第74話 筋の曲がった節曲筍と、引き返せない測量士
ノルド・エイレンは三十八歳になる人間の男性であり、レーヴェン周辺の村や街道を歩いて土地の高低を測り、水路や排水溝、農道などをどこへ通すべきか判断する測量士として働いていた。濃い茶色の髪は額へかからない長さに切り揃え、日に焼けた頬には長年屋外を歩き続けてきた者らしい細かな皺が刻まれている。背丈は平均よりやや低いものの、丘陵や畑の畦を一日中歩ける丈夫な脚を持ち、腰には折り畳み式の測り縄と木槌、角度を見るための簡易測器を常に下げているため、服の裾には季節を問わず乾いた泥や草の種がついていた。
測量士と聞けば、王都の大街路や大規模な城壁建設の計画へ携わる職人を想像する者もいるが、ノルドが請け負う仕事の多くは、それよりずっと生活に近いものだった。畑へ水を引きたい農村から依頼されれば、川のどの高さから取水すれば自然に水が流れるのかを確かめ、雨のたびに道が泥沼へ変わる宿場なら、どこへ排水溝を通せば水が溜まらなくなるのかを調べる。倉庫を建てる前には土地の傾きを測り、小さな橋を架ける時には両岸の高さと川幅を記録して、大工や石工が実際の施工へ入るために必要な線を決めていく。
完成した水路や橋と違い、測量そのものが後から人の目へ残ることはほとんどない。土へ打った杭は工事が進めば抜かれ、張った縄も片づけられ、帳面へ書かれた数字を覚えているのは施工に関わった数人だけになる。それでもノルドは、若い頃からこの仕事を気に入っていた。
水は人間の希望だけでは流れてくれない。見た目には平らな土地であっても、ほんのわずかな高低差で流れは変わり、春には十分な水がある川でも、夏になれば水位が落ちることがある。土の下へ何が埋まっているか、冬にどこへ雪が積もるか、雨の日にどこから水が来るのかまで確かめなければ、紙の上では美しい線が実際の土地では役に立たないことも珍しくない。
だからこそ、先に測る。
村人へ聞く。
別の季節の様子を確かめる。
そのうえで、無理なく使い続けられる線を探す。
少なくとも、若い頃のノルドはそう考えていた。
ところが三十代へ入り、一人で依頼を受け、自分の判断を根拠に何人もの職人や村人が動くようになるにつれて、いつの間にか別の癖が強くなっていった。一度決めた経路へ杭を打ち、実際に土を掘り始めた後で問題が出ても、その案を途中で捨てることができなくなっていたのである。
測量の途中なら、まだ線を変えられる。
しかし十歩掘ってしまえば、「もうここまで来たのだから」と思う。
三日使えば、その三日を無駄にしたくない。
何人もの職人が働いていれば、自分の判断を変えることで彼らの仕事まで無意味にしてしまう気がする。
そこで少し無理をすれば最初の案を通せると分かれば、変更ではなく補強を選び、補強して別の問題が出れば、さらにそこへ手を加える。
一つ一つの問題には解決策がある。
だからまだ続けられる。
そう考えて押し通すうちに、最初の計画とは比べものにならないほど人手と材料を使っていることがあった。
そして今、ノルドは《ノザ村》で進めている水路工事で、まさにその状態へ陥りかけていた。
◇
ノルドが測量の仕事へ入ったのは十七歳の時で、父は農具や縄を扱う小さな商人、母は家で帳簿を手伝っていた。父から店を継ぐよう強く求められたわけではなかったものの、ノルド自身は客を待ちながら一日店へ座っているより、外を歩いて土地を見る方を好み、父の知り合いだった測量士グレイグの助手になった。
最初の一年は、仕事を覚えるというより荷物を運ぶ毎日だった。測り縄を担ぎ、木杭を束で持ち、グレイグが数字を読み上げれば帳面へ書く。雨が降れば泥の中で杭を抜き、丘へ上れば測器を抱えたまま師匠の後を追うだけで、それでもノルドには十分面白かった。
同じ十歩でも、土地の傾きは違う。
前日に何もなかった窪地へ、雨の翌日には水が集まっている。
春の川を見ただけで夏の取水口を決めれば、乾季には水面より高くなってしまうことがある。
グレイグは、測った数字だけで仕事を終わらせる人ではなかった。
「線は紙の上で決めるんじゃない。最後は土地に聞くんだ」
ノルドは、その言葉を気に入っていた。
十九歳の頃、初めて小さな排水溝の位置を考えさせてもらった。宿場町の裏手にある細い道で、雨が降るたび馬車の轍へ水が溜まり、冬には凍って滑りやすくなる場所だった。
ノルドは半日かけて高低を測り、西側へ排水溝を通す案を出した。数字だけなら問題がなく、すでに翌朝には杭まで打ち終えていた。
そこへグレイグが来た。
「東へ変えるぞ」
説明もなく言われ、若いノルドは驚いた。
