50:赤月の牙獣
公衆浴場から帰った俺たちは部屋でまったりしつつ、これからの行動予定を改めて話し合ったりしていた。
【湖畔の街マグルリーチ】ではやることが地味に多い。
それをリスト化し、順序立てて熟していこうとみんなには共有しておいた。
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・街中のアイテム探し
・掘り出し物探し
・街の外で魔物狩り
・街中の依頼人に納品、ギルドで依頼を熟す
・ブラッディベア討伐
・オーガ集落殲滅
・ヴィヴィアン討伐
・(装備新調)
・英傑の遺物入手
・【賢者マーグリッドの遺跡】攻略
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「一応こんな流れで考えてはいるんだが」
「分からないところが多すぎるな。英傑の遺物とは何だ? 遺跡にあるのか?」
「ブラッディベアとかAランク推奨ですよ? そんなのが近くにいるですか?」
「それと並んでオーガの集落ってことはオーガキングもいるんじゃねえのか?」
「ヴィヴィアンってあの『湖の精霊』ですよね? それも斃さなければいけないのですか?」
みんな色々と疑問があるらしいので一つずつ説明していく。
前半は他の街でもやっていたことだな。最初にサブクエを熟したいと。
まぁ外の魔物や遺跡の魔物の素材納品とかもあるので、まとめて報告ということはできないだろうが、街を巡るついでに適宜報告⇒完了としていくつもりだ。
ブラッディベア、オーガ、ヴィヴィアンは強敵と戦うタイプのサブクエだな。今回はレベル上げも兼ねてこれらも熟す。
どれもLv50以上であり一筋縄ではいかないだろうが、斃すことはできると思っている。
もちろん安全性を重視するため、事前に周囲の魔物を狩ってレベル上げをするし、俺のゲーム知識で攻略法は伝授するつもりだ。
そこら辺のドロップアイテムを利用して装備を新調できれば尚良しなのだが……正直あまり期待はしていない。
一番新調したいのはエリザのドレスとネフィリアの防具だ。しかしそれに見合う素材をドロップしないんだよな。
掘り出し物が見つけられればそれでいいのだが、最悪は店売りで最上のものを見繕うしかない。
それにもし素材から製作を依頼するとなると何日かかるかも重要だ。
もしかしたら頼んでいる間に【賢者マーグリッドの遺跡】を攻略した、なんてこともありうるからな。本末転倒である。
もし発注するなら時間も見ておかないといけないということだな。
【英傑の遺物】というのはヴィヴィアンと戦う時についでに回収するつもりなので、そこでまた説明する。
これがないと【エルフの隠れ里】に行けないので絶対に必要だ。
そして最後が【賢者マーグリッドの遺跡】の攻略だな。これが幾日かかるか分からない。
おそらく長期間の探索となるはずなので相応の準備をした上で臨むことになるだろう。
で、ここで集めたドロップアイテムも街中のサブクエ依頼人に渡すことで【マグルリーチ】でやるべきことは全て終了となる。
「下手したら一月近く滞在することになるかもしれないな。遺跡次第だけど」
「遺跡は一度の探索で攻略まで行くつもりなのか?」
「それも微妙だな。途中で引き返して再挑戦も十分にありうる。素材が手に入ったから装備を作るだとか、レベルがカンストしたから転職するとか、何かしらあるかもしれん」
「こないだ転職したばかりですけどね……」
「それだけ強敵と連戦するってことだろ。となるとまたスキルの熟練度上げが必要なわけか」
「そうだな。どちらかと言えば熟練度重視で戦い続けることになるだろう。レベルは勝手に上がるだろうし」
まぁ俺もここで転職までは考えていない。それだけ時間がかかるということだしな。
エルフの隠れ里に行くまでに越えたいラインはあるが、無理して今稼がなくても大丈夫だろうと思っている。
ただ俺が想定している稼ぎ場よりここが稼ぎやすいと思ったならば話は別だ。【マグルリーチ】で転職もありうる。
今ここで言えるのは大まかな予定だけだ。
何かしらの理由で予定が変更になることもあるだろう。それは今までもこれからも同じことだ。
「ちなみにこの街で注意すべき人物などはいるのか?」
「一人いるが特に気にすることもないな。おそらく会えてもカーマインを推すことはないと思う」
【湖畔の街マグルリーチ】で仲間になる可能性があるのは、準ユニークキャラが一人だけいる。
ゲティスという【スカウト】の男性で、遺跡の入口で出会うことのできる『傭兵』だ。
