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ふたりで見る、花火(2)

 期末考査も無事終わり、あまりの解放感に机の上に伏せる形で伸びをしている時だった。


 机に寝そべっていた私の上に影が落ちる。


「上地さん」


 教室で相変わらず他人行儀な呼び方をしてくる幼馴染兼かつ想い人である冥加くん。

のろのろと顔を上げれば、冥加くんはテスト疲れを微塵も感じさせないような涼しい顔をして、人好きのする笑みを浮かべて私を見ていた。


「オイ、冥加。マジで上地を誘うのかよ」


 そして冥加くんの隣に不機嫌そうに立った火神かがみ戦人ばさらが、神経疑うわーマジないわーという顔で冥加くんと私を交互に視線を向けていた。

 大体もう予測出来てきたよ。これは冥加くんが私に、彼オススメの男の子とくっつけようとするパターンですね?


「こんなことで冗談言っても仕方ないでしょ。

 ね、上地さんとぼくで戦人の家庭教師しない?戦人の家そこそこお金持ちだから、給料も弾んでくれるらしいし、夏の間だけでいいからやろうよ」


「…家庭教師?同級生に?」


 ちらりと火神くんの方を見る。

私の物言いたげな視線に気がついた火神くんは、その不良っぽい見た目に反して、慌てて取り繕うように怒鳴った。


「バッ…!バカにすんなよ!うっぜ、こっち見んなッ!」


 前髪に入った赤いメッシュと同じくらい――顔どころか耳まで真っ赤にして、火神くんは照れたのかそっぽを向いた。彼は全身で不本意ですオーラを放っている。


 読めない。全く話の展開が読めない。なのに、冥加くんは私を置いてけぼりにして、決定事項のように話を進めて行く。


「戦人がどうしても夏の間に学力をあげたいらしくてね。けど、ぼく夏はばあちゃんの家に行ったりと忙しいから、その分上地さんにやってもらいたくて」


 冥加くんはスマホの画面を指でなぞって、タッチする。

ぶぶぶという振動音の後、スマホの画面に、『LIVE』で冥加くんからの新着メッセージが届いたことを告げる表示が出た。画面をスライドさせて、メッセージを表示させれば、学校を出発地点とした火神くん家の地図が画像で添付されていた。


「一学期の間中、戦人と席が前後だったんだ。それなりに気安いよね?」


 いえいえ、プリントを回す時くらいしか会話してませんよ?

それも大体、「ン」ていうぶっきらぼうな言葉に対して、「はい」って返すくらいの素っ気ないやり取り。


「それじゃ、土日だけでいいからよろしくね。ほら、戦人もちゃんと上地さんにお願いしろって」


 火神くんの頭に手を伸ばして、冥加くんは冗談っぽく頭を下げさせる。


「髪触んな!セットが乱れるだろ!くそッ!」


 無理やり頭をさげさせようとする冥加くんの手を払いのけ、ふんっと鼻を鳴らして私を見下ろす火神くん。ばっちり整えられたウルフカット乱される形になり、彼は手櫛で何とか髪の束をいくつか掴んで引っ張って整える。赤いメッシュを前髪にいれていて、ピンで少し長めの髪をとめているのだが、そのピンがずれ落ちそうになっているのに気がついた。


「あ、火神くん。ピンが落ちかけ――」


 落ちかけのピンに手を触れ、戻してあげようとすれば。


「う、うわああああ!気安く触るんじゃねぇよッ!慎みを持てッ!」


 思いっきり払いのけられた。

 火神くんはしまったという顔をして、少し罰が悪そうに目つきの悪い目を閉じた。

払いのけられた手がじんじんするが、勝手に男子に触ろうとした私も悪い。


「ごめん」


 とりあえず、謝った。


「う…ッ、あやまんなよッくそッ」


 舌打ちをして、火神くんは悪態を吐く。そして彼は落ち着かない様子で、目つきの悪い焦げ茶色の目を彷徨わせる。

そうして意を決したように、まるで睨みつけるような鋭い眼光で私を射抜いた。


「と、とにかく、あれだ!よ、よろしく頼むわッ」


 火神くんの怖い見た目に似合わない、小さなぼそぼそとした声。


「わかったよ。こちらこそ、よろしく…」


 火神くんが照れているから、こちらまで何故か恥ずかしくなって小さな声になってしまう。


「うんうんうん」


 そんな私たちの様子を、嬉しそうに頷きながら見守る冥加くんに苛立ちを覚えるのは当然なわけで。


「冥加くんのバカ!」


 椅子からずり落ちそうになりながらも私は蹴りをお見舞いする。


「うぜぇぞ!冥加!」

「ちょ、痛っ!二人とも、暴力とか最低だよ?!」


 火神くんからは肩パンを食らった冥加くんは涙目で、少し溜飲が下った。







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