06:初日から全力で動いた結果……
さすがに疲れたし、もう宿に帰って眠りたい欲求が出ている。
しかし目的はあくまで金策なのだ。むしろこれからが本番と言えるだろう。
俺は【幽霊屋敷】よろしく【梟のアジト】を物色しはじめた。と言っても目につくものを片っ端からインベントリに仕舞う作業だ。
インベントリ内の分別や整理は明日の俺に任せる。
そうして俺は手当たり次第に収納していった。
私室や広間、食堂などもあらかた巡ったところで、最後に一つの部屋に辿り着いた。むしろ最後に残したまである。
俺は纏っていた外套のフードを深くかぶり、【そよ風のスカーフ】で口元を隠す。目だけが出ている状態で、その部屋の扉を開けた。
そこは牢屋だった。
大きな牢屋が三つ並んだだけの部屋。中には三~五人ずつくらいの人が入っている。
おそらく先ほどの爆発で起きていたのだろう。誰もが俺を怪訝な顔で見ていた。
(多いな。こんな時期から人身売買やりまくってたのか)
本来、【夜霧の梟】殲滅のクエストはメインストーリーを進めないと発生しないサブクエストだ。
【ベレッサの街】の住人から依頼を受けていた場合、この牢屋で捕らえられている女性を救い出すことでクエストクリアとなる。
しかしその時も全部で五人くらいしか牢屋にいなかったはずだ。こんなに多くはなかった。
【夜霧の梟】は色々と悪事を働いていたが、その一つが人攫いだ。闇奴隷として売るためだと言う。
だからこそ王都の騎士団が動くはめになり、そこでクエストを受けることもできるのだが、メインストーリーが進んでいない現段階でもこれだけ人攫いをしていたのかと俺は内心驚いていた。
「ちょ、ちょっとあんた何者よ!」
「さ、さっきの音は何なんだ! 何が起こったのだ!」
「ここから出してくれ! 頼む!」
一人の女性をきっかけに牢屋の人々が騒ぎ出した。
俺はそれを無視して懐から鍵束を取り出し、一番近くの牢屋の中に放り投げる。頭領の私室にあったものだ。
「えっ! それはっ!」という声を背中に聞きつつ、俺は一目散に退室した。あとは任せた。
そこからは走ってアジトを抜け、貧民街を抜け、宿屋を目指した。もちろん<ハイド>全開である。
俺は救世主になるつもりもないし、主人公ムーブをするつもりもない。
クエストだって受けていないのだから牢屋から助け出す必要すらないのだ。まぁさすがに脱出の手助けくらいはしたが。
礼を言われる筋合いも、感謝される筋合いもない。なにせ『金策のついで』なのだから。
ここで「大丈夫ですか! もう安心して下さい! 今助けます!」とかやってしまうと、名前も顔も広まってしまうし、何より【ベレッサの街】における【名声値】が急激に上がってしまう。出来ればそれは避けたかった。
【名声値】とは国・街・エリアごとに設定されている数値だ。
メインストーリーを進めていても上がるし、サブクエストでも多少は上がる。商人系の職業なら優先して上げるべきだろう。
名声値が高くなれば、受けられるサブクエストが増えたり、店の品揃えが増えたり、商品の値段が安くなったり、色々と恩恵がある。普通にゲームをするならば上げておいて損はない。それが名声値だ。
しかし名声値を高めることでメインストーリーが進む、といったこともある。
俺はなるべくメインストーリーを進ませないよう、適度なサブクエストだけを回すつもりなので、ここで一気に稼ぐわけにはいかない。
【夜霧の梟を殲滅せよ】というクエストは物語を進めた先にある大型サブクエストなのだ。本来は。
当然、もらえる名声値も大きいし、下手すれば現段階でメインストーリーを進むより多くの名声値を得てしまう恐れがある。
だから俺は逃げ帰った。
【夜霧の梟】を殲滅し、捕らえられた人々を助け出したのが俺だと知られないために。
謎の男が助けてくれました! で十分だろう。俺が名乗り出るつもりはない。
そんなことを考えながら部屋に戻り、ベッドにダイブする。さすがに疲れた。初日の稼働量じゃないだろ。
しかしそのおかげでしばらくは遊んで暮らせるほどの大金を得られた。
換金する必要があるものも多いのだが現金だけでも相当なものだ。さすが闇組織である。
そのまま俺は意識を失い、気付けば昼前。
宿屋の店主に叩き起こされるまで、俺は眠り続けていたのだ。
◆
「あれ? おばさん、どうかしましたか?」
「いやね、大事な結婚指輪をなくしちゃったのよ。どこに落としたかしら」
「それは大変ですね。俺も探しますよ――ってあったぁ!」
「ええっ!? まあまあありがとう! 助かったわ!」
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【結婚指輪を探して!】クリア!
報酬:ポーション十本、500mil
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「ああ、僕の筆が折れてしまった……これからどうやって描けばいいのだ……」
「お兄さん、良かったらこの筆使います?」
「ええっ!? いいのかい!? 助かるよ!」
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【新米絵描きの嘆き】クリア!
