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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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ハアヤ村到着!

「外を見ても、面白いものはないぞ」

ソウリンが窓際に向かうカイルに声をかけた。 カイルが無言で振り向くと

「この村は、外界から阻害され閉鎖された村。 それぞれの家も固く門を閉ざして、客人を招く雰囲気ではない。 無論、なんの飾り気も無い村だよ」

「そんな村に、あんたは何で住んでるんだ?」

ラディンが尋ねると、ソウリンは優しい笑顔で答えた。

「私も例に漏れず、あまり人には好かれぬのでな。 こんな奇人にはお似合いな村なんだよ」

カイルは無言で窓際に立ち、外を見た。

ソウリンの家に入った途端に降りだした雨は、どしゃ降りになって視界を遮っている。 窓に叩きつける雨粒が流れ落ちる様子を見るでもなく、カイルは何かを考え込んでいるようだった。

「カイル?」

ヤツハがカイルに近寄った。 気付いたカイルはヤツハにそっと微笑むと、また外を眺めた。

「しばらく二人の様子をみよう。 動くのはそれからだ」

ヤツハは頷くと心配そうに、笑い続けるサクとラタクの姿を見つめた。 ここはソウリンに預けるしかない。


やがて小一時間もすると、サクとラタクの様子も落ち着いた。

「じーさん、ありがとうな!」

サクはソファに起き上がり、くったくのない笑顔で礼を言った。 ラタクはサクに、間違ったキノコを食べさせてしまったことを詫びた。

「ごめんよ、サク兄ちゃん。 変なキノコなんて食べさせちまって……」

すると、サクはうなだれたラタクの背中を叩いて笑った。

「気にするな! 結構楽しかったぞ!」

「「「楽しくなかった!」」」

思わずヤツハ、カイルとラディンが同時に突っ込んだが、サクは意に介さず

「また食おうな!」

と笑った。 その言葉にサクの心遣いを子供心に感じたラタクは、ホッとした顔を見せた。

「……『帰れ』なんて言わないよな?」

「当たり前だろ? その代わり、最初に言ったように、自分の身は自分で守るんだぜ!」

そういうサクに、ヤツハは大きなため息をついた。

「はあ……ったく……あんたが言うと全っ然説得力ないのよ!」

頭を抱えたヤツハを、サクは笑い飛ばした。

「いい気なもんだよ!」

ラディンも呆れ、カイルはそれを見て苦笑した。

「もう大丈夫そうだな」

ソウリンはサクとラタクの顔を診て、安心したように頷いた。

「じいさん、医者なのか?」

サクが尋ねると、ソウリンは優しく微笑みながら

「そうではないが、偶然知った症状だったからの。 治ってよかったな」

と立ち上がった。

「そう言えば、この村に用事があったとか言っていたようだが?」

そう尋ねるソウリンに、サクが思い出したように手を叩いた。

「そうそう! オレ達、シリウを探しに来たんだ!」

カイルも窓辺にもたれて耳を傾けた。

「シリウっていう男なんだけど、じいさん知らないか?」

サクが尋ねると、ソウリンは少し首を傾げて何かを思い出したように言った。

「何ヵ月か前からこの村で生活している男がいるが、彼のことかな? 眼鏡をかけた、背の高い……」

「そう! シリウだ! 今、どこにいるんだ?」

サクが身を乗り出す後ろで、カイルもじっとソウリンの背中を見つめていた。 ソウリンはまだ視界の悪い窓の外に向かって指を差した。

「ここからまっすぐ行くと、村の奥の方に二階建ての宿がある。 宿と言っても、ほとんど誰も訪れることのない村なのでな、さびれた古くさい建物だが……」

そう言っている間にも、サクは早々と外に出ていこうとしていた。 その後ろにカイルもついている。

「ちょっと待ちなさいよ!」

ヤツハが慌てて呼び止めた。 カイルがヤツハに振り返り

「もうここにいる理由はない。 俺たちは先を急いでるんだ」

と冷たく答えると、ラディンも声を掛けた。

「なにもそんなに慌てることないだろ?」

ヤツハも慌てて頷いた。

「せめて、雨が止むまで待ったほうがいいんじゃない? それにまだ何もわからない村だし、むやみに動かないほうが――」

言いかけたヤツハの言葉が詰まった。 カイルの視線が突き刺さったのだ。 カイルは無言で伝えようとしていた。

『シリウに早く会いたい』

と。 ヤツハはそれを感じ取ると、それ以上何も言えなかった。

「分かったわ。 行きましょう!」

諦めて頷くヤツハに、ラディンが驚きの声を上げた。

「本気かよ?」

