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王道ルート拒否!~転生やりこみゲーマーはメインストーリーを避けて通りたい~  作者: 藤原キリオ


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07:フォーラス村



 【AG】(アーク・ジェネシス)における『はじまりの街』は【ベレッサの街】である。

 シュトローゼル王国の西方にある中規模の街。王都から離れていて落ち着いた街だと言えるだろう。

 そんな街だからこそ【夜霧の梟】はアジト(隠れ家)にしたのだろうが、それはさておきだ。


 【ベレッサの街】から街道を西に進み、途中で北へ続く細い街道をさらに進むと【フォーラス村】というのがある。

 強い魔物が住むと言われる【ヴォンヘーデンの森】の入口とも言える小さな村だ。

 そこが主人公の生まれ故郷、という設定になっている。


 なぜゲームの開始を【フォーラス村】にしなかったのか。まぁ村に教会がないからチュートリアルができない(覚職ができない)というのも理由なのだと思うが、設定を変えれば故郷から始めることだってできただろう。

 故郷からの旅立ちをプレイ開始とするゲームなんて山ほどある。

 【AG】(アーク・ジェネシス)がなぜそうしなかったのか、それはインタビューでも語られていない。



 【フォーラス村】は「行く必要のない村」だ。

 メインストーリーには絡まないし、王都から離れることになる。進行方向とは逆方向なのだ。

 おまけに隣接する【ヴォンヘーデンの森】は推奨レベルが高いし、少なくとも序盤で訪れるべき場所ではない。

 本格的に探索したかったら、王都や他国へと足を運んだのち、わざわざ故郷に舞い戻るといった動きが必要になる。

 だから無理して行く必要はない。行かなくてもちゃんとクリアできるようになっている。


 しかし多くのプレイヤーは「なるべく早くに行くべきだ」と知っている。

 遅くとも【ベレッサの街】を離れる前には訪れておくべきだ、というのが常識のようになっている。

 それほど得られるものが大きいということだ。だから無理をしてでも序盤に行く。


 ただゲームであれば数分で行けたところ、現実世界ならばどうなのか。それが不安だった。

 だから西門のそばにある貸馬屋で聞いてみたのだ。



「【フォーラス村】か。歩いて三日、馬なら二日だね」



 内心げんなりもするが、これでも近いほうだと思う。世界観的に集落同士が近いわけもないし、移動は馬車か馬が基本だろう。

 途中にキャンプ地のようなものも点在しているらしく、そこで休みつつ行く感じになるらしい。

 ゲームにない要素である。正直、心躍る。


 結局、俺は歩きで向かうことにした。馬と一日しか差がないしな。

 おそらく乗馬はできると思う。【ナイト】ルートで騎士団に加入したこともあるし、馬には散々乗っていた。

 ただ現実世界となった今、勝手は違うだろうとも思うのだ。例えば水や餌やりだったり、適度に休憩を設けるだとか、そういった現実世界ならではのことに関しては無知なので、大人しく歩きで行こうと思ったのだ。



 【ベレッサの街】を出たのは三日目の早朝。そこから西へと歩き続ける。

 はたして体力的に行けるものなのか、不安もあった。しかし思っていた以上にステータスというのは優秀なようで、大して疲れるようなこともなく、靴ずれを起こすようなこともなく、延々と歩き続けることができた。

 こうして確認できたのも収穫である。


 靴と言えば、出来るだけ早く装備品を改めたいとも思っている。

 今は初期装備の革の靴・布の服だが、インベントリに唸るほど在庫はあるのだ。まぁ死体と一緒に、だが。

 【夜霧の梟】は暗殺者の集団だから、同じ斥候職である【スカウト】の俺でも装備できるものは多い。

 サイズとかの問題もあるだろうから吟味は必要だろうが、装備を更新しようと思えばいくらでもできる状況ではある。


 問題は二つ。

 一つは死体から剥ぎ取らなければいけないということ。死体はインベントリに放り込めばいいが、剥ぎ取る手間を考えれば、街中や街道ではできないだろう。

 というかできれば死体も一緒に処理したい。いつまでもインベントリにあるという状況は何となくモヤモヤする。


 二つ目は「いきなりFランク冒険者らしからぬ装備になる」ということだ。目立つだろうなぁと。

 とは言え「死なないよう生き延びる」というのが俺の方針でもあるし、危険が満ちた世界で魔物と戦うのだから、安全面を考えてもいい装備にしておきたいという気持ちがある。



「まぁこれも父親の形見とか言い訳すればいいかな」



 そんなことを一人ごちて街道を歩いていた。

 細い街道に入って、人目につかない場所があればそこで死体から剥ぎ取ろう。





 街道ではほとんど魔物を見ることもなかった。たまにホーンラビットなどの雑魚敵が出るくらいだ。

 遠目にゴブリンも見かけたが拓けた街道沿いに出てくることは稀らしい。

 一応、熟練度稼ぎを兼ねて<エネミーサーチ>や<イーグルアイ>を使用しつつ歩いていたが、危険なことは一つもなかった。


 キャンプ地にも寄ったが、水場と竈があるだけで他には何もない。魔物避けの効果はあるらしいが、全ての魔物に対して効果があるものでもないらしい。

 俺はテントも持っていないので、木に背中を預けて無理矢理眠ったが、熟睡なんてできるはずもない。

 【夜霧の梟】のアジトに乗り込むよりも怖かった。冒険者として活動する以上、慣れる必要はあるのだろうな。


 怖さを紛らわせるためにも装備の更新を行った。

 死体をあれこれしているので「そっちのほうが怖いだろ」と言われそうだが、俺としては死体を前にしているほうがまだマシだった。それくらい魔物がいる夜の街道というのは怖かったのだ。


