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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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許せる涙

 数時間経ち、カイルはまだそこにいた。 梯子に座って一人で空を眺めながら、夜風に髪を梳いていた。 静かに屋上の扉が開き、ヤツハが訪れた。 カイルはそれに気付くと、ゆっくり振り向いた。

「ヤツハ、どうした、それ?」

 カイルは囁くように言った。 ヤツハの目は赤く泣き腫らしている。

「そういうカイルだって」

 言われたカイルも同じように赤い目をしていたが、だいぶ落ち着きを取り戻しているような穏やかな表情をしている。 ヤツハは梯子に上るとカイルの横に座った。

「気持ちいい風ね……」

「ここにいると、気持ちまで風に吹かれるようで、自分さえも忘れそうになる。 考え事をする時は、いつもここで夜空を見つめているんだ」

 カイルは夜空を見上げたまま、そっと目を閉じた。 ヤツハの栗色の髪も、風に揺れている。 ヤツハは静かに言った。

「あたしね、考えてたの」

「……」

 カイルは目を閉じたままでヤツハの言葉を待っていた。

「あたし、やっぱりシリウを止めるわ」

 カイルはゆっくりと目を開けた。

「シリウは、カイルの仇であるガラオルを倒すのと同時に、あたしの父親を助けようとしてくれてる。 そんな魔法みたいな術を探そうとしてる。 それはとても嬉しいことだわ。 だけど、皆がバラバラになるのは嫌……。 サクは『仲間なら信じろ』って言ったけど、あたしは、危険を冒してまでして欲しくないの!」

 カイルはヤツハの話を聞きながらじっと夜空を眺めていた。

「だからあたし、シリウに、行くのをやめるように言うわ!」

「ヤツハ」

 優しい声でカイルが口を開いた。

「あいつが、そんな理由で考えを変えると思うか?」

「それは……だけど……!」

 ヤツハは悲痛な顔をして呟いた。 ヤツハも、シリウが生半可な気持ちで決めたことではない事くらい分かっているつもりだ。 だが、それよりも強い思いがヤツハの心にはあった。

「大好きなカイルとシリウが離ればなれになるのなんて考えられない! それに……」

 ヤツハは息を吸い込み、言葉を吐き出すように言った。

「死んじゃったらどうするの?」

 その途端、カイルは振り切るように勢いよく梯子から飛び降りた。 そしてヤツハに向かい合い、諭すようにゆっくりと話した。

「最初からそんな暗いこと考えてどうするんだよ? それにヤツハは、シリウがすぐ死ぬような、そんな弱い奴だと思ってんのか?」

 ヤツハは小さく首を横に振った。 カイルはヤツハの両肩を強くつかんだ。

「シリウが死ぬわけない! 必ず帰ってくる! 信じて、俺たちはココで強くなるんだ、もっと! シリウが帰ってきたとき、自信持って一緒にガラオルを倒しに行けるように!」

 ヤツハはカイルを見た。 意外なほどしっかりした瞳に、ヤツハの心が和らんだ。 カイルを安心させようと来たつもりが、逆にカイルに励まされてしまった。 しかし

「でも……」

 カイルの眉が歪み、唇が震えて、思わず噛み締めた。 静かにひとつ息を吸うと、震える声で言った。

「今は、泣いてもいいよね?」

 カイルはヤツハに抱きついた。 やはり気持ちは押さえきれなかった。 満点の星空に見守られながら、二人は抱き合って泣いた。


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