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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
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ディンゴの逆襲!

「あの二人も、なかなかお似合いじゃないですか」

 耳元で言うシリウの声に我に返ったカイルは、同時に、自分の両肩に置かれたシリウの手に気付いた。

「いつまでそうしてんだよ!……!」

 慌てて身体を離したカイルは、シリウの後ろから襲ってくる獣に気付いた。

 反射的に、腰に装備していたナイフを手に取り

「シリウ動くなよ!」

 と一喝するが早いかソレを獣に投げ付けた。 ナイフは獣の足を大きくえぐった。

「キャンキャンッ!」

 と鳴きながら逃げていく獣を見送り、ゆっくりと振り向いたシリウは、カイルに微笑んだ。

「ありがとうございます」

「ふん……」

 カイルは照れたようにまた頬を赤くして、落ちたナイフを拾った。 刃先に、さっきの獣の血液が付いている。 それを近くの木から採った葉で拭き取ると、また腰に装備した。

「くそっ……仕留められなかった」

 悔しげに言うカイルに、シリウは嬉しそうに言った。

「嫉妬なんてカイルらしくないですよ。 僕を信じてください!」

 カイルはビクッとしてシリウを睨んだ。

「だからそれ、やめろって!」

 迷惑そうに言うカイルに、シリウは嬉しそうに微笑んでいる。

「シリウ、カイル、大丈夫か?」

 サクとヤツハが駆け寄ってくるのを見て、シリウは微笑んで言った。

「大丈夫ですよ。 カイルが僕を守ってくれましたから」

「シリウ!」

 咎めるカイルに、サクが笑った。

「なんだ、仲直りしたんじゃんか!」

「でも、仕留められなかった……」

 悔しそうに獣が逃げていった方を見ながら言うカイルに、ヤツハも眉をひそめた。

「今のはディンゴでしょ? 仲間を呼ぶかもしれない。 ここから離れましょう!」

 四人はとりあえずの距離を稼ごうと、少し走ることにした。

 

 仲間意識の強いディンゴの鼻は異常に発達している。 道に残った僅かな匂いも嗅ぎつけ、どこまでも獲物を狙う。 四人は方角を見失わないようにしながら、木々の間を縫って先を急いだ。

 だが、野性の力は想像以上に侮れないものだった。 程なくして、走り続ける四人の前に、何十頭というディンゴの群れが立ちはだかった。

「うわっ! やべえ!」

 サクが木の枝にしがみついて急停止すると、他の三人も木の枝に乗ったまま立ち往生してしまった。

 

 大きなものは、体長二メートル以上にもなる大型の犬科の動物ディンゴたちが、サクたちが乗る木の幹によじ登ろうと爪を立て、うなり声を上げながら攻め立てる。 口の端を大きく吊り上げ、よだれを垂らしながら、ディンゴの群れは怒りに満ちている。 やはりさっきのディンゴの仲間なのだろう。

「目の前にアルコドが見えているのに……」

 シリウが残念そうに呟くと、カイルが装備していた剣を抜いた。

「ここは俺がおとりになる! お前たちは先を急げ!」

 と三人に残すと、カイルは地を覆うかのような巨大なディンゴ群に飛び込むように切り掛かった。

剣舞四奏(ケンバイシソウ)!」

 カイルの剣がまるで四本になったかのように増殖し、ディンゴを切り裂いていく。 だが、ヤツハが戦況を見極めた。

「一人でなんて無茶よ! 相手の数が多すぎる!」

「俺も行く!」

 サクが拳を握って飛び降りた。

爆拳刀刹(バクケントウサツ)!」

 繰り出されるサクの拳から無数の気の弾が放たれ、ディンゴの巨体を薙ぎ倒していく。 カイルと背中合わせになったサクは、叫ぶように言った。

「無茶するなカイル!」

「こうなる原因を作ったのは俺だ。 せめて、シリウだけは先に進ませたい! 道を切り開く!」

 カイルはサクから離れると、剣を上段に構えた。

「シリウ! 先に進め! 剣舞道轟(ケンバイドウゴウ)!」

 気合いを込めて振り下ろすと、切っ先から旋風が生まれ、森の中に道を作るようにディンゴも木も、全ての障害物を薙ぎ倒していく。

「シリウ、急げ!」

 カイルの声に

「あたしが援護する!」

 と一足先に降り立つヤツハ。 シリウはひとつ頷いて飛び降り、森の中にぽっかりと空いた道を走りだした。

「オレたちも後から行く!」

 サクの声を背中に受け、シリウの俊足はカイルが作った道を風のように滑っていった。 その後ろ姿を遮るように立ったヤツハが、腕を交差させて構えた。

「皆、息を止めて!」

 サクとカイルが頷くと同時に、振り上げられたヤツハの両手から旋風が生まれた。

百花眠眠ヒャッカミンミン!」

 風の中に交じって紫色の花びらが舞い踊り、ディンゴ群を囲んだ。 それを吸い込んだディンゴたちが次々に倒れていく。 そして寝息を立て始めた。 いち早く息を止め、その場を離れたサクとカイルは、ヤツハと共にシリウの後を追った。

 それでもディンゴの数頭がまだ追ってくる。

「ったく、しつこいなあ!」

 振り返りながら迷惑そうに言うサク。 ディンゴたちは怒りに我を忘れたようにひたすら三人を目指してくる。 走る速度では、完全にディンゴの方が速い。 すぐに追いつかれるだろう。

 再びカイルが振り返り、剣を構えたその時

「皆、早くここへ!」

 と言うシリウの声が響いた。

「シリウ!」

 サクはカイルとヤツハの腕を引いて、シリウのもとへ飛び込んだ。 その脇でシリウの両腕が空を仰ぎ、念と共に円を描いた。

蒼炎花(ソウエンカ)!」

 四人の前に蒼い炎の壁が立ち上った。

 勢い余って触れたディンゴが焼け焦げていく。

「さあ、今のうちに!」

 四人は頷きあって踵を返した。 その時、炎の壁を抜けて、一頭のディンゴが飛び込んで来た。

「きゃあああっ!」

 ディンゴはヤツハの足に牙を立て、振り抜いた。

「ヤツハっ!」

 驚くサクの目の前を、ヤツハの体が舞う。

「くっ!」

 カイルの剣がディンゴの体を切り裂いた時、ヤツハの体は地面に叩きつけられていた。

「ヤツハっ!」

 サクが急いで駆け寄って体を起こすと、ヤツハは気を失っていた。 太ももからは大量に出血している。 咬まれた傷も深そうだ。

「ヤツハっ! なんてこった!」

「急ぎましょう! アルコドはすぐそこです!」

 シリウの言葉に、サクは唇を噛んでヤツハの体を抱き上げた。

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