まだ昼間だと言うのにまるで夜を思わせるほどの暗い外を見ながら、ラディンは少し顔を歪めた。

「嫌ならここに居ればいい」

察したカイルが冷たく言い放ち、扉に手を掛けた。 その時

「待ちなさい」

ソウリンが静かに引き止めた。

「あと五分だけ待ちなさい。 そうすれば、この雨は止む」

「じいさん、天気も分かるのか?」

サクが驚いたように尋ねると、ソウリンは窓の外を見ながら微笑み、頷いた。

「この村は通り雨が頻繁に起こるんじゃ。 降っているときはこんなふうに外にも出られないほどの大降りだが、数時間もすればやむ。 いつものことだよ」

「ふうん……」

ラタクが不思議そうに雨空を見上げた。 窓を叩きつける雨粒は、止む気配を見せない。

「カイル、あと五分くらいなら、待てるわよね?」

ヤツハが諭すように言った。 一瞬戸惑った顔をしたが、その微妙な時間に心が狭いと思われたくなかったカイルは、しぶしぶ頷いた。

「五分だけ待つ。 やまなくても、五分経ったら行くからな」


「本当にやむのかよ?」

サクとラタクは並んで外を眺めていた。 カイルも壁にもたれたまま、爪を噛んで外を眺めていた。 その様子を、ラディンは少し離れた場所で見つめていた。

やがて急に雨音が小さくなったかと思うと、みるみるうちに雨は止み、霧が晴れたように静かな村が現れた。 再び村に明るい日差しが降り注いだ。

「本当に晴れた!」

サクとラタクは同時に立ち上がり、感嘆の声を上げた。

「すげーな、じいさん!」

ラタクが笑顔で言うと、ソウリンは少し照れ笑いをした。

「さあ、急ぐのじゃろう? 宿はここからまっすぐ行ったところ。 気を付けてな」

ソウリンに見送られながら、サクたち一行はシリウが居ると思われる宿へと向かった。

村の中は住んでいる者がいるのかも分からないほど、静かな空気に包まれていた。 だが部屋の明かりが点いていたり、家事の煙が上がっているのを見ると、誰かが確かに生活をしているのだろう。

十数分ほど歩くと、向こうの方に二階建の木製の建物が見えた。

「宿ってあれかな!」

いち早く見つけたラタクが指を差した。

「きっとそうだな!」

サクが嬉しそうに言う後ろで、カイルはそっと息を呑んだ。

『やっとシリウに会える……』

カイルは緩みそうになる頬を静かに膨らませてごまかした。


「こんにちは!」


宿に入るなり元気な大声を出したサクに、驚いた受付の男が肩を震わせた。 村人が自宅を改装したような落ち着いた内装は、しんと静まり返っていた。

「あ、ああ、お客様でしたか」

「驚かせてしまったみたいね」

ヤツハが申し訳なさそうに苦笑いをすると、受付の男は苦笑して答えた。

「この村は訪れる人も少ないので。 すみません。 お泊まりですね?」

カウンターに帳簿を開いてペンを用意した男に、サクが詰め寄るように尋ねた。

「シリウは居るか?」

「はい?」

思わずたじろいだ男の前で、ヤツハがサクを押し退けた。

「ちょっと! いきなり聞いてもわけ分かんないでしょ? 言葉を選びなさいよ!」

後ろで、ラタクが

「オレも!」

と便乗しようとカウンターに上ろうとしたが、その首根っこをラディンが掴んだ。

「おとなしくしてろって!」

ヤツハは改めて受付に向き直った。

「ごめんなさい。 ここにシリウ・ソム・イクシードっていう男性が泊まってると聞いてきたんですけど、いますか?」

「あぁ、シリウ様なら……」

受付の男は頷いた。

「昨夜、出ていかれましたよ」

「えっ!」

一行は言葉を無くした。

「ど、どこに行ったとか、聞いてないか?」

サクが苦し紛れに尋ねたが、受付の男は困ったように首を傾げた。

「お客様のプライベートな事に関しては、詮索しないのがマナーですので」

サクたちは一斉に肩を落とした。

「行き止まりかよ……」

「もう手がかりが無くなってしまったわね……」

「なんだよぉ! いねえのかよぉ!」

理由も知らずについてきたラタクが何故か一番肩を落としていた。

「なんでお前がへこんでんだよ?」

ラディンが横目で言うと

「魔女とかいねえのかよ?」

と息を吐いた。

「今その話かよ!」

ラディンは呆れ、黙っとけ、とげんこつを落とした。 頭を抱えてうずくまるラタクを無視して、サクたちはそれぞれにため息をついた。

「どうしよう……」

行き場をなくし立ち尽くすサクたちを見ていた受付の男が、助け船を出した。

「人探しなら、力になってくれるかもしれない人を知っていますが……」

「教えてくれ!」

サクはカウンターに身を乗り上げた。

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