報酬:魅力の実 一個、300mil
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「この街には若かりし頃来ていたのじゃがのう。戯れで来てみたはいいが、なかなか思い出すのも難しくなってきた。せめてあの頃の思い出の品でもあれば……」
「お爺さん、こんなものを拾ったのですが」
「おおっ! それはわしが娼館のお姉ちゃんに贈ったペンダント! 懐かしいのう、まさかこんなものが残っておるとは」
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【若気の至り】クリア!
報酬:派手なローブ、1,000mil
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「あの金貸しめ、暴利をふんだくりやがって! 証文さえ戻って来れば踏み倒せるのに!」
「もしかしてこれのことですかね? 路地に落ちてたんですが」
「マジかよ! はっはっは! 落とすなんてあの金貸しもバカだな! これで借金もチャラだ!」
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【借金はつらいよ】クリア!
報酬:転職チケット 一枚、800mil
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とりあえず昨日【ベレッサの街】で拾い集めたアイテムでサブクエストを熟していく。
メインストーリーと無関係なサブクエストはなるべく熟す方針だ。名声値もそれほど増えないしな。
しかしやってみると非常にゲーム的だなと感じる。現実世界味がない。
【夜霧の梟】なんかはゲームと違う点が多々あったが、街中の納品クエストなんてこんなものなのだろうか。
筆とか普通に買えよ、と言いたくもなる。報酬の300milがあれば何本でも買えるだろうに。
借金に困ってて800milくれるのも意味わからん。思い出のペンダントも娼婦への貢ぎ物だったし……。
まぁ報酬がちゃんともらえるので、ありがたいのは間違いないのだが。
ともかくこれで、現時点でできる【ベレッサの街】のサブクエストは終了。
あとは街の外で魔物を斃してそのドロップ品を納めるだとか、どこそこに行ってアイテムを見つけるだとか、そういった類のものだ。街中だけで完結できるサブクエストはもうない。
となると、サブクエストに加えて冒険者ギルドの依頼を受けつつ、街の外へ出て魔物を斃す……といった流れになるだろう。
メインストーリーに関わらない範囲での活動といったらそういう感じになる。
もしくは近場のダンジョンに行くかだ。
【ベレッサの街】の近くにあるダンジョンは初心者用。推奨レベルはLv5とかそんなものだ。
今の俺なら問題なくクリアできるし、魔物の行動パターンも罠の配置も頭の中に入っている。全くもって問題ない。
まぁ初心者ダンジョンをクリアしたところで得られる成果は微々たるものなのだが、それでもやりこみ勢としてはクリアしておきたいところだ。
全てのサブクエストを熟し、全てのダンジョンを制覇する。
そういったプレイスタイルでやっていたわけだが……少なからずメインストーリーにも関わるからな。現実世界の今では難しいだろう。
だからこそクリアできるダンジョンはクリアしておきたい気持ちも強い。新米冒険者として「普通に見える」行動でもあるしな。目立たないという意味ではむしろ挑戦しておくべきだろう。
街の外で魔物を狩るにしても、ダンジョンにしても、「戦う」ということには変わりない。
しかしやりこみ勢は全員知っているのだ。――本格的に戦う前にやるべきことがある、と。
本来なら【夜霧の梟】を殲滅する前にやりたいと思っていた。
さすがに所持金がスッカラカンの状態だったから止む無く【夜霧の梟】のほうを処理したわけだが、おかげで今の俺はレベルも上がってしまっている。
三十人以上もの猛者を斃したのだ。しかも今戦えるはずもない相手。
当然のように経験値は多かったし、得られたアイテムも現時点では過剰と言えるものだった。それは【幽霊屋敷】もそうなのだが。
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Name:ジェイル
BIL:闇と計略の神
JOB/Lv:スカウト(22)(+21)
HP:159(+137)
MP:112(+95)
STR:53(+44)
VIT:37(+32)
INT:38(+30)
REG:40(+33)
AGI:88(+73)
DEX:84(+70)
CHA:42(+32)
LUK:64(+52)
WEP Skill:ラッシュエッジ(5)、アサシンエッジ(6)、クロスエッジ(5)、バックスタブ(1)、ラストエッジ(1)、スターバースト(3)
JOB Skill:スニーク(1)、ハイド(6)、エネミーサーチ(4)、コレクトサーチ(1)、トラップサーチ(1)、ラビットイヤー(3)、イーグルアイ(1)
Gear:暗月の短剣、そよ風のスカーフ、布の服、革の靴、耐呪の腕輪
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明らかにゲーム開始二日目のステータスではない。不可抗力もいいところだ。
Fランク冒険者相応でもないから目立たないよう注意が必要だ。おそらくCランクくらいはあるだろうしな。
やりこみ勢なら経験値の取得を最小限に抑えつつ、とあるアイテムを狙う。
最高効率を狙うプレイングは様々なプレイヤーに共通する考え方だ。
のんびり呑気に【AG】の世界を楽しみたいというプレイヤーであっても「なるべく早めに手に入れるべきだよね」というアイテム。それを俺も狙いたいのだ。
というわけで――行こうか。わが故郷へ。




