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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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いざ、シリウに会いに!

 その頃村のはずれでは、ラディンがサクと向かい合っていた。

 戦いを始める気迫が、それぞれから立ち上っていた。

 どちらが動くでもなく向かい合ったまま二人が構えていると、やがてまたポツポツと雨が降ってきた。 それでも構わずに相対する二人からは、見えないオーラが漂い始めていた。 それは、少し遅れて追いついたラタクにも伝わっていた。

「す……すごい気だ……動けねえ……」

 二人の気迫に押されて、ラタクは近寄れずにいた。 だが、瞳はしっかりと二人をとらえていた。 何も見逃すまいと、まばたきもせずにじっと見つめていた。

 雨はやがて本降りになり、二人のずぶ濡れになっていく体から、幾つもの雫が滴り落ちていく。 ラタクもまた、ずぶ濡れになりながら立ち尽くしていた。

 その時、遠くで稲妻が光った。

 その瞬間に二人はぶつかり合った。 触れ合うたびに閃光が走り、互角の戦いを見せていた。

「この間よりも、上達してねぇか?」

 サクがにやりと笑うと

「あんたのほうが弱くなったんじゃねえのか?」

 とラディンも負けずに拳をぶつけた。

「お前は、なんで強くなろうと思ったんだ?」

 サクが尋ねた。 その間も、二人は戦うのをやめない。

「俺はシリウに勝たなきゃならねえんだ!」

 ラディンの脳裏にカイルが浮かんだ。 同時にシリウとの戦いを思い出していた。

「あいつと一戦交えた時、明らかに俺の完敗だった。 あいつには負けっぱなしでね! 一勝は返してもらわなきゃ、俺の気が収まらねえんだよ!」

 ラディンの言葉に、サクはフッと笑った。

「んだよ!」

 サクの笑いにラディンは苛立ち、蹴りを繰り出した。 それをよけながら、サクは答えた。

「オレも一緒だ!」

「? あんたたちは仲間なんだろ?」

「ああ。 仲間だけどライバルだ! オレは、シリウと初めて会った時から助けられっぱなしだった。 あいつは頭も良いし実力もある。 知らない間にオレは、シリウに頼るばかりになってた」

 サクの脳裏には、シリウと出会い過ごした日々が蘇っていた。

「ソウリンの手に触れられた瞬間、オレは全部思い出した。 忘れてた些細なことも全てだ。 オレは今更ながら思い知ったんだ」

 サクとラディンはずぶ濡れになりながら語り合い、戦っていた。 その様子を瞬きもせずにラタクが見つめていた。 サクは続けた。

「オレは弱ぇ!」

 ラディンが飛び退いた足元に、サクの拳が突き刺さった。 それを一気に引き抜くと、サクは顔を上げた。 ナトゥの姿が浮かんだ。

「今までにライバルはいた。 けど、一番はあいつ! シリウなんだ!」

 ラディンは腕を回して気合いを入れた。

「じゃあ同じ目的がある者同志、まずは、ライバルにならねえか?」

「?」

 サクは立ち上がった。 ラディンはにやりと笑ってサクを睨んだ。

「俺もお前達と離れていた間、遊んでたわけじゃねえ。 一つ、技を習得した。 それを見てからでも、答えをくれ!」

「来い!」

 サクは嬉しそうに笑い、身構えた。

 ラディンは一呼吸置くと、両手を合わせて上段に構えた。 一瞬でラディンの両手に気が集中した。

「剛剣……」

 そして一気に振り下ろした。

「波ぁっ!」

 振り下ろされた両手からラディンの気がほとばしり、それは地面を切り裂きながらサクを襲った。

「サクっ!」

 思わず声を上げたラタクの目の前で、サクの体が土煙に覆われた。 直撃だった。

「やったか?」

 ラディンが構えを解いて様子をうかがっていると、やがて土煙が雨におさまってきた。

「サク!」

 ラタクが嬉しそうに声を上げた。 治まってくる土煙から、サクの姿が現れた。 両腕で顔をガードし、サクはラディンの攻撃を真っ向から受けとめていたのだ。

「マジかよ……俺の必殺技、受けたのか……」

 ラディンは驚いて一歩後退りした。

「へへっ……」

 腕をおろしたサクの頬を、鮮血が滴り落ちた。

「ザコを倒すには充分だ! だがオレは--」

 サクは拳を突き上げた。

「まだ上を目指す!」

 その時、サクを目がけて一際大きな稲妻が襲った。

「っ! サク!」

 ラディンとラタクが見つめる前で、サクは稲妻に飲み込まれた。

 

