なので地理的に町を探すなら川に挟まれた南から南西ということになる。
さてどうするか。
さすがに何日も放浪するわけにはいかない。
遺跡には偵察に利用できるドローンでもないだろうか?
「システムコンソール、空中偵察機ってないか?」
『ありません。全機未帰還です』
過去にはあったのかよ。
『プチ様にモバイル端末を持たせれば自動マッピング出来ます』
「それはダメだ」
プチに行かせるのは論外だ。プチが人に襲われたらどうするんだ。
そこで、俺は思い出した。俺には召喚魔法が使えると。
「鳥類を召喚して偵察させよう!」
俺はモバイル端末を運べるだけの大きさを持ち、長距離を飛べる鳥の召喚を試みた。
『召喚!』
召喚には成功した。
ざっくりとしたイメージで召喚魔法を使ったのがいけなかったのだろう。
そこに現れたのは、確かに大きく長距離を飛行できるんだろうが、鳥ではなかった。
「なんでワイバーンだよ!」
しかも人が乗れないぐらいの微妙な大きさだ。
こいつも飼育しないとならないとは頭が痛くなった。
気を取り直してワイバーンの足にモバイル端末をくくりつける。
これはシステムコンソールが出した二台目だ。
くくりつけるのは備品倉庫でみつけた粘着テープだ。
画面上部に埋め込まれたカメラを地上に向けるようにと面倒な注文があった。
確かにワイバーン単独では町を認識出来ないかもしれない。
ワイバーンと会話を試みたが、ほぼ鳥でおバカだったのだ。
単純命令しか聞きそうにない。
そこでカメラで監視しつつスピーカーで指示を出すことにしたのだ。
「ワイバーン、南へ飛べ」
俺が人差し指で南を指すとワイバーンは空に舞った。
「クワァ!」
ワイバーンを偵察に向かわせると、俺はモバイル端末で映像を確認した。
森を越え、平原に出て、そのまま南へと向かう。
しばらく進むと東西に延びる街道を発見した。
おそらくその先に町がある。
東か西か、東は200kmほどで川だから、そこまでには確実に町があるだろう。
「ワイバーン、東に向かえ」
「クワ?」
ああ、めんどくさい。東がわからないのか。
南を理解していたのかと思ったら指の方角に向かっただけかい。
この分だと右左もわからないだろう。
俺は思案すると微かに見える川を目標にすることにした。
「道沿いを川に向かえ!」
どうやら道と川はわかったようだ。
「クワァ!」
ワイバーンは街道を東に進むと20kmぐらいの位置の森の側に町をみつけた。
「よし、今日は戻れ」
ワイバーンは戻れもわかるようだ。
そのまま畑まで飛んで戻ってきた。
俺が作った厩舎と用意された魔物肉にご満悦である。
この中世レベルの世界で人が移動出来る距離は馬車を使って一日50km程度だろう。
(作者注:クランドの認識は神様がラノベ的な中世レベルの異世界に連れて来たという前提によるものです)
街道にはその間隔で宿場町が設置されているものだ。
つまり街道沿いを進めば400kmの間でも9つの町があるはずだ。
この街道で発展しているのはおそらく川の側にある町。
川は船を使えば貿易の導線になる。次に街道が交差する交易拠点。
まあ、買い物に行くならそういった拠点都市だろうか。
とりあえず今日発見した町に行こう。
そこがダメなら街道を進めばいい。
「さすがに距離があるな。よし装甲車を直すか」