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「ハロウィン」なのか「ハロウィーン」なのかはっきりしてください!!

 十月三十一日は、日本人には「コスプレの日」と認知されているハロウィンだ。ちなみに、日本の国営放送においての発音は「ハロウィーン」だが、「ハロウィン」の方が馴染みがあるかもしれない。


 今年のハロウィンは金曜日だ。渋谷はさぞ混む事だろう。そんな中、赤坂の総務部室で、

「ハロウィンパーティーを開催します!」

石川は宣言した。


 人生初ハロウィンパーティー参加の有利は、人生初コスプレをしている。

「何故、ナース……?」

そうこぼしてしまう程に、人生初ナースになっている。このナース服は総務部室の備品入れの中に綺麗に畳んでしまってあったのだが、若干使用感がある本物のナース服のように見える。ミニスカではない。

 男子全員がそんなナース服に着替えると、

「メイクしまーす」

何でも知っている津幡はメイク法まで知っているようで、有利の顔にぐりぐりべたべたぽんぽんし始めた。

(何されてるんだろう……?)

初メイクでもある有利は不安になった。特に「ぽんぽん」だ。津幡が有利の顔面に、手にしているスポンジを手早く「ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん」みたいな感じで叩き込むと、その衝撃で頭が「ぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐら」みたいな感じになるのだが、動いてしまうと邪魔になるので、必死に首に力を入れて頭を固定した。そんな動作を世の中のメイクをしている人全員がやっているのかと思うと、恐怖すら感じる。

 「俺は自分でできるからいいよ」

そして、輪島はセルフメイクだ。ぽんぽんの力加減は控えめだが、確実にぽんぽんはしている。そして、ぽんぽん終了後は二十代女子みたいな質感の滑らかな肌に変化した。ぽんぽんは凄い。


 有利と輪島が終わり、他の男子たちもメイクを終えると、感想を言い合わないうちに女子達が入室した。CEOの執務室で着替えたようだ。

 女子たちは黒ずくめの魔女っ子だ。裾が広がったヒラヒラのミニスカで、ビスチェのような上半身は胸元がそれなりに開いている。とんがり帽子を被っているので「魔女っ子」と認識できるギリギリのラインだ。絶対に本物ではないだろう。

「……!!」

有利は「ぽんぽん」以上の衝撃を受けた。そして、

「小松さん……!」

その視線の先にある能登も衝撃を受けたようだ。

 有利は衝撃のナースだった。

「本物みたい!」

ののが目を見開いて感想を述べると、

「病院でのディストーションの時にいいかも……」

普段はボケない松任までもが同調した。それ程の衝撃なのだ。

 ここで、ナース服から薄っすら筋肉が透けている、金髪ウィッグでギャルメイクの石川が発言した。

「有ちゃんは顔立ちも身長も何もかもが普通の範疇だから、コスプレしてもこうなっちゃうんだね。普通っていいよね」

イケメンな上、ピチピチナース服を着れば分かってしまう程良い筋肉の持ち主は、「普通」を褒めた。

「そうですよねぇ、普通っていいよねぇ。僕も普通が良かったな。いらない苦労が多過ぎるんだよ」

そして、胸に詰め物をパンパンに詰めた巨乳に、ピンク髪ボブのウィッグで地雷系メイクの津幡は羨ましがり、

「こういうショートの看護師さんいるよね。普通に優しくしてくれそう」

ゆるウェーブを生かしたハーフツインテにナースキャップが可愛いサブカル系おしゃれナースの輪島は感心し、

「普通が一番だな」

更に、普段は自分も普通なのに、ナース服の前が閉まりきらず中のTシャツが見えている、ウィッグなしでドラァグ・クイーン風メイクの加賀は頷いた。

 女子たちはメイクまで黒ずくめだ。若干紫寄りではあるが、目元も口元もみんな黒だ。松任はいつものかっちりが妖艶なお姉さんになっているし、能登は高三くらいに見えていたのが、逆に小学生が無理してメイクしたみたいになっている。どういう仕組みかは分からない。メイクとコスチュームにはそんな威力、もしくは、破壊力があるのだろう。

「ねえねえ、私、どう?」

満面の笑みでくるくる回りながら感想を求めるののに、

「可愛いよー」

石川は適当で、

「うん、いいよね」

輪島は微笑み、

「そうだね、僕には負けるけどね」

津幡は張り合い、

「その格好を『似合ってる』と言ってもいいのか?」

加賀が困惑する中、

「いつも黒いから、違和感ないね」

有利は忌憚ない感想を口にした。


 今夜の天気は雨だ。今は小雨だが、夜が更けると大雨になるかもしれないし、ならないかもしれない。だからと言って、ハロウィンは無くならない。今頃は恐らく、渋谷ではしっとり濡れたコスプレイヤー達が小競り合いをしている事だろう。

 関東支部メンバーもそうなるのかと思いきや、

「ここ、コスプレしてたら十パーオフになるんだよ」

石川が予約していた居酒屋を訪れた。「居酒屋」ではあるが、アメリカンな装飾で溢れているなかなかおしゃれな店だ。


 関東支部メンバーは有利を除いて全員容姿がいい。それはもう「オーディションしたの?」と疑いたくなる程に整っている。辛うじて輪島は普通寄りだが、それでもイケメンの部類には入る。