 

「!」

 窓辺に座って外を眺めていたヤツハは、遠くに大きな落雷を見た。 そしてすぐに、立ち上る赤い火柱を見た。 火柱の周囲を、まるで金色の龍が駆け上がるかのように稲妻が巻き付いていく。

「サ……ク……?」

 ヤツハはそれがサクの物だと直感した。 そこに何の根拠もなかったが、心配になって立ち上がったヤツハは、カイルを一人残していくことはできないと、思い直してまた座りなおした。

 雨が叩きつける窓を見ながら、ヤツハは一人ため息をついた。

 今、部屋の中にはヤツハひとりきりだった。 雨音が響く部屋の中で、息が詰まるような時間に耐えていた。

 

 しばらくして、外からの扉が静かに開いた。

「! ラディン? 一体これは……?」

 驚いて立ち上がったヤツハの前には、玄関先でずぶ濡れになって立つラディンの姿があった。 その右肩にはサクを担ぎ、左腕にはラタクを担いでいた。

「一体何があったの? ! きゃっ!」

 サクに触れようとしたヤツハが瞬発的に離れた。

「こいつ、帯電してやがる。 しばらく触れないほうがいい」

 傷だらけの顔を歪ませてサクをソファに寝かせると、ラタクも傍に寝かせた。

「二人とも気を失ってるだけだ」

 ラディンは痺れる右肩をさすりながら言った。 ヤツハはずぶ濡れのラタクの服を脱がして体を拭き始めた。

「外で何をしてきたの?」

 眉をしかめ怪訝な顔で言うヤツハに、ラディンはサクを見ながら吐き出すように言った。

「こいつ、稲妻を喰いやがった!」

 

 

 拳を突き上げた途端に落ちてきた大きな稲妻に包まれた後も、サクの体は倒れなかった。 まるで稲妻を呼んだかのように満足げな笑顔を見せ、再び拳を握ると、空へと突き上げた。

火炎雷波カエンライハ!」

 サクの拳、いや、体全体から火柱が上がり、同時に稲妻までもが駆け上がった。 その衝撃に、ラタクの小さな体は吹き飛ばされ、ラディンもまた足を踏張り、自分の体を守るのに精一杯だった。 火柱が収まると、サクはだらりと両腕を下げ、一瞬ふらついた後、静かに倒れた。

「サクっ! うっ!」

 サクの体に帯びた電気がラディンの腕全体を痺れさせた。

「なんて奴だよ……」

 ラディンは呆然と、気を失っているサクの顔を見下ろした。 その顔は、傷だらけだが満足そうな表情をしていた。 ラディンは意を決するとサクの体を肩に担いだ。

「つっ……!」

 体全体に電気が走ったが、今度はサクを離さなかった。 左腕に気を失っているラタクを抱きかかえ、雨の中をラディンは急いでソウリンの家へと走ったのだった。

 

 

「……無茶するわね……」

 呆れたように言うヤツハの顔には、微笑みが浮かんでいた。 こんな風に、時々考えもしないことをするサクのことがいつも心配で、でも、そんなところが大好きだった。

「カイルは?」

 辺りを見渡し、カイルが部屋にいないのに気付いたラディンに、ヤツハはソウリンの部屋を見て言った。

「ソウリンと部屋の中よ。 シリウの居場所がまだ掴めていないみたいなの」

 カイルはヤツハと共に一旦外に出てきたが、どうにもいたたまれなくなって再び部屋の中へと戻っていったのだ。

 ソウリンはまだ苦戦していた。 何やら呪文のようなものをブツブツと呟きながら、交信を取っているようだった。 カイルは邪魔にならないように、部屋の隅に立ってソウリンの様子を見守っていた。

 やがて呪文をやめたソウリンが静かに口を開いた。

「カイル、といったかな?」

「! はい!」

 カイルは慌ててもたれていた壁から体を離して、姿勢を正した。 ソウリンは少し疲れた顔で言った。

「シリウという男、何故この村に来たのか知っておるか?」

 カイルは困った。

 シリウがこの村を訪れるということは、たまたまシリウとゴロナゴの町で出会ったラディンが、その事を教えに来てくれたということしか、カイルの中の情報はなかったからだ。 いや、仲間たち全員、シリウの目的など知らないだろう。