 今の装備はこんな感じ。


=====

 暗月の短剣 :STR+42、闇属性付与、<ナイトフォッグLv3>

 深き闇の上装:VTL+15、AGL+8、REG+8

 深き闇の下装:VTL+12、AGL+9、REG+6

 音無の革靴 :AGL+15、<スニークLv7>

 夜纏の外套 :REG+8、<ハイドLv4>

 忍びの手甲 :VTL+8、DEX+15

 耐呪の腕輪 :呪い耐性付与

 そよ風のスカーフ:AGL+3

 その他:暗殺者のベルト、マジックバッグ(大)

=====


 本当は頭領【夜霧のベルゲッツィ】の装備が一番優秀なのだがサイズの関係で断念。いずれ身長が伸びるか装備品を手直しできる機会があれば更新しようと思う。

 今の俺は15歳設定なんだよな。それにしちゃあ身長は高いほうだと思うが、この世界の男性は平均身長が180cm以上あるはずだし、それに比べれば俺はまだ小柄なのだと思う。


 とりあえず今はこれで十分だ。

 全身が黒すぎて水色のスカーフが浮いているが、まぁいいだろう。どちらかと言えば俺の白髪のほうが問題だ。浮きまくってる。

 なんでジェイルくんはこんなキャラクリしたのだろうか……謎だ。



 そんなこんなで三日。ようやく俺は【フォーラス村】に到着した。

 帰郷という気分はさらさらないが、ゲーム時代に訪れた場所である。感動を覚えるのは間違いない。


 村の規模は数十人程度。農業と林業で生計を立てている家がほとんどだ。

 森に入って魔物を狩る人もいるが、一番戦えるはずの俺の父親が死んだからな。それからどうなっているのか、それはゲームでも語られることはない。


 ポツポツと家が立ち並ぶ牧歌的な村。その光景を村の入口から眺めていると、ふいに声をかけられた。



「あら? ジェイルじゃない! あんた【ベレッサ】に行ったんじゃなかったのかい!?」



 ふくよかなおばちゃんだった。いかにも村人という感じ。

 もちろん名前も知らないし、ゲームで見たモブでもない。



(これは下手なこと喋られないな……確実にぼろが出る)