「どうしてです? 西の方が低いです」
「昨日、宿の主人へ冬の様子を聞いた。西から風が吹くと、この側へ雪が溜まるそうだ」
「でも今は何もないですよ」
「冬になればある」
「杭、もう二十本打ちました」
「なら二十本抜け」
「朝から半日かかったんですよ」
グレイグは怒りもしなかった。
「今抜けば、無駄になるのは半日だ。冬まで作ってから全部やり直せば、もっとかかる」
当時のノルドには、まだ納得しきれなかった。
それでも言われた通り東へ線を移した。
冬になって現場へ行くと、西側には吹き寄せられた雪が膝近くまで積もり、もしそこへ溝を作っていたら、雪解けと泥で何度も詰まっていたことが分かった。
「最初の半日、完全に無駄でしたね」
ノルドが言った。
グレイグは首を振った。
「西が駄目だって分かった半日だ」
「でも、完成した溝には何も残ってません」
「完成したものに残らない仕事は、全部無駄か?」
その時のノルドは、師匠の言いたいことを理解したつもりだった。
若い頃なら、自分が決めた線ではなかったから変えやすかったのかもしれない。少なくとも最終的な責任はグレイグが持っており、ノルドは助手として失敗から学べばよかった。
二十四歳で独立し、自分の名前で仕事を請けるようになると、事情が変わった。
自分が測る。
自分が説明する。
村人がその言葉を信じて土を掘る。
途中で変えれば、「ノルドの最初の判断が違っていた」ということになる。
その重さが、いつの間にか判断そのものを変えていた。
三十歳の頃、丘沿いの農道を作る仕事で、最初に決めた線の地盤が予想以上に崩れやすいことが分かったことがある。本来なら、まだ工事二日目だったため、いったん止めて別の線へ移す選択も十分可能だった。
しかしすでに石を運び始め、地元の農家が人手を出している。
「ここまで石を持ってきたのに、今さら場所を変えるんですか」
一人の農家が悪意なく言った。
その言葉がノルドへ刺さった。
「補強すれば通せます」
そう答え、予定より多くの石を使い、斜面を木材で支え、どうにか最初の線のまま道を完成させた。
完成はした。
村人にも使ってもらえた。
ただし材料は当初のほぼ倍になり、施工日数も大きく伸びた。
誰かから責められたわけではなかったため、ノルドはその経験から、本来学ぶべきこととは少し違うものを受け取った。
問題が出ても、工夫して押し通せば最初の判断は間違いにならない。
途中で変更するより、最後まで通した方が責任を果たしたことになる。
その考えは、以後の仕事へ少しずつ染みついていった。
◇
《ノザ村》はレーヴェンから北西へ一日ほど進んだ丘陵地帯にあり、小麦と豆を中心に育てている細長い農村だった。村の東側には小さな川が流れているものの、夏になると上流の集落でも取水量が増えるため、南側の畑へ十分な水が届かない年がある。
そこで村では、春先の水量が多い時期に川の一部を小さな貯水池へ回し、そこから南の畑へ新しい水路を延ばす計画を立てた。
ノルドが呼ばれたのは、その本線を決めるためだった。
最初の測量には六日を使った。
貯水池予定地から南へ歩き、畑と草地の間を何度も往復し、高さを測る。最短距離なら丘の東裾を通り、少し大きく回るなら西側の草地を抜ける。
東案は距離が三十歩以上短かった。
既存の畑を大きく分断しない。
測った範囲の高低差も、水を流すには十分ある。
一方の西案は長い。
草地を横切るため所有者への許可も必要になる。
ノルドは東案を選んだ。
「西へ回すより短く、人の畑も避けられます。傾斜も足りています」
村長のバルトや農家たちへ説明すると、特に反対は出なかった。
「それなら東でいこう」
工事が始まった。
最初の二日は順調だった。
表土は柔らかく、掘った溝にも予定通りの傾きが取れている。
三日目の昼頃、少し石が増えた。
「この辺、ずいぶん硬いな」
土を掘っていた村人が言う。
ノルドも確認した。
小石というより拳ほどの石が多い。
「一帯だけかもしれません。少し先まで見ましょう」
作業を続ける。
四日目になっても石は減らなかった。
五日目、とうとう水路予定線を横切るように大きな岩盤が現れた。表面からは見えず、薄い土の下に幅広く伸びていたらしい。
村の石工が槌で叩く。
「割れない岩じゃない。ただ、時間は食うぞ」
「どれくらい?」
「この先も同じなら、石割りだけで予定の三倍近い」
村長のバルトがノルドを見る。
「西へ回す案は、まだ使えるか?」
聞かれた瞬間、ノルドの中へ真っ先に浮かんだのは、これまで掘った二十五歩ほどの溝だった。
「もうここまで掘っています」
