罰はお姫様抱っこ!?
「カイル!」
シリウはとっさに彼の手をつかみ、間一髪、カイルは崖に片手一本でしがみつく形になった。
「!」
カイルのはるか下の方で、崩れ落ちた土や石が砂煙を上げている。
シリウはカイルの手をしっかりと握り、一気に引き上げた。
「はあっ!」
大きく息を吐いて座り込むシリウ。
「すまない……」
カイルも座り込んで息を整えている。
「いや、足元、意外に脆かったんですねえ。 驚きました」
シリウは微笑みながら汗を拭いた。
「さあ、急ぎましょう。 サクが待っています!」
立ち上がるシリウに続いてカイルも立ち上がろうとした時
「あ……つっ!」
小さくうめいて膝をついた。
「どうしたんですか?」
驚いたシリウが駆け寄ると、カイルは右足首を押さえていた。
「さっき挫いたみたいだ……」
唇を噛み、悔しそうに言うカイル。
「利き足ですね?」
シリウが懐から布のベルトを取り出した。
「これで少しは痛みが治まると思いますが……」
「医武道か……」
手際よくカイルの足首に布ベルトを巻き固定するのを見ながら呟いた。 シリウはええ、と頷いた。
「サクがあんなですからね、少しは知識があったほうが良いと思いまして。 フルンザの件といい、あなたの知識も、相当なものですね」
シリウは終わりを丁寧に留め、動かしてみるように促した。 まだ痛みは残っているし、全力で動くには心配だ。 カイルは手に握ったままのザネルを見つめた。 そしてそれをシリウに差し出した。
「先に行ってくれ!」
シリウはやっぱり、といった顔で息をついた。
「ダメですよ、あなたも一緒に行くんです!」
「俺が居たら、足手まといになる! 一刻を争うんだ! 行ってくれ!」
「……」
珍しく声を荒げるカイルを見つめ、シリウはゆっくりとザネルを受け取った。
「必ず迎えに来ます。 だから無理せずにここで待っていてください。 いいですね?」
そう言い聞かせてシリウは立ち上がり、あっという間に木々の中へ消えていった。
残されたカイルは、布ベルトが巻かれた右足をさすり、軽く振ってみた。
『少しなら動けそうだ……』
カイルは懐から小さな布の袋を取り出し、中から一錠の錠剤を出して口に入れた。 少し苦い顔をしながら飲み込むとゆっくり立ち上がり、足を引きずりながら、シリウが消えていった木々の中へと姿を消した。
しばらくして、シリウはサクとヤツハのもとへたどり着いていた。
「シリウ! ザネルは……?」
シリウは、顔面蒼白で浅い息をしているサクを前に、もはや泣きそうになっているヤツハにザネルを手渡し
「頼みます!」
と一言言うと、背中を向けた。
「っシリウ? どこに行くの?」
「カイルを迎えに行ってきます!」
「えっ? カイルに何かあったの?」
「大丈夫です! ヤツハはサクをお願いします!」
唖然とした顔のヤツハを残して、シリウは再び木々の間に消えた。
「待っていてくださいって、言ったでしょう?」
足を引きずりながら木々の間を縫うカイルの前に、シリウが降り立った。
「全く!」
少し憮然とした口調で言いながら近づいたシリウは、軽々とカイルを抱き上げた。
「ちょっ! 離せっ!」
いきなりのお姫さま抱っこに慌ててもがくカイルに、シリウは叱るように言った。
「言いつけを守らなかった罰です! 走るのに邪魔ですから、決して暴れないでくださいねっ!」
そして、シリウはカイルを抱きかかえたまま走りだした。
身軽に風を切り、二人の影は木々の間を飛ぶように走り抜ける。 その見事な身のこなしに、カイルもおとなしく身を預けていた。
前を見てひた走るシリウの顔を下から見ていたカイルは、いつしかじっと惹き込まれていた。




