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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者
第一章 太陽の少女

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第25話 朝のご挨拶と、重なりはじめる記憶

 朝。

 やわらかな光が、街を包み込む。


 空気は澄み、まだ人通りもまばらな時間。


 セラフィナイトは、いつものように玄関の前に立っていた。


「では、本日も参りましょう」


 にこり、と微笑む。


 その少し後ろでは――


「毎朝これに付き合うのも、すっかり日課ね」


 モルディナが肩をすくめる。


「……“付き合う”のではない。“影響を受けている”のだ」


 ヴォルガドが腕を組み、低く言った。


「どっちでもいいわよ」


 カトレアが淡々と返す。


「結果が出ている以上、無視できるものではないのだから」


 三者三様のやり取り。


 その空気の中で――


「……あの」


 少しだけ緊張した声が差し込まれる。


 リゼルだった。


「ご一緒しても、よろしいでしょうか」


 遠慮がちに、けれど確かにそう言った。


 セラフィナイトは、ぱっと顔を明るくする。


「まぁ! もちろんですわ」


 うれしそうに頷く。


「朝のご挨拶は、とても気持ちがよろしいのですよ」


「……はい」


 小さく返事をする。


 その理由は、うまく言葉にできなかった。


 ただ――


(気になる)


 昨日の“祈り”。

 そして、胸に残った感覚。


 それを確かめるように、リゼルは一歩踏み出した。


 石畳の道。

 朝露に濡れた草花。

 通りを歩く人々。


 そのすべてに向けて、セラフィナイトは――


「おはようございます」


 ぺこり、と一礼する。


 ただそれだけ。


 けれど。


「……あら、今日も元気ねぇ」

「おはよう、セラフちゃん」


 返ってくる声。

 やわらかな空気。


 街全体が、少しだけ明るくなる。


「……やはり異常ね」


 カトレアが小さく呟く。


「もうそれ言うの何回目?」


 モルディナが笑う。


「事実よ」


 短く返すカトレア。


 ヴォルガドは何も言わず、その様子を見ていた。


 リゼルは、その光景を見つめていた。


(……この感じ……)


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


 懐かしい。

 でも、思い出せない。


 そのとき。


 セラフィナイトが、小さな花に向かって屈んだ。


「おはようございます」


 やさしく、語りかけるように。


 その仕草。

 その距離感。

 その“当たり前”のような優しさ。


 ――どくん。


 強く、心臓が鳴る。


 視界が、わずかに揺れた。


 重なる。


 昨日と同じ。

 白い空間。

 静かな祈り。


 そして――


 隣に立つ、自分。


「……っ」


 思わず、手を伸ばしかける。


 だが。


 すぐに現実へと引き戻される。


「どうかなさいましたか?」


 セラフィナイトが、不思議そうに振り返る。


「……いえ」


 リゼルは、ゆっくりと首を振る。


 けれど。


 その胸の奥には、確かな感覚が残っていた。


(……知ってる)


 この光景を。

 この時間を。

 この人の――在り方を。


「……すごいですね」


 ぽつりと、言葉がこぼれる。


「こんな風に、みんなに……」


 うまく言えない。


 けれど。


「当然だ」


 低い声が、先に返った。


 ヴォルガドだった。


「この者は、そういう存在だ」


 一切の迷いもなく、言い切る。


 モルディナがくすりと笑う。


「珍しく、素直じゃない」


「事実を述べただけだ」


 カトレアも、小さく頷いた。


「……否定はしないわ」


 そのやり取りの中で。


 セラフィナイトだけが、やわらかく微笑んでいる。


「ご挨拶は、大切なことですもの」


 当たり前のように言う。


「一日が、少しだけ良いものになりますでしょう?」


 その笑顔。

 その言葉。


 それを見た瞬間――


 リゼルの中で、何かが“重なった”。


「……はい」


 今度は、はっきりと頷く。


 昨日よりも、少しだけ確信に近い。


(この人は……)


 まだ言葉にはならない。


 でも。


(……ずっと、こうしてきた人だ)


 その“事実”だけが、静かに心に残る。


 朝の光は、少しずつ強くなっていく。

 街は、ゆっくりと目を覚ます。


 その中で。


 ひとつの記憶が、確かに――


 “近づいていた”。

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