「だから聞いてるんだ。ここからでも西へ変えられるか?」
「変えられます。ただ、今までのところがほとんど使えなくなる」
「岩を抜くより?」
「それは、先を調べないと分かりません」
その日は一度作業を止め、ノルドは岩盤の範囲を調べた。
何か所か細い試掘を入れる。
岩は予想以上に続いていた。
少なくとも四十歩ほど先まで、大きな硬い層がある。
同時に西側も改めて測った。
距離は長い。
しかし傾斜は問題なく、草地の所有者へ話を聞くと、
「端を通すなら構わない」
とすぐ許可が出た。
今の時点だけを見れば、西の方が施工は容易だった。
それでもノルドは、すぐには決められなかった。
村人六人が五日以上働いた。
二十五歩以上掘った。
一部には崩れ止めの石も入れ始めている。
西へ移れば、その労力を捨てることになる。
翌朝、村長へ言った。
「東を続けます」
「本当に?」
「岩盤を削れば通せます。ここまで進んだ分も使える」
「費用は?」
「増えます」
「西へ変えるより安い?」
ノルドは答えを急いだ。
「今まで掘った分を考えれば、東を使った方が――」
そこまで言い、村長が眉を寄せた。
「今までの分は、どっちにしてももう使ってるだろ」
「だから、無駄にしないために」
「無駄にしないのと、この先さらに金を使うのは別じゃないのか?」
ノルドは、すぐ返せなかった。
それでも、岩を抜ければ終わると考えた。
村長も完全には納得していなかったが、
「二日だけ進めて、また判断しよう」
と条件をつけた。
一日目、岩盤を削った部分へ試しに少量の水を流したところ、別の問題が分かった。
岩の中に細い割れ目があり、そこから水が地下へ逃げてしまう。
石工がしゃがみ込む。
「このままだと水減るぞ」
「粘土を詰めれば止められます」
「止められる。でもまた手間だ」
ノルドにも分かっていた。
岩を削れる。
割れ目は埋められる。
粘土だけで足りなければ石を敷く。
深さが変われば傾斜を調整する。
一つずつなら、全部解決できる。
だからこそ、やめる理由が見えにくくなる。
二日目の夕方、村長が工事を止めた。
「ノルドさん、一回ここまでにしよう」
「まだ通せます」
「通せるかどうかじゃなく、ここを通すべきかを考えたい」
「西へ変えたら、今までが」
「今までの五日を惜しんで、これからもっと十日使うなら、その方が困る」
ノルドは反論しようとして、言葉を失った。
村長は落ち着いて続けた。
「村の金と人手だ。明日まで考えよう」
その夜、ノルドは宿の小さな机へ帳面を広げた。
東案を続ける場合。
岩割りに必要な人手。
粘土。
追加の石。
漏水対策。
工事後も割れ目が増えないか確認する点検。
西案へ変える場合。
経路が三十歩以上長くなる。
再測量が必要。
草地を掘る作業が増える。
数字だけ見れば、ここから先は西の方が軽い。
それでもノルドは、東の欄へすでに使った五日分を含めて考え、西へ変える欄には「東の五日が無駄」という感覚まで加えていた。
計算しているようで、実際には感情を数字へ混ぜていた。
何度書き直しても結論が出ないまま夜が更けた。
◇
翌朝、村長へ結論を伝える前に頭を冷やそうと、ノルドは村の北側を歩いた。
畑の端では、数人の農家が見慣れない太い植物を積んでいる。
筍に似ている。
ただし真っ直ぐではなく、節のたびにわずかに曲がり、一本の中で何度も向きが変わっていた。
「それ、食べるものですか?」
近くの農家へ尋ねる。
「《節曲筍》だ。山側の竹林みたいなところに出る」
「すごい曲がり方ですね」
「外だけじゃなく、中の筋も曲がってるからな。切り方間違えると硬いぞ」
一本を持ち上げて見せてもらう。
「どう切るんです?」
「節ごとに筋を見る。全部同じ向きから切ったら、途中で繊維に沿うから噛みにくくなる」
「一本なのに?」
「一本だから筋まで全部真っ直ぐとは限らんよ」
農家が笑った。
「昨日採ったやつなら一本やるぞ」
ノルドは礼を言って受け取った。
節曲筍を布で包みながら、なぜかその言葉が残った。
一本だからといって、最後まで同じ向きとは限らない。
その日の昼、ノルドは一度レーヴェンへ戻る予定になっていたため、村長には、
「明日の朝まで待ってください。数字を整理して戻ります」
と頼んだ。
レーヴェンへ着いたのは夕方だった。
宿へ向かう途中、《持ち込み食堂》の看板を見て足を止める。
以前、街道仕事で知り合った職人から、扱いに困る食材でも相談できる店だと聞いたことがあった。
節曲筍を自分で適当に煮てもよい。
ただ、「節ごとに切り方を変える」という食材が少し気になった。
店へ入り、包みを開く。