 カイルはソウリンに、首を横に振ることしか出来なかった。 ソウリンは小さく息をついて頷いた。

「そうか、やはりな……」

「やはりって……シリウに何かあったんですか?」

 カイルは身を乗り出した。 ソウリンは首を横に振った。

「それは、君たちがその目で確かめなさい。 そして、まだ彼を仲間と思うなら、その苦しみを分かち合いなさい」

「苦しみ……? それは――」

 カイルはシリウについて何かを知ったであろうソウリンに詰め寄りたかった。 だが、それを由としない雰囲気を感じ取ったカイルは、気持ちを押し殺し、ソウリンの次の言葉を待った。

「シリウという男、あの山の中におる。 多分、使われなくなった山小屋を利用しておるのだろう。 そう遠くへは出歩いていないようだ」

「ありがとう!」

 カイルは部屋の扉を思い切り開いた。 隣の部屋で待っていた仲間たちは、待ち兼ねたようにカイルを迎えた。

「カイル! ソウリンは?」

 ヤツハが心配しながら近づくと、カイルの後ろからソウリンが姿を現した。

「ソウリン、大丈夫?」

 少しふらついたソウリンの体を、ヤツハとカイルが支えた。

「シリウの居場所が分かった! 裏の山に居るらしい…… ? 皆どうしたんだ?」

 カイルが驚くのも無理はない。 壁にもたれた傷だらけのラディンに始まり、ソファには黒焦げのサクとラタクが寄り添って眠っている。

「ちょっとな。 皆眠ってるだけだ。 心配ない。 それより、急がなくていいのか?」

 ラディンが言うと、カイルは大きく頷いた。 その時、サクが目を覚ました。

「ん……?」

 目を擦りながら起き上がると、傍で眠っていたラタクがソファからずり落ち、その拍子に目を覚ました。

「! ってぇ……何すんだよぉ…… ! サクはっ! 雷はっ?」

 ラタクは慌てて周りを見回した。 ヤツハはラタクの肩を抱いて、落ち着かせるようにゆっくりと言った。

「ラタク、大丈夫よ、ここはソウリンの家!」

「あれ、なんでオレ、ここに居るんだ?」

 きょとんとするサクとラタクに、ラディンは苦笑いをした。

「人の苦労も知らないで……」

 サクとラタクにはヤツハから事情を簡単に話し、理解したところで仲間たちはシリウに会う目的を進めることにした。

 

「よし、行くか!」

 サクが立ち上がる横で、ラタクも立ち上がって胸を張った。

「よっしゃ!」

「ちょっと、ラタクは……」

 ヤツハが慌てた。 シリウの居場所が分かったのはよかったが、危険な獣たちがはびこっているであろう山の中にまで連れていくのは気が引ける。

 するとカイルがラタクの前にひざまづき、両肩を抱いた。

「是非、俺より強いラタクにお願いがある」

「?」

「ラタクはここに残って、ソウリンを守っててくれないか? ソウリンはあの通り、力を使った後で疲れ切ってる。 そんなときに悪党でも襲ってきたら大変だ。 だからラタクには、ここに残ってソウリンを守って欲しいんだ。 俺たちの恩人を守る義務があるのは、分かるよね?」

 目線を同じにして懇願するように見つめるカイルに、ラタクは大きく頷いた。

「分かった! ソウリンはオレに任せてくれ!」

 

 かくして、サク、ヤツハ、カイル、ラディンは、山へと向かうことになった。

「カイル、うまくやったわね」

 カイルの肘をつつきながら笑うヤツハに、カイルは微笑んだ。

「あぁ言っておけば、迎えに行くまでおとなしくしててくれるだろ?」

「なあ、なんでラタクがカイルより強ぇんだよ? あいつの弱さ知ってんだろ?」

 納得いかない顔で言うサクに、カイルとヤツハは顔を見合わせて笑った。

「ラタクは強い子だよ!」

 それだけ言うと、二人は先を急いだ。

「なんだよあいつら。 なんかあったのか?」

 それはサクがソウリンと相対していた時のこと。 怒涛のように押し寄せる過去の記憶を受けとめるだけで精一杯だったサクには、隣の部屋で何があろうが、そんな余裕はなかったのだ。 ラディンはそんなサクを見下ろしながら

「さあな」

 とだけ答え、先を行く二人の後を追った。

「なんだよ皆! 冷てぇなぁ!」

 頬を膨らませて、サクは三人の背中を追った。

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