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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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全員集合! 山頂を目指せ!!

 ものの数分で、シリウたちはヤツハとサクのもとに着いた。

「ヤツハ、サクの具合はっ?」

 シリウはカイルをそっと下ろし、サクの傍にしゃがみこむと、その顔を覗きこんだ。

 浅く早かった息がゆっくりになり、心なしか頬に赤みが戻ってきている。

「二人ともありがとう。 だいぶ落ち着いたわ。 もう大丈夫。 それより、カイルの具合はどう?」

 ヤツハの表情もやっと緩み、カイルを心配そうに見つめた。

「俺は大丈夫だ。 足を挫いただけだし、シリウが応急措置をしてくれた」

 それでもヤツハは、診せて、とカイルの足首を取った。

「腫れはあまりないみたいだけど、湿布しておくといいわね」

 ヤツハは手際よくカバンの中から一枚の布を取り出し、すばやく薬草をすりつぶすと薄く塗り、カイルの足首に処方した。 すぐにひんやりした感触が足首全体に広がった。

「……ありがとう」

 カイルが小さな声で礼を言うと、ヤツハは微笑んだ。

「ね、あたしが同行して良かったでしょ?」

 自慢気に言ってみせるヤツハの後ろで、サクが声を出した。

「う……ううん……」

 サクは顔をしかめ、ゆっくりと目を開けた。

「気が付きましたね。 分かりますか、サク?」

 シリウが優しく声をかけた。 サクは横たわったまま瞳を回した。 三人がそろって覗きこんでいる。

「皆……」

 サクは体を起こそうとした。

「まだダメよ! 動かないで!」

 慌てて肩を押さえるヤツハの手をつかみ、サクはまだ蒼白の顔で言った。

「そうは言ってられない。 ずいぶん時間をロスしたんだろ? これ以上寝ていられるか!」

「でも……」

 サクは無理やり体を起こして、皆の顔を見回した。

「ヤツハ、シリウとカイルもありがとう。 だけどここで終わるわけにはいかない、そうだよな!」

「その通りですね」

 シリウも静かに即答した。

「シリウ! あなた何を言ってるのか分かってるの? サクはまだ動ける体じゃないわ! せめて体内の毒がもっと治まってから……」

 必死で説得するヤツハ。 カイルはその様子をじっと見ている。

「もしあの毒矢が、試験官が放ったものだとして、生徒を殺すほどの毒を塗ってあったとは考えにくい。 だとしたら、限界まで自分を追い込むのが得策だと思いますよ。 試験とはそういうものです。 自分の限界を超えるのも試練ですよ」

 シリウは冷静に答えた。 だがヤツハは納得できない様子で俯いた。

「でも……」

「もう少し行ってみて、ダメだったらあきらめればいい」

 カイルが抑揚のない口調で言った。

「カイルまで! サクが死んじゃってもいいの?」

 ヤツハは驚き、必死な顔で皆の顔を見回す。 サクをはじめ、三人とも譲れない決意をした表情をしている。 ヤツハはこみ上げてくる思いに、泣きそうな顔になった。

「皆、バカだよ! ただの試験なのに、なんで命かけるのよ? 死んじゃったら、終わりなのよ!」

 ヤツハの言葉を聞きながら、カイルが表情を押し殺すように唇を噛んだ。 涙が溢れそうなほど潤んだ瞳をしたヤツハに、サクが言った。

「試験だからこそ、安心して命かけられるんだ。 オレたちは、それぞれの夢を持ってここで学んでいる。 外に出たらきっと、もっと危険で、厳しい世界が待ってる。 だからこそ、今ここで命かけないでどこでかけんだよ!」

 

 ソラール兵士養成学校には、様々な国から生徒が集まってくる。 それぞれが目指す目標に見合う資格を取るために、毎日を過ごす。 自分の夢を叶えるために、必死で自身を追い込んでいるのだ。 その成果を発揮する場所が、試験であり、自分の限界を試し高める機会なのだ。

 勿論、ヤツハもそれは理解していた。 その厳しさに逃げていった生徒も少なくはない。 ヤツハはサクのまっすぐな瞳に見つめられ、もう一度考え直した。

「……そうね……ここであきらめたら、何のために皆が集まったのかも、意味が無くなるわ」

 ヤツハは、気持ちを切り替えるように微笑んだ。

「もしサクが動けなくなっても、僕たちにはヤツハがいる。 心強い仲間ですから」

 シリウも微笑んだ。 四人は顔を見合わせ気持ちを合わせるように頷いた。

 

 

 夜明けまで数時間となっていた。 暗闇で動くのは危険と判断し、それとサクとカイルの回復を待つためにそこで朝を待ち、日の出と共に、四人は再び動きだした。

 目指すは山頂のほこらにある札だ。 道中、怪我人を背負って戻っていく生徒たちとすれ違った。 それらを見て、この先に何があるのか、不安がないわけではない。 だがサクたちは進み続けなくてはならない。

「もうすぐだ!」

 サクが嬉しそうな笑顔で指差す先には、山頂のほこらの屋根が見えている。 皆の顔が緩んだ。 心なしか体も軽くなり、山頂へと急いだ。

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