「そうだよね、俺、フツメンで合ってるよね。羽咋さんはイケメンって言ってたけど、俺、別にイケメンじゃないよね」

その中にあって「ごく普通の優しそうなナース」の有利は、脈拍でも確認するかの如く自分のポジションを確認した。すると、

「ユーリはふつうなところがかわいいんだよぉ」

隣に座っている、癖のある薄い茶髪に、濃い睫毛で薄い茶色の瞳のイケメン黒船ナースが発言した。ナース服自体はみんなと同じだが、メイクはしていない。

「確かに、今の小松くんは普通なところが可愛い看護師さんだな。お世話されたいな」

自分も今はゆるくて可愛い看護師さんの輪島がにっこりすると、

「そう言えば、羽咋もそんな事を話していた。『恋愛リアリティーショー出演でフォロワー数爆増するレベルの自然な顔なの』」

ここで、加賀は自分の記憶にある羽咋の発言を再現した。モノマネだとすれば似ていないが、抑揚だけは同じだ。

「そうだねぇ。ふつうだけども、ナチュラルにかわいいんだよぉ」

それについては完全同意の黒船ナースは、「ナチュラル」を上手に日本語のカタカナで発音した。

 普通に会話に挟まっている黒船ナースとは、あのマットだ。居酒屋で合流していた。

「マットさん、日本語がお上手で、凄いです……」

有利と反対側の隣に座っている能登が大人しくにっこりしながら「ナチュラル」の感想を伝えると、

「スズもにほんごじょうずだよねぇ」

マットはにっこりし返した。アメリカンジョークなのかもしれない。

 マットはアメリカ本部のAランクエージェントだが、日本愛が強過ぎて、ののとマブダチになった後、休職して東京の大学に留学している。その間、何かあれば関東支部を手伝ってもいい事にはなっているのだが、その機会は滅多にない。飲み会もたまにしか参加しない。恋に勉強に忙しいからだ。


 アメリカンな居酒屋でアメリカンな黒船ナース達とアメリカンな料理とそれ程アメリカンではないアルコールで盛り上がっていると、グループLiNKに羽咋からの画像が届いた。

「……!」

有利は驚いた。実際に会った時の羽咋はダルダルだったが、届いた仲良し親子のコスプレ写真には、とんがり帽子を被った女優みたいに綺麗なお姉さんが映っているからだ。

(メイクって凄いんだな……)

それはそういう事なのかもしれないし、ダルダルでない時はいつもこうなのかもしれないし、カメラアプリの機能で綺麗になっているのかもしれないし、その全部の要素の掛け合わせなのかもしれない。

「ひばりちゃん、可愛い……」

マットを挟んで向こうにいる能登が、悪魔カチューシャのひばりを「わぁ……」の顔で褒めているのを見て、

(そうか、今日はみんなが可愛い日なんだな)

あくまで普通のナースの有利は顔が綻んだ。


 ここで、トイレタイムだった津幡が狭い店内をすり抜けながら戻ろうとしていると、

「お姉さん、俺らと一緒に飲まなーい?」

何と、途中のテーブルにいたチャラい集団にナンパされた。リアル女子と思われたのかもしれない。しかし、津幡はリアル男子だ。

「殺すぞ」

普段は絶対に出さない低いトーンのドスの効いた声音で言いつつ、頭上に「"!?"」が浮かんでいるかの如く顎を上げて睨んだ。

「すんません……」

それにはナンパ男子もチャラさを封印して頭を下げる事必至だ。

 席に戻った津幡はまだ怒っている。

「僕をナンパするなんて百万年早いんだよ」

そっち方面に怒っている。

「俺の事はナンパしないのにな。って事は、俺は賢ちゃんの百万年先を生きてるんだな」

ちょっと酔っている石川は置いておいて、

「ケンスケのかわいさは、そこじゃないもんねぇ」

謎の理由でマットが同意すると、

「そうだよね。津幡さんの可愛さを理解してる人じゃないと、ついていっても悲しい思いをするだけだもんね」

マットと反対側の有利の隣に座っているののも謎だった。

 有利がなんの気なしにチャラい集団を眺めていると、続いてトイレから戻ってきた松任にも声をかけている。

「ねえねえ、お姉さん、魔法かけてよー!」

コスチュームにちなんだナンパだが、松任は無視を決め込んだ。

「ほら、誰でもいいんだよ、あいつら」

さらに津幡が怒っていると、

「はぁ……」

石川の隣に座った松任が眉間に皺を寄せながら溜め息をついた。

「私、魔女じゃないんですけど。巫女なんですけど」

そして、そっち方面にがっかりしていた。

「え、巫女? 松任さんって巫女さんなんですか?」

新事実にびっくりの有利が尋ねると、隣でマットも「オーマイガー」みたいな感じで口に手を当てている。ただ、他の全員には周知の事実のようだ。「そうなんだよー」の顔だ。

「どうせ、もう巫女の資格ないんでしょ? ほら、巫女ってアレなんでしょ?」

そして、まだ怒っているのかもしれない津幡が絡むと、

「殺すぞ」

松任は冷たい表情で、巫女らしからぬ暴言で返した。だから、巫女であって巫女でないのかもしれない。ちなみに、「巫女ってアレ」は事実ではないらしい。

 そして、「巫女ってアレ」の意味が分からないマットが、

「ねえねえ、ユーリ、ツルギは何なの? 『アレ』ってなぁにぃ?」

有利の肩に手をペタペタするというナチュラルなボディタッチで質問していると、その向こう側の能登が赤面しているのが目に入った。

(能登さん、知ってるんだ! そうだよな、元彼五十人位いそうだもんな!)

という訳で、有利は能登に聞こえないように、マットの耳元でごにょごにょ説明してあげた。

「えー、わかんなぁい」

可愛く困っているマットは、本当に困っているのかは不明だ。

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