ミレイアが目を丸くした。
「すごく曲がってる」
「《節曲筍》っていうらしい。中の筋も節ごとに曲がってるって」
悠斗も厨房から出てきた。
「名前は聞いたことあります。実際に自分で扱うのは初めてですね」
「料理人でも初めてあるんだ」
「食材全部を触ったことがあるわけじゃないので。農家の人から何か聞いてます?」
「節ごとに筋を見て切れって。全部同じ方向だと、途中から硬くなるらしい」
「じゃあ最初に断面を見ましょう」
悠斗は外皮を剥き、根元側を薄く切った。
断面へ細い繊維が斜めに走っている。
次の節を切る。
今度は向きが少し変わっている。
さらに上では、また別の角度へ曲がっていた。
「本当に節ごとに違いますね」
ノルドが尋ねる。
「全部、最初の方向で切ったらどうなる?」
「少し試してみましょうか」
一節分だけ、根元と同じ向きのまま連続して切る。
最初の数枚は繊維を横切っている。
しかし節を越えたところから、包丁が繊維へ沿う形になった。
薄く茹で、二人で味を見る。
最初の部分には軽い歯応えしかない。
後半は、同じ厚さなのに長い筋が口へ残る。
「硬いな」
「繊維に沿って切れてますね」
「もっと薄くすれば食べられる?」
「かなり薄くすればましになると思います。ただ、残りもこの向きで切るより、節ごとに方向を変えた方が自然ですね」
ノルドは、すでに切った部分を見る。
「でも、ここまでこの向きで切ったんだよね」
何気なく口へした。
悠斗が筍とノルドを交互に見る。
「ここまで切った分は、もう切れてますから」
「残りは変えるの?」
「筋の向きが変わったなら」
「最初の切り方が間違いだったってこと?」
「最初の節には合ってましたよ。次の節で条件が変わっただけです」
ノルドは、すぐ返事をしなかった。
◇
悠斗は残った節曲筍を一節ずつ分け、そのたびに繊維の向きを確かめながら包丁の角度を変えていった。根元の硬い部分は筋をしっかり横切るよう薄めにし、中央は少し厚く、先端の柔らかいところは食感を残すため大きめに切る。
「全部同じ厚さにも揃えないんですね」
「硬さが違いますから。同じ一本でも場所が違えば、扱いを変えた方がよさそうです」
「見た目を揃えなくても料理になる?」
「食べやすさの方が大事だと思います」
根元側と中央の硬い部分は一度下茹でし、白い鳥肉と根玉葱を軽く焼いた鍋へ加える。少量の乳を入れてゆっくり煮ながら、塩と穏やかな香草で味を整え、《節曲筍と白肉の乳煮》へする。
一方、先端に近い柔らかな部分は鉄板で焼き、香ばしい色をつけてから塩と香草を振った《節曲筍の香草焼き》にした。
最初に切り方を外した、筋の強い部分も捨てなかった。
悠斗はそれだけを細かく刻んだ。
「それ、使えるんですか」
「筋が長いから、そのままだと食べにくいですけど、細かくして長めに煮れば大丈夫そうです」
乳煮へ入れる。
「最初の切り方、失敗したのに」
「食べられないものになったわけじゃないので、使える形へ変えました」
「じゃあ、最初に失敗したからって、残りまで同じ切り方にはしない?」
「しないですね。わざわざ残りまで食べにくくする理由がないので」
料理の話でしかない。
しかしノルドは、妙に居心地が悪くなった。
香草焼きを食べる。
節曲筍には、根菜とは違う瑞々しい甘味があり、正しく筋を横切った部分は歯切れがよい。
乳煮では、硬かった根元がじっくり柔らかくなり、鳥肉の旨味を吸っていた。細かく刻まれた失敗部分も、筋はほとんど気にならない。
「美味しい」
「よかったです」
ミレイアがノルドの腰にある測り縄へ気づいた。
「ノルドさん、何の仕事なんですか?」
「測量。水路とか道を、どこへ通すか決める」
「今も何か作ってるの?」
「村の水路を」
そこまで答えたところで、ノルドは黙った。
相談するために来たわけではない。
食べ物を持ち込んだだけだ。
それでも、目の前の節曲筍を見ていると、どうしても水路のことが浮かぶ。
「途中で、岩盤が出たんだ」
結局、自分から話し始めた。
「最初に決めた線の下へ、かなり広い岩があった。今の条件だけ見れば、別の場所を通した方が多分楽なんだ」
「じゃあ、そっちへ変える?」
ミレイアが尋ねる。
「もう五日以上掘ってる。六人でやった。二十五歩以上掘って、石も入れた」
「変えたら、それがなくなる?」
「全部は使えない」
「続けたら?」
「岩を割る。割れ目から水が逃げるから粘土も詰める。石も増やす。できないわけじゃない」
自分で言いながら気づく。
また「できる」と言っている。
ミレイアは少し考えてから聞いた。
「それで、東の方がいいんですか?」