こいつは「もしパーティーに斥候がいなかったら仲間にすることで遺跡探索が楽になりますよ」という製作者の温情のようなキャラなのだ。
1,000mil払うことで一回の探索に着いてきてくれる。(今の世界での相場は知らん)
遺跡から出れば仲間から外れるので(グリッジを使わない限り)他の街に連れて行くこともできない。
だからカーマイン陣営にも加わらないだろうし、推す必要もないということだ。もちろん俺たちの仲間に入ることもない。
そんなことを話しつつ、【マグルリーチ】の初日は終わった。
二日目、俺たちは宿を出て、まずは街中を散策する。
アイテム拾いと掘り出し物探しのためだ。
街は【ソニア湖】の東部に沿うように築かれている。
大きな湖の沿岸は浜辺だ。街と湖の間に砂浜が広がっている感じ。ここだけ見れば海だな。波はほとんどないが。
街は山中にあるということもあり、家は木造のものもあるが、石造というかモルタルを塗ったような家が多い。なんとなく高級感があり、街全体をそうした雰囲気で統一することでリゾート化しているのだろう。
【ストンブリッジ】のように商業に力を入れているわけではないから冒険者用の商店の数としては少ない。
しかし【マグルリーチ】は本来、中盤の中~後半で訪れる街なのだ。王都で魔法学院イベントを熟すことで『賢者の手記』を手に入れ、「じゃあマグルリーチ行こうか」となる街である。
必然的に売られているものも中盤の中~後半相応のものになる。
遺跡に高ランク冒険者が集まるからという理由もあるだろうが、リッツエルデ王国で店売りされている装備としてはかなり高性能なものが多く並んでいた。……もちろんゲームではありえないほどの高額だったけどな。
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真珠糸のドレス×2、樹精霊のローブ、風の恵みの靴
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とりあえず優先すべきエリザのドレスと、ネフィリアの防具一式を買っておいた。
また変えるかもしれないけどな。買っておいて損はない。
街中で拾ったアイテムは相変わらず使うこともないであろう消費アイテムが多いのだが、あえて戦利品と言えそうなものを挙げればこんな感じだ。
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MPポーション、魔力の実
緋珊瑚のネックレス、疾風のイヤリング
解読のモノクル、付け髭
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アクセサリはすでに持っているものだが【緋珊瑚のネックレス】は毒・麻痺・睡眠の状態異常耐性だから非常に有用だ。俺が装備させてもらうことにした。
モノクルと付け髭はサブクエ用アイテムだな。
考古学者が解読のモノクルを欲しているんだが……これ、俺たちで使えないのかな? もしかしたら古代語とか読めるんじゃないか? そもそも古代語とかあるのか知らないけど。
ともかくそうして街を回りつつ、途中で納品できるサブクエ依頼人がいれば渡し、屋台で食べ物を大量に買ったり、雑貨屋で買ったり、ウィンドウショッピングしたり……そうして一日が終わった。
もちろん夕方には公衆浴場に行った。【マグルリーチ】にいる間はなるべく行くつもりである。
三日目からは街の外で魔物を狩る。
サブクエで必要なドロップアイテムを中心に狩り、あまれば冒険者ギルドの依頼を熟すといういつものやつだ。
みんなにはスキルだけで戦ってもらっている。熟練度上げを優先したい。
各々の主武器はもう決まっているので扱える武器の種類を増やす意味は薄いのだが、使えるスキルを増やすということはそれだけ戦闘で多様性をもたらすことができるということだ。強くなるためには必要だろう。
レベルを上げるには戦闘回数を多くする必要があるが、一回の戦闘時間を短くするのにもスキル多用が最善策だし、逆に一度の戦闘で何回もスキルを使うことだってできる。
経験値を得るより熟練度を得るほうが不確定要素は多いのだ。
だからこそ優先してスキルを使っておきたい、ということだな。
三日目と四日目はぐるりと湖を周るように周辺の魔物を狩り、五日目にはいよいよサブクエの討伐対象に挑戦する。
この頃にはすでにLv30を超えていた。ならばもう挑戦してもいいだろう。
