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 いや…正確にいうと無いわけではない。

 お父様やお母様、リトの秘密とか…それから…エスメラルダ自身の秘密。

 皇后教育をされたものじゃないと知らない真実、殿下の秘密や…そう…あとは……クローエフェアラ公爵家の真実、とか。

 まぁ、最後のについては微妙か。

 私や家族以外にも知ってる人は結構いるだろうし。


 でも…この門番に言っていいかというと、それは違う。


 平民であろうこの男に言えば、混乱を来すだろうし、それに、なんといっても私が切り捨てられるだろう。

 …王国に、仇為す者として。


 リトは不貞の子…なんて言うのは一番言っちゃ駄目なやつだし、お母様に、滅びたとある王家の血が流れてる事や、クローエフェアラ邸の裏庭には枯れない薔薇が咲いている…など、が妥当かしらね。

 まぁ、お母様に対しての話題は避けましょうか。

 雷が落ちそうなので……。


「…クローエフェアラ邸の裏庭には枯れない薔薇が咲いておりますわ」


「…それだけでは通すことは出来ない」


 まぁ、そうでしょうね。

 クラーエフェアラ家主催のお茶会で、枯れない薔薇は、お母様の謳い文句であったから。

 しょうがないか。


「…エスメラルダ…つまり私は魔力持ちですわ」


「周知の事実だろう。もっと他に無いのか…?」


 …呆れられてる気がする。

 馬鹿にしてるのかしら。

 ……と言うか、通す気あるのだろうか。


「…ああ、これがあった」


「…何?」


 クローエフェアラ邸に住んでいないと、絶対に知らない…いや、知る必要のない事実。

 秘密と言えるかわからないけれど、私がエスメラルダ本人だと証明するのなら、これが一番手っ取り早い。


「それなら、使用人全ての名前と役職を全て述べて差し上げましょう。これが一番手っ取り早いでしょう? 小恥ずかしい秘密など漏らさなくてもこれで事足りますでしょう?」


 それとも、これでもダメなのかしら。


「…計算して覚えてきている可能性が否定出来ん」


「あら、私専属の騎士団は、外部には一言一句全て、隠密にしてましてよ」


 一昨年の誕生日、父に貰った誕生日プレゼントは、私専属の騎士団だった。

 己を守るためだけに結成された忠実な僕達。

 それが、私エスメラルダの誇る女騎士団だ。


「…騎士団長の名は? 確認してこよう」


「騎士団長、ルイーズ・フォールチア、と。…取り合ってもらえなければ、主エスメラルダからの命だとお伝えなさい。そしてこう言うのです。

神はあなたを(Deus tu )お許しに(propitius )なるでしょう(erit)』…と」


 これは、騎士団結成の時に決めた合言葉。

 この言葉を口にしたものには、だれであろうと忠誠を誓え、尽くせ、敬えと。

 そう、決めた…深く重いことば。


「許可が下りるか確信してくる。待っていろ」


 …あの合言葉には、続きがある。

 (Carl)(orff)(amor)。命あるものは、いつか朽ちる。なら、その全てを今此処で捧げることのできるほどの忠誠を。死を受け入れよ。拒絶するな。さすれば、己が前に神の国(Regnum dei)は開かれる。


 そう、あの日…言葉を紡いだあの日から、私は死という恐れを捨て去ったのだった。



 しばらく経って帰って来たのは、あの見た目強そうな門番ではなく、銀髪美青年の…そう、キールだった。


「エスメラルダ様…申し訳ありません」


「別に…構わないわ。それより、殿下達を呼んでくるから少し待っていて」


「かしこまりました」


 殿下達を長い間待たせてしまった。

 でも、流石にアカリ様も歩けるようになっているだろうし、結果オーライ…かもしれない。



「お二人とも、お待たせして申し訳ありません。許可が取れました。今、入り口のようでキールが待機しております」


 …キールが居ると分かっていれば、初めからキールを呼んでと命れ…お願いしたのに。


「ああ、分かった。行こう」


 さして、気にするような事でもないのだろう…遅くなった理由は聞かないで置いてくれた。

 …もしかしたら、馬車酔いのせいで何も考えていられなかった、の間違いかもしれないけれども。



「キール、この薬草はある?」


 私は農園に戻ってすぐ、先に書き留めて置いた必要な薬草を書いた紙をキールに手渡す。

 キールは少し紙を見ると、すぐに首を縦に振った。


「全てございます。少しぐらいならば採取しても構わないでしょうし、着いてきてください。ご友人と…王太子殿下も」


「良い、楽にせよ。今はお忍びだ。そう、堅苦しくなることはない」


 あー、キールにそれを言うか…。


「は、はい…」


「普通でいいと言っているだろう?」


「は、その、」


 …はぁ。


「ラガルハーネル様…やめてあげてくださいませ。キールは普段から敬語なのですわ。急に変えろと言うのも逆に気を貼る必要があるでしょうから」


「…そうか、ならいい」


 こうして助け舟を出してあげる。

 キールからは、数日後、寮にチョコレートと『thank you』と書かれたメッセージカードが送られてきた。


 ちなみに、何故キールが英語を知っているかと言うと………長くなるので今度で。

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