ノルドは答えられなかった。
「できるかじゃなくて?」
その言葉まで村長と同じだった。
「……今までの五日があるから」
「五日使ったのは、変えたら消える?」
「戻らない」
「東を続けたら戻る?」
「戻らないけど、完成した水路の一部になる」
「そのために、また何日か使うんでしょう?」
「使う」
悠斗はすぐ結論を言わず、空いた小皿へ最初の切り方を外した節曲筍を少し置いた。
「これ、最初の向きのまま最後まで切ることもできました」
「できたね」
「かなり薄くしたり、長く煮たりすれば食べられたと思います」
「うん」
「でも、次の節から方向を変えた」
「その方が食べやすいから」
「最初に切った分は戻らないです。でも、戻らないからって、残りを同じ切り方へ合わせる必要はなかった」
ノルドはしばらく黙った。
「料理と水路は違う」
「違います」
悠斗はすぐに認める。
「現場も見てないし、俺が線を変えた方がいいとは言えません。ただ、今まで使った分と、これから使う分は別に考えられるんじゃないかと思っただけです」
「別に?」
「今までの五日を取り戻す方法はないですよね」
「ない」
「東を選んでも西を選んでも、その五日はもう使った後です。だったら、今から必要になるものを比べる時は、今から先だけを見た方がいいんじゃないですか」
ノルドは、自分の帳面を思い出した。
東案へ使った五日を、何度も「西へ変えた場合の損失」として考えていた。
実際には、東を続けても五日は戻らない。
ただ、完成した本線に組み込まれるため、自分が失敗しなかったように感じられるだけだった。
「俺が最初に決めた線なんだ」
ノルドは低い声で言った。
「東がいいって、村の人へ説明した。みんな、それを信じて掘った」
ミレイアが聞く。
「岩盤は最初から見えてた?」
「見えなかった。土の下だった」
「水が逃げる割れ目も?」
「掘らないと分からなかった」
「じゃあ、最初から知ってて無視したわけじゃないんですね」
「もっと試掘してれば気づいた可能性はある」
「それは、最初の測り方を後で見直す話じゃない?」
ノルドが顔を上げる。
「今、どっちを通した方がいいかって話とは、分けられないんですか?」
その問いに、胸の中で何かが少し動いた。
最初の判断に不足があったか。
今の情報でどちらがよいか。
本来は別の問いである。
自分は最初の間違いを認めたくないために、今の判断まで縛っていた。
「師匠に昔言われたことがある」
ノルドはゆっくり話した。
「杭を二十本打った後に、全部別の場所へ移したことがある。俺が無駄だって言ったら、『西が駄目だと分かった半日だ』って言われた」
「覚えてたんですね」
「覚えてた。でも自分で責任持つようになってから、できなくなった」
「どうして?」
悠斗が尋ねる。
「間違ったって思われたくなかったんだろうね」
初めて、自分の口で認めた。
「若い時は師匠が決めてた。でも今は、俺の線を信じて人が動く。途中で変えたら、俺が余計な仕事をさせたことになる」
「実際、余計になったところはあるんですよね」
「ある」
「それをなかったことにするために、もっと仕事を増やしたら?」
ノルドは皿を見た。
「今、それをやってる」
認めると、苦いような、少し楽になったような感覚があった。
◇
店を出る時、悠斗は残った節曲筍を包んだ。
「硬いところは早めに茹でてください。切る時は節ごとに筋を見て」
「最初の向きに全部合わせないように?」
「それが食べやすいと思います」
ノルドは少し笑った。
その夜はレーヴェンの宿へ泊まり、再び帳面を開いた。
今までとは書き方を変えた。
最初に、すでに東案へ使ったものを別の欄へ書く。
『既使用分。人手六人、五日以上。掘削約二十五歩。崩れ止め石、一部投入。今後どちらを選んでも戻らない。』
書いたところで、一度手が止まった。
今までの自分なら、西案へ変更した時だけ「損失」と書いただろう。
今回は別に置く。
次に、これから東を続ける場合だけを計算した。
岩盤を割るための石工。
追加四日から六日。
粘土による漏水対策。
石敷きの可能性。
工事後の点検。
さらに岩盤が続いていた場合の危険。
その隣へ、西へ変える場合を書く。
追加測量一日。
経路延長三十歩以上。
草地の掘削。
大きな岩がない場合、通常の作業速度で進行可能。
既掘部分は本線には使えないが、一部を余水路や畑への支線へ転用できる可能性あり。
今後の必要量だけを比べれば、西の方が明らかに軽かった。
そこで終わらせず、別の頁へ最初の判断について書く。
『東案選定時、表面測量のみ。地中の石層確認を行わなかった。今後、丘裾を長く掘る場合は施工前に数か所の簡易試掘を検討する。』