クエスト名【赤月の牙獣】。
依頼人は街の冒険者ギルドにいる中年の冒険者。すでに引退しているのかは不明。
その男から「北の森に【赤月の牙獣】と呼ばれる魔物が出るから気を付けろ」的なことを言われる。
おそらくそいつに仲間が殺されたか、自身が傷を負ったか、ともかくその男は【赤月の牙獣】が斃されることを願っており、もし斃せたらそのドロップアイテムを見せてくれと頼まれるわけだ。
そうして街の北に広がる森を分け入り、奥へと目指していたわけだが――
「あれがブラッディベアLv52だな」
「三体いるではないか」
「そりゃそういう依頼だからな」
「早めに言え。てっきり一体だと思っていたのに」
ブラッディベアはAランク推奨の魔物らしい。それが三体。だからこそ強敵系の討伐依頼というわけだな。
序盤のボスであった改造魔物Lv40三体と比べても相当強い。
サブイベ関連のボスだと【灰狼団】の【灰狼のボルディオ】Lv46が今までの最高で、それと比べても高いということ。
ブラッディベアは言ってしまえば赤毛の巨大ツキノワグマだ。三体いるのがファミリーなのかどうだか知らない。
獣系の魔物の中でもパワーがあり、まともに攻撃をくらえば一撃死もありうる非常に危険な魔物だ。
【アディエラ山林】でもLv50台の魔物はいたし、何度も戦ったことがある。
ただそれらとブラッディベアを比べるのは熊に失礼だ。それほど熊は強い。デカイし強いのだ。
だから俺はいかなる手段をも使う。なるべく安全に戦うために。
「そおい!」
俺は投擲スキルを駆使してインベントリから取り出した投擲アイテムを熊に投げつけた。
<アルケミー>で作り溜めしておいた『睡眠玉』だ。
ブラッディベアは睡眠耐性がない。だからこそ初撃で使ったのだ。
いくつも投げられた睡眠玉は二体の熊に集中して当たり、煙を上げる。
瞬く間に効果は表れ、二体の熊は斃れたように眠りに落ちた。これで二体は攻撃を加えるまで起きることはない。
俺が危惧していたのは三体目の熊が味方に攻撃して眠りから起こすことだ。
しかし運が良かったのか、そうした考えが持てなかったのか、三体目の熊は俺たち目がけて咆哮を上げながら突っ込んできた。
内心、ラッキーと思いつつ俺はみんなに指示を飛ばす。
「一体ずつ斃すぞ! フゥガ! ヘイトを稼げ!」
「おお! <ハイタウント>!」
「集中攻撃! 範囲攻撃は使うなよ!」
「「はいっ!」」
いくら強いブラッディベアでも一体ずつなら如何様にもなる。
バフを撒いて、フゥガが防ぎ、他が攻撃に回り、エリザが回復する。
相手が近接物理攻撃オンリーでこの形がとれるなら大体の強敵は斃せるはずだ。俺はそう確信している。
凶暴という言葉を体現したような熊の攻撃はたしかに苛烈で、フゥガがノックバックされそうになることもあったし、覆いかぶさるような攻撃をまともにくらいそうになる時もあった。
しかしフゥガが崩されることはなかった。装備をミスリル一式にしたおかげもあるだろう。
結局は安定したまま戦闘は続き、体力のある熊もやがて地に伏せる。
さて、まだ休むのは先だと二体目の熊に投擲し、陣形を維持したまま迎い受ける。
睡眠の状態異常が時間経過で解除されるかもしれない。だからこそ俺は三体目の熊にも注意を払いつつ二体目と相対していた。
そうやって一体ずつ戦っているとみんなさすがに慣れてきたらしい。
フゥガが下がらされることもなくなり、受けると同時に攻撃を入れられるようにもなった。
盾役が安定すれば戦闘は益々楽になる。自明の理だ。
熊は二体目、三体目と順々に斃れ、そこでようやく大きな息を吐いた。
「ふぅ、おつかれ。どうだった? 問題なかっただろ?」
「眠らせるなら最初から言えというのだ。全く……まぁいい経験にはなったがな」
「強かったですねー。三体同時だったら危なかったですよ」
「睡眠が効かなかったらどうするつもりだったんだ?」
「俺とフライヤが一体ずつ受け持つ形だな。速度は勝っているはずだから、攻撃を入れつつ退いて三体が固まらないように戦う感じになっただろう」
「ジェイル様はともかくフライヤ様が危険ですね。お怪我がなくて良かったです」
フライヤの二刀流なら防いだり受け流したりもできそうだけどな。
軽装だから熊の攻撃をまともにくらえば危険だというのは分かるんだが。
まぁ明日は嫌でも乱戦になりそうだし、その時に活躍してもらえばそれでいいか。
その日はそのまま北の森を探索し、夕方には街へと戻った。
風呂に入り、明日に向けて英気を養おうじゃないか。




