第七話:アリスの絶対防御 vs エリアスの絶対攻略
最終学年では社会見学を目的とした一泊二日の修学旅行が行われる。
生徒は主に貴族子女たちなので、目的地には、基本それぞれの馬車で行くことになる。(もちろん、共同馬車も準備されている。)
リリアもローゼンハイム公爵家の紋章が刻まれた豪華な馬車から降り立った。
「リリア様! 私と組みましょう! 魔王の手から私が守ります!」
すっかり元気になったアリスがリリアを見つけて駆け寄ってくる。
今日は少人数のグループに分かれて古都を自由散策する。
「それでは今回の班分けはくじ引きで決めます」
全員集合したところで教師はそう言った。続けて、手元のメモ書きを見て頭を掻く。
「『家庭の事情』により、エリアス・ド・グランヴェル公爵令息、リリアーナ・フォン・ローゼンハイム公爵令嬢は同じ班になります」
リリアとアリスは反射的にエリアスの方を目をやった。エリアスはしたり顔で微笑んでいた。
学園側にはすでに手を回し済みということだ。筆頭公爵家、その権力と財力を持ってすれば、朝飯前の所業だった。
「リリア様ーっ!」
涙目のアリスにリリアはエリアスにグループ三人目に入れてほしいとお願いする。
「まあいいかな。リリアの頼みだしね。……観客がいた方が、見せつけがいがあるしね」
ゴネるかと思われたが、エリアスはあっさり初諾して、アリスは「お荷物(3人目)」として無理やり同行することになった。
エリアス勝利。
◇◇◇
「この近くに『一緒に鳴らすと結ばれる鐘』があるみたいだから、行ってみよう」
エリアスは当たり前のようにリリアをエスコートする。
もちろん、アリスのことは眼中にない。
アリスは必死に鐘の前に立ちふさがり、結界を張ろうとする。
「ここはいかがわしい邪念の吹き溜まりです! 聖女として立ち入りを禁止します!」
「アリス、あそこに君の好きな『限定スイーツ』の屋台があるよ?」
「えっ!? ど、どこですか!?」
アリスが振り向いた一瞬の隙に、エリアスがリリアの手を取って鐘をカーン!と鳴らす。
「もう! アリスがチョロすぎて止まらないわよ!?」
またも、エリアス勝利。
◇◇◇
「こういう場所でなくちゃ、食べられないものね」
前世では当たり前にしていた路上での買食いも、ここでは難しかった。
観光地ならではの貴重なイベントだった。
リリアはスイーツの露店でクレープを買って、頬張る。
温かい生地にバナナとチョコレートの冷たい甘みのコントラストが堪らない。
ジャンクな甘味をリリアが満喫していると、横からしれっとエリアスが一口食べる。
「うん、君の味も一緒に甘いね」
「言い方!!」
涼しい顔のエリアスにリリアは真っ赤になるしかなかった。
「不潔ーッ!! リリア様、口直しに聖水をどうぞ!」
アリスが騒いでいる間に、エリアスはお土産屋で「ペアのストラップ」を購入し、リリアに強制装備させるのだった。
またも、エリアス勝利。
◇◇◇
こうして一日中、アリスが騒ぎ、エリアスが涼しい顔でいなし、リリアが赤面し続ける……というドタバタが続いた。
そんな珍道中を経て、宿泊先のホテルへ到着した。
「はぁ……はぁ……。 なんとか……致命的な一線だけは防ぎました……。 リリア様、夜は私の部屋に来てくださいね! 二人でトランプしましょう!」
「ええ、そうね。アリス、大丈夫?」
疲労困憊のアリスを心配するリリア。
その背後でエリアスはにやりと笑う。
「ふふ。アリスは可愛いね。 ――昼間に体力を使い果たして、夜はぐっすり眠れるように頑張った甲斐があったよ」
(……っ! まさかエリアス、昼間アリスを振り回したのは、夜にアリスを爆睡させて『邪魔が入らないようにする』ためだったの!?)
既に時遅し。リリアは背中に嫌な汗が流れるのを感じるのだった。
……エリアス完全勝利。
◇◇◇
夕食後のロビー。
エリアスの狙い通り、アリスは立ったまま船を漕ぐほどの限界状態だった。
「リリア様……私の部屋に……来てください……ね……。 絶対……お守り……しま……むにゃ……」
「アリス!? 起きて! 貴女が寝たら誰が私を守るの!?」
夢現のアリスの両肩を揺するが、すでに夢の世界に両足を突っ込んでいるようだった。
「やれやれ。彼女は限界みたいだね。先生、アリスを部屋へ運んであげては?」
エリアスが教師を呼んで、アリスを手際よく強制退場させた。
「……リリア。今日は疲れただろう? 部屋の『鍵』はしっかり掛けて、いい夢を見るといい」
耳元で低く呟いて、エリアスは意味深な笑みを浮かべる。
リリアにはそれは「鍵なんて無意味だよ」と言っているように聞こえるのだった。
◇◇◇
リリアは先に運び込まれたアリスとの二人部屋に戻り、孤軍奮闘していた。
しかし、必死にバリケードを築こうとするが、昼の疲れがあって、身体が言うことを聞かない。
(だ、大丈夫よ。ここは女子棟の最上階。 先生の見回りもあるし、魔法結界だってあるはず……)
お風呂上がりの温まった身体に、疲労感がどっと押し寄せる。 ふかふかのベッドに腰掛けた瞬間、意識が朦朧としてくる。
(エリアスだって疲れてるはずよ……。 まさか、こんな夜更けに来るわけない……わよね……?)
ガクッ。 思考よりも先に、リリアは深い眠りの底へ落ちていった。
◇◇◇
……深夜。
すっかり眠り込んでいたリリアは何かを感じて目が覚めた。
カチャリ、と窓の鍵が外れる音がした。
ここは最上階。外から人が入れるはずがない。 戦慄するリリアの耳に、甘く、低い声が届いた。
「……約束通り、写真よりも素敵な表情を見せてもらおうかな」
暗闇の中で、魔王の瞳が金色の獲物を捉えて、妖しく光った。
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
学園祭が終わり、次は修学旅行開始です。
今回もエリアスいろいろ企んでいるのでリリアが大変です!!
おかげさまで連日ランクインしております!
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