これも、ようやく書けた。
最初の自分を正しかったことにするための帳面ではない。
次の仕事へ使う記録である。
最後に、
『本線は西案への変更を推奨する』
と書いた。
文字を書き終えた後もしばらく眺めたが、消さなかった。
翌朝、ノザ村へ戻り、村長と石工、数人の農家を集めた。
「本線を西へ変更したいです」
口にした瞬間、場が少し静かになった。
村長が尋ねる。
「東はやめる?」
「本線としてはやめます。岩盤を通せないわけではありません。ただ、今分かっている条件を比較すると、西へ回した方がここから先の人手と材料が少なく済む可能性が高いです」
「ここまで掘ったところは?」
「全部は使えません」
逃げずに答えた。
「貯水池に近い部分は、雨の多い時の余水路へ使える可能性があります。途中から南東の畑へ短い支線を出せる場所もあります。ただ、残りは埋め戻す方がいいと思います」
一人の農家が腕を組んだ。
「五日掘ったぞ」
「はい」
「埋めるところもあるんだな」
「あります。最初の測量で、地中の状態を調べるための試掘をもっと早く入れるべきだったかもしれません。その判断は自分の不足です」
言ってから、責められるのを待った。
石工が先に口を開いた。
「俺は西でいい。あの岩をあと何日も割るより楽だ」
別の農家も尋ねる。
「東そのまま行ったら、あとどのくらい?」
「岩盤だけで四日から六日。その後の漏水対策もあります。さらに先の岩の状態が同じ保証もありません」
「西は?」
「経路は長くなりますが、普通の土なら全体では早いです」
村長はしばらく帳面を見た後、頷いた。
「今までの五日を惜しんで、そこからまた余計に六日使うのは違うな。西へ変えよう」
誰も五日が消えたことを喜んではいない。
ノルドも、自分の判断不足がなくなったとは思っていなかった。
それでも、話は前へ進んだ。
◇
西案の再測量には一日を使った。
今度は表面の高低だけで決めず、長い区間へ入る前に三か所の簡易試掘を行った。
一か所だけ、表土の下へ硬い粘土層がある。
水路として使えなくはない。
しかし掘りにくく、乾けばひびが入る可能性がある。
「二歩東へずらせば避けられます」
ノルドはその場で線を変えた。
農家の一人が笑う。
「また変えるのか?」
「まだ掘ってませんから。今なら二歩で済みます」
自分で言いながら、二十歳の頃の師匠を思い出した。
施工へ入ると、西側は東より距離が長いものの、作業速度は安定していた。三日目には、東案で岩盤へぶつかった地点と同じ南北位置をすでに越えている。
「こっちは掘りやすいな」
石工が言った。
「遠回りだけどね」
「岩割るよりよっぽどいい」
ノルドも笑った。
残る問題は、東側へ作ってしまった溝だった。
全部埋め戻すこともできる。
ただし貯水池近くの部分は、傾きが十分ある。
村の年長者から、
「春の大雨で、池が溢れそうになる年がある」
と聞き、改めて測り直すと、最初の十二歩ほどを少し広げて既存の低地へ接続すれば、余分な水を畑から離れた場所へ逃がせることが分かった。
「ここは余水路として使えます」
村長へ説明する。
「東も少し役に立つのか」
「少しだけです」
さらに途中から南東の豆畑へ六歩ほど支線を伸ばせる。
畑主へ尋ねる。
「夏の乾いた時期だけ使える水路が欲しいなら、この部分から短く出せます。ただ、そのために大きく追加工事するほどの価値はないと思います」
「六歩なら欲しい。夏はよく乾くから」
「ではそこだけ作りましょう」
使えるところは使う。
しかし、使えないところまで「せっかく掘ったから」と無理に用途を作らない。
残った溝の一部は埋め戻した。
ノルドは土が戻されていくのを見ながら、少し胸が痛んだ。
自分の指示で掘った場所である。
それでも、役に立たない水路を残し、維持する手間まで村へ背負わせるよりよかった。
三週間ほどして、本線が完成した。
貯水池から少量の水を入れる。
水は西側の緩い傾斜へ沿って進み、途中で溜まることも大きく漏れることもなく、南の畑へ届いた。
「来たぞ!」
先を歩いていた村人から声が上がる。
ノルドも水の流れを追った。
自分が最初に決めた線ではない。
途中で捨てた案がある。
それでも、今ここを流れている水路の方がよい。
村長のバルトが隣へ立った。
「完成したな」
「はい」
「東の分は痛かったけど」
「すみません」
「そこは人手使ったんだから、次は気をつけてもらわないとな」
「はい」
「でも、あのまま岩割ってたら、まだ終わってなかっただろ」
「多分、まだやってました」
