怒涛の冬のイベントラッシュ(2)
まるで、スキップ機能で早送りしているかのように時間が過ぎていく。
金森愛斗―――ううん、愛斗くんのお母さんの運転で隣の市にある有名なイルミネーションを観に来た。
最初家まで迎えに来てくれたお母さんの姿を見て、愛斗くんのお姉さんかと思った。
だって若くて、綺麗ですっごく素敵な大人の女の人だったから。
イルミネーションのある公園に送り届けてもらって、これから彼のお父さんとディナーに行くのだというのを見送った後、愛斗くんにお母さんの感想を伝えた。
愛斗くんは苦笑しながら、お母さんについて教えてくれた。
「義母だよ。父さんが俺が中学の時に再婚したんだ」
「それで!若くて綺麗な人だったね。愛斗くんのお父さんやるなー」
「……ああ、ほんとにね。羨ましいよ」
義母のことを語る、愛斗くんの声が、表情が。
一瞬で、悟った。
「愛斗くんは、義母に恋してるんだね」
わたしと同じ叶わぬ恋を。
「―――流石、同族の匂いには敏感だね。女子ってさ」
愛斗くんに似合わない皮肉めいたコメントは、図星の証。
それも彼がついて欲しくないところをつついてしまったせいだろう。
私は曖昧に笑うしかなかった。
今夜はクリスマス。
星も月もない夜。公園を彩る人工の光が際立っていた。
カップルたちが白い息を吐きながらも、肩や腰を抱き合ってイルミネーションに見惚れている中で、私たちは浮いていた。
普通の友達よりも少しだけ近い距離で、お互いが全然遠い場所にいる人間のことを想っている。
「ねえねえ、ここでイルミネーション見る意味ってあるのかな?私たちに」
「俺のほうはあるよ。義母に、俺にも気になる子がいるってアピール出来る」
「なにそれ。さいてー。逆に冥加くんに私が誤解されちゃうじゃない」
ふたりで肩を並ばせながら歩く。
大きなハート型に飾り付けられたイルミネーションを見上げながら、共犯者めいた笑みを浮かべる。
「冥加って、ああ、やっぱり藤のことか。残念ながら、俺から見ても藤はひかりちゃんに脈なし。ここは妥協して俺にしときなよ。――ひかりちゃんなら、俺から義母のことを忘れさせてくれそうな気がする」
人工の光を反射するヘーゼルの瞳が、妖しく輝く。
少しだけ、熱を持った瞳で見つめられて、私の鼓動が早まる。
でもそれは恋するドキドキじゃなくて、分不相応な異性からの思いがけない提案に緊張しているだけ。
「愛斗くんにそう言って貰えるのは嬉しい。けど、やっぱり私は、冥加くんが好きだから」
「脈なしでも?」
「まだフラれてないよ」
「告白するのかい?」
「そのうち」
「―――そうか。それは羨ましいな」
愛斗くんは悲しそうに顔を伏せる。
「俺は告白すれば、義母との関係を壊してしまうことになるから」
今にも泣き出しそうな声でそんなことを言うものだから、私はぐぬぬと声を出して思いっきり背伸びする。
そうして意外と手触りのよい金髪の頭をよしよしと撫でて慰めてあげた。
「……ひかりちゃん。こんなことされたら、勘違いしちゃうよ、男は」
少しだけ大きくヘーゼルの瞳が見開かれる。
愛斗くんはくしゃっと顔を歪めて笑って、軽い調子で言う。
「誰にでもしないよ。同士の愛斗くんだけです」
「――ハッ、そうか。分別あってのことなのか」
「もちろん」
「うん、ならいいかな」
イケメンに悲しい顔は似合わない。
遠くからしか見たことないけれど、いつもみたいに女の子たちを侍らせて自信たっぷりの余裕ある姿でいてほしいと思った。
「告白しても上手くいかないかもしれない。でも、告白することで可能性が1%はある。
告白しなければ、一生そいつは0%だ。待っているだけで手に入るなんて奇跡はそうそう有り得ない。宝くじと一緒だね。買わなきゃ、当たらない。けど、買っても当たるとは限らない」
「宝くじに例えちゃうんだ。愛斗くんらしくない」
「駄目かい?意外と的を得てると思ったんだけど」
「ダメじゃない。わかりやすくていいと思う」
「だろ?」
「うんうん」
愛斗くんの義母とお父さんが仲良く迎えに来るまで、わたしたちはイルミネーションを楽しんだ。
わたしと愛斗くんの間はいつも一歩分の距離を開けて。
「次は初詣行こう」
「えー。不毛じゃない?」
「でも、俺は恋愛の神様って言われてるくらいだから。俺と行けば冥加と何か進展出来るかもしれないよ?」
愛斗くんが片目を瞑って、茶目っ気たっぷりに笑う。
「…なら、行く」
マフラーに顔を埋めて、もごもごと返事を返す。
愛斗くんの思惑通りみたいで、なんだか悔しい。
「ははは、現金だなあ。ひかりちゃんは」
「うぅぅ」
次の約束も取り付けた。




