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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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さらわれたソウリン!

 翌朝早く、サクたちはソウリンの家へと向かった。

 途中いくつかの獣たちが襲い掛かってきたが、難なく片付けた。 この五人が揃えば、何の障害にもならなかった。 数分後、村の一部が見えた。

「皆、着いたぞ!」

 喜んで言うサクの足がふいに止まった。 同時に後に続いていた皆の足も止まり、その視線は村の一ヶ所に向けられていた。

「な、なんだよ、あれ?」

 それは、ソウリンの家があったと思われる場所だった。 紛れもないその場所は瓦礫の山となり、白い煙が何本も立ち上っていた。 ハアヤ村の住人と思われる人たちが周りに集まり、様子を見ているようだった。

「一体何が……?」

 ヤツハが呟くのと同時に、弾かれたように一行は走りだした。 勿論、シリウも遅れを取ることはなかった。 皆、たった数時間留守にしていただけで、こんなに状況が変わるものなのかと半信半疑でいた。

「一体何があったんだよ?」

 サクが息急き切って村人の一人に尋ねた。 村人は少し戸惑った顔をして答えた。

「明け方に突然、流族が襲ってきたんだ。 それもこの家だけを荒らして、ここに住んでいたソウリンさんをさらって、どこかへ去っていった」

「子供は? 小さな男の子もいたはずよ?」

 ヤツハが慌てた顔で割り込んだ。 すると、別の村人が言った。

「その子供かどうか分からないが、瓦礫に埋まっていた男の子はさっき助けだされて医者に運ばれていったよ。 二軒向こうの建物だ」

「ラタクかもしれない! あたしとカイルは医者へ行ってみるから、皆は何か手がかりを見つけて!」

 ヤツハは、同意して頷くカイルを見て頷き、村人が指差した方へ走っていった。

 

 

「こりゃ、随分派手にやられたなあ……」

 ラディンが見渡す前には、うず高く積もられたソウリンの家の瓦礫が山となっていた。 所々からはまだ白い煙が立ち上り、燃えた異臭が漂っている。

「何かを探してたのかな?」

 サクが首をひねると

「いえ……探し物をしていたのなら、こんなにひどく壊さないでしょう……部屋の中を荒らせば良いだけのはずですから……でも、その痕跡を残したくなかったとも考えられますね……」

 シリウが眉をひそめて、瓦礫を見回しながら言った。

「とにかく、ソウリンがさらわれたのは事実なんだ! 早く助けださねーと! ソウリンはオレの命の恩人なんだ!」

 サクの必死の形相に、シリウは落ち着いた微笑みで頷いた。

「ええ、サクの恩人は僕にとっても同じです。 何か手がかりはないか、探してみましょう!」

 ラディンも頷き、三人は瓦礫の中を探ったり、周りの村人たちに尋ねたりして、少しの手がかりも逃すまいと血眼になっていた。

 

 

 一方、医者の家に着いたヤツハとカイルは、ラタクと面会していた。

「良かった、無事で……」

 安堵する二人の前のラタクは、ほぼ全身を手当てされ、包帯でグルグル巻きになっていた。 裂傷と打撲、少しの火傷もあったらしいが、大きな怪我にならなかったことが救いだった。

 ラタクは、ベッドの上に座ってうなだれ、大粒の涙を流していた。

「オレ、守れなかった……ソウリンが連れていかれるの、見ているしかなかったんだ……」

 しゃくりあげながら自分を責めるラタクに、ヤツハはなぐさめるように背中を抱きながら

「ラタク、そんなに自分を責めないで」

 と微笑んでみせた。 だがラタクはヤツハの手を振りほどき、大きく首を横に振って

「オレ、弱虫だった! あいつらを引き止めることが出来なかった! オレの目の前で、ソウリンは連れて行かれたんだ! こんな気持ち、あんたらに分からないよ!」

 と、半ば狂乱するように言った。

「どうしよう……」

 ヤツハはどうにかラタクを落ち着かせようと水を飲ませようとしたり、寝かせようとしたりしたが、ラタクはすべてを拒絶した。

 医者の言うことには、運び込まれた時からこんな状態だったらしい。 最善は尽くしたが、ラタクが自然に落ち着くまでしばらく放っておくしかないとあきらめていたと、ため息をついていた。

 その時突然、乾いた音が部屋に響いた。

 暴れていたラタクが言葉をつぐみ、目を丸くして頬を押さえた。 目の前には、カイルのいらついた顔が見下ろしていた。

「カイル、なにも殴ることな--」

「ラタク!」

 カイルはヤツハを遮ってラタクに怒鳴った。

「どれだけ後悔したって、過去は戻ってこないんだ! 前を向け! それよりも今、ラタクがしなくちゃいけないことがあるだろ!」

「……」

 ラタクはひたすら驚いた顔でカイルを見つめていた。 次にカイルはゆっくりとベッドに座ると、優しい口調で言った。

「ラタク、お前は充分戦った。 その傷だらけの体を見たら、そんなことすぐに分かる。 だからそれ以上自分を責めるな。 後は俺たちに任せろ」

「カイル……」

 ラタクはカイルを見つめていた。 その表情はさっきまでの悲痛なソレではなかった。 黒い瞳が無言でカイルの言葉を受け止めていた。

「な、俺たち、仲間だろ? 俺たちを信じろ!」

「……うん」

 ラタクは震える唇を噛み締めて頷いた。 カイルは微笑んでラタクの頭を撫でた。

「ラタク、ソウリンがどこへ連れていかれたか、分かる? そいつら、何か言ってなかった?」

 ヤツハが尋ねると、ラタクは少し考えてから

「東の洞窟がどうとか言ってた」

 と答えた。 次にカイルが尋ねた。

「その流族、どんな風貌をしていたか、覚えてるか? その時の様子、言えるかい?」

「十人くらいが突然、扉を突き破って入って来たんだ。 その中で一番体がでかかった奴、多分ボスだと思うけど、そいつ、左目に眼帯をしてた」

「「!」」

 二人の空気が一瞬で凍り付いた。

「ガラオル……!」

 カイルが絞りだすような声を出した。 思いも寄らない事態に、事の重大さを噛みしめることになった。

「急いで皆に知らせましょう!」

 ヤツハはカイルと頷きあって、部屋を飛びだして行った。 だがすぐに、カイルが戻ってきた。

「さっきは、殴って悪かった!」

 と苦笑いしてみせたカイルに、ラタクは背筋を伸ばして笑顔を見せた。

「オレ、親にも殴られたことなかったからさ、なんか、あったかくて、嬉しかったぜ!」

 それを聞いて、カイルは笑顔で頷き

「ラタクは絶対強くなる。 俺が保障してやるよ!」

 と親指を立てると

「ちゃんと医者の言うことを聞いて、しっかり治せよ!」

 と言い残して部屋を出ていった。 残されたラタクは、どこか満足そうな表情で閉められた扉を見つめていた。

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