「じゃあ変えてよかった」
その言葉を聞き、ノルドはようやく大きく息を吐いた。
◇
工事後、ノルドは村へ残す記録をいつもより詳しくまとめた。
通常なら完成した経路、勾配、使った材料、取水量を書けば足りる。
今回は、それとは別に《東案変更記録》を作った。
最初に東を選んだ理由。
施工後に見つかった岩盤。
試掘の結果。
漏水箇所。
西案と比較した今後の作業量。
既掘部分の転用。
そして、
『丘裾など地中状態が不明な長区間では、施工前に複数地点の簡易試掘を推奨する』
と書いた。
自分の判断不足を文書へ残すのは、やはり気持ちのよいことではなかった。
もし別の測量士がこの記録を読めば、「ノルドは最初に調べ足りなかった」と分かるだろう。
以前の自分なら、変更後の完成図だけ残し、途中の経緯は簡単な備考で済ませたかもしれない。
今回は残した。
最初の五日を「結果的には必要だった」と言い換えるためではない。
同じ地形で、次の誰かが同じ五日を使わないようにするためだった。
村長へ渡す。
「ここまで書いたのか」
「次に似た工事する時、役に立つかもしれないので」
「なら倉へ置いておく」
レーヴェンへ戻った数日後、ノルドは再び《持ち込み食堂》を訪れた。
今度は節曲筍を二本持っている。
「また曲がったやつだ」
ミレイアが笑った。
「ノザ村の農家が、水路完成したからってくれた」
「水路、どうなりました?」
「西へ変えた。東の最初だけ余水路と支線に使って、残りは埋めた」
「全部使おうとはしなかったんですね」
「使うためにまた余計なもの作ったら、同じだからね」
自分からそう言えた。
悠斗が節曲筍をまな板へ置く。
「今日はノルドさんも切ります?」
「やってみる」
包丁を借りる。
根元の断面を見る。
繊維を確認して切る。
次の節へ行く。
筋が変わる。
包丁の向きも変える。
「前回より上手ですね」
「水路より簡単だから」
「比べるものじゃないと思います」
ミレイアが笑う。
今回は豆と一緒の煮込みにした。
硬い根元は先に。
中央は少し遅れて。
柔らかな先端は最後に入れる。
鍋を見ながら、ノルドが言った。
「前は、一回決めたことを最後までやる方が責任あると思ってたんだ」
悠斗が尋ねる。
「今は?」
「最初に決める責任はある。でも、新しい条件が出た後にもう一度決める責任もあるんだと思う」
「変更したからって、最初の判断がなかったことになるわけじゃないですしね」
「そこは記録に残した。試掘をもっと入れるべきだったって」
「嫌じゃなかった?」
ミレイアが聞く。
「嫌だったよ。でも隠して、次の誰かがまた同じ岩へ当たる方が嫌になった」
煮込みが完成する。
前回の乳煮とは違い、豆が加わって少し濃い味になっていた。
それでも節曲筍の甘味は残っている。
ノルドはゆっくり食べた。
◇
数か月後、ノルドは別の村で排水路の測量をしていた。
雨の多い土地で、集落の西側へ溝を通す案を立て、半日かけて二十本ほど杭を打った。
その日の夕方、近くに住む老人が杭を見て言った。
「そこ、秋になると家畜が通るぞ」
「毎年ですか?」
「山の放牧地から戻す道だ。百頭近く通る年もある」
昔のノルドなら、すでに杭を打ったことを理由に西案を残し、家畜が通れるよう小さな橋や補強を追加したかもしれない。
今は老人と一緒に実際の通り道を歩いた。
東側も測る。
距離は少し伸びる。
しかし傾斜は取れ、家畜道を邪魔しない。
翌朝、助手の青年が驚いた。
「昨日の杭、変えるんですか?」
「変える」
「二十本打ちましたよ」
「じゃあ二十本抜こう」
「半日かかったのに、無駄になりません?」
その言葉を聞いた瞬間、十九歳の自分を思い出した。
ノルドは杭を一本抜きながら答えた。
「西が駄目だって、二十本で分かったんだ」
助手が不思議そうな顔をする。
「何ですか、それ」
「昔、同じこと言われた」
東へ杭を打ち直す。
その現場では、施工へ入る前に線を変えたため、失ったのは半日だけで済んだ。
もちろん、その後のノルドが何でも簡単に変更するようになったわけではない。
新しい情報が出るたび線を変えていれば、いつまで経っても工事は始まらない。
少し硬い土が出た程度で別案へ移れば、かえって余計な時間を使う。
続けた方がよい問題もある。
変えた方がよい問題もある。
必要なのは、変更そのものを正しいことにするのではなく、その時点で分かっている条件を改めて比べることだった。
最初に理由を持って決める。
新しい情報が出たら確認する。
補えば済む問題なのか、別の線の方がよいのかを比べる。
続けるなら続ける。
変えるなら変える。