 俺はおばちゃんのことをどう呼んでいたのだろうか、ふいにそんな疑問が浮かんだ。

 あまり話し込むと齟齬が出るだろうし、適当に話を合わせつつ、手短に乗り切るべきだろう。


 それと、確定したことが一つ。俺ことジェイルがやはり主人公だったということ。

 むしろ「お前誰だ」という対応をされたほうが良かった。しかしおばちゃんは俺の事を知っており、【ベレッサの街】に向かったのも知っている。

 これはもう言い逃れできないだろう。自分は主人公だと受け入れるしかない。



「またすぐに行くよ。忘れ物しちゃってね、取りに来ただけなんだ」


「なんだい。出て行ったばかりで戻ってくるから不思議に思っちまったよ。覚職はできたのかい?」


「ああ、覚職もできたし冒険者ギルドに登録もしてきたよ」


「そりゃあ良かった。村長に顔くらい見せていきなよ? 今日は泊まってくんだろ?」


「そうだね。一応顔出しておくよ」



 それから村長の家へと歩く最中も、色々な人に声をかけられた。毎回同じような説明をした。

 装備もいきなり立派なものになっているので、それを突っ込まれることもあったが「掘り出し物を見つけてね」的なことを言って誤魔化した。


 村というコミュニティは全員が家族みたいなものなんだな。とても暖かく感じた。

 ボロが出そうだったのであまり喋ることはなかったが、それでも話し込みそうになるくらい、みんな俺の事を心配している様子が窺えた。


 これで俺がジェイルくんとしての記憶を持っていれば良かったんだけどな。残念ながらチュートリアル以降の記憶しかない。

 ゲームの知識もほとんど役に立たないしな。

 それにしても居心地良く感じてしまうのは、やはり身体に根付いた『望郷の念』があるのかもしれない。違和感だらけのそれが何となく嬉しくも感じていた。



「ジェイル!? どうしたんじゃ! 何かあったのか!?」



 村長宅に行っても同じように驚かれ、同じように説明した。

 不思議とめんどくさいとは思わない。心配してもらえていることをありがたいと思っていた。



「なるほどのう。ではお前の家の鍵を返しておこう。まだ出る時に預かっておくわい」


「ありがとう」


「夕飯はうちで食べるといい。街の様子を聞かせてくれ」


「ありがたいけど、まだそんなに街を見て回ったわけじゃないよ? それでもいいならいいけど」


「構わんよ。なにせわしらは村から出んからのう。少しの土産話でも嬉しいものじゃ」



 そんな流れになって夕飯をご馳走してもらうことになった。正直助かります。

 土産話と言っても俺が覚えているのはチュートリアル以降の二日間だけで、それ以前にジェイルくんがどれほど滞在していたのか分からない。

 そこら辺は適当に誤魔化しつつ喋ったのだが、何となく嘘をついている感じがして嫌な気分にもなった。


 自宅へと帰った俺はベッドに横になり「やっぱり早くに出たほうがいいな」と考えていた。

 居心地が良すぎる反面、騙している感じがして申し訳なくも思う。

 だからこそ早めに村から離れよう、【ベレッサの街】に帰ろうと強く思った。


 改めて見回す自宅。ゲーム内で見るそれとはまるで違う雰囲気があった。

 懐かしいとは感じないが、ほっとすると同時に寂しくも感じる。何とも表現しづらい空気感があった。

 村長は俺が帰って来た時のためにこのまま残しておくと言ってくれた。

 それもまた申し訳なく感じたのだが、そこで改めて思ったのだ。――ここが故郷、ここが実家なのだと。



 ベッドから起き上がり、両親の寝室だった部屋へと入る。

 母親は俺が幼い頃に流行り病で亡くなった。父親は一月ほど前に森で魔物に殺された。

 一人になった主人公は独り立ちのために街へと出る。それはちょうど十五歳、覚職を行えるようになる年のことだった。


 ……というのが主人公の設定だ。

 少し前まで父親と二人で暮らしていたのだろう。まだその名残があった。

 寝室には棚があり、そこには魔物の牙や骨で作られた装飾品が並べられていた。

 【ハンター】の父は村を魔物の手から守り、肉や素材を手に入れるのも仕事のうちだった。その成果がこの棚に並べられたものなのだろう。


 誇らしい勲章だ。

 しかし――俺はそれを拝借しなければいけない。

 それが目的でここまで来たのだから。



(最低限、借りるだけにしておこう。絶対にまた戻しに来よう)



 ゲームでは幾度となく手に入れていたものだ。しかしそれを手にすることに忌避感を覚えていた。

 やっぱり俺はジェイルくんなんだな、と少し苦笑いする。

 小さな声で「ちょっと借りていきます」と言い、二つのアイテムをインベントリに入れた。



=====

 狩りの勲章:経験値が2倍取得できる

 修練の証 :スキル熟練度が2倍取得できる

=====



 あとは居間にある『初心者用クラフトセット』も必要だ。

 簡単なものに限られるが<クラフト>や<アルケミー>が使えるようになる。

 【スカウト】のまま加工や錬金を使おうと思ったらこれに頼るしかない。


 他は何もいらない。おそらく売れば金になるものもあるのだろうが、手に取ることさえ嫌だった。そのまま残しておきたかった。

 自分の寝室に戻り、再度ベッドに身体を投げ出す。

 天井を見ながら何かを振り払うように、明日からの予定を考えていた。


 明日、村を出るのは確定だが……サブイベントはどうしたものか。

 【フォーラス村】にも現時点で受けられるサブイベントは四つほどある。

 メインストーリーに関わらないサブイベントはできるだけ熟したいつもりではあったが……何となくやりたくないと思ってしまう。やりこみ勢にあるまじき思考だ。


 村に数時間居座るのも、村人と話すのも、暖かいと感じるのに申し訳なさが勝ってしまう。

 だからこそサブクエストなんかやらずに村を出ようと、そんな決意をしていた。



「それと……問題は森だな」



 【ヴォンヘーデンの森】は推奨Lv40。【夜霧の梟】と大体同じではあるが森の探索ということで難易度は高い。

 絶えず警戒し、四方から襲い掛かる高レベルの魔物と次々戦うはめになる。

 ゲームならば最序盤でも死に戻り前提で無理矢理突入することもできたが、現実世界で同じ真似はできない。

 森を本格的に探索するというのはさすがに無理だろう。


 しかし、ここには放っておけないヤツがいる。

 村長から受けられるサブクエストを進めることで発生するチェーンクエストだが、放っておくととある魔物が村に襲って来るのだ。

 さすがにそれは捨て置けない。

 クエストを進めなければ発生しないイベントなのかもしれないが、楽観的にはなれなかった。

 この村を守りたいという気持ちが強かった。それが俺の意思なのか、ジェイルくんの意思なのかは分からないが。


 時期も読めないのであれば、なるべく早くに出向いて斃す必要がある。

 後回しにして【ベレッサの街】でのうのうと暮らすなんて無理だ。

 せっかくここまで来たのだし――やっぱり斃すしかないだろう。



 【ヴォンヘーデンの森】浅層のボス【カイザーウルフLv50】。


 ――父親の仇だ。





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