ふたりで見る、花火(3)
夏休み最初の土曜日。
私と冥加くんの住んでいる街から電車で二駅先にあるベッドタウンに、火神くんの家はあった。肩からずれ落ちそうになっているエコバッグの紐をかけ直して、中に教材を詰め込み過ぎたと反省する。
蝉が忙しなく鳴いている住宅街の中をスマホに送られてきた地図を頼りに進み、ようやく火神くんの家に辿り着いた。
「おおー」
洋風のお洒落な住宅が立ち並ぶ中、火神くんの家は和風の3階建てのお家だった。
広めの庭に、青々とした木々とひまわりが植えられている。家の人は誰もいないのか、白いアーチ型の車庫に車は止まっていない。
ぼーっと見惚れていると、二階の格子が嵌められた丸窓が斜めに開かれた。
「あ」
火神くんと目が合った。
上半身しか見えないが、今日の火神くんはオフ仕様らしい。襟元が伸びた英語のロゴ入りのTシャツに、赤いメッシュの入った前髪は学校といる時と違って一つにまとめられていて、おでこが全開になっている。
「ちょっと遅せぇと思ったら、なにつったてんだよ。あちぃだろ、さっさと中入って来いよ」
「了解です」
時は金なり。時間は有限。
せっかくの夏休みを無駄には出来ない。
玄関の取っ手に触れ、横に扉を引いて私はいそいそと中にお邪魔させてもらった。
玄関の床は大理石で出来ているのか、美しく磨かれていて、ひんやりとした空気が出迎えてくれた。サンダルを脱いで、すでに用意されていた藍染のシンプルなスリッパを履く。
「上地はつぶあんとこしあんのどっち派」
玄関を上がってすぐに置かれた屏風の向こう側には階段があって、途中まで降りてきてくれた火神くんが、両手に白い饅頭を持って問いかけてくる。
「おじゃまします。餡子は、こしあんのほうが好きかな」
階段の一番下まで行って、火神くんを見上げて答える。
火神くんの下はジャージだった。ライオンの白いシルエットが刺繍されているスポーツブランドのものだ。遠目には分からなかったが、近づいてみて気がついた。
いつも横の長い髪をとめるのに使っている赤いピンが、おでこでクロスしている。
火神くんの手にある饅頭よりも、そちらのピンの方を思わず凝視していると、私の視線の先に気づいた火神くんが顔を赤くする。
「じ、ジロジロ見んな…ッ!」
ばっとおでこを押さえて、叫ばれた。
「くそッ!とにかく、その、なんだ、ほら」
「は?」
「”は?”じゃねぇよ!テメェの分のまんじゅう!」
「なるほど。ありがとう」
差し出された火神くんの顔色とは対照的な白い饅頭を受け取る。
同時に、私が肩からさげていたエコバッグを、火神くんが強引に奪い取るように持って行った。
「ええ?!」
思わず声をあげてしまう。
「うるせェ!オレの部屋までテメェの荷物を運んでやるンだよ!」
どすどすと足音を立てながら、火神くんはぶっきらぼうに言い放つ。
「よかった、とられたわけじゃなかったんだ」
「当たり前だッ!」
ふざけて、ほっと胸を撫で下ろす動作をすれば、振り向いた火神くんに怒られた。
火神くんの不器用な優しさに乾杯だね。
いくら冥加くんと仲が良いといっても、私との関係はただのクラスメイト(席が前後)な関係でしかない。
そのうえ火神くんはワイルド系イケメンだから、クラス内でどちらかといえば大人しい系女子に分類される私は、勝手に苦手意識を抱いていた。
けど、実際は。
「なんだ、ただのツンデレか」
「コラッ!誰がツンデレだッ!!」
火神くんの部屋に入ってすぐ、いかがわしいポーズを取った巨乳のグラビアアイドルのポスターに出迎えられた際、こっそりと呟いたのが聞こえてしまったらしい。
耳ざとい火神くんに、彼のベッドに置かれたビーズ枕を投げつけられてしまった。
「ふ、照れんなって」
「うるせェ!照れてねーしッ!」
耳まで、前髪のメッシュと同じくらい赤くされても説得力ないよ、火神くん。