そして最初の判断に不足があったなら、それはそれで記録する。
ノルドは、その順番を意識して仕事をするようになった。
◇
翌春、ノザ村の水路を点検するため、ノルドは再び村を訪れた。
雪解け水が貯水池へ入り、西側の本線へ流れている。
南の畑まで問題なく届いていた。
東へ残した余水路にも少量流し、詰まりがないかを見る。
「去年の大雨で、こっち役に立ったぞ」
村長が言った。
「池、溢れなかった?」
「余った分が東へ逃げた。豆畑の支線も夏に使った」
「それならよかった」
本線として使わなかった残りの場所には、すでに草が生え始めている。
そこだけ見れば、去年何人もの村人が数日かけて土を掘った跡だとは分からない。
ノルドは少し立ち止まった。
余水路へ使えた。
支線にもなった。
試掘を増やすきっかけになった。
だから最初の五日は全部必要だった。
そう言おうと思えば、言えなくもない。
しかし、それは違う。
使わず埋めたところもある。
余計な仕事をさせた部分があったことまで、「結果的に意味があった」と書き換える必要はなかった。
村長が隣へ立つ。
「まだ気になるか」
「去年のところ?」
「そう」
ノルドは少し考えた。
「次はもっと早く試掘する」
「それでいいだろ」
村長はそれ以上慰めることもなく、水路沿いを歩き始めた。
ノルドも続いた。
点検が終わると、例の農家がまた節曲筍を一本くれた。
「今年のは去年より曲がってるぞ」
「料理しにくそうだね」
「節見りゃいい。去年覚えただろ」
「覚えてるよ」
レーヴェンへ戻った夜、今度は自宅で自分一人で料理した。
根元の筋を見る。
繊維を横切るように切る。
次の節では向きが変わるため、包丁の角度も変える。
途中、一か所だけ見誤った。
茹でて食べると、そこだけ筋が口へ残る。
以前なら、切った形を揃えるため残りも同じ厚さへ合わせたかもしれない。
今はその一枚だけ細かく刻み、煮込みへ入れた。
残りは断面を見直して切る。
一度間違えたところは戻せない。
しかし、その一度に残りを合わせる必要もない。
◇
数日後、若い助手が新しい農道の図面を持ってきた。
「ノルドさん、ここの線なんですけど」
小さな橋へ続く道だった。
「昨日、こっちだと思って杭を打ったんです。でも今朝雨が降ったら、この辺へ水が流れてきて」
現場へ行く。
確かに杭の近くに浅い水の跡がある。
「昨日は乾いてて分かりませんでした」
「別の線も測った?」
「東へ三歩ずらしたところなら、少し高いです」
二人で測る。
今の線でも排水溝を追加すれば道は作れる。
東へ三歩動けば、距離は少し伸びるが追加の溝はいらない。
「今の線でも通せます」
助手が言う。
「通せるね」
「じゃあ、このままでも?」
「君はどっちがいいと思う?」
助手は迷った。
「東の方が簡単だと思います。でも昨日、半日使って杭を打ったので」
「その半日は、今の線を選んでも東へ変えても戻らない」
助手が顔を上げる。
「じゃあどう考えれば」
「今から先に作る道だけ見て、どっちがいいか考える。昨日の測量で雨水を読めなかった理由は別に振り返る」
助手はもう一度現場を見る。
「東へ変えたいです。距離は三歩だけで、排水溝もいりません」
「なら変えよう」
「本当にいいんですか?」
「理由があるなら」
二人で昨日の杭を抜いた。
夕方、抜いた杭を荷車へ積みながら助手が言う。
「やっぱり、もったいないですね」
「もったいないよ」
ノルドは否定しなかった。
「じゃあ、嫌じゃないんですか」
「嫌だよ。昨日の半日で気づけてたら、その方がよかった」
「でも変える?」
「その半日をもったいないと思って、ここから何日も余計な仕事を足す方が嫌だからね」
助手は少し考えた。
「難しいですね」
「俺も最近やっと分かった」
抜いた杭そのものは、東の新しい線へまた使える。
打った時間は戻らない。
それでよかった。
ノルドは荷車の上で束になった杭を締め直し、翌朝の作業を頭の中で組み立てた。最初に決める時には、今まで通り真剣に土地を見て判断するつもりだったし、後から変えられるからといって適当に線を引くつもりもない。
ただ、一度決めた後に新しいものが見えたなら、その時点でまた考える。
昨日の自分が正しかったことを証明するためではなく、明日から人が使う道や水路を、その土地に合う形へするために。
翌朝に打ち直す杭を一本も捨てず荷車へ積みながら、ノルドは今度こそ、進んだ距離ではなく、これから向かう先を見て線を決めるつもりでいた。
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